運命?なにそれ?と言わんばかりにデレない美しき巫女 作:レオ2
──長げえよ!!
関口一番思ったのがそれだった。今は遠上の後ろについて回って2分程たつがまだ涼花の部屋には辿り着かない。
なんだかぐるぐる回っているのは気のせいなのだろうか。
歩いている間無言なのも何だか嫌なので声をかけることにした
「あの……涼花のご両親はどうしたんですか?」
少し背中に冷汗が垂れる。これを聞いたのはただ確かめたい欲もあるが花としての涼花が本当のことを言っているのか気になったからでもある。
遠上は歩幅は変えず顔も見えないが言った
「社長は今も会社で仕事をしています。私は今日お嬢様のお世話の為にここにいます」
そして次に話すのは父親についてなのだろうが……遠上はそれを話すつもりは無いのかそれ以上何も言わずに歩く。
拓斗の方からは見えないが遠上の表情は浮かないものだった。そして1分ほど歩くと廊下の一番端にある扉の前で止まり拓斗を見た
「こちらがお嬢様のお部屋になります。優輝様からご信頼を得ているようなので多くは言いませんが……」
そこで少し眼を細める。それで遠上が何を言うのか漠然と分かったが自分から言うのも問題なのでそのまま言葉を待った
「くれぐれもお嬢様と○○○しないように」
「なんでそうなったんですか!?」
予想の斜め上を行きこの扉の向こうに涼花がいるのにも関わらず叫んでしまった。
いやでもそうなるだろう。こんな秘書という人からそんな言葉が出るとは思わない。
──という訳で俺は悪くない
と心の中で叫ぶ。だが遠上は不思議そうな顔をした後、更なる爆弾を落とした
「しかし優輝様からはお嬢様と拓斗様はそういう関係だと仰せつかっておりますが」
「え、マジで何を言ってるのあの人?」
思わず敬語も忘れて素が出る拓斗。しかしそれも遠上の顔を見たら何を言えば良いのか分からなくなった。何故なら遠上の顔は既に涼花の部屋に向いていてその表情はどこか寂し気な顔だったからだ。
拓斗がそれについて聞こうと思った時、先手を打つように遠上が拓斗を見た
「では、何かあればお呼びください」
そう一礼してどこかに歩いて行ってしまった。
どうやって呼ぶのかとか全く聞いていないがそんなのは拓斗からしたらどうでもよかった。この向こうの扉の先に涼花がいる。
──行くか
一つ息を吸い込みゆっくりとその扉を開けた。その刹那、本当にどうでも良いことが頭に宿った
──ラブコメの展開なんだが
とここに来る前にしていたラブコメでのお見舞いイベントについて考えていた事が現実となっていることに頭の中で苦笑いした
★
身体が重い
まるで鉛が体の中に入ってしまったが如く重かった。どうしてそうなったのかは自分でも分かる。
ここ最近はメンタルブレイクの事が多くて精神が安定しないのだろう
拓斗を裏切った事
自分の本当の気持ちも出せず自分への罰を無理やり決行していること
嘘をついたこと
──もういっそ死んだ方が楽かもしれない
そう自分がかつて捨てた選択肢さえも頭に出てきてしまう。そんな事は過去の自分が許さない。
自分は何があっても幸せにならない。それが例え拓斗が拓だとしても絶対に変えないつもりだった。なのにいざ目の前にそんな現状があると……自分が分からなくなる。
それを誤魔化す為にベッドの上で単語アプリをボーっとしながら勉強をしていた。もうこんな状態になったら正直拓斗とのテスト勝負どころではない。
これから拓斗とどんな顔をして会えばいいのか
──いつもの氷の仮面をして会うか……もう何も考えず彼の知っている自分として会うか
前者だと彼が自分を嫌いになってくれるかもしれない。寧ろそうしてくれる方が楽かもしれない。
後者だったら……それは拓斗の事を諦められない証拠。何故ならそれは本当の自分を知ってほしいと言う事と同義だからだ。
「はぁ……本当人間って自分勝手」
考えるほど考える程自己険悪に陥る無限ループに涼花はなっていた。スマフォのカレンダーを見るともう後2日後には中間考査だ。流石にもう体調は治さなければならない。
もう正直勝負などどうでもよくなっている。今は友達によって得られるものよりも拓斗の事で頭がいっぱいだった。
スマフォから眼を離し額を眼に重ね閉じる。そうすれば去年からの拓斗の顔が浮かび上がる。あの顔が拓として自分に接してくれてた中の人なんだと考えると感慨深かった。そして自分達がした会話の時にしていたかもしれない彼の顔を思い浮かべるだけで胸が暖かくなっていく。
──ダメなのに……
彼の事を考えて暖かくなっていく胸に罪悪感が再び襲う。最近はずっとこのループだ。胸がポカポカした後に自己険悪に陥るまでがワンセット。
だけどももうこのループも脱しなければならない。中間考査は勝負に関係なく受けなければ後々が大変になってしまう。
「……先ずは机に向かおう」
そう新たに決意した時、唐突に自室の向こう側から叫び声が聞こえた
『なんでそうなったんですか!?』
その叫び声に涼花は肩をビクンとさせ扉の向こう側を見た。しかしそこには何も変化がない扉。
だけど……だけど
──今の声って……
不思議とその声を聞いただけで彼の顔が思い浮かんだ。ずっと想像していた。ずっと想っていた彼の本当の姿と声はこの1年でしっかりと涼花の中に刻み込まれていた。他のクラスメイトに関しては全く興味が無かったが彼だけは涼花の意識の底に刻んでいた
それを認識した時、心臓の音が大きく早くなる。
ドクンドクン……ドクンドクン
そう聞こえる程涼花の鼓動は早くなっていく。そして心の中で思った
──ダメ……今来たら……
おかしくなってしまう
そんな涼花の小さな願いは重ぐるしい開閉音と共に打ち砕かれた
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