どこを見渡しても燃え盛る炎で赤く染まっている。
一瞬、災厄が訪れた妖精國に戻ってきたのかと思ったが
この街並みはおそらく汎人類史の人間の街だ。
今度こそ継承された記録にすら存在しない見知らぬ場所。
私はどこに行けばいいのか、どうすればいいのかも分からずに街を彷徨っていた。
生きている者でも居れば何かしらの情報を聞き出せたのだが先程から出会うのは――
「また貴様らか。消えるがいい。」
骨のみの生物、スケルトン。
あちこちで遭遇する上にこちらに襲いかかってくる。
私は降りかかる火の粉を払うように手にした杖で薙ぎ払い、消滅させていく。
「……本来なら指先一つで殲滅できるものを。
ここまで力を失っているとは、我ながら情けない。」
どうやら今度は憑代が存在するわけでもなく、私だけがこの場に召喚されたようだ。
やはり本来の私の肉体はあの時に失われたらしく
残滓のような存在となった私に本来の力は出せず、限られた魔力で戦う事を強いられていた。
幸いにも大気中の魔力は十分に存在しているので、この程度の雑魚を倒すのに困る事はない。
「だがこのままでは埒があかない。一体ここは何だ……!」
どこまでいっても状況は変わらず、さすがに気が滅入ってくる。
ひょっとしたらここは本当に地獄で
私はここで永久に彷徨い続けなければならないのではないか。
そんな考えまで浮かんできた時、かなり離れた場所で魔力の高まりを感じた。
「これは……何者かが戦闘を行っているのか……?」
ようやく手掛かりになりそうな存在を見つけた。
だが何者かも分からない相手の前に姿を現す事は避けた方がいいだろう。
分身体を作り出せれば手っ取り早く安全に接触できるのだが、今の私にはそれすらできない。
仕方なく離れた場所から視界を強化して覗き見る。
「この私がこのような真似をしなければならないとは……」
見つけた。人影が数人。どうやら戦っているようだ。
何者なのかとそちらに意識を集中する。
「な……!?あれは……!?」
見間違いではない。
あれは異邦の魔術師――カルデアのマスター!
その前で戦う盾のサーヴァントにも見覚えがある。
もう一人、知らない魔術師も居るがあれは――いや、それよりも。
奴らが戦っている相手は……
「あれは……村正なるサーヴァントと共にいたキャスターか。
何故奴らが戦っている。」
奴らは仲間だったはずだ。あのように争う理由などないはずだが。
それにしても少々違和感を感じる。
私と対峙したあのマスターとサーヴァントはあそこまで弱々しい存在だっただろうか。
あのキャスターからの攻撃を防ぎ続けてマスターを守っているがあれでは護りきれない。
防ぎきれないと判断したのか宝具を展開して攻撃を防いだ、が――
「……なんだあの宝具は?」
私との戦闘で見せた白亜の城の護りではない。
まるで本来の力を封印されているかのような――
「まさか……ここは……」
私の知る姿よりも明らかに弱く、戦闘経験の少ない姿。
今奴らが戦っているこの場所はカルデアが妖精國に来るよりも遥か前の出来事なのだ。
奴らが焼却された人理を修復し、異聞帯を消滅させる旅をした事は知っている。
その旅路のどこかなのだろう。
ならば――ならば。
(このまま時が進めば奴らは再び妖精國へと足を踏み入れる――?)
私が作り上げたブリテン。
もし今はまだ存在しないのだとしても、いずれ地表へと顕現する。
そうすれば――会える。会える。もう一度会える。
久しく感じる事のなかった感情を抑えきれずに口元を抑える。
……落ち着くまでに時間がかかってしまったが、その間に奴らの戦いも終わっていた。
よく分からないが、どうもあの雰囲気からして模擬戦でも行っていたようだ。
私はどうするべきなのか。
このまま事が終われば奴らはカルデアへと帰還してしまうだろう。
そうなればここに残された私はまた消えてしまうかもしれない。
だからと言って奴らに協力するというのも憚られる。
奴らがいなければ私がブリテンを失う事もなかったというのに。
ましてやこの私が汎人類史を守る為に戦うなど、腸が煮えくり返りそうだ。
それ以外に何かいい方法は……
(……いえ、考えるまでもない事でしたね。)
既に私は一度全てを失っている。
その時になってようやく本当に大切なものに気付いたのだ。
彼女の為なら私の矜持なんてどうでもいい。
そう思ってカルデアに接触する事を決めた私だったが――
(……困りましたね。どのように接触すればいいのでしょうか。)
いざその時になって前に進めずにいた。
カルデアとは以前わずかな対話をしたのみで奴らの事をあまりよく知らない。
そもそも接触したとして、得体の知れない私を信用するとは思えない。
信用を得る為の手段も情報も持ち合わせていない。
どうやって信用を得るべきか……
(見たところあのマスターもサーヴァントも、まだまだ発展途上といったところ。
この先の戦闘で苦戦する事もあるだろう。
その際に助力をして信用を得る……うん、これでいきましょう。)
エクターが居たら短絡的すぎると言われただろうが、ここに私を止める者は居ない。
私は気付かれないように離れた場所から監視を続けて後をつける事にした。
その後はしばらくの間、特に大した戦闘もなく順調に進んでいた。
一行は洞窟のような場所へと入っていく。
私もしばらくしてから隠形を施し、洞窟へと足を踏み入れる。
(ここは……長い年月をかけて作られた魔術師の工房か。)
神秘の薄れた時代にここまでの工房を作り上げるとはなかなかのものだ。
それに最奥から感じるこの魔力……これは――
奥に進むとアーチャーと思われるサーヴァントが現れ、
カルデアと戦闘を行っていたが、あまり苦戦する事もなく突破してしまった。
このままでは私が乱入する口実がなくなってしまう。
全てが終わる前に姿を現してしまおうか……そう考えていた時。
最奥で戦闘の始まった気配がした。
戦闘中なら気付かれにくいと踏んで、私も最奥まで移動する。
そこで私は信じられないものを目にした。
(あれは……アルトリアか!?)
黒い何かで変質してはいるが間違いなくあれはアルトリアだ。
同じように黒く染まった聖剣を構え、魔力を高めている。
宝具の真名を解放して攻撃するつもりなのだろう。
シールダーもそれを察知して盾を構え、宝具で防ぐつもりのようだ。
「
「
……
……?
聞き間違いだろうか?いや、そうに決まっている。
とりあえず結果はシールダーが防御に成功したようだ。
その後、反撃とばかりに二人がかりでアルトリアに攻撃しているが
キャスターと経験の浅いシールダーでは足りないのか、苦戦している。
しばらくしてアルトリアが再び宝具を解放する構えをとった。
シールダーも再び盾を構える。
「
「
……聞き間違いではなかったようだ。
何だその宝具の真名は?
黒く染まったエクスカリバーに私の名を付け足す事に何の意味がある?
もしや私への嫌がらせか?嫌がらせなのか?
間髪入れず、アルトリアが宝具の構えを取る。
聖杯からの供給を受けているらしいアルトリアに魔力切れはない。
カルデア側は宝具の連発の気配に慌てふためいている。
おそらく魔力が足りず、今度は防ぐ手段が間に合わないのだろう。
……ちょうどいい。こんな嫌がらせを受けては私も黙っていられない。
「
「私を呼んだか?アルトリア。」
「っ……!?」
「
極光を私の作り上げた路が飲み込み、極光諸共破壊する。
突然の乱入者にこちらを見て呆然とするカルデアの連中と
目を見開いて固まっているアルトリアの前に姿を現す。
『サーヴァント反応、確認!バーサーカーだ!
キャスター、彼女が君の言っていた怪物のバーサーカーかい!?』
「いや、違ぇ!バーサーカーはこの女じゃねえ。
そもそも本来七騎の中には居なかったはずだ!」
「じゃああのサーヴァントは一体何なの!?新手だなんて聞いてないわよ!」
「し、しかし今彼女は明らかに私達を助けてくれました!
味方なのではないでしょうか?」
ずいぶんと騒がしい連中だ。
私はカルデアを無視してアルトリアと対峙する。
「馬鹿な……何故、貴様がここに居る……!?」
「呼ばれたから来てやったと言うのに、ずいぶんな言われようだな。」
「なんだ!?テメエ、このサーヴァントを知ってやがるのか!?
まさかテメエ、聖杯で新しいサーヴァントを召喚したとかじゃないだろうな!?」
私がアルトリアに呼ばれたというのを真に受けたのか、
キャスターがアルトリアに向かって叫んでいる。
「違う。私がこの女を召喚する事などあるものか。
知己であるのは認めよう。憎むべき敵としてのな。
そうだろう、我が姉にして我が仇敵……モルガン!」
『モルガンだって!?イグレインがウーサー王に嫁いでから産まれた
アーサー王に敵対していた悪女として語られているあのモルガンかい!?』
どこからともなく聞こえてくる軟弱そうな男の声。
何故か腹立たしい気分になる。カルデアからの通信魔術だろうか。
「……まあ、そうですね。
私はアーサー王の仇敵として
それで問題がないのなら、サーヴァントとして力を貸しましょう。」
『そ、それはありがたい事だけど……いや、ありがたい事ですけど……』
「……今更畏まる必要はありません。
生前ならまだしも、今の私はただの残滓。」
『……では、我々がアーサー王を倒す事に協力していただけると?』
「ええ、とりあえずはあなた達に助力しましょう。
そのアルトリアは私にとっても倒さねばならぬ敵ですので。」
カルデアの行く手を阻むという事は私の目的を阻むという事に等しい。
ならばそれは私の敵である。
「どういう風の吹き回しだ。貴様が人理を守る側に立つだと?」
「貴様こそ何かの冗談か?
人理に従って終わる事を受け入れた貴様が今更、人理を壊す側に立つと言うのか?」
「…………そうか、あなたはあの時の……」
呟くような声が聞こえたが、何を言ったのかは聞き取れなかった。
「いいだろう、構えるがいい
その言葉が真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」
これ以上話す事はないとばかりに、アルトリアが再び剣を構えた。
『ともかくこれで勝利できる可能性が上がった!
マシュ、今の内に魔力を!少しずつなら回復できるはずだ!
その間に、彼女達の援護を――』
「
「させるものか。」
アルトリアに宝具を使わせる隙は与えない。
先程は不意をついた事で止める事が出来たが、また連発されれば私でも止めきれない。
今の私では奴を止めるほどの威力の魔術を使う事も難しい。
となれば止める手段はこれだけだ。
杖を槍として扱い、アルトリアの動きを物理的に止め続ける。
『ちょっ!?あのアーサー王と白兵戦だって!?しかも互角!
どうなってるんだ!?本来はキャスターであろう彼女が
バーサーカーになっている事と何か関係があるのか!?』
無論、まともに打ち合えば私がアルトリアに勝てる道理はない。
魔術で身体と武器を強化して誤魔化しているにすぎない。
このまま戦い続ければ先に限界を迎えるのは私の方だ。
これが一騎打ちであれば数分ももたず敗北しているだろう。
だが今は私以外にも攻撃を仕掛けている者がいる。キャスターだ。
私が反撃を受けそうになる度に、それを潰してくれている。
そのおかげで何とか互角の状態に持ち込めている。
このままでは埒があかないと判断したのか、
アルトリアは魔力放出により後方へ飛んで距離をとった。
そこで再び宝具を撃つつもりのようだ。
『まずいぞ、宝具が飛んでくる!あれはもう止められない!』
「……さて、時間は稼ぎました。
シールダー、後一度だけ宝具を展開するだけの魔力はありますか?」
「……はい!仮想宝具、展開可能です!」
「ではもう一度だけその護りを。後は私が仕留めましょう。」
「分かりました!」
「
放たれた黒き極光が再び迫ってくる。
「
シールダーが残された魔力で宝具を展開し、黒き極光を凌ぐ。
それを予想していたのかアルトリアは既にもう一度宝具を放とうとしていた。
だがそれを予想していたのはこちらも同じ事。
「
「っ……!!」
奴が二度目の宝具を放つよりも前に私の発動した宝具がアルトリアを襲う。
宝具で迎撃しようとしたようだがもう遅い。
私の宝具の光がアルトリアを飲み込み奴の霊基を破壊していった。
「……聖杯を守り通す気でいたが、敗北してしまったか。
結局、どう運命が変わろうと私ひとりでは同じ末路を迎えるという事か。」
何かを知っているかのような口調だ。
キャスターもそれが気になったのかアルトリアを問いただしている。
「いずれ貴方も知る、アイルランドの光の御子よ。……そして姉上。
――聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな。」
そう言い残して最後にアルトリアはこちらを見た。
何かを言おうとしていたようだがそれが言葉になる前に奴は消滅した。
直後にキャスターも強制帰還により消滅した。
残されたのは私とカルデアの連中だけとなり、
カルデアは全て終わったと言わんばかりの雰囲気だ。
そこに一人の男が現れた。
その男はレフと言うらしい魔術師――私には人間に見えなかったが。
男は私には興味を示さず、カルデアとの話に集中している。
話を聞いている限りではまさに今、人理焼却が行われたところらしい。
奴らの旅はここから始まったと言う事か。
そしてその男によってカルデアの魔術師が一人、天球に吸い寄せられて消滅した。
そうしている内にこの特異点も限界を迎えたのか地下空洞が崩れ始めた。
レフという男は消え、シールダーが慌てて通信先の魔術師に指示を出している。
崩壊する前にレイシフトを実行して脱出するつもりのようだ。
マスターとシールダーが意識を強く持つ為か、互いに手を取り合う。
「えっと……モルガンさんは……!」
「私の事は気にせずとも結構。あなた達は自分の心配をするように。」
私の言葉に反応するよりも先に、二人の輪郭が薄れて消えていく。
残された私もこのままではこの空間と共に消えるだろう。
だけどそれは認めない。せっかく手にした最後の可能性。
それをここで諦められるものか。
(上手くいくかは賭けですが……やるしかないですね。)
レイシフト――その魔術理論は既に理解している。
私はその術式を解析し、かつてこちらの私がやったようにそれを実行した――
「それで、君は何しにこちらに来たのかね?
いや、というよりもどうやって来たのかな?」
カルデアに侵入した私を出迎えたのはダヴィンチと言う名のサーヴァント。
妖精國で見た時の嬰児とは違うようだが、その辺りに興味はない。
「帰還していく二人に施された術式を解明して実行し、追跡しました。」
「あの短時間でレイシフトの術式を解析したと言うのかい!?
まさに神域の天才と言ってもいい、恐ろしいな!」
「こちらに来た理由は特にありません。
訳も分からず召喚されたまま、消えるのも癪でしたので。
しばらく此処で過ごしたいのですが、構いませんか?」
半分本当で半分嘘だ。
あのまま消えたくないというのは本当だがそれだけではない。
カルデアには人理を修復してもらわねばならない。
私が求めているのはその先の――
「ううん、正直経歴が経歴だけにあまり信用できないんだけど……」
「ではどうします?不安ならば私を消しておきますか?」
「いやいや、そんな恐れ多い事できやしないさ。
それに今は一人でも戦力が欲しいところだ。
経歴だけで信用できない、なんて言っていられない。
もちろん、本当に怪しいと思ったら全力で排除させてもらうけどね。」
「……分かりました。
人理修復を成すまではあなた達の邪魔は決してしないと誓いましょう。」
「んー、何かイメージと違うけど……まあいいか!
これからよろしく頼むとしよう!」
「ええ、こちらこそ。」
互いに心中を探り合うかのような問答を行ったが私には意味のないものだ。
こちらも大幅に機能を失ってしまっているが妖精眼が残っている。
とりあえず最低限の信頼は得たようだ。
(ああ、邪魔は決してしないとも。
お前達には私の國へと来てもらわなければならないのだから。)
その時までカルデアのサーヴァントとしてあり続けよう。
そう決意した私は、とりあえずマスターとなるべき存在に挨拶に行くことにした。
――どこに居るのか分からなかった。
というわけでこちらのカルデアでは
特異点Fのクリア時のプレゼントボックスにモルガン様が入っていたようです。