ゲオルギウスを発見したとの報せを受けてマスター達と合流したが
目的の人物を見つけたというのに、何となく皆浮かない顔をしているように見えた。
聞けばジャンヌとマリーがゲオルギウスを見つけたものの
竜の魔女の襲撃に遭い、ジャンヌ達を逃がす為にマリーが残ったらしい。
そのまま帰還しないと言う事は、おそらく消滅したのだろう。
『……けど悪い報告ばかりじゃない。
ゲオルギウスを迎え入れた事でジークフリートの解呪も可能になった。
そしてカーミラ、ランスロットの二騎を退去させている。戦力差は大きく縮まったはずさ。』
「……はい。敵のサーヴァント、そして邪竜ファヴニール。
それらを全て倒す事も可能でしょう。今こそ、オルレアンへ出陣する時です。」
新たなサーヴァントを召喚される可能性があった為、すぐにでもオルレアンに向かう事となった。
オルレアンに辿り着いた時には既に敵のサーヴァントも待ち構えており、
各々が竜の魔女の命令を受けてこちらへと向かってくる。
「あなた達はあの邪竜の元へ。ここは私達が引き受けます。」
ゲオルギウスがそう言って向かってくる敵のセイバーの剣を受け止めた。
「僕もちょっとアイツに八つ当たりしてくるよ、後は任せていいかな?」
アマデウスがそう言って処刑人の元へと向かっていく。
「アタシにここまでさせるんだから、負けるなんて許さないわよ子ジカ!」
エリザベートがランサーと槍をぶつけ合いながら叫んでいる。
清姫もまた炎を放ち、敵のアーチャーからの矢を防いでいる。
「さあ、わたくし達の役目はここまでです。
あなた達はあの邪竜と竜の魔女を討ってくださいませ。」
「皆、すまない。恩に着る。」
ここまで来れば後はジークフリートの宝具でファヴニールを仕留めるだけ。
マスター達は全力でジークフリートを援護し、その宝具を万全の状態で発動させた。
ファヴニールはその光で消滅し、それを見ていた竜の魔女は城へと撤退。
おそらく新たなサーヴァントを呼び出す為だろう。
ジークフリートは残るサーヴァントとワイバーンとの戦闘を援護する為にこの場に残り、
私達は竜の魔女を追って城へと突入した。
「いよいよ、竜の魔女との対面ですね。もはや、何も邪魔はないはず。
……行きましょう!」
最奥へと辿りついた時、そこではやはり召喚の儀式が行われていたが
私達に気付いた竜の魔女はその儀式を中断する。
「……思っていたより、早かったですね。
新たなサーヴァントの召喚は間に合いませんでしたか。」
「……竜の魔女。」
「まあいいでしょう。それならば直接、私の手で葬り去るまでの事。」
「……その前に一つだけ。貴女に伺いたい事があります。」
「今更、問い掛けなど――」
「貴女は、自分の家族を覚えていますか?」
「………………………え?」
それはとても簡単な問いだったが……竜の魔女が固まっている。
「貴女がもし私の闇の側面だとしても。
ただの田舎娘だったあの頃の記憶を忘れられるはずがない。
いえ、忘れられないからこそ裏切りに絶望し、嘆き、憤怒したはず。」
「………………」
竜の魔女は答えない。否、答えられないのか。
そこで私もこの竜の魔女がどういった存在なのかを理解した。
「……やはり、そうなのですね。どのような感情で貴女に向き合えばいいのか。
私にはそれが分からなかった。でもこれでようやく分かりました。」
「何を――」
「怒りでもなく、拒絶でも、ましてや憎しみでもありません。
私は哀れみを以て、貴女を倒します。」
「黙れ!ならば絶望が勝つか、希望が勝つか……
あるいは殺意が勝つか、哀れみが勝つか、ここではっきりさせてやる!」
ジャンヌの哀れみが竜の魔女の逆鱗に触れたのか、苛烈な攻撃が絶え間なく向かってくる。
それに加えてこの狭い城内にもワイバーンが群れを成して襲ってきた。
マシュはマスターを守るのが精一杯のようで、アルトリアとジャンヌも攻めきれていないようだ。
あの黒いアルトリアの時もそうだったが、
聖杯からの供給を利用して宝具を連続で使用してくる相手は厄介極まりない。
「私の旗は敵の攻撃を全て受け止める為のものなのですが……
彼女の旗はどうやら、それを反射する為のもののようです。」
「これでは攻撃ができません!ジャンヌさん、何か手はないのですか!?」
「……宝具を解放し、再発動するまでの間にはわずかな時間がある。
彼女の宝具の発動中にこちらが致命傷となる攻撃を仕掛けられれば、あるいは……」
『無理だ、現実的じゃない!そうするにはあの攻撃を受けながら攻撃をしなきゃならない!
君やマシュの宝具もなしに、あの攻撃を受けきるのは厳しいぞ!』
「じゃあ、マシュが宝具を使ってる間にモルガンかアルトリアの宝具を使えば……」
『駄目だ。宝具の同時発動となると立香ちゃんにかかる負担は膨大だ。
万が一の事を考えたら、そんなリスクのある行動はさせられない。』
「……でも、他に手がないなら。私、やるよ、ドクター。」
アーキマンは反対していたが、マスターはやると言った。
……その目には不安もあったが、決意を固めたようだ。
その意志を見せたマスターに免じて、私も少し危険を冒す覚悟をしよう。
「……その必要はありません。」
「モルガン?」
「攻撃を受けながら宝具を解放するだけなら……その役目は私が引き受けましょう。」
「なっ!?」
何らかの手があるならわざわざマスターに危険な真似をさせる必要はない。
それにあの竜の魔女には私も思うところがある。
多少危険な賭けではあるが、まあ死にはしないだろう。
「何を驚くのです。サーヴァントは所詮使い魔。
こういう時こそ、こうして使い捨てるべき存在ですよ。」
「でも……」
「……マスター。ここは私も前に出ます。
マシュ、貴女は何としてもマスターを守り抜いてください。」
アルトリアが躊躇っているマスターに声をかけ、私の隣に並び立つ。
「……貴様まで前に出てくる必要はないのだが?」
「あなたの事です。何らかの勝算があるのでしょう。
それがマスターを守る事に繋がるのなら、私は全力でそれを援護するだけです。」
「……ならば精々、私の盾となってもらおうか。」
そうして前に出た私とアルトリアを竜の魔女が睨みつける。
「いい覚悟です。あの残り滓の前にまずは邪魔な貴女達に消えてもらいましょう。
憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮を受けるがいい!
降り注ぐ無数の黒い槍をアルトリアが薙ぎ払って撃ち落とす。、
だがその全ては捌き切れず、いくつかの槍が私の身体を貫き、業焔が私の身を焼く。
これが竜の魔女の憎悪か。確かにこの憎悪は身を焦がすほどのとてつもなく強いものだ。
だが……信じていた者に裏切られたその絶望、憎悪がこんなものであるはずがない。
「……本当の怨嗟、憎悪というものがどういったものなのか知るがいい!
「っ!ぐっ……!!」
私の宝具が竜の魔女を飲み込むが、致命傷ではない。
「おのれ……!」
竜の魔女が私への反撃を試みるが、その前にジャンヌの旗が竜の魔女を貫いていた。
「そん、な。馬鹿な、有り得ない、嘘だ。
私は聖杯を所有しているはず……!負ける事などありえない……!」
「終わりです、竜の魔女。貴女はたった今敗れた。」
「私は、まだ……」
その瞬間、どこからともなく触手のようなものが現れ、ジャンヌと竜の魔女を引きはがす。
「おお、ジャンヌ!ジャンヌよ!何という痛ましいお姿に……!」
「ジ、ル……」
「ジル……やはり、貴方が……」
あれはキャスターか?まだサーヴァントが残っていたか。
どうやら、ジャンヌの知己であるようだが。
キャスターが何事かを伝えると、竜の魔女は安堵の表情を浮かべて消滅していった。
「お初にお目にかかりますな、皆さん。私の真名はジル・ド・レェ。
そしてお久しぶりです、ジャンヌ・ダルク。」
「貴方は、聖杯の力で
「もちろん、私は貴女を蘇らせようと願いました。当然でしょう?
……ですがそれは叶わなかった。万能の願望器でありながらそれだけは叶えられないと!」
先程まで穏やかな口調だった男が突然激昂し、叫び始めた。
「だが私の願望など貴女以外にはない!
ならば私が信じる聖女を!私が焦がれた聖女を!新しく造り上げる事にしたのです!」
やはり竜の魔女はジャンヌの別側面などではなかったようだ。
あれはこの男がそうであってほしいと願ったジャンヌの姿だったのだろう。
……私もかつて善良そのものであった彼女に悪逆、残忍に生きろと願った事がある。
例えそれが彼女の本来の性質を歪める事になっても。
本来の彼女とかけ離れた存在になったとしても。私は彼女に生きていてほしかった。
だから大切な存在を歪めてでも、という気持ちは分からなくもない。
「さて……我が聖女の願いを叶えなければ。
まずはフランスを救わんとする貴女方を一掃しなければならない。
我が宝具にて呼び出す異界の悪魔がお相手致しましょう!」
キャスターが手にしている本から魔力が発したかと思うと
突然、地上から巨大なおぞましい生物が城を半壊させながら姿を現した。
『巨大な魔力反応!何だこれ……とんでもない大きさだ!』
「何これ……タコの足みたいなのが!?化け物……!」
マスターも今までにないほど恐怖を感じているようだ。
どちらかといえば見た目のせいであるような気がしなくもないが。
「……これは。確か、海魔と呼ばれている悪魔……!」
アルトリアも嫌悪感を隠そうともしない。
「ジル!もう止めてください!
例え私を蘇らせたとしても、私は竜の魔女にはならなかった!
私はこんな事を望んでいません!」
「……貴女は赦すだろう……しかし私は赦さない。
神も!王も!国家とて!滅ぼしてみせる!殺し尽くしてみせる!
それが聖杯に託した我が願望!」
キャスターが海魔へと取り込まれながら叫ぶ。
「我が道を阻むな、ジャンヌ・ダルクゥゥゥッ!」
「ジル……!」
『とりあえず撤退だ!その城は崩壊する!一旦下がって他の皆と合流するんだ!』
「……分かりました!」
マスターを抱えたマシュと共に、私達は崩れ始めた城から脱出する。
振り返るとそこには城の全てを飲み込むほどの大きさの生物が蠢いていた。
そういえばカルデアが退けたというノリッジの厄災はこれと似たようなものだったか?
と、どうでもいい事を思い出しながら、マスター達を追って城を離れた。
次回でオルレアン終了です。第二と第三はもう少し短めの予定。