マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER 作:やまもとやま
ニッサはバーラ・ゲドを代表する自然魔道士として一族を支えていた。
エルフの一族はバーラ・ゲドの森の中でひっそりと暮らしている。
他の種族と距離を取り、保守的な暮らしを徹底している。
ニッサは一族の保守的な方針を打ち破りたいと考えていた。
ニッサは長老のもとを訪れた。
森の中に造られたエルフの集落は古典的な木の建物が並ぶ。エルフたちは自然と一体となって生きている。
長老は木の実をすりつぶして薬草を作っている最中だった。
長老のもとを訪れたニッサは開口一番こう言った。
「長老様、外の世界に行かせてください」
ニッサがそう言うと、長老は「またか」と言いたげにため息をついた。
「窮屈か? ここの暮らしは」
「いえ、そういうわけではありませんが、私たちがさらに繁栄するためにはもっと外の世界を知る必要があると思うのです」
「繁栄か……」
長老は実をすりつぶす手を休めないまま続けた。
「ニッサ、繁栄とはなんと心得ている?」
「それは豊かな生活を手に入れることです。まだ貧しい生活を余儀なくされている人もいます。それにもっと素敵なお花が見つかるかもしれませんし」
ニッサは手に付けている赤い花で作られたアクセサリーに触れた。
「なるほど、若いな」
「私はまだ18ですもの」
「ニッサ、良く聞きなさい」
長老は作業を中断してニッサの目を見つめた。
「繁栄とは滅びの道だ」
「……それはどういうことですか?」
長老の言葉はニッサには理解できないことだった。
「どうして繁栄が滅びの道なのですか?」
「ここでワシが何を語ってもお前には理解できんだろう」
「そんなことを言わずおっしゃってください」
ニッサは身を乗り出した。
「欲望は己を滅ぼす。だから、我々はこの森の力の限りにだけ生きることが望ましいのだ」
「……」
ニッサは解せぬという感じに首をかしげた。
「しかし、若き大いなる力を止めることができないこともわかっている。ニッサ、最後はお前が決めるがいい。ワシはお前の決断を尊重しよう」
長老は再び実をすりつぶし始めた。
「私は外の世界に行きたいです」
ニッサは率直に願望を語った。
「そうか。それが定めなのかもしれんな」
長老はそういう日が来ることをあらかじめ予期していた。しかし、思ったより早くその時が来てしまったようだ。
ニッサは友人の自然魔道士を3人自分の家に呼んだ。
ニッサと親しいエルフたちが3人いて、ペロッコ、ジロキチ、ハナキチの3人だ。
ペロッコはニッサの同級生のエルフで、ニッサとは幼馴染の関係でもある。
ジロキチはエルフの戦士であり、森の見守り隊長を務める偉大な戦士である。
ハナキチはジロキチの弟である。
ニッサは3人を集めて、自分の計画を説明した。
「長老から外の世界に出る許可をもらったの。かねてから計画していた北方の面晶体の調査に行きましょう」
「北方の? でもあそこはずっと長い間閉鎖されていたところよ」
ペロッコが言った。
「そうだぜ、ニッサ。あそこはエルドラージという化け物が封印されているという伝説があるぐらいだ。エメリアの天使も近づくなと警告してるよ」
「いくら長老が許可をくれたからって、おっかないぜ」
ジロキチとハナキチも消極的だった。
「みんな臆病者ね。それでも一族を引っ張る自然魔道士なの?」
「いや、そう言われると」
「面晶体には莫大なマナの貯蔵技術が隠されていると私はにらんでいるの。それが理解できれば、一族に恵みをもたらすことができるわ」
ニッサはそのように夢を語った。
北方の面晶体――それは古くから一族に言い伝えられてきた伝説の1つ。
伝説によると、世界を荒野に変えるエルドラージが封印されているという。
それゆえ、決して面晶体に近づいてはならないと戒められている。
伝説であり、確認されたものではないが、言い伝えを恐れる者が多いエルフたちは忠実に戒めを守ってきた。
しかし、ニッサは一族の戒めに束縛されなかった。彼女の強い好奇心はあらゆる恐怖に負けなかった。
「だからみんなも手伝って」
「ああ、わかったよ。まあ、ニッサがいれば安全だろうからよ」
「ありがと。じゃあ、明日明朝に出発するから、私の家に集合よ」
ニッサは新たなる世界に踏み出すことになった。
◇◇◇
明朝、ニッサの家にペロッコ、ジロキチ、ハナキチが集まった。
北方の面晶体まではかなりの距離を進まなければならない。
2日以上かかると言われている。
そのため、テントや物資をしっかりとそろえておく必要がある。
ニッサは臨時の食糧からテントまで入念にアイテムをそろえた。
「準備はできた?」
「おう」
「今日は天気がいいから何も心配いらないわ」
ニッサは空を見上げた。
バーラ・ゲドの森林は、雨が脅威になる。
乱動という魔力が介在するゼンディカーでは、地形が生命のように躍動する。
大地がめくれ、岩が突き出てくることもある。
これらの乱動は雨に敏感に反応する。
一方で、快晴の時は、危険な乱動が介在することは少ない。
今日は良い旅日和だった。
「それじゃあ出発よ」
ニッサが木の枝を前に向けると、ニッサ探検隊の冒険が始まった。
旅は順調に進んだ。
森林には、危険な獣が多数潜んでいるが、それらともほとんど遭遇することなく進むことができた。
自然魔道士たちは険しい自然の中を進むことに長けていた。
起用に木を登り、岩壁も簡単に突破することができた。
大きな植物の蔦もいとも簡単に切断しどんどん進んだ。
首尾よく、地図にあった滝にたどり着いた。
「おっ、ニッサ。あの滝は地図にあった場所だな」
「そうね。この地図はあてになるみたいね。ということはいまこのあたりね」
気が付くと、夕暮れ前に半分以上の道のりを進むことができた。
「今日はここでキャンプ。明日の昼下がりにはたどり着けそうね」
旅は順調だった。