マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER 作:やまもとやま
「リンヴァーラ様、早く早く。早くしないとやばいのですよ」
エメリアの下級天使がエメリアにやってくると、リンヴァーラの手を引っ張りバーラゲドへと降りて行った。
エメリアの天使たちはゼンディカーの秩序と平和を保つため日々熱心に活動していた。
ゼンディカーは乱動の支配する危険な世界。それだけに、そこに住む人々も闘争心に長けている。
グールドラズの吸血鬼、タジームの人間やコー、バーラゲドのエルフ、そしてエメリアの天使。
多様な民族がそれぞれの大陸や聖域を支配している。
彼らは協力関係を拒み、顕著に対立関係を築いていた。
エメリアの天使は彼らの対立を仲介して、それぞれの一族が協力関係を築けるように頑張っていた。
タジームの人間たちと力を合わせて「同盟者」を集わせ、ゼンディカーを一体感ある世界にしようと試みていたが、その道はまだ道中だった。
エメリアの下級天使はそれぞれ上級天使に仕えている。
エメリアの天使には4つの階級があり、熾天使イオナを筆頭に、智天使リンヴァーラなどさまざまな上級天使がゼンディカーの安定のための任務をこなしていた。
リンヴァーラはバーラゲドの面晶体の管理や見守り、エルフたちの争いの仲介などを担っていた。
バーラゲドには、大いなるエレメンタルが多数いて、バーラゲドのエルフたちから信仰される「アシャヤ」とも対等に対話できるのがリンヴァーラだった。
リンヴァーラはゼンディカーに存在するすべての言語を操ることができるため、彼女の力はゼンディカーになくてはならないものだった。
リンヴァーラの元には6人の下級天使がいて、まだ未熟な天使も少なくなかった。
そんな未熟な天使に連れられて、バーラゲドの上空へと降りて来た。
「リンヴァーラ様、ご覧の通り、面晶体が粉々のめっちゃんこになってしまったのですよ」
「大変、なんということでしょう」
リンヴァーラはコジレックを封印したバーラゲドの面晶体がすべて破壊されているのを見て愕然とした。
あってはならないことが起きてしまった。
「きっと野蛮なエルフどもが禁を破って面晶体を砕いてしまったのですよ。許せないエルフどもです。とっ捕まえてエメリアの粛清の刑に処する必要があります」
「ともかくイオナ様にお伝えしなければ」
「ううぅ、きっとイオナ様は激昂して、イオナ様の怒りがさく裂するですよ。でも、これはエルフどもの仕業。きちんとお伝えすれば、イオナ様もわかってくださるはず。うん、というわけで、わたくしが土下座をして、きちんとエルフのせいだったと弁明します、ご安心を、リンヴァーラ様」
頼りなさそうな下級天使は面晶体が破壊された事実をイオナに知らせるために、再びエメリアへと戻っていった。エメリアははるか上空に存在するので、そこまで飛んでいくのは天使といえども重労働だった。
残った下級天使たちも頼りなさそうなメンツだった。
「リンヴァーラ様、どうします? ちょっと降りて確かめてみましょうか。い、いえ、でもコジレックに捕まったら、こ、殺されてしまうかも。こ、怖いです」
「確かめてみましょう」
リンヴァーラはおびえることなく、4枚の翼をはためかせて面晶体の跡地に降り立った。
面晶体は粉々に砕かれてあちこちに散らばっていた。
前を見ると、バーラゲドの森林が腐敗して荒野化している部分があった。
リンヴァーラに続いて、下級天使たちが降りてきました。
「リンヴァーラ様、コジレックは解放されてしまったのでしょうか?」
「見てください、森が腐敗しています。おそらくそこを通ってコジレックが移動したのでしょう」
バーラゲドの森林に腐敗した荒野が道のように続いていた。それはコジレックがそこを通過したことを証明していた。
コジレックはあらゆる自然を荒野に変える力があることが言い伝えられている。面晶体に封じられていたコジレックがバーラゲドの大地に解放されてしまったことは間違いなかった。
「どうしましょう? コジレックを追いかけるのですか?」
「私たちだけで動くのは危険です。イオナ様の命令を待ったほうがいいでしょう」
リンヴァーラ一行はイオナがやってくるのを待った。
イオナはすぐにやってきた。
「リンヴァーラ様、イオナ様をお連れしました」
イオナはエメリアの天使のすべてを束ねる、ゼンディカーで最も偉大な存在の一人である。
天使はゼンディカーを創造した神から創造されると言われている。エメリアの天上は神の光で満たされていて、そこから天使は産まれる。
その中で4枚の翼を持つ天使は上級天使としての身分が与えられる。
翼を4枚持つ天使はいずれも強大な神聖魔力を備えていて、リンヴァーラやイオナがその4枚の翼を持つ上級天使だった。
上級天使の中でも、さらに階級が分かれ、イオナはすべての天使の中で最高の力を持っていた。
イオナはリンヴァーラと同じく、下級天使とは違う神々しいオーラを放っていた。
リンヴァーラのような優しさはなく、凛々しい姿だった。
イオナはバーラゲドの大地に降り立つと、砕け散った面晶体を見つめた。
「イオナ様、申し訳ありませんでした。私の管理が不十分だったゆえにこのようなことになってしまいました」
リンヴァーラはイオナのもとに降り立つとイオナのもとにひざまずいた。
「イオナ様、お伝えしましたとおり、リンヴァーラ様の責任ではないのですよ。野蛮なエルフどもが禁を破ってぶっ壊したのです。ですから、お咎めはお許しくださいませ」
リンヴァーラの部下の天使はそのように懇願した。この部下は産まれたときから、天使の風格に乏しかった。見るからに美しさはなく、小動物のようなかわいらしさが際立っていた。
背も低く羽も小さく、他の天使からは出来損ないと言われ、一時は処刑の対象だった。
エメリアの天使は厳格だ。無能な天使は消されるのが当たり前という厳しい世界である。
しかし、エメリアの天使としては異端なほど優しい心を持って産まれたリンヴァーラはその下級天使の処刑を止め、自分の配下にした。
リンヴァーラは天使とは思えないほど博愛的で、次々と無能な天使を助けたため、リンヴァーラの部下は頼りのない天使ばかりになってしまった。
「私は強い使命感を持ってリンヴァーラに面晶体の管理を命じたのだ。それを遂行できなかったリンヴァーラには厳正な裁きを与えなければならない」
「そこを何とかお許しください。リンヴァーラ様は美しく優しい心を持っておられるのです。わたくしを助けていただいたように」
下級天使はイオナにすがりつくように、お願いした。
イオナは旧来の天使たちに代わってエメリアの最上位の天使として君臨しているが、リンヴァーラに似ていて非情になり切れないところがあった。
本来なら、エメリアの秩序の示すとおり、リンヴァーラに裁きを与えることになるが、イオナはそのための剣を引き抜かなかった。
「ここで裁きを与えても問題は解決しない。相手はエルドラージの智将コジレックだ。再度やつを封印するためにはリンヴァーラの力が必要になる」
「そのとおりでございます。リンヴァーラ様、良かったですね。翼を失わずに済みました」
「勘違いするな。命に換えてもコジレックを封印する使命を与えただけだ」
「はい、その使命この命に換えても成し遂げてみせます」
リンヴァーラは立ち上がった。
「イオナ様、私いつも気になっていたのですが、こんなところに封印せずに、みんなで力を合わせてコジレックを倒してしまえばいいのですよ。そうすれば、面晶体を見張ってなくてもいいじゃないですか?」
下級天使がイオナに尋ねた。この下級天使は階級が上の天使にも平気で色々な質問をぶつけた。ある意味で肝の据わった天使だった。
「コジレックには命という概念がない。倒すことはできない」
「そんなやばいやつなのですか?」
「その動きを封じることでしか、やつの脅威を止める手立てはないんだ」
コジレックをはじめとするエルドラージの討伐は、古くからゼンディカーの課題だった。
古来より、エメリアの天使は何度もエルドラージに戦いを挑んだ。
ゼンディカーにあるさまざまな神やエレメンタルと供託してエムラクールに挑んだが、すべての力が通じなかった。
エメリアの光は通じず、バーラゲドの新緑の乱動は通じなかった。
他の次元から力を借りることもあった。だが、エムラクールを止めることはできなかった。
しかし、唯一、エムラクールを止める手があった。
それはドミナリアにある「カラカスの地の魔力」を用いることだった。
カラカスの地の魔力は大いなる者の力を封じる力があった。その魔力を使った面晶体で半永久的にエムラクールをはじめとするエルドラージを封印した。
それからというもの、面晶体を守るのがエメリアの役目となった。
「ではどうするのです?」
下級天使が尋ねた。
「リンヴァーラ、お前たちはコジレックの動きを探れ。おそらくやつは海底に身を隠したはずだ」
「海底? 最悪じゃないですか、天使はみなかなずちなのですよ」
「リンヴァーラ、キオーラを探せ。あいつは気まぐれなやつだが、海底を探るためにはやつの力が必要になる」
「わかりました」
「またあの魚の力を借りるですか? あいつ私嫌いなのですよ」
下級天使はキオーラを毛嫌いするように言った。
「私はナヒリに面晶体の復元を依頼してくる。それまでにコジレックの動きを探るんだ。わかったな?」
「わかりました」
リンヴァーラはイオナからキオーラを探す命令を授かった。