マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER   作:やまもとやま

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21、コジレック

 コジレックはバーラゲドの南の海底に身を潜めて、あちこちにエルドラージのドローンを展開していた。

 エルドラージはシンプルな思想と複雑な行動規範で成り立つ。

 エルドラージの目的は「万物を破滅させること」という無差別かつシンプルな思想で生きているが、万物を壊滅させるために、非常に複雑な行動を行う。

 

 コジレックはゼンディカーからの報復を回避するために、海底に身を隠し、そして、ドローンを生み出し、ゼンディカーの情報を獲得しようとした。

 コジレックがそう考えたというより、万物を破滅させるという命令に対して、合理的に応答していると言った方が正しいかもしれない。

 

 コジレックは最も安全な場所が海底であると理解し、海底に身を潜めた。結果、人間、天使、吸血鬼、エルフ、ゴブリン、ドラゴン、エレメンタルなどなど、非常に多くの天敵から狙われなくなった。

 しかし、コジレックにとっての誤算は、海底にマーフォークが住んでいること……いや、コジレックにとってマーフォークは取るに足らない存在かもしれない。

 

 言い直すならば、コジレックにとっての誤算は、封印を解かれたこの時代に、キオーラがいたことだった。

 

 コジレックは非常に強力な力が迫ってきていることを察知し、ぴくりとも動かさなかったその体を起動した。

 目の前に現れたのは巨大なタコ。自分の体より大きい生き物を見るのは、数々の世界を破滅させてきたエルドラージにとっても珍しいことだったかもしれない。

 

 ロートスは巨大タコに乱動の力が介在し、DNAの突然変異を起こして生まれたものと推測されている。この説はとあるマーフォークの賢者によって推測されている。

 そのため、ロートスを超える海の凶悪生物が今後も誕生するおそれは十分にあると考えられている。

 

 ロートスは観測史上、最強の海の暴君である。

 一昔前は、マーフォークらにとっての最悪の天敵だったが、いまはコジレックを倒すための救世主でもあった。

 

 ロートスが暴君から救世主になった背景には、キオーラの活躍があったのだが、その活躍は歴史には受け継がれなかった。

 歴史には、キオーラがロートスを操って都を滅ぼしたという誤情報が載せられていた。

 

 ロートスはコジレックを捉えると、タコ足を伸ばした。

 海の中の静かな激突が生じた。

 

 音のない海底だったが、その激突はすさまじいエネルギーを生んだ。

 周囲に大きな渦を巻き起こした。

 

 ロートスのタコ足は鋼鉄の塔をへし折る力がある。それ以上の説明は不要なパワーである。

 ロートスのタコ足はコジレックに巻き付き、そのまま強烈に締め上げた。

 

 鋼鉄がへし折れるならば、コジレックもまた引きちぎられるはずだった。

 だが……。

 

 コジレックの体はまったく変形しなかった。

 それどころか、コジレックは両腕でタコ足を握り締め、逆にタコ足を引きちぎってしまった。

 

 規格外のコジレックの握力だった。

 決して傷つけることができないとされたロートスのタコ足が引きちぎられた。

 

 しかし、ロートスはひるむことなく、二の手を展開、さらにコジレックを締め上げた。

 賢いロートスは引きちぎることができないとわかると、コジレックを振り回し、海底の岩場に叩きつけた。

 

 コジレックの肉体が叩きつけられ、海底の岩場が砕け散った。

 大型生物の壮絶な格闘戦に、小さなマーフォークは近づくこともできない。

 

 マーフォークは近くに生じた渦に巻き込まれないようにするだけで精一杯だった。

 

「ダメだ、これ以上近づくのは無理だ」

 

 キオーラに協力していた銀エラの達人は足を止めた。まだコジレックまでは距離がある。だが、ここから先は進めなかった。

 

「あんたたちはここで待機。ちょっと様子を見てくるわ」

「大丈夫なのか、キオーラ?」

「ここで逃げだしたら、タッサに笑われるものね」

 

 キオーラは危険が漂う渦の先に果敢に向かっていった。マーフォーク風情ではこの先へ進むのは不可能。しかし、キオーラだけは例外だった。

 キオーラが向かうと、付き添いにできることはキオーラの無事を祈ることだけだった。

 

 やや遅れて、キオーラの後ろを追いかけていたジェリーが率いる部隊も到達した。

 キオーラの仲間たちの姿はあったが、キオーラの姿が見えなかった。そして、その先からは強烈な水圧を感じた。

 

「キオーラさんは?」

 

 ジェリーがキオーラの仲間の一人に尋ねた。

 

「この先に向かった。我々ではとても先に進めないので、キオーラの無事を祈ることしかできん」

「この先に向かった?」

 

 ジェリーはキオーラが進んでいった先に目を向けた。

 目の前に、それなりの大きさの海蛇が渦に巻き込まれて、溺れているのが見えた。

 海に生きる生物が溺れるほど、その先は危険な場所になっていた。

 この先を進むには、命を賭ける必要がある。

 

 ジェリーはキオーラの行動をいぶかった。

 自分の利益のために、ロートスに都を襲わせたキオーラが命をかけてこの先に進むわけがないと考えた。

 

「キオーラさんがこの先に向かったなんて信じられないわ。どうせ、安全なところに逃げ出したに違いないわ」

「それはない」

 

 キオーラの仲間の銀エラが断言した。

 

「キオーラは引き受けた仕事を遂行するためなら、いつだって命をかけてきた。他の仕事仲間が全員逃げ出しても、キオーラは最後まで任務を遂行する」

「……」

 

 ジェリーは仲間の話を半分に聞いていた。

 しかし、もしキオーラがこの先に向かった可能性があるのだとすれば、自分がここにとどまるわけにはいかないと思った。

 ボランティアとはいえ、ジェリーもゼンディカーを守るためにここにやってきた。逃げるわけにはいかなかった。

 

「私が真実を確かめて来ましょう」

 

 ジェリーは三俣槍を構え直して、前に出た。

 

「待て、お前の潜水の腕は聞いているが、無謀だ。キオーラの帰りをここで待つべきだ」

 

 キオーラの仲間はそう言ってジェリーを止めようとした。しかし、引き下がれなかった。どこかでキオーラを意識していた。

 

「ご心配には及びません。これまで、この程度の渦ぐらいはいくらでも突破してきました。私にも7つの乱動の海を渡って来たプライドがあります。キオーラさんだけには任せられませんので」

「そうか……しかし、無理はするなよ」

 

 ジェリーはキオーラに抵抗する思いで渦の先へと進んでいった。

 

 ◇◇◇

 

 コジレックはロートスの攻撃を繰り返し受け、乱動に裏打ちされた水圧の一撃にもさらされた。しかし、コジレックにはダメージが見えなかった。

 逆にロートスのほうが疲弊してきて、そこを着け狙うように、コジレックの反撃が始まった。

 

 コジレックのハンマーのような腕が振り落とされた。

 海の中で威力が軽減されているはずだが、その一撃はロートスを海底に叩き伏せるだけのものとなった。

 

 巨大生物の頂上決戦は、コジレックに軍配が上がりつつあった。しかし、ロートスも決死の抵抗でコジレックに再度タコ足でからみついた。

 

 巨大生物たちの神聖なる土俵には誰も入り込めないが、例外的にキオーラだけはその中に入り込み、ついにコジレックをその視界に収めた。

 

 大きい。

 

 しかし、コジレックにとってその形容詞は似合わなかった。

 キオーラが最初に感じた形容詞は「怖い」だった。

 

 コジレックの視線はロートスからキオーラに移った。

 

 コジレックの視線。

 キオーラは視線が胸に突き刺さってくる感覚にさらされた。

 尋常ではない特別な力を感じた。

 

 コジレックは標的をローロスからキオーラに変更していた。言い換えれば、ロートスを超える天敵の接近を予感したということでもあった。

 

「あれがエルドラージ? あきれた。即時撤退ものだわ、こんなの」

 

 キオーラは一目見て、コジレックには敵わないとわかった。

 キオーラは最初、この任務をオーバーキルにて終わらせようと予定していた。

 

 エメリアの天使から授かった今回の任務は、コジレックをバーラゲドの内陸へ誘導すること。

 しかし、キオーラは誘導する前に、コジレックを倒してしまおうと考えていた。

 

 その考えは甘かった。

 

 倒すどころか、バーラゲドに誘導できるかも怪しくなった。

 

 キオーラは視線を落として、ぐったりと水底にたたずむロートスを見つめた。

 コジレックはキオーラが命をかけて手懐けたロートスを楽々と瀕死状態に追い込んでいた。

 

 その力はけた違いだった。

 キオーラはこのまま撤退することも視野に入れた。撤退できれば幸運とも考えた。無事、コジレックの影響下から抜け出せるかの戦いだった。

 

 そんなキオーラのもとにジェリーが追いついてきた。

 この乱動が介在する渦の中をかいくぐってきたジェリーの遊泳能力は本物だった。

 

 だが、ジェリーもコジレックを視界に入れたとき、第一に「恐怖」の感情を覚えた。

 

「あ、あれがコジレック……」

 

 ジェリーは生まれて以来、最も恐ろしいものをそこに見た。

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