あれから数日経過したが、特異点の特定はまだできていないらしい。
今日は召喚システムの試用も兼ねて英霊の召喚を行うと聞いている。
成功するのかどうかもまだ分からないとの事だったが、
成功すればカルデアの戦力を増やす事ができる。
どんな英霊が来るのかは知らないが、顔ぐらいは見ておこうと立ち寄った。
「やあ、君も来たんだね。もうすぐ準備が終わるところだ。
少しだけ待っていてくれないかな。」
ロマニ・アーキマンがそう言いながら、あちこちの計器をチェックしている。
隣にはマスターとマシュの二人も待機している。
「それにしても一体どんな人が来てくれるのかな。
私、英雄って言われる人達の事あんまりよく知らないんだよね。」
「先輩、それでしたら
有名な方なら大体載っています。」
「…………マシュ。その本について後で詳しく。」
「あ、モルガンさんも興味がありますか?図書室にありますので後でご案内します。」
「よし、準備OKだ。それじゃあマシュ、召喚サークルの設置をお願いするよ。」
準備が整ったらしく、マスターが召喚の詠唱を行う。
直後、召喚サークルから凄まじい光が溢れ、そこに一人の英霊の姿があった。
「問おう。あなたが私のマスターか。」
……………………
「は、はい!あなたは……冬木で会ったアーサー王!?」
「む。以前に私と会った事があるのですか。」
「あれ?そういえば何か違う気が。」
「残念ですがその私とこの私は別人です。
どうやら、並々ならぬ事情がある様子ですね。
話を聞かせてもらいたいところなのですが……」
カルデアの事情はマスター達に説明させておけばいいだろう。
わざわざ奴に関わる必要はない。そう思って踵を返した私の後ろから声が聞こえてくる。
「それよりも――彼女は?」
……明らかに私に向けて放たれた声がして足を止めてしまった。
「あっ、ああー……彼女は、えっと……」
アーキマンがどう説明するべきか迷っているようだ。
おそらく私とアルトリアの関係を考慮しているのだろう。
このまま無視して出て行ってもいいのだが――
「………………」
何も言わずにゆっくりと後ろを振り向く。
目が合った瞬間、アルトリアが目を見開いてこちらを凝視しながら剣に手をかけた。
「あなたはっ……!?」
「す、ストップ!ストーップ!」
アーキマンが慌てて静止の声を上げているが効果は薄いようだ。
アルトリアは剣に手をかけたまま、こちらを睨みつけている。
私もまたアルトリアから目を離さなかったので睨みあう形となった。
一触即発の空気に誰も声を上げない中、アルトリアが剣を下げて先に口を開いた。
「……失礼しました。今の私は一騎のサーヴァント。
まずは事情をお聞かせください。」
その言葉に周囲から安堵のため息が聞こえてきた。
「はあ……よかった。こんなところで戦闘が起きたらどうしようかと思ったよ……」
一応は落ち着いたらしいアルトリアにアーキマンが事情の説明を始めた。
「……なるほど。そんな事があったのですね。」
一通りの説明を聞いたアルトリアは目を閉じて思案しはじめる。
しばらく考えた後、こちらを見て言い放った。
「……分かりました。マスターが彼女の事を信じるというのなら私もそれに従いましょう。」
その言葉を聞いてマスターも安堵したようでほっと胸をなでおろしている。
だがアルトリアの言葉はそこで終わらなかった。
「ですが。そう簡単に割り切る事も難しい。
なので、この場で一度だけ彼女と戦闘を行う許可をいただけませんか?」
「いやいや!全然分かってくれてないじゃないか!?」
アーキマンが再び慌てはじめたが、アルトリアはそれを否定するように首を振った。
「何も殺し合いをするわけではありません。これは私なりのケジメです。
生前の遺恨を残したままにするよりは、解消しておきたいと思いまして。」
「……一発殴らないと気が済まないから、とりあえず二人で殴り合うって事?」
「はい、まあ、そういう事です。」
マスターも若干混乱しているようで、複雑そうな顔をしている。
私もまさかそんな提案をしてくるとは思わなかった。
関わりたくもないであろう私の事など居ないものとして扱うと思っていたのだが。
「……はあ、参ったなあ。
そこまで言われてしまうと僕たちが口を挟めるような問題じゃない。
モルガン、君はどうなんだい?同意があるなら許可を出すのも吝かじゃないけど。」
「……ふむ、要するにアルトリアを力ずくで黙らせろと言う事ですね。
そういう事ならばこちらも遠慮なくやらせてもらいましょう。
私とて、思うところがないわけではないので。」
こちらから仕掛けるつもりはなかったが、向こうから来るのならば話は別だ。
「はあ……仕方ないなあ。僕たちには止められそうにないし。
シミュレーターで短時間なら戦闘の許可を出すよ。」
アーキマンに連れられてシミュレーターがあるという部屋へと案内された。
「ここならある程度の戦闘なら問題ないはずさ。
ただし宝具の使用はお互い一度までにしてほしい。
魔力も無駄にはできないからね。」
「ありがとうございます。それで十分です。」
アーキマンが手元の機械を弄ると辺りの風景が一変した。
転移したわけではない――よく分からないが、これがシミュレーターとやらの効果なのだろう。
「では――いきます!」
言うが早いか魔力放出でこちらに突っ込んできた。猪かこいつは。
だが魔力放出の動きはあの特異点のアルトリアで経験済みだ。私はそれを槍で受け止める。
「なっ――」
「懐に潜り込めば切り伏せられるとでも思ったか?」
不意をついた一撃が止められた動揺で焦っているのか追撃はない。
その隙に魔術で反撃してやれば、それを躱す為か自分から距離を離した。
再び接近される前に魔術を行使してアルトリアに攻撃を行う。
宝具を一度のみと制限されている今の奴ならば接近される事を牽制するだけで十分。
長期戦になれば私が不利になるだけだ。さっさと決着をつけてやろう。
「モルゴース。」
目晦ましを兼ねた漆黒の波を放ち、宝具を解放する為の魔力を高めていく。
アルトリアも私が宝具を撃つつもりだと気付いたのか、
私の攻撃が当たる事も構わずに聖剣を構えた。
「
「
――私とモルガン、互いの宝具がぶつかり合って相殺された。
短い戦闘だったものの、もうこれ以上の戦闘は必要ない。確かめたい事は確かめた。
私が剣を収めると、あちらも魔術の行使をやめた。
「……ここまでで結構です。
マスター、私の我儘に付き合っていただき、ありがとうございました。」
マスター達の方に向き直り、礼を言う私にマスターは笑顔で返してくれた。
「私はこれで二人の気が済むなら全然気にしてないよ。」
「それで、とりあえず当面の決着はついたと思っていいのかい?」
勝手な我儘を通したというのにまるで気にした風もなく、私達の事を気にしてくれている。
どうやら良いマスター達に巡り合えたらしい。
「……はい。
……ひとまずはこのカルデアに居るあなたを信用する事にします。」
「ひょっとしてアルトリアさんは、最初からそのつもりで戦闘を……?」
「それはそれ、これはこれです。
出会ったら一発殴りたかったというのもまた事実ですから。」
「……それで?気は済んだか?」
私に試されていた事に気が付いたのか、面白くなさそうな顔で睨みつけてきた。
「ええ。あなたを信頼する事は出来ませんが、敵対はしないという言葉は信じましょう。」
「お前に信用してもらう必要などない。用が済んだのなら私は戻らせてもらう。」
それだけ言い放つと今度こそ去っていってしまった。
……やはり私の知っている
彼女が私の知る
だけど今の彼女は私の知っている危険な要素が薄れている気配を感じた。
まるで――そう、私の死の間際に問いを投げかけてきた時のような……
召喚された時、私に背を向けて部屋を出ようとしていた姿が
あの時の去っていく姿と重なり、つい声をかけてしまった。
かつては互いに互いを否定しあう仇敵で、今は同じマスターを持つ者同士。
今更手を取り合う事は難しくとも、少しだけなら彼女の事を信じてもいいと思えた。
「しかし……まさか私の攻撃が止められてしまうとは。
一発も殴れませんでしたね。それだけは残念です……」
勝負そのものに負けた訳ではないので、同じような機会があれば今度こそ。
この後、新たな英霊を召喚すると言うマスター達に立ち会い
私の知る英霊が召喚された事に、私は驚く事になった。
「アルトリアめ……私を試すとは。」
戦う前から私に対して警戒と困惑の感情を抱いているのは分かっていたが
大幅に機能を失った妖精眼では、それ以上は分からなかった。
「奴を叩き潰すいい機会だと思ったが。全く、どこまでも腹立たしい……」
とは言え、勝負そのものに負けた訳ではない。
次に機会があれば今度こそ完膚なきまでに叩き潰してやろう。
あの後、アルトリア以外にも英霊の召喚を行ったらしい。
特異点で戦ったアーチャーとカルデアに協力していたキャスターが召喚されたようだ。
いや、キャスターではなくランサーだったか。その者達とも、顔を合わせて話を済ませた。
クー・フーリンは何故か私を必要以上に警戒していたが。
どうも性質の悪い女神に付き纏われたことがあるらしい。それと私に何の関係があるのか。
私であれば私を振った戦士など、死ぬまで付き纏って呪ってやるだけだと言ってやると
その場に居合わせたマスターとアルトリアが引き攣った顔で引いていた。
そろそろオルレアンです。