マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER 作:やまもとやま
キオーラを筆頭とするコジレック誘導作戦が始まることになった。
キオーラが海面から顔を出すと、上空にエメリアの天使が集まっているのが見えた。
「相変わらずお高くとまってるわね、鳥人間」
キオーラはそう言うと、手に持っていたタッサの三俣槍をかざした。
エメリアの上級天使であるリンヴァーラが降りて来た。
「本当にありがとうございました、キオーラさん」
「報酬はきちんともらうから。イオナは?」
「お呼びします」
リンヴァーラが手から光の信号を送ると、すぐにイオナが降りて来た。
イオナの降下速度はとてつもなく速く、一瞬で海面近くに降りて来た。
「一応、任務内容を確かめておくわ。コジレックをバーラゲドの南西海岸沖に誘導するだけでいいわけね? それでいい値通りの報酬がもらえるという話でオッケー?」
「その通りで間違いない。しかし、相手はエルドラージだ。油断はするな」
「それは楽しみだわね。エルドラージなんて伝説でしか聞いたことなかったもの」
キオーラはコジレック誘導作戦を楽しんでいた。
「じゃあ、行ってくるわ」
「どうかご無事で」
リンヴァーラの見送りを受けて、キオーラは潜水した。
海に潜ると、天使たちの力を借りることはできない。マーフォークの力だけがコジレックに抵抗する手段となる。
キオーラの部隊に参加したマーフォークは約270体。
キオーラが連れて来たマーフォークが6名、ノヤンダールが派遣したマーフォークの部隊が約120名、その他傭兵として参加したマーフォーク多数で構成されている。
かなりの数だが、コジレックを相手にするには、これでも数は十分とは言えなかった。
とはいえ、数はそれほど重要ではない。
コジレックを誘導するには、コジレックに殲滅しなければならない存在と印象付けさせるほどの力が必要だ。
弱き力では、コジレックを動かすことはできない。
そういう意味で、今回は精鋭が揃った。
まずは、キオーラが連れて来た6名。いずれもキオーラの支持者である。銀エラの達人が3人、波使いが3人で構成される。
彼らはキオーラと長く仕事をしてきたから、信頼できるパーティーである。
次にノヤンダールが連れて来た部隊が続く。彼らはキオーラを良く思っていないが、実力のある兵士らで構成されている。
矢のごときマーフォーク20数名、真珠三俣槍の達人が50数名などなど、力のある戦力だった。マーフォークのペテン師も数名紛れていた。
最後に傭兵部隊が続く。
ノヤンダールらにお金で雇われた者たちとゼンディカーのためにとボランティアで参加している者もいる。
多くは真珠三俣槍の達人で構成されている。
その中に、ジェリー・エンの姿があった。
ジェリー・エンはゼンディカーのマーフォーク界隈では最高の力を持つとされる。
三俣槍の達人であり、波使いでもあり、潜水技術は世界最高峰だという。
普段は遺跡の調査任務を行っているが、リヴァイアサンや海蛇のハンターとしても実績がある。
ジェリーはゼンディカーを篤く思う同盟者であり、ゼンディカーのためにとボランティアとして部隊に参加していた。
ジェリーはゼンディカーを愛する身ゆえに、ゼンディカーの荒くれ者として知られるキオーラのことは良く思っていなかった。
キオーラは順に戦力を見て回ると、彼らの前に位置した。
これから作戦内容を伝えようとした矢先、ジェリーがキオーラのそばにやってきた。
「キオーラさん」
「なにあんた? 勝手な行動してんじゃないわよ。私が隊長よ。下がりなさいよ」
「なぜあなたが隊長なのでしょうか。納得いきません」
ジェリーははっきり堂々とキオーラに言った。
「は? 何が言いたいわけ?」
「これはゼンディカーの存亡をかけた大切な任務です。あなたのような己の利益のために故郷を犠牲にする人に任せていいのでしょうか」
「これは私が受けた任務なんだけど。嫌だったら抜けて、勝手に一人でやってなさいよ」
「言いますね。何かたくらんでいるのでしょう? コジレックを都に向けさせて破壊しようとしている。違いますか?」
「バカじゃないの、あんた。そんなことして私に何のメリットがあるわけ」
「ともかく、いくら実力があるからと道徳心に欠ける人に隊長を任せるわけにはいきません。みなさんも声を上げるべきです。これはゼンディカーの存亡がかかっているのですよ」
ジェリーがそう言うと、主にノヤンダールから派遣されたマーフォークらが顔を見合わせた。
「たしかに、キオーラは一番の実力者だ。しかし、過去にはとんでもないことをしでかしているしな」
「ノヤンダール様の命令だから仕方ないけど、キオーラに従うのは気が引ける」
マーフォークらの多くがキオーラに不信感を持っていた。金さえもらえればそれでいい傭兵だけはそこでジッと待っていた。
「ったく、わかったわよ。なら、私に従いたくないやつはこの魚についていきなさいよ」
キオーラはそう言って、ジェリーにジトッとした目を向けた。
「それでいいわね?」
「……わかりました。それがいいと思います。キオーラさんが何かをしでかすかもしれないので監視役もかねてそうしましょう」
ジェリーはキオーラの提案を呑んだ。
「なら、私についてくるやつだけ集合」
キオーラのもとに残ったのは15名だけだった。
銀エラの達人4人、波使い4人、真珠三俣槍の達人7人。
数は少ないが、戦力は十分だった。
◇◇◇
ノヤンダールの調査によって、コジレックの位置はわかっていた。
キオーラ一行はコジレックの位置に向けて進んだ。
キオーラが信頼している銀エラの達人は海の中のあらゆるものの察知能力に長けているので、キオーラより少し前に出て泳いだ。
ジェリーの部隊はキオーラを見張るように後ろをついてきていた。
銀エラが立ち止まった。
「キオーラ、この先から、海蛇や巨大タコが一目散に逃げてきている。何か恐ろしい力に追われて逃げてきているものと思われる」
「海蛇よりでかいやつなんて、そんなのエルドラージぐらいだものね。それか私のペット」
おそらく、この先にコジレックがいる。
そのコジレックをバーラゲドに誘導するのが、キオーラに託された任務だった。
「どうする、キオーラ? ロートスで縛り付けるのか?」
「そう都合よくいけばいいけど、まあでもとりあえず、ペットをぶつけてみるか」
キオーラがそう言うと、一行から距離を取って浮上した。
そして、タッサの三俣槍を振りかざした。
タッサはさまざまなビヒモスを召喚することができる。これまでに従えてきた怪物はたくさんいるが、その中でも最高峰は巨大タコ「ロートス」だった。
ロートスは大陸を呑み込むことができるほどの巨大タコである。
ただのタコではない。乱動の力による突発的なDNA突然変異によって、さらに怪物化が進行した恐るべきタコだ。
ロートスはかつて、そのパワーでマーフォークの都を襲撃している。
あまりに恐ろしい事件として知られ、犠牲者は7000人を超えたと言われている。都も壊滅的な被害を受けた。
歴史では、キオーラがロートスを召喚して、都を襲わせたということになっている。
動機は、自分の会社のライバルを一掃するためとされている。
キオーラはそれについて肯定も否定もしなかったから、歴史が独り歩きした。
キオーラがロートスに襲わせたという証拠はどこにもなかった。
だが、歴史が独り歩きするには理由がある。
たしかに、キオーラはロートスを召喚する力を持っていたから。
キオーラの周りに、とてつもなく巨大な生物が姿を現した。
あまりに巨大なため、キオーラの姿が見えなくなった。
「ロートスだ」
マーフォークらが見上げたその先に、強大な力、ロートスがそびえた。
ロートスは巨大な足をグルグルと回転させた。
その影響で、海の中に暴風が吹き荒れた。
離れていても、渦潮に巻き込まれそうになるほど強い力だった。
ジェリーもロートスを見上げた。
「あんな怪物を操るなんて……なんて力なの」
ジェリーはロートスを見て、思わず体を震わせた。あんな怪物に襲われたら、なすすべがないと思った。
だが、その力を悪しきに使ったキオーラへの嫌悪感はさらに高まった。
「あんな怪物に都を襲わせたなんてやはり、悪魔だわ」
ジェリーはロートス以上に、悪魔的なキオーラの心におののいた。
ロートスはキオーラに忠誠を誓っているので、キオーラの命令には絶対に服従する。
己を超える強き者に従う。これは海の怪物の鉄則だ。ロートスはたしかにキオーラを己より強いと認識していた。
ロートスの目が鋭く光った。
キオーラはロートスの目の前でタッサの三俣槍を前に向けた。
「この先になんか危ないのがいると思うけど、頑張って」
キオーラが命じると、ロートスはその命令に従い、前身し始めた。
圧倒的な存在感とパワー。ロートスは誰にも負けないだろうと、誰しもが思いながら、それを見送った。
しかし、キオーラはコジレックはロートスを上回ると想定していたから、一行を呼び出した。
「行くわよ、援護射撃に」
キオーラはコジレックを動かすためには、自らの手を使う必要があると考えていた。