マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER 作:やまもとやま
イオナはナヒリの住んでいる自宅兼仕事場に降り立つと、4つの翼を折りたたんだ。すると、羽は完全に見えなくなり、天使には見えなくなった。
ナヒリの仕事場は扉が少しだけ開かれていて、中から作業音が聞こえて来た。
イオナはすり抜けるように、わずかな隙間から仕事場の中に入った。
中は広い。あちこちでコーの石鍛冶が作業をしていた。ざっと数え上げて8人の石鍛冶が仕事に従事していた。
一人の石鍛冶がイオナに気づいてやってきた。
「こんにちは、仕事のご依頼ですか?」
声をかけたのは、屈強な男ではなく、とても線の細い女性だった。
コーの石鍛冶には女性が多いことはイオナも良く知っていた。彼らはゼンディカーの乱動の魔力を帯びた鉱物を自在に加工する力があり、特別に「石鍛冶の神秘家」と呼ばれている。
石鍛冶の神秘家は力を使った作業はせず、乱動の力、乱動の望むままに任せてさまざまな武器や構築物を作っている。
そのため、ナヒリの仕事場には、屈強な男は一人もおらず、みな線の細い女性だった。
イオナも翼を畳むと、線の細い女性の一人に混ざることができたので、石鍛冶の神秘家たちとは対等に接することができた。
「大至急、面晶体を造ってもらいたいんだ。ナヒリはいるか?」
「面晶体のご依頼ですか。申し訳ございません。面晶体のご依頼はエメリアの許可がなければ受け付けないことになっております」
「私の権限で許可する」
そう言うと、イオナは右手から一羽の聖なるメサを生み出した。
メサはエメリアの輝きを放ちながら、あたりを飛び回った。
「エメリアの使いの方でしたか。これは申し訳ありませんでした」
「私はエメリアを治めているイオナだ」
「あらまあ、イオナ様だったのですか。これは大変申し訳ありませんでした」
神秘家の女性は目の前の女性がイオナだと知ると、頭を下げて、それからすぐにナヒリを呼びに行った。
「ナヒリさーん、エメリアからイオナ様がお見えになっておられます。すぐに対応をお願いします」
ナヒリはちょうど、1本の剣を研いでいるところだった。ナヒリの仕事は細かく、刃先の様子を確かめながらの慎重な作業だった。
ナヒリはタジームの石鍛冶の神秘家たちを束ねる存在であり、ゼンディカーで最も優れた鍛冶職人の一人だった。
趣味は武器造り、特技は武器造りという石鍛冶一徹の天才肌であり、それ以外のことにはほとんど関心を示さなかった。
「イオナ?」
ナヒリはちらりと振り返って、イオナに視線を送った。
ナヒリは口元を緩めると、こっちに来るように合図を送った。
イオナは歩いてナヒリのもとに向かった。
「こうして見ると、天使も町の娼婦と変わんねえな」
ナヒリは世間話の体で話を振ったが、イオナはビジネスライクに返した。
「大至急、面晶体を造ってもらいたい。本当に大至急だ。できるか?」
「なんでまた突然? またろくでもない神様を封印するのか?」
ナヒリは作業を続けながら対応した。
「バーラゲドのエルドラージの封印が解かれてしまったのだ」
「ふーん」
ナヒリにはどうでもいいことだったようで、特に真剣には考えていなかった。
「お前も知っているだろう。バーラゲドにはコジレックが封じてある。その封印が解かれたとすると、いずれここタジームにも影響が出ることになる」
ゼンディカーはかつて恐るべき力が野放しにされていた。
その最たるが乱動の破壊神、エルドラージであり、その力を封印しなければ、ゼンディカーの秩序を保つことができなかった。
そこで、これらの強大な力を封じ込めるために発明されたのが、面晶体だった。
面晶体の歴史は長い。
まだ、エルドラージと乱動の破壊神がゼンディカーに破壊をもたらしていたころ、ゼンディカーには人間がわずか1500人ほどしかいなかった。
選ばれし人間以外は生存することができないほど、ゼンディカーは荒れていた。
エメリアのとある天使がプレインズウォークを繰り返し、ウギンという大いなる精霊龍にたどり着く。
天使はウギンに懇願し、ウギンの力を借りることに成功した。
ウギンの魔力を用いた結晶にて、エルドラージや乱動の破壊神を一時的に封じ込めることに成功した。
だが、それだけでは彼らを完全に封じることができなかった。
そこで、グールドラズの吸血鬼らがイニストラードから訪問したマルコフの血を引く吸血鬼と供託して、ウギンの魔力を永続化する方法を発明する。
しかし、そのためには精密な結晶の構築が必要であり、そこで活躍したのがコーの石鍛冶らだった。
天使、吸血鬼、コーが力を合わせ、ついにウギンの魔力を永続させ、大いなる力を永遠に封じ込めることに成功した。その時に用いられたのが面晶体だった。
しかし、永遠とはまやかしだった。
事実、今日、面晶体は破壊され、大いなる力が再びゼンディカーの大地に現れてしまった。
これに対処するには、もう一度、大いなる力を封じ込める面晶体を構築しかなかった。
エルドラージは決して死なない。だから、封じ込める以外に解決方法がなかった。
ゼンディカーには各地に大いなる力を封じ込めた面晶体がある。
イオナの治めるエメリアにもエムラクールというゼンディカーで最も凶悪な存在が封じられた面晶体がある。
間違っても、その封印が解かれないようにと、エムラクールを封じた面晶体は40人のエメリアの番人によって監視されている。
タジームには、ウラモグを封じた面晶体があり、バーラゲドにはコジレックを封じた面晶体があった。
「これはゼンディカーの死活問題でもある」
「仕事は引き受けるよ。だが、私に依頼するなら、報酬は高いぜ」
ナヒリは足元を見るように言った。ナヒリはタダで働くことはなかった。
ゼンディカーは決して豊かな世界ではない。いや、正しくは世界一豊かだが、世界一豊かではない。
乱動の魔力を効率的に利用できれば、その資源は膨大になる。しかし、乱動は人に恵みをもたらす3倍の危害を加えるものである。
安全に利用できるエネルギーは、ゼンディカーにはほんのわずかしかなかった。
エメリアの天使らはゼンディカーの秩序を安定させるため、エルドラージや乱動の破壊神を封じ込めた。
だが、それでゼンディカーの秩序が安定したわけではない。
というより、その後にこそ真の問題が現れた。
大いなる力が封じられると、人々はようやくエルドラージに怯えずに生きることができるようになった。
すると、彼らは第二の悪夢を創造することになる。
資源を巡る戦争だ。
エルドラージがいなくなると、次に待っていたのは、かつて結束した者たちによる争いだった。
吸血鬼はグールドラズを席巻。先住民を数限りなく殺して今に至った。
タジームも限りない戦争の果てに今日を迎えている。
バーラゲドのエルフらも外部との接触を断つことで、束の間の平穏を得ていた。
エメリアが直面した第二の問題はまだ解決していない。今でも人々は対立し奪い合っている。
そんな世界だけに、どの民族も保守的であり守銭奴になった。
ナヒリもコーの仲間たちの生活のために仕事をしているのであって、小遣い稼ぎで仕事をしているわけではなかった。
エメリアはこうした人々の対立や戦争を解決するべく、日々頑張っていたが、完全な世界平和ははるかに遠かった。
ナヒリはとてつもない高額の報酬をイオナに要求した。
「1億ジェムだな」
「無理だ」
イオナは冷静に返した。
「ならば9990万」
「無理だな」
「9980万」
「無理だ」
「9970万」
「無理」
石鍛冶の女性は二人のやり取りをずいぶん長い間聞いていた。
悠久の時が流れてようやく解決した。
「3990万ジェム」
「いいだろう」
ようやくイオナは了承した。
ナヒリは疲れた様子でうなだれた。
「ずいぶんまけられたな」
「特別に今年のタックスは軽減してやるさ」
エメリアの天使はゼンディカーの秩序の安定のために、世界中から税を取って、貧しい者を支援していた。
当初はこの税でも揉めたが、エメリアは力ずくで徴収を続行した。
今は一応税の窓口がそれなりにできたので、そこから安定して徴収できるようになった。
現在、以下の5つの税の窓口がある。
グールドラズ、吸血鬼連合、代表ドラーナ
タジーム、同盟者連合、代表タズリ
タジーム、アノワン新聞社、代表アノワン
セジーリ、マーフォークと海の会、代表キオーラ
バーラゲド、みんなの森の会、代表ノヤン・ダール
彼らもゼンディカーの安定および、戦争の撲滅のために税に理解し、ここ最近はエメリアにきちんと税を払っていた。
ナヒリの仕事場も定期的にタズリの同盟者連合に税を払っていた。
「では頼むぞ」
「しょうがねえな。おい、お前ら、新しい仕事だ」
膨大な金はかかったが、ナヒリの協力により、コジレック封印の要である面晶体の目途が立った。
しかし、それだけでコジレックを封印することはできない。コジレックの身動きを封じる大きな力が必要である。
イオナはため息をついた後、次の仕事先を述べた。
「次はドラーナか」