先日はどうやらカルデアのマスターの意識がまだ戻っていなかったらしい。
休息も必要だろうから待っていてほしい、と空いていた部屋をあてがわれた。
後日改めて管制室へと呼び出され、マスター達と会う事になった。
慣れない場所で辿り着くのに時間がかかってしまったが。
管制室へと足を踏み入れた私を見てマスターとシールダーは驚いた顔をする。
その隣には先日私を出迎えたサーヴァントと……
「やあ、やっと来てくれたんだね。
遅いからもしかしたら来てくれないのかと思ったよ。」
私を見るなり、その男にそう言われてつい言い返してしまう。
「道案内もよこさずに呼び出しだけしておいて、よくも言えたものですね。
私はこの施設の構造をあまりよく知らないのですよ?」
「あ、ああ……それは済まない事をしたね。謝るよ。
あの部屋からはほとんど一本道なのに迷うとは思わないじゃないか……」
「何か?」
「いやあ、別に何も!何も言ってないよ!」
「ドクター、その人はもしかして……」
私が男を睨みつけていると、隣から声が聞こえてきた。
「ああ、ごめんごめん。君達に会わせたかったのは彼女の事さ。
あの特異点で君達を助けてくれた彼女もカルデアに来てくれたんだ。」
「やっぱりそうだったんですね。私はマシュ・キリエライトと言います。
デミ・サーヴァントです。真名はまだ分かりません。
モルガンさんと仰られるのですよね?これからよろしくお願いします。」
マシュ・キリエライト。
天上の騎士ギャラハッドの霊基を持つサーヴァント。
そう記憶している。
「マシュ。はい、覚えました。
こちらこそよろしくお願いしますね。」
そしてその隣にいるのが……
「私は藤丸 立香です。あの時はありがとう。
モルガンさん、でいいのかな。よろしくね。」
緊張しているのか、どことなく口調が硬い。
「藤丸、立香……覚えました。ええ、こちらこそ。
それから私の事はモルガンと呼んで結構ですよ。」
カルデアのマスター。人類最後のマスターである少女。
私の知る彼女とは雰囲気がかなり違っている。
「そういえば僕の紹介もまだだった。
僕はロマニ・アーキマン。皆からはドクターロマンと呼ばれているよ。
彼女達のサポートを行っているんだ。よろしく。」
「……」
「……あれ、何か僕だけ睨まれてる?何か変な事言ったかな……?」
やはりこの男、カルデアの者と名乗ったあの男によく似ている。
しかしおそらくは別人であろう事も何となく分かった。
無関係ではないだろうが、今この男を問い詰めても何も得るものはなさそうだ。
「……いえ、軟弱そうな男だなと思っただけです。」
「わざわざ言わなくてもいいんじゃないかな!?
うう……僕だって頑張ってるのになあ……」
私は項垂れる男を無視して改めて立香とマシュを見る。
見られている事に気付いた二人が会釈を返してきた。
私にとっては過去の事だが、いずれ私と対峙する二人。
その二人と私がこうしている事にとても奇妙なものを感じる。
「いやあ、それにしても驚いたよ。
冬木から帰還したマシュと立香ちゃんの意識がなかなか戻らないから
二人を医務室に運び出した辺りで急に彼女が現れたんだ。」
「ロマニったらひどいんだぜ?
対応を私一人に押し付けて自分たちはさっさと後方待機さ。」
「うっ……だってしょうがないじゃないか!彼女はサーヴァントだよ!?
何かあった時は同じサーヴァントである君しか対処できないんだから!」
「えっ……急に現れたというのはどういう事でしょう……?」
マシュが驚いたような顔をして疑問を投げかける。
「聞いて驚くなよ二人とも。
なんと彼女は君達が帰還する際に発動した術式を解析して
自力でこちらにレイシフトしてきたんだ。」
「え……ええ!?そんな事が可能なのですか!?」
「もちろん通常なら不可能だとも!
彼女は我々の想像を超える天才だった、としか言いようがないね。」
「へー、やっぱりすごい人なんですね。」
立香はあまりよく分かっていないのか
興奮気味の三人とは違って普通に感心している。
その後しばらく軽い雑談を交わし、
これからのカルデアがするべき事やこの施設の説明などを聞かされた。
「さて、ボクたちカルデアの事情はこんなところかな。
それを踏まえた上であなたに一つだけ確認したい。」
ロマニ・アーキマンが先程までとは
うってかわって真面目な顔でこちらに向き合ってくる。
「今の僕たちにはあまりに力がない。
あなたがこちらに来た理由はこの際何でも構わない。
我々カルデアはあなたを受け入れる代わりに、協力を要請したいと思っています。」
「……構いませんよ。ここに来た時点でそれは半ば承知の上です。」
「本当かい!?それは助かる!
あなたを説得するのは骨が折れそうだなあって思ってたんだけど
まさかこんなにあっさり了承してくれるなんて。」
真面目かと思えばすぐに元の剽軽な雰囲気に戻る。掴めない男だ。
「さて、そうとなれば立香ちゃん、君にも頼みがある。
彼女――モルガンとサーヴァントの契約を交わしてもらいたいんだ。」
「えっ?」
「彼女は僕たちに協力すると言ってくれた。
でも彼女はまだマスターを持たないサーヴァントだ。
このままでは君達のように各時代にはそうそう跳んでいけない。
だけど立香ちゃんが彼女と正式に契約できたのなら話は別だ。
マスターが存在すれば安定して同じ時代にレイシフトする事が可能になる。」
唐突な提案に面食らったのか、彼女はこちらをチラチラと見ながら考え込む。
「……いいのかな。
私なんかがこんなすごい人のマスターになって。」
「おや、やはり私のような悪い魔女と契約などしたくはありませんか?」
そう言って意地悪く微笑むと慌てたように否定してきた。
「いやいや、そういう訳じゃないけど……!
その、モルガンはいいの?私なんかがマスターになって。」
まだ自信がないのか、決断できずにいるようだ。
その姿は私の知る彼女の姿とあまりにかけ離れていた。
一体どれだけの困難を乗り越えればあのようになるのだろうか。
「私は協力すると言った時からそのつもりですよ。
あなたはあの戦場でアルトリアと対峙し、勝利した。
それだけで十分戦果はあると思いますが?」
彼女はしばらく考えて、やがて迷うのをやめたのか、
「分かった、契約する。」
まっすぐな瞳でこちらを見てそう言った。
そして契約の詠唱を口にする。
「……あなたを我が主として認めましょう、藤丸立香。
これより私はあなたのサーヴァントです。
おまえには私の臣下としての働きを期待していますよ。」
「……あれ?私がマスターなんだよね?臣下扱いなの?」
「臣下が嫌なら下僕か奴隷でもいいですよ?」
「臣下でお願いします。」
「ははは。それもマスターとサーヴァントの関係の一つだね。
たっぷりこきつかってもらうといいよ!」
「もう、ドクターは他人事だと思って!」
ぎゃあぎゃあと言い合いをしているマスター達の横から
ダ・ヴィンチが近寄って話しかけてくる。
「正直、協力してくれるとまでは思っていなかったよ。
特異点でアーサー王も言っていたけど君は本来人理を守る義理なんてないはずだからね。
むしろ憎む側でもおかしくない。」
「……間違ってはいません。
私は今でも……人類史を呪い続けています。」
「それでも我々に協力してくれるんだね?理由を聞いても?」
「……気紛れ、とでも言っておきましょう。
そんな移り気な私にあまり触れると気が変わるかもしれませんよ?」
「おっと、藪蛇だったかな。それは困る。
まあ君に悪意がないのは何となく伝わったからそれでよしとするよ。」
ダヴィンチはそう言ってあっさり引き下がっていった。
そうしている内にあちらの話も終わったようだ。
「さて、みんなに伝えたかった話は大体伝えたかな。
特異点を発見次第、君達にはレイシフトでその時代に行ってもらう事になる。
特定にはしばらく時間がかかるからその間、君達は色々準備しておいてほしい。」
話が終わるとすぐにダヴィンチは自分の工房に。マシュは調整があると離れていく。
マスターもやる事が多すぎて大変と言いながら部屋へと戻っていった。
とりあえず私も部屋に戻るとしよう。
「一応言っておくけど、君の部屋はそっちの方向じゃないよ?」
「……分かっています。少し施設を見ておこうと思っただけです。」
次回、騎士王召喚。その他にも何名か。