異聞帯モルガンと人理救済の旅   作:sorashido

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永続狂気帝国セプテム(1)

あれから程なくして第二の特異点が発見された。

今回もマスターやマシュと共に私もレイシフトに同行する事となった。

今回のレイシフト先は古代のローマ。汎人類史の私が知る時代より更に古い時代。

ローマ……こちらのブリテンの敵国だったか。もっとも、私にとってはあまり関係のない事だ。

マスター達と共にレイシフトしてきた私の耳に、不機嫌な声が聞こえてくる。

 

「ここが古代ローマの地か。

 どうやら首都ではなくどこかの丘陵地帯のようだが。」

 

黒いアルトリアが辺りを見回して言い放つ。

不機嫌そうなのはいつもの事だが、ローマと言う地には奴も思うところがあるのだろうか。

 

「ところで立香、気付いているか。」

 

アルトリアが丘の向こうを見て問いかける。

その先から多人数による戦闘の音が聞こえてくる。まるで戦争のようだ。

マシュやマスターもそれに気付いたらしくその可能性をアーキマンに伝えていた。

 

『この時代にそんな大きな戦争はないはずだ。ならそれはつまり――』

 

「それが歴史の異常と言う事ですか。」

 

「皆!音の方向へ急ごう!」

 

丘の向こうへと辿り着いた時私達が見たものは

大部隊と少数の部隊が戦闘を行っているところだった。

その中でも異質だったのは少数の部隊を率いている一人の女だ。

ほとんど一人で首都へと雪崩れ込もうとする部隊を相手取っている。

 

「あの女性は、サーヴァントでしょうか?」

 

『いや、サーヴァント反応は感じない。あの女性はこの時代の人間だよ。

 とにかく、ありえない戦争が起こっているのは間違いない。それなら――』

 

「あの女の人を助けよう!街に攻め込まれるのは止めないと!」

 

「確かに。どちらが敵か分からないが、都市が蹂躙されるのは阻止すべきだ。」

 

マスターの意見にアルトリアも同意を示す。

一人で部隊を相手にしていた女に私達が加わった事で大部隊は程なくして撤退していった。

 

「剣を納めよ、勝負あった!貴公たち、首都からの援軍か?

 首都は閉鎖されていると思ったが……まあ良い、褒めてつかわす!

 見目麗しい少女達が獲物を振り回す姿は何とも言えぬ倒錯の美があるな!

 うむ、実に好みだ!余と轡を並べて戦う事を許そう!至上の光栄に浴すがよい!」

 

戦闘が終わったかと思えば言いたい事を全部言うかの勢いで捲し立てられる。

マスターは目を白黒させて何も言えないでいるようだ。

 

「しかしその方ら、見慣れぬ姿よな。少々見せすぎではないか?異国の者か?」

 

「貴様に言われたくはないのだが?」

 

私やマシュを見ながらそう言ってきた女に、言葉を返す。

戦闘中の姿を見る限り、前はともかく後ろは相当開けた格好をしていただろう。

 

「む、余はきちんと男装をしているではないか。」

 

「何が男装だこの破廉恥が。」

 

男装という言葉に今度はアルトリアの方が反応した。

 

「其方は……どこのどなた様か?

 なかなか整った面構えではないか!実に良い!」

 

「我々は貴様の言った通り異国から来た者だ。

 貴様こそ何者だ。あれだけの数の兵士を相手にあの立ち回り、只者ではあるまい。」

 

「ふむ、確かに氏素性を訪ねる前にまずは余からであったな!

 余こそ真のローマを守護する者。まさしく、ローマそのものである者。

 ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスである!」

 

「え……ええ!?」

 

「ふっふっふ、驚いている、驚いているな?

 そうであろう、そうであろう、良いぞ。存分に驚きそして見惚れるが良い。特別に許す。」

 

これほどふんぞり返るという言葉が似合う姿もあるまい。

 

『お、女の子だったのか……歴史とは……』

 

「ほう……暴君として伝えられていたあの皇帝が女だったとはな。」

 

アルトリア、貴様も他人の事は言えないだろう。

 

「さて、そなた達の素性が何であれ。

 先程の助力を見るに余を助けるのが目的と、そう考えていいのだな?」

 

「はい、その認識で間違いありませんネロ陛下。」

 

「ならば共にガリアへと来るが良い。道すがら、ゆっくりと話すとしよう。」

 

ネロの話によれば連合ローマ帝国なる連中が現れ、帝国の半分を奪われてしまったという。

その連合には複数の皇帝が存在し、既に死んだはずのネロの血縁が

皇帝の一人として与しているようだ。他の皇帝も含め、おそらくはサーヴァントだろう。

そんな話やカルデアの目的などの話をしつつ、ガリアに着いた時には日が落ちていた。

 

 

「長旅ご苦労であったな。ここがガリア遠征軍の野営地である。

 今日はもう遅い。そなた達はゆっくりと寝所で休むが良い!」

 

ネロはそれだけ言うと兵士達の居る方に行き、兵士達を鼓舞している。

その瞬間、歓声が響き渡る。さすがは皇帝といったところか。

アルトリアもその姿には素直に感心したようだ。

 

「すごい歓声です。これがネロ陛下の全盛期のカリスマでしょうか。」

 

『そうなんだろうね。でも不思議なものでもある。

 こうまで人心を集めた皇帝が晩年には…………いや、止めよう、いけないな。』

 

「おや、思ったより早いお越しだったね。

 えーと、あなた達が噂の客将かな?みんな見かけによらず強いんだってね。

 遠路はるばるこんにちは。あたしはブーディカ。ガリア遠征軍の将軍を務めてる。」

 

ブーディカ。確かブリテンにもその名は伝わっていたはずだ。その名は確か……

 

「ブーディカ……?あの、その名前は……」

 

マシュも知っていたのか、思わずと言った様子で訪ねている。

 

「そう、ブリタニアの元女王ってやつ。

 ……不思議って顔してるわね。女王ブーディカがどうしてローマの将軍に、って。」

 

「はい、私の知る歴史ではあなたは――」

 

「うん、そう。皇帝ネロとローマをあたしは絶対に許さない。ケルトの神々に誓いもした。」

 

ローマに蹂躙されたブリタニアの女王がこうしてローマ側に立っている。

復讐するいい機会ではないのか?とも思ったが

私もこうして汎人類史側に立っている以上、その言葉は口にしなかった。

 

「そんなに難しい話じゃないよ。要はネロより連合の連中の方が気に食わないってだけ。

 復讐の機会かな、とも思いはしたんだけどねー。連中に食い荒らされる此処を見てたら……

 体が勝手に動いちゃって。ネロの為じゃない、此処に生きる人々のためにね。

 ……もしかしたら復讐の為に殺し尽くしたロンディニウムの連中に悪いと思ってたのかも。」

 

……ロンディニウム。まさかここでその地の名を聞く事になるとは。

出来れば思い出したくなかった名だ。

 

「そうだ、ちょうどいい時に来たよ。美味しい料理を作ったところだから食べていって。

 あ、もちろんローマじゃなくてブリタニアの料理だよ。」

 

「え……いいのですか?」

 

「もちろん、いいに決まってるじゃない。」

 

そう言ってブーディカは笑顔でマシュを抱き寄せる。

 

「あたしにはあんたは妹みたいなもんだ。あんたたちは、かな。よしよし。」

 

マシュの頭を撫でながら、私やアルトリアの方を向いてブーディカはそう言った。

……そういった感情を向けられた事に思わず戸惑ってしまう。

私にとってはまだ救世主ですらなかった頃の遠い記憶にしか存在しない感情だった。

 

「お姉さんはねえ、あれなの、ブリタニア料理がとっても得意なの。食べてくれるでしょ?」

 

「あ、ありがとうございます。先輩はどうですか、お腹、空いてます?」

 

「うん、もうぺこぺこだよ。いただきまーす。」

 

「うんうん!食べて食べて寝る!それが一番の元気のもとよね!

 ほらほら、後ろのあんた達も食べな。」

 

私とアルトリアを手招きしてくる。

 

「私はこういった手の込んだ料理は好まない。

 私の食事ならカルデアから持ち込んだこの携帯食で十分だ。」

 

アルトリアはどこからか包みを取り出してその中身を食べ始めた。

その様子を見かねたのかマスターがアルトリアに声をかける。

 

「そんなジャンクフードならいつでもカルデアで食べられるんだし

 せっかく作ってくれたんだから一緒に食べようよ。」

 

「……貴様がそう言うのなら仕方あるまい。いただくとしよう。」

 

アルトリアはそう言って渋々と言った様子だが料理を食べ始めた。

それを見てマスターが今度は私に声をかけてくる。

 

「ほら、モルガンも一緒に食べよう?」

 

「……サーヴァントに食事は必要ありません。

 私は結構なので食べたい者だけ食べるといいでしょう。」

 

この場を離れようとしたが、その前にブーディカに腕を引かれてしまう。

 

「まあまあ、そんな事言わずに食べて食べて。

 サーヴァントだって食べて寝れば元気になるものさ。」

 

そう言われて強引に料理の前に座らされてしまった。

無理矢理にでも食べさせるという意思を感じたので、諦めて料理を口に運ぶ。

 

(……美味しい。)

 

一度口にしてしまえば、次に感じるのは物足りなさだ。

気付けば私はもくもくと出された料理を食べ続けていた。

 

「そんなに美味しそうに食べてもらえると作った甲斐があるよ。

 おかわりもあるけど、食べる?」

 

「……いや、いい。もう十分だ。」

 

一度追加されると際限なく追加されそうなので断る。

そのまま私は逃げるようにその場を立ち去った。

今の私にそんな感情を向けられる資格などないのだから。

マスター達はその後もブーディカにあれこれ世話を焼かれていたようだ。

 

夜が明けると、ネロは私達と共に連合の皇帝に占領されたガリアを取り戻した。

皇帝の正体はやはりサーヴァントで、ネロ曰く初代皇帝よりも前の支配者の名と言う事だ。

私としてはそんな事よりもあの図体でセイバーと言う事実の方に驚かされたが。

アルトリアもその事実を知った時は不機嫌な顔が若干崩れていた気がする。

 

 

「……ふむう。」

 

ガリアを取り戻して首都ローマへと帰還する最中、ネロが浮かない顔で溜息をついた。

てっきり連合の皇帝を名乗る連中が

過去に存在した本物の皇帝だった事を憂いているのかと思ったが……

 

「さっきの農夫の言葉を覚えているか?昨日すれ違った旅の商人も似た事を申していた。

 古き神が現れた、ときた。本当であろうか?」

 

「正確にはこの数日で四度です。誰も嘘をついているようには見えませんでした。」

 

確かに私の目で見ても誰も嘘は言っていなかった。古き神……神代のものだろうか。

 

「地中海のある島に古き神が現れた、か。噂にしてはひどく具体的だ。

 このガリアは地中海に面しているからそこの噂を聞くのは珍しい事でもないが……

 むうう、こう何度も聞くと気になるではないか!

 幸いにしてここは地中海に面しているしな。余としてはぜひ確かめてみたい!

 仮にローマの神々であるとして、連合の皇帝どもに奪われでもすれば大問題だ。」

 

「しかしネロ陛下、ローマに帰還しなくて大丈夫なのですか?」

 

「いや、余は決めた。凱旋の帰路に海を渡るのも良い!

 そのまま海路で首都に戻るとしよう、地上の旅はいささか飽きた!

 船旅も良いものだぞ。余の鮮やかな操船を披露してやろう!」

 

この強引に決めてしまうところはさすが暴君と言ったところか。

しかし皇帝自ら舵を握ると言うからには優れた操船技術を修めていると思ったのが間違いだった。

 

「うむ、良い風を掴まえたな!かつてない攻め攻めな船旅であった!」

 

ネロはとても愉快そうにしているが私はまだ頭が揺れているような気がして気分が悪い。

これが船酔いというやつか……海を渡る事などない私にその耐性はなかったようだ。

船というものはあのように空を舞う事もあるのだな……

 

「……デミ・サーヴァントになっていなければ危なかったです……

 ……あの、モルガンさんとアルトリアさんは……」

 

「……私は問題ない。」

 

アルトリアはそう言っているが普段から青白い顔が更に青白くなっている。

意外にもマスターは私達の中で一番平気そうだ。船旅の経験でもあったのだろうか。

 

「んーまあ、私は絶叫マシンとか結構乗った事あるし。慣れてたのかも。」

 

よく分からないがマスターにはなかなか過酷な経験があるようだ。

少し時間が経った事でようやく頭の揺れも治まってきた。

 

『さて、それじゃあ噂の古き神とやらを……おっと、どうやらあちらからお出ましのようだ。

 これは……サーヴァントではあるみたいだけど……正常なそれとは些か違う。これは何だ?』

 

「ええそうよ。普通のサーヴァントではないもの。

 ご機嫌よう、勇者の皆さま。当代に於ける私のささやかな仮住まい、形ある島へ。

 私は女神ステンノ。どうぞ好きにお呼びになってくださいな、皆さま。」

 

アーキマンによれば明らかに通常のサーヴァントでは持ちえない数値の神性。

紛れもない神ではあるが神そのものではない言わば神霊のサーヴァントという事らしい。

 

「大雑把だが話は理解したぞ。要するにそこの女神は敵ではないのだな?

 では古き女神ステンノよ、我がローマへ来るが良い!

 余は貴様を新たな神として受け入れよう。共に連合帝国を倒そうではないか。」

 

「まあ、とっても眩しいのね貴女。でもごめんなさい。

 私には戦う力はないの。サーヴァントになって多少カタチにはなってはいるのだけど。」

 

「でもそうね。せっかくここまで来てくれた勇者様だもの。

 ご褒美をあげなくちゃいけないわ。昔なら妹をけしかけたのだけど。」

 

「「「けしかけた?」」」

 

その言葉にマスターとマシュ、ネロが一斉に反応した。

 

「こほん、いいえ何でもありません。それでは貴女達に女神の祝福をあげましょう。

 海岸沿いを歩いていくと洞窟が見つかるわ。そのいちばん奥に、ね。

 宝物を用意したの。この時代には本来存在しないとっておき。それを差し上げますわ。」

 

『興味深いねえ、もしかして聖杯だったりして。』

 

「どんな宝でも構わんぞ。余には多くのものを愛でてみせる器がある!」

 

「よーし、それじゃあその洞窟に行ってみよう。」

 

マスター達は乗り気だが明らかにその女神の目は私達を見て楽しんでいる。

敵ではないようだし殺意もなさそうなのでマスター達に伝えはしなかったが。

 

その後洞窟で私達が見たものは言うまでもなく宝ではない。

洞窟という狭い空間の中で何度も怪物に襲われ、最奥には強力な幻想種が一体存在した。

古代ギリシャに伝わる怪物、キメラらしい。あの女神が用意したものだろう。

私達はそれを何とか撃退し、疲労困憊になって洞窟から帰還した。

 

「ふふ、おかえりなさい。とっておきのご褒美、たっぷり楽しんでもらえまして?」

 

「へろへろだ……余は、疲れた……」

 

「はい、早く休息を取るべきだと思います……」

 

「……まあ立香を鍛えられたと言う点においては感謝しよう、古き女神よ。」

 

そういえば貴様も立香を鍛えると言って強敵と戦わせていたな。

とは言えこれだけの連続戦闘をさせられてはさすがの私も疲れを隠せない。

全盛期の頃の自分が羨ましい。

 

「だらしないわねー。アタシはあんな大きな猫ぐらいどうって事なかったわよ?」

 

突然どこかで聞いた事のある声が聞こえてそちらを向くと

そこにはフランスの特異点で出会ったエリザベート・バートリーが居た。

何故こんなところに彼女が居るのだろうか。

 

「何よ、またアタシをジロジロ見て……やっぱりアンタ、私のファンでしょ!?」

 

しかめっ面でこちらを睨んできたかと思えば、急に顔を輝かせて喜び始めた。

かと思えば目を瞑って考え込み始める。忙しい娘だな。

 

「……うん、決めたわ!最初は子ジカだけ招待するつもりだったけど、

 特別にアンタも招待してあげる事にするわ!ファンサービスってやつよ!」

 

……招待?何の話だろうか。何を言っているのか全く分からない。

マスターも理解できていないのかきょとんとした様子で聞き返している。

 

「ん?招待って何の事?」

 

「ふふふ、まだ秘密よ!その時が来たら分かるから楽しみにしていなさい!」

 

「む、催し物に余を差し置いて招待とは何事か!そこの娘、何故余を招待せぬ!?」

 

「いや、アンタが居たらアタシだけが主役じゃなくなっちゃうし……ってあら?

 何この気配……魔力感じない……え、人間?アンタが?」

 

「何を驚いている。無礼かつ無粋な奴め。その姿が美少女ベースでなければ叩き斬っているぞ?

 余は当代の皇帝、ネロ・クラウディウスである。何故そう親しみのある視線を向けるのだ?」

 

「うっそ、生ネロ!?」

 

「何が生か!」

 

『ちょっ、これフランスの時より酷いぞ!ますます話が分からなくなってきた!

 一旦落ち着こう!このままじゃ収拾がつかない!』

 

アーキマンの言葉でその場は一旦収まったが、ネロはまだ若干不満そうだ。

私は先程の話を理解できなかった事もあり、深く考えずに忘れてしまう事にした。




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