マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER   作:やまもとやま

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19、集う力

 チャンドラにとってもゼンディカーの世界は初めて歩み大地で、バーラゲドのジャングルを抜けた先にいたコーの一族は初めて出会う民族だった。

 

「人がいるよ。行ってみよ」

 

 ニッサらはようやくジャングルを抜けて、面晶体跡地にたどり着いたが、チャンドラとニッサのテンションは対照的だった。

 チャンドラは面晶体の復元作業を担っていたコーのもとに駆けて行ったが、ニッサはジャングルを抜けると、その場で足を止めた。

 

 何かとの接触にポジティブなチャンドラと接触にネガティブなニッサの隔たりは小さくなかった。

 ニッサは近くにあった岩場に腰を下ろした。

 先ほどまでチャンドラの肩に乗っかっていたオムナスはニッサがついて来ないことに気づいて、ニッサのもとに向かった。

 

「ゆかぬのか?」

「どうぞ、オムナス様はチャンドラと一緒に。私はここにいます」

 

 ニッサは力なくそう言うと、その場で肩をすぼめた。

 

「私のことはお気になさらず。オムナス様はもとの力を取り戻してください」

 

 言われて、オムナスはそのままニッサの隣に降りた。

 チャンドラは出会ってすぐにコーの一族と会話を弾ませていた。警戒心のかけらも見当たらない。誰に対しても、チャンドラは明るく振舞った。

 

 ニッサは遠くからその様子を見て複雑な表情を浮かべていた。

 新しい世界に積極的に飛び込めるチャンドラの性格をうらやましいと思う一方で、先ほどまで自分の隣にいた仲間がすぐに離れてしまった寂しさも感じていた。

 

「間違いない。この地だ。この地に我の魔力は封じられたのだ。しかし……」

 

 オムナスは自分に残った強大な乱動の核を振るわせて、自らの魔力と親和性のある力を探したが、見つからなかった。

 この地に封じ込められた乱動の魔力は長い時の間か、コジレックの封印が解かれた際にか、いずれかによって失われてしまったようであった。

 

「我の魔力はここにはない。なんということか。消えてしまったのか」

 

 オムナスはそう言って、体をゆらゆらと揺らした。オムナスの姿からは、オムナスの落胆などは見分けがつかないが、たしかに落胆したようであった。

 

「ないのですか?」

「うむ、それをあてにしていたが……これではチャンドラとの約束を守ることができぬ」

 

 オムナスは自らの乱動の魔力が取り戻された暁には、カラデシュへの道を開くとチャンドラと約束していた。その約束を果たせなくなった。

 

「申し訳ありません、オムナス様。もしかしたら、私のせいで失われてしまったのかもしれません。もしかしたら、エルドラージに奪われてしまったのかも」

「我が乱動の魔力は特別。エルドラージ風情に使いこなせるものではない。おそらく、長い年月の間に、他のエレメンタルが吸い上げてしまったのだろう。しかし、それは誤算であった」

 

 オムナスの真の力は二度と還らぬものになってしまった。

 しかし、オムナスはそれもゼンディカーの秩序の内とわかっていたから、落胆してもすぐに立ち直った。

 

「仕方ないことだ。乱動は世界を巡るものだ。エレメンタルは生まれ、消滅することを繰り返すもの。我も消滅の時が来たということだ」

「消えてしまうのですか?」

「それは我にもわからぬこと」

 

 長い時を生きてきたオムナスにとっても、自らが消えてなくなってしまう経験は一度もなかった。

 

「だが、我の魔力はまたいずこのエレメンタルに引き継がれる。問題はない。ゼンディカーのすべては消え、再び生まれるものだ」

「……」

 

 ニッサはこの世の形あるものの儚さを痛感して虚無感を覚えた。

 

「ところでニッサよ、これからどうする? 見たところによるとコーの連中が面晶体の復元を進めているようだな。おそらくエメリアの天使たちが扇動しているのだろう。連中に任せておけば問題は解決するであろう」

 

「うまくいくでしょうか……?」

 

 ニッサはコジレックがこの地に現れた瞬間を経験した身。それゆえに、コジレックの力の大きさをよくわかっていた。

 あの力をいとも簡単に止めることのできる存在がいるとはとうてい思えなかった。

 ニッサは外部との交流がない。それゆえ、エメリアの天使やコーの一族がどれだけの力を持っているかわからなかった。

 けれど、どれだけの力があっても、コジレックの力には敵わないような気がした。

 

 かと言って、自分が何とかできるというわけでもない。コジレックを止める知恵を持っているわけでもなかった。

 この地に戻ってきたはいいが、コジレックを止めるなんて不可能だと感じた。

 

 もうコジレックのことは忘れて、バーラゲドを遠く離れようかとも考えた。

 知らないふりをしていれば、これ以上コジレックの被害を受けることはない。ゼンディカーが滅んでしまっても、別の世界に渡ることができれば、自分には関係がない。

 たしかにゼンディカーは自分の故郷だが、その故郷を追われた身。もはや、ここは故郷とは言えなかった。

 

 しかし、その冷たい決断をどうしてもできなかった。

 昨夜も夢にコジレックが現れた。夢の中のコジレックが審問してきた。

 

「どこへ逃げようとも、貴様の魂はゼンディカーの大地に縛り付けられている。いずれ荒野にさらされ、未来永劫消えない呪縛に苦しむことになるだろう」

 

 ニッサはその審問から逃れようと、背中を向けて走ったが、決して闇の世界から抜け出せなかった。

 コジレックを放置してどこへ逃げても、ニッサの抱えるゼンディカーの魂はここにある。

 やはり、この問題から目を背けることはできなかった。

 

 ニッサは顔を上げた。

 

「オムナス様、私にできることはあるでしょうか?」

「おぬしにしかできないことは山のようにあるだろう。すべてはおぬし次第だ」

 

 ニッサは拳を握り締めると、立ち上がった。何かアイデアがあるわけではないが、前に進む必要があると思った。

 ちょうどそのとき、チャンドラが戻って来た。手にたくさんの食物を抱えていた。

 

「ニッサ、コーの人がね、果物をくれたよ。好きなのあげるよ。取って」

 

 チャンドラは両手にたくさん抱えていたが、ニッサはそこから1つだけ片手で掴むと、歩き出した。

 

「行くわよ、チャンドラ」

「え、どこに?」

「コジレック。私が倒すから」

 

 ニッサは前を見据えた。

 

 ◇◇◇

 

 コーの面晶体の復元が進む間に、イオナらはコジレックをバーラゲドに呼び戻すための作戦を展開することに決めた。

 コジレックを倒す術はなく、面晶体に生きたまま封じ込めるしかない。

 

 そのためには、大きな力が必要だ。

 特に海洋戦力が必要だった。

 

 コジレックは海底深くを進むことができる。そこはエメリアの天使にとって死角だった。

 空の世界で頂点に立つイオナも海の中に向かうことはできなかった。

 

 ドラズの海岸沖の上空にて、イオナに仕方なく協力したドラーナはイオナに皮肉を言った。

 

「お前たちのためにスイミングスクールを作ってやる」

「ならば、こちらは食糧支援のためにドラズに食塩水を送ってやろう」

 

 イオナは皮肉で返すと、ちょうど先ほど戻ってきたリンヴァーラ一行を迎えた。

 

「はふー、疲れました。どうして私たちだけ目を回して飛び回っているのでしょう」

 

 リンヴァーラの部下はいずれも消滅候補になっていた力の弱い天使だった。

 リンヴァーラの優しさによって救われて、リンヴァーラのもとでエメリアの務めをまっとうしていたが、他の天使よりも飛行能力は劣っていた。

 

「リンヴァーラ様、何をご報告するのでしたっけ? 忘れてしまいました」

「私がご報告します。みんなはエメリアに戻って休んでください」

 

 リンヴァーラは疲れ果てていた部下の天使に休暇を与えた。

 

「えー、リンヴァーラ様も一緒に戻りましょう。このままでは過労死してしまいます。イオナ様がなんと言おうとです」

「私は後で戻りますから、さあ、早く」

「わかりました。聖なる日のもとでお待ちしています。あまり無理をなさらずに」

 

 リンヴァーラの部下はそう言って笑顔で手を振った。

 力には乏しいが、天使特有の厳格さに囚われないのが、彼女らの特徴だった。

 その性質が足を引っ張ることもあれば、それが大きな成果をもたらすこともあった。

 

 リンヴァーラはイオナに報告した。

 

「イオナ様、ご報告いたします」

 

 リンヴァーラはイオナからキオーラを探す任務を与えられていたが、無事キオーラを発見し、その協力を得ることに成功したということを伝えた。

 

「そうか、よくキオーラをその気にさせたな。やつの協力は得られないと思っていたが」

 

 イオナはキオーラの力はあてにしていなかった。キオーラは気まぐれで協調性に欠ける。イオナもそのことはよくわかっていた。

 しかし、リンヴァーラは見事にキオーラの協力を勝ち取ってきた。

 他ならぬ、リンヴァーラだからこそできたことでもあった。

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