マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER 作:やまもとやま
コジレックと対峙したイオナはエメリアよりもたらされた光をその一身に集めた。
「大いなる創造主、コジレックよ。そなたはゼンディカーに荒廃を創造する使命のもと、生み出されたのであろう。その使命をまっとうする身、そなたに罪はなかろう」
イオナはコジレックに話しかけた。その話が通じているかはわからなかったが、コジレックはイオナにエルドラージの目を向けていた。
「そなたが荒廃の使命を持つように私もまたゼンディカーの繁栄を守る使命を託され、エメリアの空に導かれた身」
イオナとコジレックは同じ存在だった。
繁栄を守るために生まれたイオナと荒廃を創造するために生まれたコジレック。
正義は何人かによってエゴイズムでしかない。
エルドラージの正義もイオナの正義もそういう意味ではまったく同じ性質のものであった。
しかし、生きとし生ける者たちの多くが光のエゴイズムに同調した。
人間も、天使も、コーも、マーフォークも荒廃を望まなかった。
イオナは彼らの思いを託された身。
その思いに応え、コジレックを封印することがイオナの役目だった。
「エメリアの光のもとにそなたを新しい世界に導こう」
イオナの右手に光が握られた。
天使は白マナの支配者である。この光は神聖なる魔力そのものだった。
ここゼンディカーではその神聖の魔力もすべて自然より生み出されたもの。天空の世界エメリアより降り注いだ力だった。
イオナの光の剣が空を切り裂いた。
イオナの急降下は残像を残すように速く、コジレックが構えるよりもさらに速く、それを切り裂いた。
遠巻きに見ていたリンヴァーラのもとにもまばゆい光が届いた。
「やりました。イオナ様のお裁きを受けたからには、どんなやつでも一撃でノックアウトなのよ」
リンヴァーラの後ろに控えていた天使がそう言って喜んだ。
イオナの力は同じエメリアの天使たちが一番良く知っている。
イオナの剣を受けて平然としている者はこれまでかつていなかった。
かつて、エメリアを侵そうとやってきた「侵略するもの、オブ・ニクシリス」もまたイオナの裁きによって抹消された。
イオナの剣の一撃でニクシリスは闇の力をすべて失った。その後、ニクシリスはかろうじて残した最後の力で別の世界に逃げ込んだようだが、イオナは世界中で恐れられていたニクシリスをも追放する力を持っていた。
リンヴァーラの部下たちはイオナの力を頼もしく見ていた。
「えっへん。見たか、エルドラージめ。最初からイオナ様に任せておけば良かったのですよ。これでめでたしめでたしですよ」
リンヴァーラの部下たちはすでに勝利宣言をしていたが、リンヴァーラは深刻な目つきで光に包まれていたコジレックを見ていた。
イオナの魔力を受けたコジレックはその体が砕け散り始めた。
イオナの神聖魔力はあらゆる魔力を解体する力がある。
イオナはかつてダークスティールから持ち込まれた破壊不能の鉄をも追放した実績がある。イオナに消し去ることのできない力などなかった。
しかし、それが幻想であることを思い知らされることになる。
エルドラージの力は「無」の力である。エルドラージの力が無に帰したとしても、エルドラージの本質はまったく失われない。
砕け散ったコジレックの体は無の力によって再生し始めた。
コジレックは再び、その大地に何事もなかったかのように現れた。
「ひえええええ、あいつ復活しやがったですよ。ちょん切ってもねじ切っても再生するリバーボアみたいなやつですよ」
リンヴァーラの部下が面白い言い回しをした。
コジレックはイオナに向けて手を伸ばした。
コジレックがイオナに無の魔力をしみこませた。
――イオナよ、貴様の力は荒廃以外の何物でもないものだ。そんなものは私が消し去ってくれよう。
コジレックの意思がイオナのもとに入り込んできた。
直後、イオナの体にエルドラージの虚空魔力が襲い掛かった。
黒マナでも赤マナでもない虚空の力はイオナのいずれの魔力でも防ぐことができなかった。
イオナは何とかコジレックの力の影響から逃れたが、その大天使の羽は十分に機能しなくなった。
――見えるだろう。虚空の杯は満たされた。すべては無に帰すのみだ。
コジレックの攻撃により、イオナの神聖魔力がすべて虚空へとかき消されてしまった。
「ひゃああああ、イオナ様がぁ、リンヴァーラ様、どーしましょー、どーしましょー」
「あなたたちはここで待っているのです、いいですね?」
リンヴァーラは翼を力強く広げた。
「どうするんですか、リンヴァーラ様。危険ですよ」
リンヴァーラはイオナを助けるためにコジレックに近づいていった。
リンヴァーラにも強い神聖魔力が秘められている。
リンヴァーラはエメリアの光を解放させると、光の弓を作り上げた。
リンヴァーラは光の矢を解き放った。
矢はコジレックに突き刺さり、コジレックを包み込んだ。
コジレックはリンヴァーラのほうに目を向けた。
――愚かな天使たちよ。我が力がゼンディカーの安寧そのものであることも知らずに。
コジレックの意思がリンヴァーラの中に入り込んできた。
「バーラゲドを荒廃させたあなたが安寧の象徴だというのですか?」
――我らがいない間に、汚れたゼンディカーの大地に安寧を創造したのだ。その理解ができないお前たちはゼンディカーの腐敗そのものに他ならない。
「いいえ、あなたたちが荒廃させた大地に立った人々の結束が今日の安寧を作り上げたのです」
「そーだそーだ、リンヴァーラ様の言う通りなのですよ」
部下の天使もリンヴァーラの力を盾にするように近づいてきた。
――その結束が争い、ついては汚れを創造したことも知らずに、愚かな。
コジレックの意思はすべての天使たちの中に入り込んできた。
「こいつ、ニクシリスみたいなこと言ってますよ。醜い格好したやつはどうしてこうひねくれた思想を持つのでしょうかね、困ったものです。協調性のないやつは排除するべきです」
「そうだそうだ。邪教徒は皆殺し追放してやるのです」
部下の天使はリンヴァーラの背中から言いたいことを言いまくった。
――協調性……そんなものは為政者の支配魔法に他ならない。安心するがいい。そのような暗黒は我がすべて消し去ってやろう。
コジレックはリンヴァーラにも虚空の魔力を飛ばしてきた。
「あなたたち、逃げなさい」
「リンヴァーラ様を放ってはいけません。今こそ私が頑張らせていただきます」
天使の一人がリンヴァーラの前に出て構えた。
「エメリアの盾です。えいや!」
リンヴァーラの天使はいずれも本来は粛清されるべき能力に乏しい天使たちである。
しかし、それゆえに特別な力を持っていたようであった。
天使の張り巡らせた盾はコジレックの攻撃を跳ね返していた。
イオナの光でも打ち勝つことのできなかった虚空の魔力が消え去った。
「やりました。これぞ私の灰色のプロテクションです」
「よくやりました」
「えっへん。ようやくリンヴァーラ様のお役に立てて光栄でございます」
――エメリアの天使にあるまじき濁った魔力。このような天使が生存を許されていたとは、想定外。
エルドラージは色あるものを消し去る使命により生み出された。白マナの権化である天使の消滅が想定されていたが、リンヴァーラの部下はその白マナに濁りがあったためか、エルドラージの攻撃には一部有効性があった。
「リンヴァーラ様が助けて下さったのです。わかったですか、愛は勝つのです。このままお前をなぎ倒してやるのです」
部下の天使は濁った光の剣を構えてコジレックの腕を切り刻んだ。
「やりました。」
コジレックの右手が解体されていった。
しかし、それは時間稼ぎに過ぎなかった。コジレックの力は虚空から何度でもよみがえってきた。
「このリバーボア、キリがないのですよ」
その間に、リンヴァーラはイオナを保護した。
「イオナ様、大丈夫ですか?」
「エルドラージを倒す方法はない。面晶体に未来永劫封じ込める以外に方法はない」
イオナは力を消耗していたが、コジレックを封印するその強い意志は決して揺らがなかった。
「どうやって封じ込めれば……あの子たちが敵う相手ではないですし」
「もう少し……大きな力が必要か……しかし、ドラーナはあてにならない」
「いったいどうすれば?」
エメリアの天使を総動員しても、コジレックを押さえ込んで面晶体に封じ込めることはできそうもなかった。
――案ずるな。すべてを消し去り、私も消えよう。さすれば死の恐れもすべて無に帰す。
コジレックは荒廃の使命のもと、ゼンディカーのすべての面晶体を破壊するためにバーラゲドに上陸した。