リヨンという都市は既に滅ぼされており、
そこにはファントムというサーヴァントが街の死者を引き連れていた。
街中の死者を掃討するのは少々面倒だったが、ワイバーンよりは倒しやすい。
ファントムを倒し、竜殺しと呼ばれるサーヴァント、ジークフリートを見つけた。
どうやら複数の呪いを受けているらしく、ジャンヌだけでは解呪できないようだ。
『こりゃあ相当厄介な呪いだぞ……
モルガン、君ならどうにかできないかな?呪いはお手の物だろう?』
「……私を一体何だと?まあ、それなりに扱う事はできますが……
ここまで複雑に絡み合った呪いは私にも解呪できません。
他の者に移し替える事なら可能かもしれませんが……」
そう言って周りを見渡すと、真っ先に反応する者が二人。
「そういう事でしたら話は簡単です。呪いはこのトカゲ娘が引き受けますので。」
「何でアタシが呪われなきゃいけないのよ!?アンタが引き受けなさいこの泥沼ストーカー!」
ここに来る途中で出会った二人組……清姫とエリザベート・バートリーというサーヴァント。
当初は何か争っていたがマスターが仲裁し、なし崩し的に協力関係となった。
清姫はよく分からないが、エリザベートはどうやら敵のバーサーク・アサシンと縁の深い……
と、言うよりもあのカーミラという女吸血鬼の過去の姿らしい。
一体何がどうなればこれがああなるのだろうか?
……それにしても彼女に似ている。と、一瞬思ってしまった事を忘れてしまいたい。
「……それは最終手段にしましょう。いざとなれば私が引き受けます。
聖人がもう一人居れば、この呪いも同時に解除できるのですが……。
どなたか、聖人のサーヴァントに心当たりはありませんか?」
ジャンヌがそう言うと、皆心当たりがないようで沈黙が流れたが
ただ一人、清姫が少し思案した後に口を開いた。
「……わたくし、この国に広く根付いた教えの聖人ならば、一人心当たりがあります。」
「本当ですか!?」
「ええ、エリザベートと出会う前に遭遇しました。
彼の真名はゲオルギウス。こちらでは有名な聖人なのでしょう?」
『ゲオルギウス!聖ジョージとも言われる聖人か。うん、彼ならば文句なしだろう。』
「清姫さん、その人はどこに行ったか分かりますか?」
「残念ですが、わたくしと違う方角に向かったものですから……」
「そうですか……」
「聖人が居るって分かっただけでも十分だよ、ありがとう清姫さん。」
「……まぁ。大して役にも立っていないのにそんな風に嘘のないお礼を言われるなんて……
わたくし、あなたを好きになってしまうかもしれません。わたくしの事はどうか清姫と。」
「そ、そう?うん、じゃあありがとう清姫。」
「お役に立てたようで何よりです。」
……あのバーサーカーは何故か少し危険な気配がするが、少なくとも裏切りや殺意などではない。
マスターに害を成すわけではなさそうなので放っておいてもいいだろう。
「つまりその方を探さないといけないのね。
……まとまって行動する方が安全なのでしょうけど、ここは手分けした方が良くないかしら?」
マリーがそう提案するとアルトリアが同意を示した。
「そうですね、私もそれが妥当だと思います。いかがですか、マスター?」
「うん、私も賛成。手分けしてフランスを探そう。」
「幸いに、と言うのも何ですがフランス領は既に半分以下にまで追いやられているので
探す事自体は容易だと思います。問題はどう手分けするかですが……」
「いい事を思いつきました、今こそくじ引きをしましょう!
こういう時はやっぱりくじ引きよね!アマデウス、作って頂戴!」
「くじを引きたいだけだろう君は。分かったよ作るよ。
この人数なら3グループは作れるかな?」
アマデウスはそう言ってくじを作ろうとしたが今から作るのも時間の無駄だ。
「それなら私が用意してやろう。」
私はそう言って地面に魔術で作り上げた剣を8本突き刺した。
「その剣を引き抜けば赤、白、黒のいずれかの色の炎が浮かび上がる。
白と黒が3本、赤が2本だ。さあ、剣を抜くがいい。私は残った最後の1つを引き抜こう。」
「まあ!こんな素敵なくじ引きを引けるなんて思わなかったわ!」
そう言って真っ先に剣を引き抜いたのはマリー。
剣を抜いた瞬間、刀身が赤く燃え上がった。しばらくすると炎は剣と共に徐々に消えていく。
それを見て他の面々も次々に剣を引き抜いていく。
結果、白を引いたのはマシュ、アマデウス、清姫。黒を引いたのはアルトリアとエリザベート。
そして赤を引いたのはジャンヌとマリー。残る私は黒となった。
戦闘に参加できないジークフリートとマスターはマシュと同じ組だ。
「ジャンヌさん、これはカルデアの通信機です。魔力による念話が可能になります。
これで定期的に連絡を取り合いましょう。」
「分かりました、お預かりします。マシュさんや立香さんもどうか気をつけて。」
「ありがとう、みんなも気を付けて!」
マスター達と別れて数時間ほど経ったか。
道中はワイバーンなどが少々現れる程度で特にこれと言った出来事もない。
アルトリアは戦闘時以外はさっさと先に進んでいくので気にならないが
エリザベートは暇だの疲れた飽きただのと喧しい。
改めて彼女の姿をよく見るとそこまで似ているわけでもないが、どうしても思い出してしまう。
「何よ、さっきからアタシの事チラチラ見てきて。
……あっ、分かったわ!アンタ、アタシのファンなんでしょ!?」
これだけ自分に自信がある自由な生き方を彼女にもさせてやりたい。
……しかし何故かこのサーヴァントをあまり参考にしない方がいい気がする。
そんな事を考えていると突然前方からアルトリアがこちらに向かって叫んできた。
「二人とも!敵です!」
「「!」」
「……Arrrrrrrrr!!」
不気味な声が響いた次の瞬間、
黒い霧に覆われた正体不明の騎士が一直線にアルトリアへと襲いかかる。
「くっ……!」
「Arrrthurrrrrr!!」
アルトリア以外は眼中にないのか、執拗にアルトリアだけを攻撃している。
「どうやら、何か彼の琴線に触れたらしいわね。」
その言葉と共にカーミラが姿を現した。
「アンタ……!」
その姿を見るなりエリザベートがギリ、と歯噛みして彼女を睨みつける。
「まさかお前のような未完成品が現界していたなんてね。
見たくもない自分が居るなんてまるで悪夢のよう。竜の魔女の気持ちがよく分かるわ。」
「好き勝手言ってくれるじゃない!それはこっちの台詞よ!
どうしてアンタなんかがサーヴァントに……!」
「……ふん。自らの罪の結晶を否定するなんて幼稚にも程がある。
お互いに見たくもないものが目の前に居る事だし……殺し合うしかないようね。」
カーミラはそう言ってアルトリアを攻撃し続けている黒騎士を一瞥した。
「さてと。正気を失っている黒騎士に付き合う道理はありません。
そうやって敵を引き付けてくれるのならわざわざ連れてきたかいがあったと言うもの。
ランスロット、精々時間を稼ぎなさい。私がその忌々しい小娘を葬り去るまでね。」
「ランスロット……!?」
名を呼ばれた事に反応したのか黒騎士の動きが止まった。
同時に覆っていた黒い霧が消え、はっきりとその姿が見えるようになる。
あれがアロンダイト……そして湖の騎士、ランスロットか。
ランスロット……私にとっても縁の深い名だ。アレもあの後どうなった事やら。
「Arrrrthurrrrrr……」
「サー・ランスロット……こんな形で再会したくはありませんでした。」
「狂化してなお、貴様をつけ狙うとは。どうやら余程憎まれていたらしいな。」
「……」
アルトリアからの返答はない。
その代わり、ランスロットが再び動き出しアルトリアへの攻撃を再開した。
「アンタ達はその変な奴の相手をお願い!カーミラは、こいつだけはアタシがヤるわ!」
エリザベートはそれだけ言い放つと槍を構えてカーミラと戦闘を開始した。
さっさと数を減らしたいので手を出してやろうかとも思ったが、
あの自分勝手な娘があそこまで真剣にそう言うのなら好きにやらせてやろう。
視線を元に戻すと、アルトリアとランスロットが激しい戦いを繰り広げている。
狂化していても騎士としての技量は健在らしく、下手な攻撃を仕掛けようものなら
大したダメージも与えられないまま、私にも攻撃の矛先が向かってくるだろう。
ならばアルトリアが引き付けている間にこちらの宝具を叩きこんでやる。
とはいえあれだけ激しく動き回られていては回避される可能性も高い。
私はどちらの戦闘にも関わっていない立場を利用して隙を伺う。
そうしてどれだけ時間が経っただろうか。
何度か斬り結んだ後、鍔迫り合いとなり動きが止まった。今が最大の好機だ。
『
「っ!」
私が宝具を放つと同時に、アルトリアはそれを察知して寸前で回避した。
ランスロットも次の瞬間には行動していたようだが、逃がしはしない。
「Gaaaaaaaaa!!」
「残念だ、いっそお前諸共、とも思ったのだがな。」
「あなたが宝具を放つ機会を伺っているのは気付いていました。
……あなたも私に気付かせるつもりで分かりやすく魔力を高めていたのでしょう。」
「……当たり前だ。この程度の事にも気付けないようなら本当に諸共消し飛ばして――」
「Arrrrrrrrr!!」
「何……!?」
私の宝具は直撃したはずだ。それなのにまだ倒れていないのか。
攻撃を行った私を敵と見なしたのか、それとも私がモルガンだと言う事に気付いたのか
アルトリアへと向けていた狂気が全てこちらに向かってくる。
「っ……!」
咄嗟の事で防ぎきれず、一撃を受けてしまった。傷は浅いが追撃を受けたら次は――
そう思った直後、ランスロットの心臓を鎧ごと、剣が貫いていた。
アルトリアが私の後ろから突き刺したようだ。
「……A……アー……サー……」
「……許してください。私は、私達は先に進まなければならない。」
「王……よ……私は……どうか……」
その言葉を最後にランスロットはそのまま消滅していった。
アルトリアはその場所に剣を持ったまましばらく立ち尽くしていたが
やがて気持ちの整理がついたのか一度空を仰ぎ、剣をしまった。
私には消滅する寸前、狂化の消えたランスロットから最期の感情が見えていた。
(……狂気の去った後に心の底からの謝罪と、悔い改め……あの愚か者を思い出させおって。)
血走った眼で私に狂気を向け、私がこの手で刺し殺した私の愛した幼き勇者。
あれも最期はそのような感情と共に消えてしまったが……
忠臣というものは狂気に囚われるとこうなるのだろうか。
私は受けた傷を癒しながら、最後に触れたあの毛並みを思い出していた。
しばらくすると後ろから喧しい声が聞こえてくる。
振り返ると血まみれになったエリザベートが戻ってきていた。
手ひどくやられたのかと思ったが、どうやら大半が返り血のようだ。
「アンタ達、待たせたわね!変な奴の相手をしてくれて助かったわ。」
「いえ。彼は私が戦うべき相手でしたから。……どうやら、そちらも終わったようですね。」
「当然よ、言いたい事全部言ってやったわ。アタシはアンタみたいにはなりたくないって。」
「――。」
過去の自分が未来の自分を否定する……そんな事もあるのだな。
……もしも、かつての私が今の私を見たら何と言うだろうか。
同じように否定されるだろうか。それとも…………
答えは分からなかった。
ちょっとした事ですぐ昔を思い出してしまうモルガン様。