マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER   作:やまもとやま

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17、海嘯の力

 ここに来る者は誰もいない。

 そこはよどみ切った水底だった。

 暗闇の深海底であり、マーフォークの目にも、闇夜の世界としか映らなかった。

 静寂の中、この世界は時を失ったように封印されていた。

 

 誰もいないこの深海底に、一人のマーフォークが訪れて来た。

 それでも、止まっていた世界が動き出すことはなかった。

 

 そのマーフォークは立派な三俣槍を持っていた。

 そのマーフォークはその地に眠る者に会いに来た。

 その者は無限の眠りについていて、その者の残骸の1つも残っていないが、たしかにここに眠っている。

 マーフォークはしばらく眠る者の前で目を閉じていた。

 最後の一言つぶやいた。

 

「今日も海は平和よ、トゥーリ」

 

 その一言を伝えると、マーフォークはその地を離れた。

 マーフォークはいくつかの岩場の狭いところをいとも簡単にかいくぐって泳いだ。

 水泳の達人であるマーフォークの中にあっても、そのマーフォークは突出した泳力を発揮した。

 

 岩を抜けると、その先には海蛇の群れが遊泳する騒がしい世界が広がっていた。

 このあたりは先ほどの場所と異なり、活気づいている。活気づいているということは、危険ということでもあった。

 

 海蛇の主食はマーフォークである。

 当然のように、海蛇はマーフォークに狙いを定めた。

 

 海蛇はすさまじい推進力で接近してきて、牙のない大きな口を開いた。

 

「私を食べたら消化不良で死ぬわよ」

 

 マーフォークはそう言うと、持っていた三俣槍を目の前の海蛇に向けた。

 海蛇はひるむことなく、三俣槍ごとマーフォークに食らいついた。

 

 圧倒的なスピードによる捕食だった。狙われたマーフォークは一瞬で海蛇に呑み込まれた。

 

 しかし……。

 

 海蛇は次の瞬間、三等分に体が崩れ去った。

 その中央には、先ほどのマーフォークの姿があった。

 

「だから言ったのよ。それにしても……」

 

 マーフォークは自分の持っていた三俣槍を見つめた。

 

「相変わらず惚れ惚れする切れ味ね。さすが神様の三俣槍だわ」

 

 マーフォークは昔手に入れた三俣槍の力に惚れ込んでいた。この槍があれば、ゼンディカーの海の頂点に立つことができた。

 マーフォークは海蛇の群れをゆうゆうと抜けると、比較的安定している場所に出た。

 

 このあたりはタジーム発の都が広がっている。

 海底約1000mの世界には、マーフォークたちが住む海の都があった。

 例のマーフォークはその都に降りて行った。

 

 このあたりは同族のマーフォークが暮らしている。

 色とりどりの建物の窓から次々とマーフォークが出て来た。

 例のマーフォークも窓から建物の中に入った。

 

 中では、ベッドの上に横たわるマーフォークがいた。白昼堂々居眠りをしていた。

 例のマーフォークはそのマーフォークの頭を三俣槍で小突いた。

 

「いてえ。安眠を穢す不届きものはどいつだ?」

 

 マーフォークは起きるなり癇癪を起した。

 

「私だけど」

「キオーラか、なんだよ。せっかく気持ちよく眠っていたというのに」

 

 例のマーフォークはキオーラと呼ばれた。

 キオーラはゼンディカーでは最も有名なマーフォークであり、あちこちの都で悪名高いマーフォークとして知られることもあった。

 

「あんたの教えてくれた次元口あったでしょ」

「あー? テーロス次元へのやつか?」

「そう。あそこ閉じちゃったんだけど」

「もう閉じてしまったのか。次元口は不安定だからな。また新しいところを探さないといけないな」

 

 マーフォークは大きくあくびをした。相当眠そうだった。

 

「これからテーロスへ渡ろうと思って長旅に出たのに初日で帰ってくることになったわけ。どうしてくれるの?」

「おれに言われても困るよ。また見つかるまで待てよ」

「すぐ探してもらいたいんだけど」

「なんだよ、急ぎか? 最近、テーロスに入れ込んでるみてえだけど、あんまし外の世界に行かない方がいいぜ。二度と戻れなくなる可能性もあるんだからな」

「そうもいかないわ。私の経営するレストランで最近火事があったという噂を聞いたからには見に行かないといけないわけ」

 

 キオーラは険しい表情で訴えた。

 キオーラはゼンディカーのマーフォークの中でも、最も高い泳力を持つ。そのため、ゼンディカーの次元の裂け目があると、そこを突破して外の世界に向かうことができた。

 

 ゼンディカーの海底は不安定で、頻繁に次元の裂け目ができる。

 それが他の次元世界に通じることがあった。

 最近は、テーロスに通じる巨大な次元口が現れたと都で大きな話題となった。

 

 かなり安定しており、結果的にテーロスとの長期交流の要になった。

 キオーラもそれを利用して、テーロスに向かい、拠点を築いているようであった。

 

 キオーラは現在、ゼンディカーに5つの会社、テーロスに7つの会社を経営しているなど、マーフォーク最大の実業家の一人でもあった。

 主にレストランを経営しており、キオーラ自ら仕入れたクラーケンを使ったクラーケン料理がゼンディカーでもテーロスでも人気が高かった。

 

 しかし、安定していた次元口が封鎖したことで、テーロスへ渡る手段がなくなってしまった。

 キオーラは自分の経営するレストランの安否を確認するために、テーロスに渡りたいと思っていた。

 

 今日、キオーラが訪れたこのマーフォークは海底の次元口を探すトレジャーハンターだった。

 海に眠る宝物を探るほか、多次元世界をつなぐ次元口の発見や情報の提供などで生計を立てていた。

 

「今なら発見報酬10万ジェムの出血大サービス中だけど」

「10万か。しかし、いまは睡眠を優先したい。こっちも最近忙しかったんだ。まあ、おかげでしばらく働かずに暮らせるようになったんだ」

「使えないやつ」

「ほかに優秀なやつを紹介してやるから、そっちに当たれよ。ジェリー・エンという潜水の天才がいる」

「誰それ?」

「考古学者らしいんだけど、泳ぐのがピカイチでな。ややもすると、キオーラよりも上かもよ」

「ふーん……それは闘争心が沸くわね」

「住所を教えてやるから当たってみろよ。ただし、紹介料5000ジェムな」

「そういうとこはしっかりしてんのね」

「ビジネスの基本だろ」

 

 マーフォークはキオーラからしっかり5000ジェム受け取ると、そのままもう一度眠りについた。

 

 ◇◇◇

 

 キオーラは教えてもらったジェリー・エンが所属する事務所を目指した。

 ゼンディカーのマーフォークは組織立っている。たいていのマーフォークが組織に属しており、組織に属さない流れ者は信用されないという風潮が強かった。

 厳しいゼンディカーの海を生きるには、みなで結束する必要があったが、マーフォークはエルフらと違い、海の世界で力強いネットワークを形成することに成功していた。

 

 人間も吸血鬼も争いの歴史で文明を築いていたが、マーフォークははなから結束で文明を築いた。

 しかし、キオーラだけは例外で、キオーラは組織のルールを度外視して、自分のルールで会社を作っていた。

 

 キオーラはジェリーの所属する事務所にやってきた。

 事務所にはすでに先客がいて、先客らが真剣な話を展開していた。

 

「というわけで、現在コジレックが深海を移動しているようなのです。エメリアの天使からの情報です」

 

 キオーラは聞き耳を立てて、話をうかがった。

 

「このあたりにも被害が出そうなのかね?」

「わかりません。ですが、相手はコジレック。言い伝えによれば、すべてを荒れ地に変える大いなる力と叡智の持ち主であると」

「困ったことになったな。せっかくエースを獲得して、うちの事務所も大きくなろうとしているんだ。そんな化け物に潰されてたまるか」

「いま、ノヤンダール市長と連携して、コジレックの動向を探るという方針が立っています。ぜひ、あなた方にも協力していただきたいのです」

「それはもちろん協力したい。だが、うちの従業員が危険にさらされるようなことがあるとすると、こっちの死活問題にもなる。簡単には首を縦に振れんな」

「ですが社長、このままではコジレックの蹂躙によってすべてが無に帰してしまう可能性もあるのです」

「実際にそうなると決まったわけではあるまい」

「今しかありません。取り返しのつかないことになる前にどうかご協力を」

「ううむ……」

 

 そこまで聞いたところで、キオーラは事務所に入っていった。

 

「失礼するわ」

「む、貴様はキオーラ?」

 

 事務所の社長はキオーラを見ると、表情をこわばらせ、不愉快そうにまゆをひそめた。顔の特徴の良く出るマーフォークだった。

 

「ジェリー・エンってやつここにいると聞いたけど、誰? あんた?」

 

 キオーラは三俣槍をぶしつけに社長の顔に近づけた。

 

「人に槍を向けるなど無礼な。おい、こいつをつまみ出せ。こいつは自分の利益のために、一族を捨てるならず者だ」

 

 社長がそう言ったが、キオーラが後ろの取り巻きをにらみつけると、みな怖がって動けなくなった。

 

「おい、早くこの無礼者をつまみ出せ!」

「無礼者はあんたでしょ? せっかく仕事の依頼に来てあげたのにつまみ出すなんて」

「依頼だと? ならず者の依頼など受け付けぬわ。さあ、帰れ帰れ」

「ジェリー・エンって誰? そいつに個人的に依頼するから」

「帰れと言ってるだろ!」

 

 社長はさらに激昂したが、その社長を制止して、一人のマーフォークが社長の前に出た。

 

「ジェリー・エンは私ですが」

 

 ジェリーはスッとよどみのない動きでキオーラの前に出た。他のマーフォークと一線を画すオーラを放っていた。

 

「ふーん、あんたがね。まあいいや、仕事を依頼してあげるから聞きなさい」

「キオーラさん、お言葉ですが、あなたの依頼は受け入れられません」

「……」

 

 ジェリーははっきりとキオーラの依頼を退けた。その堂々とした態度にキオーラの目つきも変わった。

 

「その通りだ。我々は健全なゼンディカーの秩序のために働く身。貴様のようなならず者のために働くことはない。さあ、帰るんだ」

 

 改めて社長もそう言って、キオーラを突き放した。

 

 こういう扱いを受けることには慣れていたので、キオーラは特に動じることはなかった。キオーラは息を吐くと、言われたとおり、事務所を後にした。

 キオーラはどこでも「悪者」として扱われている。先ほどの居眠りマーフォークのようにキオーラと関わる者も一定数いたが、おおむね態度は冷たい。

 

 キオーラはかつて、怪物「ロートス」を水の都に誘導して、都を壊滅させたという歴史で知られている。それゆえ、キオーラは悪名が高い。

 しかし、この話は誤解だった。

 実際は、キオーラがタッサの三俣槍を手に入れてまでロートスを手懐けて、水の都を守っていたのだが、その話は改悪されて伝わってしまった。

 

 キオーラも今更弁明するつもりもないし、誰も信じないと思っているから、そのまま放置していた。

 結果、キオーラのなすことはすべてが悪いほうに見られるようになってしまった。

 

 キオーラはテーロスの神、タッサから三俣槍を奪ったということで、テーロスのうち、タッサの関係者から悪く見られ、それがゼンディカー全体のイメージダウンにつながったと見られることになった。

 ゼンディカーを守るための行為だったにも関わらず、すべて悪名につながった。

 ほかにも、キオーラは数多くの影の貢献をしていたが、すべては悪名を高くすることにしかつながらなかった。

 

 キオーラが事務所を出ると、後ろから追いかけてくるマーフォークがあった。

 

「キオーラさん、お待ちください。どうか我々に力を貸していただけませんか?」

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