異聞帯モルガンと人理救済の旅   作:sorashido

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邪竜百年戦争オルレアン(1)

 

アルトリアが召喚されてからしばらくして、特異点がいくつか観測できたらしい。

まずは観測された特異点の中で揺らぎの小さな時代を選んだとの事だ。

そこに向かうのはマスターとマシュ。そしてこの私と……

 

「では参りましょう、マスター。」

 

アルトリアだ。この人選に嫌がらせかとアーキマンに問い詰めたが

私が同行する予定だと知り、自分も同行させてほしいと言い出したらしい。

信用ならない私を見張るつもりだろうか。

 

「時間軸の座標は1431年のフランス。

 百年戦争がちょうど休止期間になっている時期のはずだ。

 けれどそこが特異点になっていると言う事は――」

 

「……その戦争が休止されていない可能性がある、という事ですか。」

 

「その通り。あくまで可能性の話だけどね。

 どうなっているのかは実際に調査してきてもらうしかない。

 歪められた歴史を元の形に戻した上で

 その時代に存在するであろう聖杯を回収するか破壊すれば任務成功だ。」

 

「それじゃあ皆、コフィンに入ってくれるかな。

 後はこちらでレイシフトの準備を進めるよ。」

 

ダヴィンチに促されるまま、各々がコフィンへと入っていく。

しばらくすると術式が起動したらしく、意識が一瞬消える感覚に陥った。

 

 

カルデアのレイシフトは初めての経験だったが、どうやら何事もなく成功したようだ。

私の周囲にはマスターとマシュ、アルトリアの姿がある。

 

「……ふう。どうやら無事に転移できたみたいです、先輩。」

 

「よかった、初めてだから不安だったんだ。」

 

「前回は事故による転移でしたが、今回はコフィンによる正常な転移ですから……

 モルガンさんとアルトリアさんも無事にレイシフトできているようです。」

 

「これがレイシフトというものですか。

 まるでこの時代に召喚されたかのような感覚です。すごい技術ですね。」

 

アルトリアが感心している。私も面白い魔術理論だとは思っている。

ふと見ると、辺りを見回していたマスターとマシュが空を見上げていた。

何を見ているのかと私も空を見上げたところでアーキマンの声が聞こえてくる。

 

『よし、回線が繋がった!どうやら全員成功したみたいだね。

 ちょっと画像が荒いけどちゃんと映像も送れてるみたいだ。

 ……ってどうしたんだいみんな?揃って空を見上げちゃったりして。』

 

「ドクター、映像を送ります。あれは、何ですか?」

 

『これは――光の輪……いや、衛星軌道上に展開した何らかの魔術式か……?

 モルガン。魔術に詳しい君ならあれが何なのか分かるかい?』

 

「……いえ、私にもあれの正体が何なのかは分かりません。

 しかしあの光は……聖剣の光が幾億も収束しているかのような……」

 

聖剣の光という言葉にアルトリアが反応してムッとした表情で空を見上げている。

例えで言っただけで別にそれ以外の意図はなかったのだが。

 

『まああの光はこちらで解析しておくよ。

 それより、現地の方であの光以外に違和感のあるところはないかい?』

 

「うーん、この近くにあるのはあの砦くらいしかないけど……」

 

「先輩、あの砦……かなりボロボロです。今は戦争も休戦しているはずなのに……」

 

『何だって?……やはり戦争が今も続いているのかもしれない。

 その辺りにいる兵士に接触をとって情報を集めてみよう。』

 

 

 

 

それから敵兵だと勘違いされて襲われる事になったが、

ほどなくして誤解は解け、情報を聞き出す事が出来た。

戦争は休止どころか既に終わっているらしく敵軍は既に撤退していたようだ。

では一体何に襲われたのかというと、どうやら数日前に処刑されたはずの

ジャンヌ・ダルクが竜の魔女となって蘇り、殺戮を行っているらしい。

 

「ジャンヌ・ダルク……名は知っていますが、そのような逸話は聞いた事がありませんね。」

 

「ジャンヌ・ダルクって言うと……」

 

マスターはあまりよく知らないらしく、マシュが彼女の逸話を簡単に説明していた。

 

「――と言った方です。無力な少女の想いが世界を変えた……

 その例で言うのならジャンヌ・ダルクは最高級の英霊です。」

 

「でも魔女になって復活したなんて話はないんだよね?」

 

「はい。そのような逸話は残っていません。

 四百年後には名誉回復が行われ、正式な聖人として認定されています。」

 

「……ならば考えられる可能性は一つ。

 その竜の魔女と呼称されたジャンヌ・ダルクはサーヴァントとして召喚された存在でしょう。」

 

『……なるほど、ありえない話じゃない。そこは聖杯によって歪められた歴史なんだ。

 この時代を破壊する為に召喚されたサーヴァントの可能性は十分にある。』

 

私の考えを伝えると、アーキマンから肯定の声が返ってくる。

するとマシュから疑問の声が上がった。

 

「しかし彼女は最期までその心を折らず、

 火にくべられた時でさえ祈りを放さなかったと言います。

 そんな方がこんなひどい事をするのでしょうか……?」

 

「救世主だ聖女だと持て囃され、最終的には信じていた者に裏切られて処刑された。

 心の奥底では恨みや憎しみを抱いていてもおかしくはありません。

 そちらの側面を主として召喚されれば、復讐に狂った聖女の出来上がりです。

 そこのアルトリアが黒く染まった姿で召喚されていたのを見た事があるでしょう?」

 

そう言ってアルトリアを指してやれば、奴も何とも言えない顔をしている。

 

「……そうですね。私も信じたくはありませんが、

 私にもそういった側面があるのは事実のようです。

 かの聖女にもそのような側面があった可能性はあるでしょう。」

 

「そんな……!」

 

マシュが信じられないと言った顔をしているが、

私からすればむしろそちらが正しい姿なのではないかと思う程だ。

 

「ですが、例え彼女の怒りが正当なものであったとしても。

 それが人理を崩壊させると言うのなら見過ごすわけにはいきません。」

 

アルトリアがそう言うと同時に、兵士達がドラゴンが来たと騒ぎ始めた。

 

「ど、ドラゴン!?」

 

マスターが驚いて空を見上げた。

 

『君たちの周囲に大型の生体反応が多数!あれは――ワイバーンだ!』

 

「ワイバーン!?十五世紀のフランスに存在していい生物ではありません!」

 

『まずい、この数じゃあ砦に被害が出るぞ!全滅もありえる!』

 

「マスター、全力で対応を!」

 

ワイバーンの群れとの戦闘が始まったが、私とアルトリアだけではこの数は倒しきれない。

撃ち漏らしたワイバーンを後ろでマシュが撃退しているが、

倒し損ねた内の一体がこちらを抜けて兵士たちの方へと向かっていった。

 

「しまった――!」

 

アルトリアが叫ぶがあれはもう手遅れだ、間に合わない。

そう思った時、大きな旗のような槍がワイバーンを突き殺していた。

 

「そこの御方!どうか私と共に!続いてください!」

 

「あの人は……」

 

『彼女はサーヴァントだ!しかし反応が弱いな、どういう事だろう……』

 

「とにかく、我々も彼女に加勢しましょう!マスター、指示を!」

 

「わ、分かった!」

 

謎のサーヴァントとアルトリアがワイバーンの群れに突っ込み、次々に薙ぎ払っていく。

私はその二人が倒し損ねたワイバーンを確実に撃ち落とす。

ほどなくしてワイバーンの群れを撃退する事に成功した。

ワイバーンが近くに居ない事を確認すると先程のサーヴァントがこちらに歩み寄ってくる。

 

「あの、ありがとうございます。」

 

「いえ、当然です。それよりあなたは一体――」

 

「……すみません、少し事情がありましてその話は後で。

 私について来ていただけないでしょうか。お願いします。」

 

先程の表情から一変して暗い表情でそう伝えてくる。

 

「誘われてしまいました。どうしましょう、先輩?」

 

「ついていこう。何か事情があるみたいだし。」

 

『僕も賛成だ。彼女がサーヴァントならきっとこの時代の事情にも精通している。

 詳しい話を聞いてみよう。』

 

 

 

彼女に案内されるまま近くの森、その奥深くに辿り着いた。

 

「そうですね、ここならば落ち着けそうです。

 では改めて自己紹介を。

 私のサーヴァントクラスはルーラー。真名をジャンヌ・ダルクと申します。」

 

「ジャンヌ……ダルク!?」

 

そう言った瞬間、アルトリアが武器を構えた。

 

「待ってください、私の話を聞いてもらえないでしょうか。」

 

あまり有益な情報ではなかったが、二つの情報を得る事ができた。

 

このジャンヌは数時間前に現界したばかりの上、

サーヴァントとしてはかなり弱体化しており、

本来持っているはずのスキルも知識も使えず、まるで新人のような気分である事。

そしてもう一つ。この時代には自分以外のジャンヌ・ダルクが居るらしい事。

 

「同じ時代に同じサーヴァントが二体召喚された、ということでしょうか……?」

 

『同時召喚かあ。有り得ない話じゃないけど。

 ……ともかく、その時代を特異点たらしめる原因がこれで確定した。』

 

「しかし……分からない事が一つだけあるのです。

 どれほど人を憎めばあのような所業を行えるのか……私にはそれだけが分かりません。」

 

その憎しみが理解できないと、まるで他人事のように言うジャンヌ・ダルク。

 

「何を他人事のように。そのジャンヌがお前の別側面ならば

 例えお前にその感情がなくとも、理解はできるはずだろう。」

 

「……それが分からないのです。私はそのような憎悪を抱いた事がない。

 火刑に処された時でさえ――綺麗な炎だな、と呑気な事を考えていたくらいで。

 私が炎に焼かれて死んだのも全ては私の罪によるもの。誰も恨むはずがありません。」

 

「……何?」

 

理解できないのはこちらの方だ。

何しろこの女は本心からそう言っているのだから。

 

「……生前の私はただ、自分が信じた事の為に旗を振り、己の手を血で汚してきたのです。

 田舎娘は自分の夢を信じた。けれど流した血が多すぎた。

 その夢の行き着く先がどれほどの犠牲を生むのか想像すらしていませんでした。」

 

またしてもどこかで聞いたような話を聞かされる。

 

「もちろん、後悔はありません。でも畏れを抱く事もしなかった。

 それが私のもっとも深い罪。結果、私は異端審問で弾劾されて――死ぬ事になりました。」

 

「あなたは……それでも後悔していないと?」

 

アルトリアも何かしら思うところがあったのか、疑問を口にしている。

 

「はい、私の信じた道はきっと間違いではなかった。

 私の死によって民の心が救われるならそれでもいいと思ったのです。

 そこには後悔も……恨みも憎しみもありません。

 だからこそ竜の魔女、と呼ばれる彼女(ジャンヌ)の存在が信じられない。」

 

……後悔していないのはまだしも、恨みや憎しみを一片たりとも抱いていない?

他の人間が救われるなら自分が死ぬ事すら構わないと?

やめろ。そんな壊れた自己犠牲など聞きたくもない。

 

「……何故だ。」

 

「えっ?」

 

「お前は処刑される前にあらゆる責め苦を受けたのだろう、何故憎まない。

 騙されて処刑されたのだろう、何故恨まない。」

 

ジャンヌは嘘や建前など言っていない。

それが分かっているからこそ私は言葉を止める事ができなかった。

 

「何故全てを許す事ができる……!?どうしてお前は――」

 

――どうしてお前はそうなのだ、と言いかけて口を噤む。

自分でも気づかぬ内に彼女を重ねてしまっていたようだ。

 

「えっ……と……」

 

答えに詰まっているというよりは

いきなり言葉を捲し立てた私にどう反応していいのか分からないようだ。

マスターやマシュは狼狽えているし、アルトリアも黙ってこちらを見ている。

視線に晒されて居心地が悪くなったせいか、少し頭が冷えた。

 

「……失礼。少し取り乱しました。今の言葉は忘れるがいい。」

 

「いえ……気にしないでください。あなたは……優しい方なのですね?」

 

「感性の壊れた人間は人を見る目もないようだな。」

 

「うーん……そうですかね?」

 

あらぬ誤解をかけられても面倒なのでさっさと話を元に戻す。

 

「それで?お前はこれからどうするつもりなのだ。

 お前が何と言おうと竜の魔女たるジャンヌ・ダルクは間違いなく存在している。」

 

「……私の目的は既に決まっています。オルレアンに向かい、都市を奪還する。

 その為の障害である竜の魔女(ジャンヌ・ダルク)を排除する。

 色々と分からない事も多いですが、ここで目を背ける事はできませんから。」

 

どうやら一人でも戦う覚悟らしく、マスター達もそれに気づいたようだ。

 

「ドクター。私達とジャンヌさんの目的は一致しています。

 今後の方針ですが、彼女に協力するというのはどうでしょうか?」

 

「もちろん。任務がなくても協力するよ。」

 

『そうだね、ここはジャンヌと協力するのが最善だ。

 アルトリアとモルガンも構わないかな?』

 

「ええ、人々を脅かす竜の魔女を見過ごす事は出来ません。

 敵の戦力は未知数。戦力は一人でも多い方がいいでしょう。」

 

「私は元よりそちらの方針に逆らうつもりはありませんので。

 マスターがそうしたいのであれば従いましょう。」

 

「では改めて、マドモアゼル・ジャンヌ。私達はあなたの助けになりたいと思っています。

 これからあなたの協力者として旗の下で戦う事を許してくれますか?」

 

「そんな……こちらこそお願いします。どれほど感謝しても足りないほどです。

 あなた達の力は先程見せていただきました。

 こんな頼もしい方たちがいるのならとても心強いです。」

 

「よろしくね、ジャンヌさん!」

 

「ジャンヌで構いませんよ。私はただの田舎娘ですからね。

 さて、そうと決まれば早速出発したいのですが……夜になってしまいましたね。

 今日はここで一夜を明かし、明るくなってから行動する事にしましょう。

 そうだ、皆さんの話も聞かせていただけませんか?」

 

 

その夜、カルデアの事情をジャンヌに聞かせているマスター達から

少し離れた場所で私は物思いに耽っていた。

思わぬ形で彼女のかつての姿を思い出してしまい、どうしても心が落ち着かない。

――今度こそ、必ず。

 

そうして一人、色々な事を考えている内にあちらの話も終わっていたらしく

いつの間にかマスターが私を手招きして呼んでいた。どうやら食事の準備ができたらしい。

そういえばこうして野宿などするのはいつ以来だろうか。

遠い記憶を思い出し、少し高揚した事で先程までの陰鬱とした気分は晴れた。

次に野宿の機会があれば昔のように皆に料理を振舞ってやるのもいいかもしれない――

 

 




 
ダイジェストのつもりでしたが意外と長くなってしまいました。
 
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