運命?なにそれ?と言わんばかりにデレない美しき巫女   作:レオ2

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お兄ちゃんが落ち込んで帰ってきた件

『もう帰って』

 

 そう探し求め続けた人に言われてしまった拓斗は帰り道をどう通ったか分からなくなるほど意識が朦朧としながら帰路についていた

 

 虚ろな眼のまま彼は何時の間にか河川敷にやって来ていた。あの日のような夕日が川に照り付けているのではなく月の光が照り付けられていて幻想的だ

 

 こんな状況では無かったらきっと感嘆していたかもしれない。

 

 拓斗はそのまま座り込んでボーっと川を見ていた。そうしていたらその川に涼花の顔が映った

 

「……本当、意味分かんねえよ」

 

 その声は既に涙声となっておりあの日のような拓斗の姿がそこにはあった。

 

 彼氏がいなかったのは正直安堵した。それが嘘と言ってくれて嬉しかった。これで堂々と付き合えるかもしれないと思ったことは事実だ。

 

 だけど次に発した言葉は意味が分からなかった

 

『私に彼氏なんかいたことない』

 

 それは拓斗ですら自分の彼氏ではなかったと言ったも同然。

 

 それに拓斗は何を言いたくなったのか自分でも分からなかった。本当は怒りたかったのかもしれない。

 涼花と付き合っていたと思っていたのは自分だけだったのかとかそもそも嘘をついてまで自分と別れたかったのかとか会う約束までしていたのにドタキャンレベルを遥かに超越するあの出来事とか……。

 

「何だよ……意味分からねえよ!」

 

 彼にしては珍しく荒ぶっていた。

 

 涼花かそう話した時の寂し気な……苦痛の顔が忘れられない。涼花自身は隠していたのかもしれないが隠し通せていなかった。

 

 本当はあの日の様に「本当にそう思う?」と聞くべきだったのかもしれない。

 

 寄り添ってあげるべきだったのかもしれない

 

 それでも……涼花の言葉が脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

 自分がどうしたいのかすら分からなくなって逃げてしまった。3年前、本当は無理やりでも病院の居場所を聞いて直接会って励ますべきだったかもしれない。

 

 そうしていたらきっとこんな事にはなっていなかった。

 

「……ほんとう、俺ってクズなんだな」

 

 悲観、そして諦めたように言う彼は笑っていた。ただの笑みではない。自虐の笑みだ。

 

 交際していたと思っていたのは自分だけなのか、でも涼花のあの表情が……声が苦し気になっているのを見て本当は何なのか分からなくなっていた。

 

 そして……あの場から逃げ出してしまった自分にも嫌気がさしていた。

 結局考えても自己険悪に陥るだけで拓斗は家に帰って来た。ボロボロなドアを開けると最近は元気な妹の声が聞こえて来た

 

「お兄ちゃんお帰りー!」

 

 そんな何時まで経っても子供のような眩しい笑顔に拓斗の心にも一瞬光が宿る。しかし彼女の笑顔を見ればさっき見た涼花の事が脳裏に過ぎる。

 

 それで拓斗の様子が変だと思ったのか蒼葉は首を傾げた

 

「どうしたの?」

 

 その心配気な妹の表情を見て拓斗は感情の壁が決壊しかけたがなんとか耐えた。曇った表情のまま拓斗は返した

 

「何でもないよ。体調は大丈夫なのか?」

 

「隠さないで」

 

 だが妹はピシッとそれを無視した。その何時もの甘えん坊が真剣な声色を出しただけでこんなにも印象が違うのかと拓斗は思った。

 

 何だか今は火山が噴火する前のあの雰囲気に似ている気がする。

 

 そっと中を覗いてみるとどうやら母はまだ帰ってきていないようだ。今日は拓斗がバイト休みだったから早めに帰る予定だったのが涼花の事があったので遅くなった。

 

 ……などと現実逃避していたら目の前には心配気な蒼葉の顔があった。

 

 ──ほんと、ダメ兄貴だよな

 

 それを見て拓斗の胸の中に少し暖かさが戻って来た。妹を心配させるなんて家族として言語道断、自分は涼花の元彼氏である前に蒼葉の妹なのだ。

 

「……取り合えず入って」

 

 蒼葉はそう言って奥に入った。拓斗も奥に入りリビング兼寝床には既に晩御飯が用意されていた。

 蒼葉が作ったものだ。体の関係上家にいる事が多い蒼葉の趣味は図書館で借りた料理本を見て実践する事。だから母がいない時は基本的に兄が作るのだが今日は兄の帰りが遅かったので蒼葉が作ったのだろう。

 

「ありがとな」

 

 蒼葉は微笑み自分の目の前にある晩御飯を前に手を合わせた

 

「「いただきます」」

 

 そう言って2人きりの晩御飯を食べ始めた。箸を動かす音と咀嚼音だけがこの寂しげな部屋に響く。

 そして全てのおかずを食べ終えて2人は片づけをした後、ホットミルクを入れて向かい合った

 

「それで……何があったの?」

 

 あくまでもさっきの話は聞くのか拓斗が逃げない内に話を聞こうとした。

 

「……長くなるぞ」

 

 拓斗は3年前のあの日々の事を家族には話していない。百恵は気が付いていたかもしれないが今よりも幼い蒼葉は恐らく気が付いていなかったと思う。

 

 だから先ずは3年前の日から話す必要がある。

 

「良いよ。お兄ちゃんがそんな顔するなんて珍しいもん。蒼葉ちゃんに話してみて」

 

 自分で蒼葉ちゃんとかいうなよ……と思いつつも妹の笑顔には逆らえないのかそれともただ誰かに話を聞いてほしかったのか自分でも分からないが語りだした

 

「3年前の春さ……」

 

 そこから拓斗は語った。

 

 3年前、涼花とネット上でお話しする関係になった事、そこから紆余曲折があり付き合う事になった事、突然訪れた別れの話、そして約2年後に知らない間に再会していた事、そこからの日々と……今日起きたことまで要点だけまとめて2時間ほど使って語り終えた。

 

 話を聞き終えた蒼葉は

 

「……何か凄いね」

 

 蒼葉は何だか映画の話を聞いてる感覚になった。いや寧ろ映画だって言われた方が納得できるような気がした。

 

 だが事実として兄は今日の出来事で涼花に言われたことと自分の気持ちが分からなくなって逃げ出してしまった。

 その拓斗は話し終えたら憔悴しきってボーっとしている。

 

 だからこれは映画でもなんでもなく拓斗が歩み今に至った物語なんだと認識させられる。空になったコップを見ながら蒼葉は思った

 

「だから3年前からいきなり神社に行くようになったんだね」

 

 拓斗の話を聞いて合点がいった。どうして神社に行くようになったのか、その理由が3年前のそれが原因なら兄は本気でその涼花の事が好きだったと言う事になる。

 

 好きでもないのにそんなマメな事をするわけない。蒼葉が知る限り拓斗は1週間に1回の神社訪問をサボった事はない。

 

 しかし……そういう事なら蒼葉が兄に言える言葉は一つだけだろう。心底不思議と言った顔で言った

 

「だったらお兄ちゃんはどうして悩んでるの?」

 

「え?」

 

 それだった。

 蒼葉が聞いた限り現在進行形で拓斗がこうなっている理由はいくつかある。

 

 1つ目、3年前一方的に別れを告げた花の正体が涼花だったこと

 

 2つ目、その涼花に別れた理由で嘘をつかれていた

 

 3つ目、そして涼花自身は拓斗との日々も交際に入っていなかったこと

 

 4つ目、だけど涼花がそう言った時の表情が悲しげにして苦しそうな表情だったこと

 

 4つ目の理由で拓斗は何が本当なのか分からなくなり逃げ出してしまったと言う事。蒼葉は内心「ヘタレ兄貴」と思っているが口には出さない。

 きっと兄なりに何かを考え今まで過ごしてきたのだろうからそれを言うのは憚られた。

 

 でも……

 

「関係ないよ。だってお兄ちゃんはその涼花さん? が好きなんでしょ?」

 

 そう改めて言われると一瞬ドクンと拓斗の心臓の音が聞こえた。それに伴って徐々に拓斗の頬が赤くなっていく。

 

(お兄ちゃん分かりやすいな)

 

 それが嬉しく思う反面、少し寂しくもある。だが拓斗が3年という歳月が経っても涼花の事を想い続けて来たのはそれだけ涼花の事が大切だったという証左。

 それを兄離れが出来ないという理由で自分が邪魔する訳には行かない。

 

 拓斗は呆けた表情をしていたが直ぐに暗くなった

 

「好きだけど……」

 

「けど……なに?」

 

 何か躊躇っているように見える拓斗に少しきつめに詰問する。それでも拓斗は直ぐに言おうと思わなかったのか何かを考えるように黙ってしまった。

 

 蒼葉はそれを急かすことなく見守っていた。その顔は慈愛に満ちていた。

 やがて彼が決心したように口を開く

 

「……もう逃げ出した俺が今更何を言うんだよ」

 

 拓斗は涼花を前に逃げ出してしまった。涼花にもう帰ってと言われたことを差し引いても今回の事は3年前のあの日からも逃げたように感じ拓斗は弱腰となっていた。

 

 そんな拓斗は蒼葉も初めて見る程疲れていた。

 

 そっと拓斗の手を握った。蒼葉と眼を合わせようとしない拓斗にそっと話しかけた

 

「私はお兄ちゃんが逃げたと思わないよ?」

 

 拓斗はゆっくりと顔を上げた。目の前には天使のほほえみを浮かべている蒼葉がいる。妹に発情することなどないがそれでも拓斗は漠然と『妹は誰にもやらん』とか思っていた。

 

 そんなどこかずれた拓斗に気が付かない蒼葉は続けた

 

「だって……涼花さんの事で本気で悩んで好きだから……分からなくなったんでしょ?」

 

 その言葉に頷く。

 花が……涼花が好きだからこそ本当に涼花が思っていることが分からなくなりあの保健室から出て行ってしまった。

 

 蒼葉はそっと立ち上がり兄の隣に座って兄の頭を自分の胸に引き寄せた。妹の胸に抱き寄せられた兄は眼を見開きその内身を預けた。

 

「だったらお兄ちゃんがする事は一つじゃないの?」

 

 頭を撫でながら呟く。拓斗は妹の撫でが気持ちいのか何かを考えているのか身じろぎ一つしない。

 

 

「分からなくなったのなら……知ったらいいんだよ」

 

 

 拓斗はそれを聞きゆっくりと顔を上げた。何を言っているのか分からなかったのだ。

 蒼葉自身も一回で分かるとは思わなかったのか続けた

 

「だってお兄ちゃんが分からないのは花さんとしての涼花さんしか知らないからでしょ? だったらこれからもっと涼花さん自身の事を知ったらいいんだよ。それで……知った先でまた好きになったらいいんだよ」

 

 ふふ、良いこと言ったと自画自賛している蒼葉を前に拓斗は少し眼を見開いた。そんな発想はなかった。

 確かに自分は花の事はそれなりに知っているが……

 

(涼花の事は……知らないな)

 

 確かに1年同じクラスでそれなりに分かった事もあるが本当にそんなのは一部だ。花に関してもそれは変わってないかもしれないが花としての涼花の方が話したことあるのでまだ涼花よりも分かるつもりだ。

 

 今日見せた涼花が本当の花なのかもしれない。そうじゃなくてあれが全て演技だったとしても……恐らく自分は好きになるだろうなと思っている。

 

 それだけ既に花に毒されていた。蒼葉の言っていることはぶっ飛んでいるのかもしれない。でも……拓斗にはどこか光明に見えたのだった。

 

 蒼葉からそっと離れて照れくさそうに言った

 

「ありがとな……蒼葉」

 

「どういたしまして、お兄ちゃん」

 

 その後、拓斗は好奇心Maxにした蒼葉によって涼花の事をあれこれ言う羽目になった

 

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