マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER   作:やまもとやま

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16、キオーラ

 ゼンディカーの海は北も南も東も西も例外なく荒れている。

 ゆえ、大陸を船で渡るのは命がけである。

 

 この乱動の海がゼンディカーの分断を確かなものにしている。

 空を飛ぶことができる天使、ドラゴンを操るゴブリンや人間、カラストリアの血を引く飛べる吸血鬼など、海を渡りうる存在は数が限られている。

 ところが、最近はゼンディカーに港が興った。

 

 乱動の海を船で渡るのは無謀であるが、ゼンディカーも結束するようになり、海を渡るのに必要な要素をそろえることができるようになった。

 ゼンディカーの大都市「タジーム」では、海の賢者たちの力を借りることで、港を機能させることに成功した。

 

 海の賢者とは、マーフォークたちである。

 

 ゼンディカーのマーフォークは乱動の海で長く暮らしてきた。

 もともとマーフォークは人間と手を取ることがなかったが、ゼンディカーに「同盟」という概念が生まれると、マーフォークも同盟者として参加するようになった。

 

 元来、ゼンディカーという世界に「同盟」という言葉ほど似合わないものはない。

 ゼンディカーの歴史は戦争と混沌の繰り返しだった。

 結束より反発、平穏より破滅だった。

 

 今日のゼンディカーに不格好な同盟が生まれた背景には、エメリアの天使の働きがあった。

 エメリアの天使が閉ざされた大陸の絆をつないだ。

 

 しかし、その絆は「呪いの鎖」なのかもしれない。

 

 ◇◇◇

 

 セジーリはゼンディカー最大の原生大陸である。

 人の手によって開墾されておらず、人工的なものはどこにもない。

 

 タジームの人間はセジーリを開発しようとしたが断念した。セジーリまでの道のりが険しいのにリターンが少ない。実利を重視する人間にとって、セジーリはそれほど魅力的な大陸ではなかった。

 いま、セジーリはマーフォークらの生活拠点になっている。

 

 マーフォークはセジーリの大陸棚に都を築いていた。

 マーフォークの海底都市の歴史はまだ浅い。

 ゼンディカーのマーフォークは長く、海底に穴を掘ってその中で暮らしていた。

 都を築くに至ったのは人間の影響が大きい。

 

 都の市長となったノヤンダールは若いころ、人間の都であるタジームに留学し、建築学を学んでいた。

 その経験を活かし、「海底に理想郷アトランティスを築こう」と大々的な計画を打ち立てた。

 

 そのために、ノヤンダールはすでに立派な海底都市を作り上げていたテーロスのマーフォークを多数招待した。

 海の神タッサと共に生きるテーロスのマーフォークらの力を借りて、乱動が支配する厳しいゼンディカーの海底に大きな都を作り上げるに至った。

 

 この海底の都はマーフォークだけのものだ。

 はるかな深海にあるため、人間は潜ることができない。光も届かないため、海底でも目が機能するマーフォークにだけ見渡すことのできる美しい都だった。

 

 ノヤンダールが造り上げた都は、実は人間が造り上げたタジームの都よりずっと美しいものだった。しかし、それを目撃するためには、マーフォークに生まれる必要があった。

 

 ノヤンダールは定期的に地上に向かい、エメリアの天使らと交流した。

 その際、ノヤンダールはセジーリの大陸に上陸することが多かった。

 

 ノヤンダール一行が現れたのを、エメリアの天使が見つけた。

 

「あー、来ました。リンヴァーラ様、魚が出てきましたよ」

 

 幼い顔をした頼りなさそうな天使は慌てて、自分の上司にあたる大天使リンヴァーラのもとに向かった。

 リンヴァーラはイオナに継ぐエメリア第2位の大天使となっている。

 エメリアは厳しい階級によって統率され、長のイオナを筆頭にその下にリンヴァーラがついていた。

 ほかにも大天使はいて、伝令格、番人格、執政格、乱動格などさまざまな格付けで定められている。リンヴァーラは伝令格だった。

 

 伝令格は、地上とエメリアをつなぐ重要な役割を持っている。伝令格は地上の争いの仲介から面晶体の管理まで多岐の業務をこなすことになっている。

 リンヴァーラのもとには130の天使が仕えている。

 エメリアの天使というのは、通常優秀であるが、リンヴァーラに仕える天使は例外的に落ちこぼればかりだった。

 

 エメリアは階級社会であり、落ちこぼれは制裁によって粛清されることになっている。

 非情な体制であるが、エメリアではこれは至極当たり前のことだった。

 

 だが、リンヴァーラは特別な感情を持って生まれた天使だった。

 粛清の対象になった落ちこぼれをすべて自分の配下に加えるという方針を取った。

 リンヴァーラが上位の大天使ゆえに認められた例外だった。

 

 リンヴァーラのこの奇妙な優しさはエメリアの歴史上初めてのものだった。なぜ、リンヴァーラがこのような自愛の心を持ったのかは謎に包まれている。

 いずれにしても、リンヴァーラの優しさによって粛清を免れた天使がリンヴァーラの部下だった。

 

 それゆえ、美しさが象徴のエメリアの天使の中にあって、リンヴァーラの部下の天使はいずれも美しさに欠けるところがあった。

 

「リンヴァーラ様、魚です。魚」

「マーフォークとお呼びなさい」

「魚は魚です。エメリアの聖書には魚と書いてあるじゃないですか。そう、あいつらは魚。食材なのです」

 

 天使はそう力説した。

 エメリアの天使は厳しい階級によって成り立っている。本来は、大天使の教えは絶対だが、粛清の対象になるような天使はやはりエメリアらしさに欠けているようであった。

 しかし、リンヴァーラもそれを咎めなかった。

 

 リンヴァーラたちは上陸してきたノヤンダールらと面会した。

 

「これはリンヴァーラ様、セジーリに参られていたのですね。これは申し訳ない。何も土産を持参せず手ぶらで」

 

 ノヤンダールは落ち着いた様子のマーフォークだった。

 

「いえ、いつもエメリアの集いに参加していただき助かります」

 

 リンヴァーラも丁寧にあいさつした。

 

「実は大変なことが起こってしまったのです」

「大変なこと? 天変地異でも起こりましたか?」

「実はエルドラージの覚醒を許してしまったのです」

「なんと! エルドラージが?」

 

 ノヤンダールにとっても、エルドラージの封印が解かれた事実は大事だったようである。

 

「面晶体の封印が解かれてしまったのですか? 一体どこの?」

「バーラ・ゲドです」

「では、コジレックがゼンディカーの大地に現れたというのですか?」

「そうなのです。我々の管理不十分が原因でこのようなことになってしまい、大変申し訳ない気持ちです」

「私たちは悪くないですよ。悪いのはエルフのバカどもです。あんちくしょー、勝手なことばっかりしやがって許さないです」

 

 リンヴァーラの隣にいた天使がそう言って激昂した。

 

「それは本当に大変なことになってしまいました。いま、コジレックはどこに?」

「まだ姿を捕捉していませんが、コジレックの足跡は海底へと続いていました」

「では我々の都が蹂躙されるかもしれないということですか?」

「セジーリに向かっているかまではわかっていませんが、このままではゼンディカーのすべてを荒れ地にしてしまうとイオナ様はおっしゃっています」

「うーむ……コジレックの話は我が先祖から聞いております。すべてを荒れ地に変える恐怖そのものであると」

 

 ノヤンダールは事の重大さをしっかりと認識していた。

 

「ノヤンダール様にどうか力を貸していただきたいのです。コジレックを追うためにはマーフォークの皆さんの力が必要なのです。我々天使では海の世界を渡ることはできませんから」

「もちろん、力はお貸ししましょう。ですが、コジレックを止める手立てはあるのですか? 我々はしょせん無力の身。エルドラージを止める力はありません」

「いま、イオナ様が動いてくださっています。私はコジレックの動きを掴むため、キオーラの力を借りるようにと命を受けてここへ参ったのです」

「キオーラか……」

 

 ノヤンダールはそう言うと、ため息をついた。

 

「我が都最大の厄介児……しかし、我が都最大の軍事力……」

 

 ノヤンダールはキオーラを最強の力と認める一方で、その扱いづらさに難儀している様子を表情に見せた。

 

「どうかキオーラの力を借りられないでしょうか?」

「説得はしましょう。しかし、キオーラは誰の命令にもなびかない。気まぐれで放浪的。我々も困っているのです。マーフォークが生き残るには結束が必要ですが、キオーラは群れることを嫌うのです」

「私からも強くお願いします。どうにかキオーラと面会できないでしょうか?」

「やってみます。しかし、うまくいくかどうか。それにいまどこにいるかもわからない状況なのです」

 

 ノヤンダールはすぐに使いの者にキオーラを探すように伝えた。使いの者3人はすぐに海のほうへ走り、そのまま海の中に消えて行った。

 

「ったく、これだから魚は嫌なのですよ。特にキオーラとかいうやつは、協調性のないノータリンですからね」

 

 リンヴァーラの隣で、また天使が毒づいた。これまでも、キオーラを巡っては色々な苦労があった。

 

「私たちのほうでもキオーラの行方を捜してみようかと思います」

「無駄ですよ、リンヴァーラ様。それに、私たちは泳げないのです。天使は空を飛ぶもの。魚とは次元が違うのですよ」

「しかし、コジレックを止めるにはキオーラの力が必要不可欠です」

 

 リンヴァーラも認めるほど、キオーラの力は大きかった。

 しかし、その大きな力は誰よりも「同盟」という概念を嫌っていた。

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