マジック・ザ・ギャザリング ライトノベルVER 作:やまもとやま
チャンドラはカラデシュ出身の紅蓮術師である。
カラデシュで有名なナラー一家の一人娘として生を受けた。
父親のキラン・ナラーはカラデシュ最大のアーティファクト連合である精緻会のトップであり、これまでにさまざまなアーティファクトを世に送り出してきた。
有名な作品に、超高度圏である霊気圏を渡れる「霊気圏の収集艇」やあらゆるものを転写する「パンハモニコン」などがある。
母親のピア・ナラーも精緻会の組合員であり、チャンドラは一流の工匠一家のもとに生まれた。
ならば、チャンドラも工匠になるべくアーティファクト開発の才能を発揮するのかと思いきや、工匠一家生まれとは思えないほど手先が不器用で、アーティファクト制作にはまったく心得を示さなかった。
そんなチャンドラだったが、紅蓮術で高い才能を発揮する。誰よりも強い炎を生み出すことができ、カラデシュの紅蓮術師養成所を抱える「競烏会」で、紅蓮術を学ぶようになった。
競烏会はもともと、飛行機械の操縦士を育成する場であり、紅蓮術は専門ではない。
競烏会のエースであったデパラが、このままではチャンドラの才能を十分に開花させることができないと考え、友人のヤヤ・バラードにチャンドラを紹介した。
ヤヤ・バラードはドミナリアを代表する紅蓮術師であり、たびたびカラデシュへとやってきていた。
ヤヤはチャンドラの優れた才能を認め、弟子として迎え入れることを決めた。
チャンドラは優れた紅蓮術師になるために、ヤヤと共にドミナリアに渡り、トレイリアのアカデミーの紅蓮術プログラムに所属して、紅蓮術を学ぶようになった。
チャンドラは家族思いであったため、ドミナリアで学ぶ傍ら、定期的にカラデシュの実家に顔を出していた。
だが、カラデシュの領事府が「ドミナリアとの次元渡航を完全に禁止する」と発表し、カラデシュとドミナリアの次元口は完全に封鎖され、チャンドラはカラデシュに戻ることができなくなった。
領事府はカラデシュの独裁政府であり、もともとはファイレクシアの支配者であるヨーグモスが支援していた。
ヨーグモスはカラデシュの霊気に目をつけ、その力を利用するため、カラデシュの著名な工匠であるバラルと画策した。
ヨーグモスの積極的な軍事支援を受けたバラルはカラデシュを支配し、領事府はカラデシュの独裁政府として興った。
ドミナリアがファイレクシアと対立関係にあることから、領事府の長であるバラルはドミナリアとの交流をすべて封じ込めてしまった。
もともと、カラデシュの著名な霊気拠点であるラスヌーやピーマをはじめとし、さまざまな地域がドミナリアとは有効な関係を築いていたが、バラルの鶴の一声でそれらをすべて封じ込めた。
このバラルの横暴に腹を立てた者たちが「改革派」を結成し、領事府に抵抗する姿勢を示すようになった。
その改革派の長についたのがチャンドラの父親であるキランだった。
しかし、キランが領事府にたてついたのは、単に領事府の横暴を阻止するためだけではない。愛する娘ともう一度会いたいという思いがあった。
そんないきさつで、カラデシュは改革派と領事府の対立が激化していた。
チャンドラはドミナリアにやってきたカラデシュからの不正渡来人らからの情報で、カラデシュが激しい内戦状態にあることを知り、何とかカラデシュに戻ろうとした。
父親が改革派の長ということで、父親が心配だった。だが、カラデシュとドミナリアをつなぐ正規の次元口は封鎖されている。
そこで、チャンドラは不正なプレインズウォークでカラデシュに戻ろうとした。
一般に、次元を渡るためには、パスポートが必要であり、しかも正規の次元口を利用しなければ安全に次元を渡ることができない。
しかし、正規のルートが使えないなら、危険でも不正なルートをたどるしかない。
チャンドラは懇意にしていた時空魔道士のテフェリーらの力を借りて、カラデシュに通じる次元口をこじ開けて、そこからカラデシュに跳躍した。
しかし、その跳躍は失敗。
チャンドラはゼンディカーの大地へと落ちることになってしまった。
とはいえ、不幸中の幸い。普通なら生きては出られず、永久に次元の狭間に閉じ込められるところを、運よくゼンディカーに降り立つことができた。
「ほう、それは災難であったな。さぞ、両親のことが心配であろう」
チャンドラからいきさつを聞いたオムナスがそう答えた。
「そうなんだよ。だから早くカラデシュに戻らないといけないんだよ」
チャンドラはそう言って困った表情を浮かべた。領事府と改革派の戦争が今も続いているとすれば、両親の安否が心配される。
「チャンドラよ、おぬしは幸運である。乱動の座、オムナスに出会えたのだからな。我の魔力があれば、カラデシュへの道を開いてやることも可能だ」
「本当? でも、見た感じ、オムナスは頼りなさそうだけど?」
オムナスは緑色の真ん丸なエレメンタルだった。しゃべり方こそ威厳はあるが、どこかの子猫と変わらない風格だった。
「これは我の真の姿ではない。我の本質である乱動の力はとある者に奪われてしまったのだ。我の真の姿はそれは神々しいものである」
オムナスはそう言った。
「誰に奪われたの?」
「コジレックだ」
「コジレック……どこかで聞いたことあるような。たしか師匠が言ってたけど、なんだったかな」
「コジレックはバーラ・ゲドに封印されたエルドラージだ。エルドラージは知っているか?」
「知ってる。アカデミーで習ったよ。すごく大きな巨人の化け物でしょ」
「うむ、その認識で間違いない。エルドラージはゼンディカーの乱動と拮抗する無の力が具現化した者だ。我と同じエレメンタルの一種と言った方が正確だ」
「そのコジレックとかいう人が力を奪ってっちゃったの?」
「いや、正確には、コジレックを封印するときに、我の乱動の力を譲ったのだ。かれこれ100年以上前のことになるな」
「じゃあ、オムナスは100年以上も生きてるおじいちゃんだったの?」
チャンドラは驚いた。エレメンタルなんて、短い者なら数時間で消えてなくなってしまう。エレメンタルは元来、短命な魔力体である。
ドミナリアには、新緑の魔力などかなり長く生きる者もいるが、100年ともなると、ドミナリアの常識では考えられなかった。
「100年どころではない。我はゼンディカーの大地が現れたときから存在する。乱動の力がこの世に生まれたそのときから、我はゼンディカーの大地に生きている」
「そんなに長生きしたら、人生嫌になっちゃわないの?」
チャンドラは人間の感覚でそう尋ねた。
「エレメンタルと人間では時の流れの感覚も異なる。それに、我の意識は乱動の魔力の気まぐれで変わる。我のこの意識が何代目かは見当もつかない」
エレメンタルは魔力の集合体。その魔力の流れが変われば、当然心も変わる。オムナスはその中でも、長く意識を保って生きていた。
「我の本質である乱動の魔力が戻れば、おぬしの力にもなってやれるのだが、このとおり、いまの我は無力。かつて、我はこの森に住むエルフから信仰されたものだったが、いまとなっては忘れ去られてしまったものよ。悲しいものよ」
「そんじゃあ、力を取り戻しに行けばいいじゃない。私が手伝うよ」
「助力感謝するぞ。我一人では何もできなかったが、おぬしのその炎なら、力を取り戻す旅に出ることができる。力を取り戻した暁には、我の魔力の一部を授け、カラデシュへの道を開いてやろう」
チャンドラとオムナスはそうして意気投合した。
二人の乱動の魔力を取り戻す旅が始まった。