異聞帯モルガンと人理救済の旅   作:sorashido

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プロローグ(前)

 

「魔女め!魔女め!

 怠慢だ、もっといい世界なんていくらでも作れたのに!」

 

「やめ、て―― 私を、玉座に――」

 

「役たたず!役立たず!

 いらない!いらない!役立たずならもういらない!」

 

「玉座に、戻せ……!

 もう、ブリテンを、失いたく、ない……!」

 

 

(ああ……、私は、また、失敗、した、のか―――……)

 

意識が徐々に薄れていく。

もう何も見えない、何も聞こえない。

先程まで感じていた痛みすらも感じなくなった。

 

(バーヴァン・シー……)

 

脳裏に浮かぶものは最期に見た、床へと投げ捨てられたその姿。

 

(ごめん、なさい……、私は、結局、あなたを、救えなかった……)

 

その想いを最後に私の意識は暗闇へと消えていった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

―――――――――――――――

 

―――――――――――

 

――――――

 

――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――はっ!?」

 

消えたはずの意識が突然覚醒する。

 

「な……、えっ……?、わ、私は……!?」

 

何が起こったのか全く分からずに混乱する。

自分の身体を確かめるようにぺたぺたと触ってみたが何ともない。

 

(何が起こった…!?私は、あのまま死んだはず、では……?)

 

まずは冷静になろうと最後の記憶を思い出していく。

 

(玉座――妖精――バーヴァン・シー……!!!)

 

そこで私は弾かれたように初めて周囲を見渡したが、

先程までの光景と全く違う場所だった。

 

「ここは……どこだ?」

 

こんな場所は妖精國には存在しないはずだ。

ここはまるで知識でのみ知っている魔術師の工房――――

 

「いや、ここは……まさか。わ た し(汎人類史の私)の工房か……!?」

 

冷静になりかけていた頭が再び混乱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再度落ち着いてきたところで状況を整理する。

 

―まず間違いなくあの私は死んだはずだ。

あの先の記憶が存在しない以上そうとしか考えられない。

問題はその私が何故汎人類史、しかも自分の工房にいるのか。

 

「……異聞帯の私同様、情報のみを継承したという事か?」

 

元々異聞帯の私は汎人類史の私に情報を継承されて成立していた存在だ。

ならばその逆があったとしてもおかしくはない、が……

 

「死に際にそのような術式を起動した覚えはない。

 何より私自身が異聞帯の私なのだと感じている。」

 

もしも私が汎人類史の私であるならば

これほどはっきりと異聞帯の私の意識が残っているはずがない。

かつての私にはそのような事はなかったのだから。

 

「しかしこの肉体は汎人類史の私のものだろう……身体の感覚がずいぶんと違う。」

 

そこまで考えたところで継承した記録に

疑似サーヴァントなるものが存在している事を思い出した。

今の私はそれに近い状態なのかもしれない。

だとしても何故こんな事になっているのか確かめる術がない。

 

「……何が起きてこうなったかは分からないままだが、もうそれはいい。

 それよりも……私はどうすればいいのだ。」

 

改めて周囲を見渡す。間違いなくここは汎人類史の私の拠点。

つまり私は今、汎人類史のブリテンに存在している事になる。

 

きっと私の知る妖精は誰一人として居ない。

かつての私と共に旅した仲間達も、女王である私に仕えていた騎士達も。

……バーヴァン・シーも。

 

同じ名前、もしかしたら同じ姿で存在はしているのだろう。生き方さえも同じかもしれない。

それでも……私の知っている妖精ではない。

もう私が救うべきものは何もない。憎むべき妖精すら、いない。 

 

残っているものがあるとすれば汎人類史の自分が渇望し続けた願い。

ブリテンを私のものに――それも今の私にとっては虚しいものでしかない。

今更こちらのブリテンを支配して何が得られるのか。

このブリテンもどうせ、人理によって滅ぶ運命――

 

 

「……そういえば、今はいつだ?」

 

 

ここがブリテンであるのは間違いないが、どの時点のブリテンなのだろうか。

汎人類史の自分がここで何をしていたのか思い出そうとしても異聞帯での記憶しか思い出せない。

何も分からずに、困り果てていると。

 

「……母上。」

 

その声に思わず後ろを振り返る。

 

「……モードレッド。」

 

そこには私の知らない私の(息子)がいた。

汎人類史の私が何を血迷ったのか作り上げたアルトリアのコピーだ。

見たところ、まだ完全に成長してはいないらしい。

 

「キャメロットに騎士王を見にいくのではなかったのですか。」

 

その言葉で先程の疑問が解決した。

 

(なるほど、そういえばそんな事をした記録もあったな。)

 

私は自分(汎人類史の私)が何をしたのかの記録も継承している。

それがどういう結果になったのかも。

 

(――アルトリア。遠い世界の私の仇敵。)

 

記録として知ってはいる。だが私自身の目で見てみたいと思った。

私の知る予言の子(アルトリア)とは違う騎士王(アルトリア)を。

 

「……母上?」

 

返事のない自分を訝しんだのか、怪訝そうな顔をしてモードレッドが呼びかけてくる。

 

「……ああ、そうでしたね。

 行きましょう、キャメロットに。」

 

私の知らないブリテン。その王を見に行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

私達がキャメロットに着いた時には既にパレードが始まっていた。

 

 

「「「「アーサー王!アーサー王!」」」」

 

「我らの王!約束の王!アーサー・ペンドラゴン!」

 

「ブリテンに平和をもたらしたまえ!」

 

 

騎士王とその後ろに続く円卓の騎士達。

それに集う民衆達がみな声を揃えてアーサー王を讃えている。

私達はその集団から少し離れた路地でそれを見ていた。

 

(……ブリテンに平和を、か。)

 

その言葉に忌まわしい記憶が蘇る。

 

(くだらぬ。救われて当然なのだと救世主に縋りつく事しかしない民。

 これだけ讃えておきながら、最後には呪い、罵るのだろう。

 ブリテンが滅びたのはお前のせいだ、と。)

 

お前はそれを分かっていてその道を選んだのか。

人間としての人生を捨てて、ブリテンの救世主となる道を。

そうあれと望まれて生まれた、ただそれだけの理由で。

 

 

 

「あれが騎士王アーサー……」

 

隣にいるモードレッドが呟いた。

 

「……そう。あれこそ王の分身たるお前が目指すべき相手。」

 

「……俺が?アーサー王の……?」

 

……そういえば今のモードレッドは自分の秘密を知らないのだったか?

先を知っているが故に本来の私とは違う答え方をしてしまったようだ。

まあ、どうせ後で知るのだから今知ったところで何も変わらないだろう。

それにしても……

 

「作られた人の為の王とはな。まったくもって救われない存在だ。」

 

「救われない?でも、王はあんなにも――」

 

「民や騎士は讃えるだろう。救世主たる理想の王を。」

 

「――だが。

 同類は居らず、逃げ場はない。王を理解する者もいない。

 何の報酬もなく、ただひたすらブリテンを救い続けなければならない。

 無論失敗などただの一つも許されない。」

 

「……」

 

「例えブリテンを何度救ったとしても。

 人は自分とは違う存在を恐れるもの。いずれ感謝を忘れ、石を投げつけるだろう。

 そしてうまくいかなかった事があれば何もかもを自分のせいにされるのだ。

 お前が悪い、お前が間違えたからだと。そんな存在に救いがあるとでも?」

 

あるわけがない。

望まれた救世主の末路など、私はこれ以上ないほどに知っている。

 

「……なら俺が救う。」

 

「……何?」

 

思ってもみない言葉に思わず聞き返してしまう。

 

「俺が彼の剣の切っ先となり、穢れを祓うものになる。俺が理解者になる。

 俺が王になるっていう逃げ場だって作ってやる。」

 

「……そうか。お前がそうしたいのなら別に止めはしない。」

 

「えっ……?」

 

何だ、何故そこで固まる。自分で言い出したことだろうに。

 

「母上は前に、俺はアーサー王を倒さなければならないって……」

 

「ん……ああ、そうだったか。それでもいいぞ。

 お前のやりたいようにやるがいい。」

 

汎人類史の私がアーサー王を倒すためだけに作り出した私の娘(モードレッド)

私にその使命を押し付ける資格はない。

どうせ何をしようとこのブリテンは滅びる運命にある。

ならば好きにさせてやろう。

 

モードレッドはしばらく固まっていたが、不意に顔を綻ばせる。

 

「じゃあ……じゃあ、俺は騎士になる!

 騎士になってアーサー王に仕える!」

 

モードレッドはそう言って決意を固めたようだ。

……私にはその決意が無駄な事だと分かっていたが。

それを口にする事はなかった。

 

 

 

その後、騎士となるモードレッドに正体を隠す為の兜を渡し、

正体を誰にも悟られるなとだけ言い含めて、モードレッドをキャメロットへと送り出した。

もう私がこのブリテンに関わる事はない。

私が何をせずとも定められた滅びに向かうだろう。

 

異聞帯で私を成立させてくれた本来の私の願いを踏み躙るようで心苦しいが

私はその願いがこのブリテンでは決して叶わない事を知っている。

 

だからせめて。

私が愛したブリテンを私の代わりに見届けよう。

 

 

 

 

 

 




初投稿です。
色々と拙いと思いますが長い目で見守ってやってください。
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