異聞帯モルガンと人理救済の旅   作:sorashido

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プロローグ(後)

 

 

――結果として。

 

 

私の知る記録と同じようにキャメロットは、円卓は、ブリテンは滅びた。

数々の原因はあれど、決定的な崩壊を招いたのはモードレッドによる叛逆らしい。

 

私はあれ以来モードレッドとは一切関わっていない。

本来の私がやったような呪詛もかけていない。

それでも尚、モードレッドは叛逆する事を選んだ。

何があったか知らないが、やはりあの決意は無駄になったようだ。

 

死体、死体、死体。

もう死体しかいない丘を進んでいく。

その先にはモードレッドも同じように転がっていた。

よほど強力な一撃を食らったのか、鎧も兜も砕けてしまっている。

 

「…………ぁ……は、は、うえ……?」

 

「……まだ生きていたのか、モードレッド。

 ……最後に言いたい事があるなら聞いてやるぞ。」

 

既にモードレッドの心臓は停止している。

わずかに残っている機能もすぐに停止するだろう。

 

「おれは……おれのたすけは、いらないって……言わ、れた……」

 

「……」

 

「おれは……なんの、ために……」

 

何の為に生まれた――

その言葉を最後まで言えないまま、モードレッドの機能が停止した。

 

汎人類史においての私の子の一人であったモードレッド。

今の私にとっては何の情もない。

ない、のだが……

 

「……お前はもうその答えを見つけているだろう。

 お前がそう生きると決めた時から。」

 

せめてもの手向けとしてその言葉を送ってやった。

 

 

 

 

 

 

モードレッドを見届けた私はその後、丘の近くにある森に立ち寄った。

そこは汎人類史のアルトリアが最期を迎えた場所。

 

私がその場所にたどり着いた時には一人の騎士が聖剣を携わり、駆けていく姿が見えた。

湖へ聖剣を返還する為だろう。それでアルトリアは完全な死を迎える。

 

私は一歩一歩、アルトリアの元へと歩いていくが気付かれた様子はない。

さすがに目の前まで来たところで足音に気付いたのか

アルトリアが顔を上げてこちらを見た。

 

「っ……!きさ、まは……!!」

 

「……久しいな、アルトリア。我が仇敵であったものよ。」

 

私だと分かるやいなや、私を睨みつけてくる。

だがもう立ち上がる力すら残っていないのか、睨みつけてくるだけで動こうともしない。

 

―哀れだな。救世主として都合よく使われ続け、

民も街も国も、全てを立て直したにも関わらず

民にも騎士にも除け者にされて、こうして一人で死んでいく。

それはまるで――

 

(…………)

 

かつての自分を思い出し、どうしようもない感情に支配される。

そうだ、認めたくはないがお前と私は似ている。

立場も理由も信念すら違えど、ブリテンの為に全てを捧げ、全てを失った同類だ。

そんなお前だからこそ最後に聞いてみたい事がある。

 

……いつの間にか私を睨みつけていたはずの瞳に困惑の色が混ざり始めた。

何もしてこない私を警戒しているのだろう。

 

「安心しろ。何もお前を殺しにきたわけではない。

 聞きたい事があるだけだ。」

 

さらに困惑の気配が強くなるアルトリアを無視して私は問いかけた。

 

「お前は……後悔していないのか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

(どうだアーサー王!あなたの国はこれで終わりだ!)

(これがあなたがいらないと言った私の力だ!)

(私ならあなたを救ってあげられたのに!)

(何故私を信じてくれなかった!)

(そんなに魔女の子である俺が憎かったのか!?)

 

何を言われているのか分からなかった。

私は救いなんて求めていなかったのだから信じるも何もない。

私を救う暇があるならその力で国を救ってほしかった。

 

モードレッドと相討ちになる形であの戦いは終わった。

私も終わりが近い。

それを悟った私は最後まで私に従ってくれた騎士に告げる。

 

「ベディヴィエール、あの血塗られた丘を越えた先にある深い湖に……我が剣を投げ入れよ。」

 

彼はしばらく迷っていたようだったが、しばらくすると彼の表情からは迷いが消えていた。

そして駆けていった彼を見送ると私はゆっくりと目を閉じた。

今度こそ、聖剣は返還される。私はここで終わるのだ。

 

聖剣が返還されるまでに残された最後の時間。

動くこともできない私はただ、過去を振り返っていた。

――少し前に見た気がする夢の内容も含めて、全て。

 

 

そうして終わりを待つ私に、近付いてくる足音が聞こえた。

まだ聖剣が返還された気配はない。

もしかして聖剣を捨てられずにまた戻ってきてしまったのだろうか。

そう思って顔を上げると――

 

「っ……!きさ、まは……!!」

 

「……久しいな、アルトリア。我が仇敵であったものよ。」

 

モルガン(あねうえ)……!)

 

ブリテンが滅んだ原因の一つであろう我が姉にして魔女。

すぐにでも斬り捨てたかった。だがそうする為の剣はなく、

既に立ち上がる力もない私にできる事は睨みつける事だけだった。

 

(私を笑いにきたのか、殺しにきたのか……いずれにせよ、貴様にだけは屈しない。)

 

せめてもの抵抗に睨み続けていたのだが……ふと、違和感を覚える。

彼女が私を見る目から感じるものは嘲りでも憎しみでもなく

悲哀や怒り、同情……それら全てが混ざったかのようなものを感じたのだ。

 

馬鹿な。この魔女が私にそのような感情を向ける理由がない。

今更あなたにそんな目を向けられたところで何も救われない。

 

(何故……何故あなたがそんな目をする。今更になって、何故!)

 

「安心しろ。何もお前を殺しにきたわけではない。

 聞きたい事があるだけだ。」

 

この魔女が私に?今更何を問おうというのだろうか。

 

「お前は……後悔していないのか。」

 

――。

 

「聖剣を手放したという事はこの結末を受け入れたと言うことだ。

 お前は本当にそれでいいのか。」

 

その問いにどういう意図があったのかは分からない。

だけどその言葉だけは何の謀もなく本心から聞いていると思えた。

だから私も偽りのない答えだけを返す。

 

「……はい。私は後悔していません。」

 

「……何故。」

 

「――剣を抜いた時に私は誓ったのです。

 たとえ何もかもを失う事になるのだとしても。私は戦い続けると。」

 

「だがその結果はこれだ。

 何か別のやり方があったとは思わないのか。」

 

「そうかもしれません。ですが。

 私の選んだ道は間違っていなかったと信じています。」

 

「――……そう、か。」

 

そう言って寂しそうな彼女があまりにも私の知る姿と違いすぎて。

その気配はすぐに消えたものの、聞かずにはいられなかった。

 

「……あなたは何か後悔をしているのですか?」

 

「……」

 

返答はない。

けれど息を呑んで私を見るその目で答えは分かった。

 

「……私はお前とは違う。

 話は終わりだ。邪魔をしたな。」

 

彼女はその言葉を最後に踵を返し、去っていく。

その背中は私の知る魔女ではなく。

私と同じ孤独な王の背中に見えたのは気のせいだったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……どうやら、私もここまでのようだな。)

 

アルトリアの居た場所とは離れた場所、しかし同じ森の中で

私はアルトリアと同じように大きな木によりかかった。

 

自分が消えていくのが分かる。意識が薄れていくこの感覚には覚えがある。

何の因果か、汎人類史の私と同化していた私だが所詮はただの残滓。

私もまたあるべきところに還るのだろう。

いや、あるべきところなど存在しないのだから消えると言った方が正しいか。

 

もしかしたらこちらで目覚めてから今までの全ては

あの玉座の間で死にゆく私が見ている泡沫の夢なのかもしれない。

どうせ夢ならもっと気の利いた夢を見せてほしいものだ。

 

「……ああ、やはり貴様とは分かり合えない。

 別に分かり合いたくもないが。」

 

アルトリアはこの結末を後悔していないと言った。私には受け入れ難い答えだ。

私は今でも後悔している。何か他にやり方があったのではないかと。

あのように終わりを受け入れる事など何千年かかってもできそうにない。

やり直す事ができるのならどんな手を使ってでもやり直すだろう。

でもそれは不可能だ。私にはその手段も時間も残されていない。

 

(叶うなら……もう一度……――)

 

今度こそ私の意識は無へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――そのはずだったのだが。

 

消えたと思っていた意識が再び戻ってきた。

 

もしやまたなのか、一体どうなっている。

マーリンに無間(夢幻)地獄のような幻術でもかけられているのか。

 

そう思って目を開き、辺りを見渡すと。

 

「なんだ、ここは……!?」

 

私が見たものは全てが炎上している崩壊した街。文字通りの地獄だった。

 

 

 

 

 




次回から本編です。



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