運命?なにそれ?と言わんばかりにデレない美しき巫女 作:レオ2
奇跡が起きた
そう、それは奇跡だったと思う。しかしそれは逆に罪に囚われる新たな日々のスタートでもあった。
拡張型心筋症、その治療法は主に薬物療法だ。ただそれでも困難だと判断された場合は心室形成(バチスタ手術)や補助人工心臓の手術をする事がある。
しかし、今回の涼花のような重症な患者に最も有効な治療法は心臓移植と言われている。
心臓移植……その名の通り亡くなった他の方から心臓の提供を受けてその心臓を自分の心臓の代わりに移植し延命と生活水準を改善を図る事を言う。
涼花はこの病気と何か月か付き合った。時には幻覚まで見て過ごしていた。本人は次が来たら死んでいるかもしれないと考えていた分今生きているのも奇跡だと思っていたが……涼花の奇跡はそれだけではなかった。
日本では心臓移植は認められているがその数自体はとても少ない。何故なら、日本ではそもそもドナーの数が少なくその心臓を提供される人も自然と少なくなるからだ。
だから涼花の主治医自体は当初心室形成手術を行おうとしていた。
しかし、その必要は無くなった。何故ならば……
「ドナーが……見つかった?」
長い……本当に長い入院生活の中で唯一よく来る兄と共に来た主治医に涼花は呆然と呟いていた。ドナーが現れる可能性は本当に少ない。
涼花自身もそれは分かっていたので自分は心室形成手術をするのだろうと思っていた。それでも元々の持病の数で本当は無理なんじゃないかと心の中で思っていた。そんな時に見えて来た光明に涼花は当時どんなことを考えていたのか自分でも分からなかった。
嬉しかったのか、苦しかったのか、悲しかったのか……普通なら嬉しい一択だったかもしれないが拓斗の事を想うと……自分は生きている価値すらないのではないかとすら思っていた。そんな時に出来た生きられるという選択肢に涼花が戸惑うのは必然だった。
そこから涼花は少ない時間、拓斗の事を考えていた。もう自分のスマフォには拓斗のアカウントはない。自分が過去と……そして死ぬことで決別しようとしていたから。アカウントを消して今までの会話を……思い出を消そうとしたのはそういう理由があった。いや、実際もう画面上の思い出は消えている。
だけども……生きられる可能性が出てきた以上涼花の脳裏に出る思考は……
「また……会えるのかな?」
生きられる可能性が出てきた以上会える可能性が出て来たのも少ないが確かだ。涼花が死んでしまっては元も子もないが生きている以上2人は地球上に確かに存在するのだから。
だが……涼花の思考はそこで止まってしまった。何故ならば……
「……」
涼花は既に拓斗の消したアカウントがあった場所を見ていた。そう、既に自分は考えられる内の最悪な言い分で拓斗とは一方的に彼の幸せを祈り別れた。
それはもう向こうに理由を話す事もなく。
──今更……なんて言えば良いの?
実は連絡を取れない事も本当は無かった。何故なら、拓斗のLINEアカウントは既に消してしまったがスタディーメモリーのアカウントは自分のアカウントを消しただけで拓斗のアカウントは知っているからだ。
「最低だ……私」
そこで自分が拓斗に送った最後の文を思い出す。
要は自分に好きな人が出来たから別れてくれ、と。それを思い出すたびに当時の自分を殴りつける。
もし自分が拓斗からそんな文を送られ一方的に連絡が取れなくなったらどうなるか……恐らくしばらく再起不能になるかもしれない。
事実拓斗としてもそれは正解だ。拓斗は暫く立ち直る事は出来なかった。涼花はそれを一方的に送りつけ……今更嘘でしたなんて許されない。質が悪すぎるいたずらになる。
そんな拓斗の事を想えば本気で自分はここで人生に終止符を打った方が良いのではないかとすら思った。
──それが良いわ。私以上に苦しんでいる人だってきっといる
そう自分に言い訳して涼花はドナーの心臓をもらい受ける事を拒否しようとした。そうする事で人生から……拓斗からも逃げ出したかった。
──全然輝かない人生だったけど……拓君に会えてよかった
そう決心した夕方頃だった。兄である優輝がやって来た。現在涼花は公立の中学校に行っている事になっているがもう殆ど学校には行っていない。対して優輝は涼花も名前を聞くことが何度もある龍神学園に通っている。
優輝は涼花と違って見た目通りに元気よく、逞しい男なので学校では人気らしい。そして……最近はシスコンが加速している気がする。
(兄さんにも……お世話になったな。何か死ぬ前に残してあげようかな)
と個室のドアを閉めている優輝の背中を見ながら思った。今、決心したことを話すつもりだ。兄が何を言っても受け入れるつもりは無かった。
もう……病気と共に過ごす人生は嫌なのだ。心臓に付随する病気である起立性調節障害は上手くいけば副産物として一緒に治るかもしれないがまだ涼花にはてんかんなどの病気もある。
目の前の危機を遠ざけたからと言って命の危険が無いわけじゃない。これからだって再び生死に直接かかわる病気になるかもしれない。
その度に戦って結局入院するだけの生活なんて……ない方がマシだ。
「ドナーの件、受ける気起きたか?」
彼はもう既に涼花は心臓移植を受ける事と信じてる風に聞いてきた。
──ごめんね、兄さん
そう心の中で謝った後に涼花は首を振り
「移植手術は……受けない。私は……私のまま死にたい」
どれだけの時間が経ったのか分からない。この部屋には時計が置いてないからだ。沈黙の時間が場を支配する。
だが……ふっと兄は笑った。まるで涼花の考えを変える方法を知っているような……そんな感じが受ける。
どうしてそんな顔をするのか分からない。今、自分は酷い事を言ったと思っている。シスコンである兄にこんなことを言うのは自分の半身を消すような感じなのに……
兄はそっとある雑誌を涼花に見せた。それは普段涼花が絶対に見ない……カードゲームを特集する雑誌だ。
涼花はカードゲームなんて見たことないしやった事もない。だが……その雑誌に写っていた人達の輝くような笑顔は当時は輝いていた。
──どうしてだろう
その雑誌にある写真で写っている男子3人が優勝トロフィーを掲げて溢ればかり笑顔でいた。
そして涼花は真ん中でトロフィーを掲げている男の子が不思議と印象に残った。
タイトルを見てみた
『カードファイト!! ヴァンガード全国大会、初出場にして初優勝!! 挑戦し続ける力、トライフォースにインタビュー!』
挑戦し続ける力でトライフォース……安易だが不思議と勇気を貰えるチーム名だ。だが何故今そんな雑誌を……そもそも雑誌を持ってくるのか分からなかった。
こんなカードゲームをやったこともないし全国大会に行くと言う事はこの分野では秀でるのかもしれない……が涼花の正直の感想と言えばカードゲームで全国を取ったからなんだというのだと言う事だ。
それでも……どうしてか真ん中の男の子に眼が惹きつけられる
(……どうしてこんな気持ちに)
その写真の中で名前が出ていた。左から
『鉄村大智、氷火拓斗、雷同力也』
偶々、拓という字が入っていることに一瞬ドキッとした。最早他の2人は見ず拓斗の事をじっと見ていた。
顔は人によるだろうが涼花個人としてはカッコいいと思う。溢れんばかりの笑顔効果もあるとは思うけれども。
どうしてこんなに眼が惹きつけられているのかは本人にも分からなかった。
だから抵抗として兄に聞いた
「……何これ?」
「見ての通り最近人気のカードゲームの雑誌だ」
涼花は真ん中の彼をもっと見てみたくてページをめくった。そこには彼が微笑みを浮かべながらチームの代表としてインタビューに答えていた。
──優勝出来て今どのようなお気持ちですか?
まあ無難な質問ね……と思いながら氷火なる人物が答えている部分を見た。普通のインタビューなら自分の力を出し切ったとか仲間たちのおかげで……とか涼花からしたら吐きそうな考えを答えられている者だと思っていた。
事実それは半分は正解だ。だけど……不思議と涼花の心に突き刺さった。
──俺最初は全国大会なんて出るつもりは無かったんです。エントリー期間に俺史上一番辛い事があって……大切な人がいきなり目の前からいなくなってしまったんです。……ちょっと重い話になるんですけど死んだ方が楽なのかもしれないって考えてました。
普通ならこれは少し質問と趣旨が違うように感じる。だけどそこで答えは終わっていなかった。
──でも大智と力也が俺にしつこいくらい付きまとってきて……あいつら俺がどこに行っても付いて来てたんですよ。それはもうしつこいくらいに『チーム入ってくれ』って。
……羨ましい気もする。それがどんな動機であれ自分を必要としてくれる人がいるのは心強いものだ。
前までは拓がその役割を担ってくれた。でも彼はもういない。自分からフったから。
胸が苦しくなるのを感じながら続きを見た
──それで……細かいこと言ったら時間が足りないので言いませんけど……あいつらのおかげって言うのかな。死にたいなんて思わなくなりました。それに……その目の前の人の幸せをずっと生きて祈ろうって……そう思えるようになりました
いなくなった人の幸せを祈る
この人は立派だなと思った。自分は祈るどころか……死に逃げようとしている。そこばかりがリフレインした。
この人にどんな事があったのか、涼花は知らない。だけど……大事な人が目の前からいなくなる気持ちは自分でも何回も考えた。
その度にどれだけ自分が拓に酷い事をしたのかを認識して落ち込んで……それが心臓移植を受けないという選択肢を選ぶ結果になった。
だけども……このインタビューを見て一瞬でも揺れてしまった。
自分は拓の幸せを祈って生きるべきなのではないか、そして生き続けて最後はたった一人で死ぬべきなのではないか……と。
そして涼花選んだ結論が……
──再び拾う己の全てを賭けて恋愛せず彼の幸せを祈り続ける
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