運命?なにそれ?と言わんばかりにデレない美しき巫女 作:レオ2
まどろんだ視界がゆっくりと開き始める。それに伴って夕日がカーテンの隙間を通り眼に入り、それにより眼を一旦閉じた。
意識が朦朧としながらも涼花は今度こそ瞳を開けた。眼を開けた先に見えた光景は見知らぬ天井だった。
(ここ……どこ?)
まだ意識ははっきりとしていない。それでも感情がこの状況を把握しようと顔だけ動かして周りと見る。
そして次の瞬間驚きの余り意識が一瞬で覚醒した。その驚きを起こした本人である拓斗は英単語の本を読んでいた。……が直ぐに目が覚めた涼花に気が付いた。
心配気な表情で拓斗は涼花の顔を覗く
「よう、起きたか」
いつもと変わらない声色で問いかける彼は優しく、不安だった涼花の心を軽くした。
だがそれを素直に認めるのは絶対に御免なので涼花はいつも通りに冷たく返した
「どうして氷火君がここに?」
「お前は平常運転だな。安心したよ」
そうふっと笑う。今涼花からそんな冷たい声を出されてもはっきり言って余り怖くない。冷たい声を出している本人の状態と声が噛み合ってないからだ。
涼花もそれを自覚したのかゆっくりと口を開いた
「……私発作で」
「ああ、いきなりてんかんが起きるからびっくりしたよ。お前体が弱いなら最初から言っておけよな」
てんかんは脳の病気なので厳密には体が弱いわけではない。だが……それを抜きにしても今回はどうやっても誤魔化せないだろう。その前に……
「兄さんから聞いたの?」
てんかんという名前が直ぐに出た辺り拓斗はてんかんの詳細もある程度知っているはず。それなのに体が弱い事を言ってきた。
つまりてんかん以外の病気を持っていた事も知ったと言う事だろう。そしてそれを知っているのはこの学校では兄一人。
拓斗は正解と言いたげに頷いた。
「まあな。あの人三月が発作を起こしたって来たら凄い勢いでここに来たぜ? 愛されてるなお前」
もっとも拓斗が何かしたのかと凄い勢いで詰められたのは内緒だ。余計な事を言ってお嬢様のご機嫌を損ねる訳には行かない。
(愛されてる……のかな)
愛……それについて涼花は信じていない。兄には心を許してるだけでそれが家族愛かと聞かれたら首を傾けざる負えない。
何故なら自分はその兄すら昔は酷い事を言っていたものだ。
それもあるし涼花は基本的に眼に見えないものは信じないことにしている。だから信頼や親友、おまけにお化けも信じていない。
神様は信じている。神様が拓に会わせてくれて……あの関係にしてくれたと思いたかった。
──運命なんて信じない
そう自分に言い聞かせて涼花は拓斗から眼を逸らす。拓斗はそれを気にせず言った
「大智に感謝しろよ。あいつが来なかったらお前を運べなかったんだからな」
「……え?」
その発言にびっくりして拓斗の方を再び向く。拓斗は英単語集を鞄に入れて涼花に向き合っていた。
びっくりしたのは大智が来たことについてだ。状況的に拓斗が呼んだのだろうがこの前あれだけ本人を侮辱したのにも関わらず自分を助けるために来たというのだ。
「どうして……」
口が勝手に動きそう呟く。それもそうで今思い返せば酷い事を言った自覚はあるのだ。冷静になれば力也の言う通り勉強を見るのも教えられるのも拓斗と大智の問題であって自分の入る余地はない。
それを自分の思い描いた未来通りにしようと拓斗の親友を侮辱した。侮辱した上に拓斗を生徒会に本人の意思を無視して入れようとしていたのだ。
──―なんて身勝手なんだろう
そう改めて自分の行動を思って初めて大智と力也、拓斗に罪悪感が徐々に出てくる。これではまるで……まるで
「大智はさ、とんでもないお人好しなんだよ」
唐突に語りだした拓斗を涼花はじっと見る。
大智がお人好しなのは今日だけで散々思い知った。別に体を触られたことについてはどうも思ってない。不本意だが拓斗一人では屋上から保健室まで連れて行けないから大智に頼んだのだろう。それでどうこう言えば本当に最低な女に成り下がる。
「俺はお前が大智に何を言ったのか直接聞いたわけじゃない。でも……あいつはそれだけで人を見捨てたりしない。呆れる程馬鹿で考え知らずで……真っすぐで優しい奴なんだ」
爽やかな笑みを浮かべ拓斗は大智の事を語った。最初は突き放してしまった大智、それでもあきらめず自分に声をかけ続けてくれた。
それで拓斗は救われた。未練はまだあるが前を向こうと思えた。
次は力也の事について話した
「そうそう、力也にも感謝しろよ。あいつが保険医に症状を最初から伝えていたから迅速に対応出来たんだからな」
最初の対応は拓斗だがやはり現役の医療従事者は対応もとても速かった。だがそれは力也が最初からてんかんの事を話していたからこそ成り立つ速度でもあった。
涼花は意味が分からなかった。自分は散々酷い事を言った。今考えていても当時は暴走していたと思う。
力也が一番怒っていたのにもかかわらず自分を助けるために動いた、その事実が”人の為”が理解できない涼花には意味が分からなかったのだ。
「……馬鹿しかいないじゃない」
だからつい出てしまったのは捉えようによっては侮辱の言葉。だが拓斗は涼花がその意味で言ったのではないと分かっている。
自分も出会った当初は大智に言いまくっていた言葉だからだ。
「ああ、あいつらは馬鹿だとは思うよ」
そうふっと可笑しかったのか笑みを浮かべる。涼花はその2人がした事を理解したくなくて布団を被る。
「でも……そんなあいつらだから3年前
──綺麗ごと
そう一瞬思った。誰かの為に動くことなど涼花には無かった。誰かの為に何かをやってもそれが良い事として帰ってくるわけではない。寧ろ仇で返されるかもしれない。
いや、恐らく自分はこの事実を知っても拓斗を含めた3人に酷い事を言ってしまうかもしれない。
でも……この3人は自分がやった行動を受けても自分の為に動いてくれた。もう……何が正しいのか分からなかった。
過去に自分と触れ合った人たちは自分を見捨て、今自分が醜い事を言った人たちは自分を助けてくれた。
どうしてなのか……もう考えたくなかった。それを考えたら今までの自分を否定する事になると思ったからだ。
そこで涼花は先程拓斗が放った言葉に違和感を覚えた。
(あれ……さっきの言葉)
『でも……そんなあいつらだから3年前
──3年前……お前?
今この保健室には自分と拓斗以外いないように見える。事実それは正解だ。今この場には拓斗と涼花しかいない。
それを認識した時、涼花の鼓動が再び早くなっていく。ドキドキとは生温い。最早バクバクと言った方が良い。
顔を少し蒼白にしながら涼花は拓斗を見上げた。その瞳は揺れまくっていてどれだけ涼花が動揺しているのか分かる。
──うそ……でしょ
その事実を認めたくなかった。認めてしまったら自分が自分じゃなくなると思ったから。心臓の鼓動が落ち着こうとする身体に反してどんどん早くなっていく。
それはもう止められない不規則なリズムを奏で再び意識が遠のいていく。少しづつ痙攣が起き始める。再び発作が涼花を襲い始める。
「あぁ……ああ」
「涼花……いや、花」
そう言いながら落ち着かせるようにその柔らかく華奢な手をゆっくりと握った。拓斗の手は暖かく、人の苦しさを包み込む感じがした。普段されていたら堪能していたかもしれない。しかし今は……今だけはその温かさが苦しかった。
──私……貴方に
涼花は意識がブラックアウトする瞬間、過去に飛んだ
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