森で一夜を明かし、これからの行動方針も決まった。
敵の戦力が未知数の状態でいきなりオルレアンに直接乗り込むのは無謀。
周辺の街や砦で何かしらの情報を得る為に、まずはラ・シャリテという街に向かう事になった。
昨日は一人でも戦うつもりだったと言うのにずいぶんと慎重な事だ。
などと言いつつ、道中を進んでいるとカルデアからの通信が入った。
『ちょっと待ってくれ。君達の行く先にサーヴァントが探知された。
ってあれ、遠ざかって……ああ、駄目だロストした!早すぎる!』
それと同時に街のある方角から炎が見えた。
「街が……!?急ぎましょう!」
そう言って飛び出していったジャンヌに続いて街に辿り着いた時、既に街は壊滅していた。
「そんな……!これも、
『まずい、さっきのサーヴァント反応が反転してこちらに向かっている!
君たちの反応を察知したらしい!』
「数は!?」
『数は……六騎!?しかも速度が迅い!これはライダーか!?
と、ともかく逃げるんだ!数で勝てない以上、逃げるしかない!』
「ジャンヌさん!サーヴァントがやってきます、すぐに――」
「……逃げません。せめて、真意を問い質さなければ……!」
「ですが……!」
「いえ、既に気付かれているのなら逃げても無駄でしょう。
ここで迎え撃つ他ありません!」
どうやらジャンヌとアルトリアに退くつもりはなさそうだ。
私も逃げても無駄だとは思っていたので逃げるつもりはない。
『駄目だ、もう間に合わない!』
アーキマンの声が響いた直後、
六騎のサーヴァントと大量のワイバーンが私達を取り囲むようにして現れた。
その中にはジャンヌと瓜二つ――黒く染まったジャンヌの姿もある。
どうやらあちらのジャンヌはこちらを見下しているらしく、すぐには仕掛けてこないようだ。
『ど、どうしようどうしよう何かないか何かないか。』
「ドクター、落ち着いて下さい。こちらまでパニックになりそうです……!」
マスター達も必死に打開策を考えているようだが、あの様子では何も浮かんでいないだろう。
「アルトリア……貴様、何か手はあるか?」
アルトリアは周囲を警戒したまま、こちらを向く事なく答える。
「いいえ、残念ながら。
この数が相手では宝具を使ったとしても、全員を巻き込む事はできないでしょう。」
宝具の使用はマスターにも負担がかかる。
アルトリアと同時に私の宝具も解放できれば可能性はあるが
そこでマスターが倒れでもした場合、後がなくなってしまう。
……正直、手詰まりだ。戦闘で勝利する事は諦めるしかないだろう。
あちらのジャンヌも言いたい事を言い終わったのか、こちらを始末すると宣言した。
『そ、そうだ、こういう時こそネットの力だ!
ネットアイドルのページにGO!マギ☆マリの知恵袋!
“今サーヴァント六騎に襲われています、どうすればいいでしょうか”っと……』
この男はこんな時に何をふざけている!
「ネットって何!?どこに繋がってるのそれ!?」
先程まで考えを纏められず、若干混乱していた様子のマスターだったが
アーキマンの醜態の方に気を取られたのか、突っ込みを入れる余裕ができたようだ。
それが目的で先程の醜態を晒していたのなら大したものだが、
通信先の様子ではおそらくそんな意図はあるまい。
『“うん☆いっぺん死んで生まれ変わればいいと思うよ?”
うわあ、酷いなネットアイドル!人の気持ちをまるで理解してくれない!』
……何故か思い出したくもない
思わず通信越しのアーキマンの姿を睨む。
『ちょっ、コンソールが燃え出したぞ!?呪いでも飛んできたのかな!?』
「それ以上、下らない寸劇を続けるなら次は貴様を呪いますよ?」
あまりの不愉快さについ呪ってしまったが、私は悪くないはずだ。
「マスター。一か八か一点突破に賭けます。
私が先陣を切りますので、しっかりとついてきてください。」
アルトリアも一時撤退する事を選択したようだ。
後方の手薄な場所へと魔力放出で飛び出し、周囲のワイバーンを薙ぎ払って道を開いた。
「今です!」
当然黙って見逃されるはずもなく、敵のサーヴァントがこちらに迫ってくる。
牽制を試みるが大した妨害はできず、徐々に距離を詰められてしまう。
「……そろそろお遊びは終わりです。
全員、首と胴をバラバラにしてあげましょう。」
「いけません、皆さんだけでも逃げてください!ここは私が食い止めます!」
ジャンヌが立ち止まり、殿を務めようとしたその時、
どこからともなく何かが二人のジャンヌの間に突き刺さった。
「……何?」
「ガラスの……薔薇?」
突然その場に現れたものに皆が意識を向けて静止した空間に、一人の声が響き渡る。
「ヴィヴ・ラ・フラーンス!」
声のした方角を見ると馬車のようなものがこちらへと向かってきていた。
「嬉しいわ、これが正義の味方として名乗りをあげる、というものなのね!」
「貴女、は……!?」
「お待ちになって。ここは戦場ですもの、語らいはまた後で。
アマデウス、やっちゃって!」
「任せたまえ。
宝具、
「くっ……!重圧か……!」
もう一人、馬車の中から姿を現した術者の宝具の発する邪悪な音が
凄まじい重圧を発生させて敵の動きを止める。
「さあ、今の内に私の馬車に乗ってくださいませ。ここを離れましょう。」
「逃がすかっ!」
黒いジャンヌは腕に炎を纏い、尚もこちらを攻撃しようとしている。
私はその前に黒い波を辺りに広げて敵の視界を防ぐ。
攻撃としてはほとんど無意味だが、目晦ましとしては十分。
「ちっ……!」
「今です。マスター、あの馬車に乗り込みなさい。」
「う、うん!」
マスターが馬車に乗った事を確認すると私とアルトリアも続く。
「それではごきげんよう皆様。オ・ルヴォワール!」
無事にあの場を離脱できた私達は近くの森に潜み、互いの事情を話し合った。
あの馬車を率いていた彼女の名はマリー・アントワネット。
革命によって処刑されたフランスの王妃らしい。
……どうも嫌な事を思い出す話が多い。
そしてもう一人の男はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトという名の音楽家。
この男のやり取りを見ている限り、あまり関わり合いになりたくない類の相手だ。
その後、カルデアの事情やこの特異点の話、敵サーヴァントの真名の予想など
様々な話をしたところで、敵のライダーに襲撃されるという事態が発生し、
ライダーを撃破する際にいくつかの事実が明らかになった。
ライダーの真名は聖女マルタ、狂化により従わざるを得なくなっていた事。
そしてリヨンという都市に竜殺しが存在している事を明かして聖女マルタは消滅した。
夜が明けたらリヨンに向かう事が決まり、マスター達はそのまま眠りにつく。
私は周囲の警戒を兼ねて、少し離れたところを歩いていた。
こうして野営の見回りをするというのもずいぶん懐かしいものだ。
「ここに居ましたか。どこに行ったのかと思いましたよ。」
「……何の用だ?」
振り向くといつの間にかアルトリアが近付いてきていた。
「……少しだけ、あなたと話がしたい。」
先程までは自分から私に話しかけようともしなかったと言うのに、どういう風の吹き回しだ。
私が黙っているのを肯定と受け取ったのかアルトリアは返事も聞かずに勝手に話を始める。
「昨日から感じてはいた事ですが、今日の様子を見て確信しました。
今の貴女は聖女ジャンヌやマリー王妃に対して憤りのようなものを感じているように見える。」
「……」
「昨日、貴女はジャンヌに詰め寄っていましたね。
そして今日の王妃の話も……処刑の話になると貴女は妙な反応をしている。
まるでその死に納得していないかのように。」
……ジャンヌの時は我ながら冷静さを失っていたと自覚していたが、
今日もそこまで分かりやすい反応をしていたのだろうか。
「私は生前、あなたの事など知ろうともしていない。
あなたにも何かしらの事情があったのかもしれません。
ただ、それでも私の知るあなたは他人の死に、憤りなど感じる事はなかったでしょう。」
「……何が言いたい。」
「あなたは……本当に私の知っているモルガンなのですか?」
「……どう思おうとお前の勝手だが。
私はお前の知るモルガン・ル・フェ。その事実に変わりはない。」
全ての事実を述べた訳ではないが、嘘ではない。
私はこちらの私の記録を有する事になった、あの時から私は
違うところがあるのだとすれば、それはただ境遇の差でしかない。
もしも私がこちらの世界で生まれ育ったとしたら、
「それならば……何故。」
「勘違いしないように言っておいてやろう。
私は私からブリテンを奪った貴様が憎い。私をブリテンから追い出した人間達が憎い。
私を決して王に選ばない人理が憎い。それだけは今も変わらない。」
それは贋作の憎悪なのかもしれないが、紛れもなく私を構成する要素の一つでもある。
「私は全てを失う結末など認めない。受け入れる事などできない。
だから簡単に全てを受け入れているあの聖女や王妃に憤っていただけの事。」
「……」
「これで満足か?お前の知りたかった事には答えたと思うが。」
「……分かりました。今はこれ以上聞くつもりはありません。では。」
そう言ってアルトリアは来た道を引き返していく。
これでまた私の事を信用しなくなるかもしれないが、それならそれでいい。
元々アルトリアと馴れ合うつもりなどないのだから。
――それにしても私が他人の死に憤りを感じているなど的外れもいいところだ。
あの二人の話で憤りを感じたとするならば
それはただ彼女の事を思い出してしまったからだと言うのに。
案外アルトリアの直感とやらもアテにならないものだな、と
どうでもいい事を考えながら私もマスター達の元に戻る事にした。
1~4章は雑な戦闘が多いのでダイジェストでお送りしたいのですが
思ったよりなかなか進まないです……