「おーい? トレーナーさんいる?」
昼下がり、トレーナーの住む学園寮の一室。
授業から逃げ出してきたのかセイウンスカイがそこにいた。
「いないんだったら勝手に過ごしちゃいますよっと」
自分の家かのように慣れた足取りで玄関から入る。
廊下に散乱する衣類が目に入ってくる。
なんということだ! トレーナーさんの服が脱ぎ散らかされているじゃないか!
「こら! どうしてちゃんと片付けないんですか!?︎な~んてね~」
それになんだか私の物がそこそこ多い気がする。
「まあ…あれだけ入り浸ってたら物も増えるっていうか…ハハハ」
そう言いながら散らかった廊下を抜けてこれまた散らかった部屋に入る。
仕方がないなぁまったく。
普段はきちんとしてるくせに。
こういう所はだらしないんだよな~
まあ…私も人のことを言えないけどさ…
たまにはね…私は散らばった服を集めていく。
「これは洗濯機へ。あとはこの辺りに置いて……ってあれ?」
畳んでいる途中であることに気付く。
「え? これって……」
そこには自分以外の女物の下着があった。
明らかに自分の身に覚えのないものだ。
まさか、トレーナーがこんなものを……? 一瞬思考停止する。それから慌てて頭を振る。
そんなわけないか。きっと友達のものだろう。うん、そうだよね。
じゃなかったら大変なことになるよ。ハハハ…
しかし、それでも確認せずに帰ることはできない。確かめるために恐る恐る手に取る。……レースがついた可愛いデザインだ。黒地なので清楚感がある。
間違いない。これ……女性もののパンツだ。
ていうか本当に友達のものか?
もしかしてこれはトレーナーさんの彼女さんのものではないのか?
「あはは…あれ?」
今まで感じたことのなかったこの胸の痛みは何だろうか
どくんっと心臓が跳ね上がるような感覚に襲われる。……もしかすると。
私は一つの答えに行き着いた。
そして否定するために首を振り続ける。違う。絶対に違う。
でももし……もしも、彼が私の知らないところで彼女と会っているとしたら?
一度考え始めれば止まらない。心の中に黒いモヤのようなものが広がる。
それを振り払うように首を振っても一向に晴れることはなかった。
むしろどんどん広がっていくようだった。
次の日から、私はトレーナーが信じられなくなっていた。
正直自分でも驚いている。
これでもトレーナーのことはそれなりに信頼していたはずだ。
それにトレーナーに彼女がいたって私には何の関係もないはずだ。
なのに…
私はあの日以降トレーナーと一緒にいるのが苦痛にすら感じていた。
そんな自分が嫌いになりそうだった。
けれどそれでも毎日一緒にいるせいもあってか彼の様子を目敏く観察していたと思う。
食事の時にチラリと様子を伺えば、相変わらず美味しそうにご飯を食べている。
それを見て安心している自分がいて驚いた。
(ふぅん。やっぱりいつも通りのトレーナーに見えるんだけどねぇ)
おかしいところは何もないように思える。
おかしいのはわたしだけ。
(そもそも付き合ってると決まったわけではないし)
どうしても自分に言い聞かせないと不安に押し潰されそうになる。
悪い方向に考える自分をなんとか奮い立たせていた。
「…おい!おーーい!スカイ!……どうした元気がないぞ」
ある日のこと。いつものように話しかけてきた彼に適当に返事をする。
「別にぃ〜」
「そうか? ならいいけど」
トレーナーさんはそれだけ言うと席に着く。今日のメニューについて説明を始めるのだが、以前と違ってあまり集中できなかった。
そんな私の様子を見たからだろうか
「いや…実はスカイに聞いておきたいことがあったんだ。今時間あるか?」
「はい?」
突然の申し出に驚く。私に聞いておきたいこととは一体なんだろうか。
首を傾げながらも特に予定もないので承諾する。
「それでー。何の話かな?」
「最近ずっと上の空みたいだよな。」
どきりと心臓が鳴る。
「あー……。やっぱり、気付いちゃった?」
「まあな。なんというか……?」
「うーん。そんなに気にしないでいいと思いますけどね?」
あくまで平静を保つ。動揺してることに気付かれてはならない。
「……なあ。単刀直入に聞くけど何かあったのか?」
「え?」
「数日前くらいからじゃないか?」
「……ここまで言ってなんだけど気のせいじゃない?」
「いや、気のせいじゃない。ここ数日、明らかに様子がおかしかったから気になってたんだ。俺はトレーナーとしてだけでなく、友人としてもお前の力になりたいと思ってるんだ。
だから遠慮なく相談してくれないか?
力になれるかもしれないぞ?」
心配そうな顔でそう言ってくれる。だけど私は無言のまま彼を見つめるだけだった。
本当は聞いてみたかった。
でもそれと同時に怖かった。もし仮に彼女に会っていると言われたら立ち直れる自信がなかった。
しばらく沈黙が続く。やがて諦めたようにトレーナーさんが口を開いた。
「まあ、無理に聞き出すつもりはないが、できればいつか教えてくれよな。それまで待ってるからさ」
そう言われて黙っているわけにもいかない。
「いや………わかった。話す。その代わり他言はしないでくれる?」
「当たり前だろうが」
「絶対だよ? 約束破ったら絶交だからね」
「はいはい。分かったから早く本題に入ってくれると」
まったく、本当に分かってんのかね。私は軽くため息を吐く。
私は意を決して、今まで思っていたことを全て打ち明けることにした。
「…………トレーナーさん、彼女いるんでしょう?」
「はい!?」
途端に目を白黒させる。やはり知らなかったようだ。
「いや、いないぞ!?」
「じゃあさ、その……トレーナーさんの家にこの前いったんだけどさ」
「その私としては身に覚えのない…その下着があったというか…」
「あ~…もしかしてだけどさ?」
「ん~なにかな?」
「多分姉さんのかな…それ」
「えっ?」
「そうだ!そういえば姉さんが家に来たのってそのくらいだったな…」
「あ~…」
その言葉を聞いて安心感が湧き上がってくる。どうやら私の早とちりだったらしい。
「……ふぅん。そうですかそうですか」
「な、なんだよ。どうして怒ってんだ?」
「べっつにー」
「いや、絶対に怒ってんじゃねえか。何が気に食わなかったんだ?」
「別になんでもないです~」
「……ったく。ほんっとにお前はよく分からん奴だな。まあいいけど」
そしてまたも微妙な空気が流れる。
「あー、それでスカイ。結局お前は何に悩んでいるんだ?」
「……そ、それは秘密!……というか忘れて! 今の話は全部無し! いいね?」
慌てて話を切り替える。これ以上話せばボロが出てしまいそうで怖かった。
「お、おう。よくわからんがよく分かった。今日のところは聞かないでおくよ。だが、話したくなったらいつでも話してよ。俺はいつまでも待ってるからさ。それと……」
そこで一旦言葉を区切ると、彼は少し照れた表情でこう言った。
「俺とお前は友達だろ?」
(……ばか)
そんなこと言われなくても分かってるのに。
「ところでお前の方こそ彼氏の一人や二人いたりするのか?」
「はい?」
「いや、なんとなく聞いただけだ。深い意味はない」
「そんなのいませんし」
(……あれ?)
自分で答えていて気付いた。もしかすると私もトレーナーさんのこと……。
「……どうした?」
「い、いや! 何でも無いよ」
「そうか?」
……まあ、今はこれでもいいかな。
「うん。とりあえずありがとうねー」
「……ああ。じゃあまた明日な」
「うん! またね~」
私は笑顔でそう言い、その場を後にした。
デジタル「スカイさんは当たり前のようにトレーナーの部屋にいそう…」
デジトレ「合鍵もばっちり持ってると」
デジタル「冬とかは二人で鍋とかをつつき当ててほしい」
デジトレ「買い物とかを頼み合うくらいにはスカイがトレーナー宅に入り浸ってる関係っていうのも良き」