昔の話をしようと思う。
私はベテラントレーナー。
ポケモンと切磋琢磨し、ポケモンバトルで発生する賞金を日々の糧にしているポケモンバトルのプロだ。
この職業であり続けるには実力は必要不可欠であり、気力、体力共に相当なものが必要となる。
しかしながら私はよる年波に抗いきれなくてね。
若い頃に出来た無理も最近は出来なくなってきてしまったんだよ。
そこでそろそろ引退を考えていて、久しぶりに負けたし人生を振り返る良い契機かなと思ったんだ。
だからそこの私を負かした君。
そんなに面倒くさそうな顔をせずに聞いていってくれたまえ。
昔の話と言っても掻い摘んで話すからそこまで時間もかからない筈さ。
ここから南、森林地帯はわかるかい?
あの人の手が一切入っていないような鬱蒼とした森さ。
私はあの辺りにあった小さな集落の産まれでね。
今は獣道ぐらいしか残っていないあの場所だが、確かに私の故郷なんだ。
その集落には不思議な言い伝えがあってね。
なんと、昨日入った森が今日には姿を変えているんだそうだ。
後に詳しく調べたのだがこれははっきりとした事実で、実際に最近撮影された衛星写真と3年前に撮影された写真とで見比べたらよく分かるんだが、丸っきり森の配置が変わっているんだ。
ほら、実際に見てみると良い。
この岩場が半ば森に飲み込まれた上に、沼地になっているだろう?
ここまでの変化は珍しいのだが、昨日まであった一本道が蛇行していると言う事も珍しくないのさ。
子供の頃の私はこれが大層不思議で仕方がなかったんだ。
親は説得しようにもこんな面倒な森にわざわざ連れて行くほど暇じゃあ無かったし、外出を厭う性格だったからね。
なんで、どうして、と聞いて回っても森のポケモンが悪さをしているとしか答えてくれなかったし、しまいには自分で調べろと言われてしまってね。
つい反骨心と好奇心が危機感を上回ったのさ。
そこからの行動は今の私から見ても早かった。
その日の夜の内に外泊用のリュックに入るだけの食べ物と小道具を詰め込んでから休んでね。
朝日も登らない時間帯にたまたま集落の近くで修行をしていためっぽう腕の立つ野生の知り合いのダゲキをきのみで護衛にして、森に入って行ったんだ。
数十年経った今でも私は良く覚えている。私にとってそれは、たった一人での初めての遠出だったんだ。
木々の朝露に濡れながら、道なき道を進んで行く。
今でこそ修行の為に頻繁に行う事だが、わざわざ悪路を選ぶのはこの時の経験からだろうさ。
なにせ当時の私は身体の出来上がっていない子供。
木漏れ日を眩しく感じる頃にはすっかり体力を使い果たしてしまってね。
そんな事もあって途中に何度か休憩を挟んで、慣れない命令で偶に野生ポケモンを迎撃させながらも先に進んだんだ。
あの時のダゲキは本当に良くやってくれた。
森に入った経験の無い子供の露払いをしながら適切に休憩を勧めて長く歩けるよう気を使ってくれていたんだ。
相当な苦労をさせてしまっただろうがとても心強いポケモンだったよ。
こんな風に進んでいくと昼前辺りに小さな湖にたどり着いてね。
そこで今のエース、インテレオンに出会ったんだ。
木陰に身体を横たえて、浅い息を繰り返した、インテレオンとね。
本当に焦ったよ。
このあたりでは見たことも聞いたこともないないポケモンが苦しげに倒れているんだ。
いきなりの事にそれまでの目的を忘れて駆け寄ったのだが、それはもう酷い傷だった。
全身にいくつも擦過痕があってそれに加えて腹部に強烈な打撲痕があった。
我を忘れて手当しながらオボンの実を口にねじ込ませて少しでも傷を癒やそうとしていたよ。
三つ目のオボンの実を口にぶち込んだあたりでインテレオンが目を覚ました。
太陽が天辺を通り越していくらかたった位だったかな。
それで少し距離を置けば良かったのに、あろうことか、そのポケモンが目を覚ました事が嬉しくて思いっきりハグをかましてしまったんだ。
ははは、今でもハグをしようとしたら避けられるぐらいだから、相当に強烈なハグだったんだろうね。
まさに動画で見たケロマツを踏んづけたような声を上げていたよ。
うん、今は反省しているよ。後悔は無いけどね。
抜け出して逃げようとするインテレオンを宥めること少々、しばらくすると近くないが遠くもない重い足音が響いてきたんだ。
明確にこちらを目指しているようでは無いが、しかし何かを探すような慎重さ。
戦いの先触れが如く周囲に舞い始めた砂。
尋常ではない怪物が近付いてくるのを本能で予期した。
そして、それに呼応するように立ち上がろうとするインテレオンは、確かな闘志を目に宿していた。
このポケモンは、この足音のヌシと闘い、この重傷を負ったのだとわかる。
日常生活ではまず感じることの無い足音から感じる敵意。
子供の身体でも渾身の力で静止すれば崩れ落ちそうな身体で、しかと足音を見据えて立ち上がったインテレオンの姿は今もこの目に焼き付いている。
あぁ、焼き付くというのはきっと比喩では無いだろう。
私に直接向いていないにも関わらず、心身の根底から抉り躙り潰すような凶悪な敵意を一身に浴びて尚闘志を燃やし死力を尽くして闘おうとする姿。
たとえ負けるとも、たとえ抉り躙り潰されようとも、その魂は絶対に折れることなどないとこの童の心に焼き付いたのだ。
そして、愚かにも私は考えてしまったのだ。
───なんとしても、私の所持するなにに替えても、絶対に、これが欲しいと。
考えてすぐに後悔をした。
この瞬間は何にも保存できず、このポケモンの覚悟もこの場限りのものだろう。
永遠に見ていたいが、順当に行けば間違いなくこのポケモンは負けて死んでしまう。
ならどうするか。
答えなどわかりきったことだろう?
───私という異物が、その順当を覆すのだ、と。
おっと、長い前置きにも飽きただろう。
結論を言ってしまうと、インテレオンと私で協力して闘い、そして勝利を収めた。
ただし瀕死の寸前で護衛のダゲキに救われるという形でね。
締まらない話さ。
なかば相打ちで相手を瀕死にしながら、私もインテレオンも倒れゆく大木から逃げる力をも使い果たしていたんだ。
そこに現れたダゲキが木を一撃で文字通り木っ端微塵に砕きながら呆れた顔をしていたよ。
最初からダゲキを頼っていればそれだけで相手を退けることができたんだ。
そりゃあ、呆れるのもよ〜くわかる。
帰る力も使い果たしたら冒険じゃあないし、ただの無謀でしかない。
だかしかしこの勝利は私にとって初めての勝利だ。
それだけで良い気分になって大笑いしてインテレオンに抱きつくのもしょうがないだろうよ。
あぁ、うん。
この後はダゲキにインテレオン諸共背負われて家まで直行したよ。
その後インテレオンはポケモンセンターに入院して、私は親にたっぷりと絞られたわけだ。
親も説教の後に呆れていたよ。
なんて無茶をしたんだ!って言われた所に胸を張って一切の後悔などない!と宣言したんだから無理もない。
ついでに、あのポケモンは俺のだ!家で飼わせてくれ!って言い放ってしまえばもう完璧。
敢え無く説教の延長さ。
ははは。ああ、勿論反省はしたとも。
ただ後悔は無いけどね、もっと良い指示を出せたのではないかと今でも夢現に考えることがある。
おっと話がまた逸れた。
説教の後は付きっきりでインテレオンの看護をしてね、起きた瞬間熱烈にスカウトを仕掛けたよ。
それはもうジョーイさんのタブンネに追い出されても窓の外から大声で続けるほど。
実は最初の一言目でインテレオンは了承していたらしいんだが生憎察しが悪くてね。
断られる先入観が強くて断られたんだと思い込んだのさ。
結局快諾されたと気づいたのは退院してからで、そこからふたりで親に頼み倒して晴れて私の家族になった訳だ。
これにて私のトレーナーになった切っ掛けはおしまい。
何か質問があれば受け付けるぞ?
さぁ、私の知ってる限り何でも答えよう。
なに?さっき戦った手持ちにダゲキはいなかったがその後はどうなったか?戦ってみたいだって?
あいつはあの後そのまま旅に出てしまったんだが、偶に旅先で会うことがあってね。
強いやつを探して武者修行の旅をしているのだが、何年かに一度別の地方に行く為に旅行券を取るんだ。
私の名義で勝手に予約を取るのはまだ良いんだよ。
返しきれない恩があるからそれくらいまだどうってことはないさ。
問題は旅先ではゾロアを頭に載せて私に変装しているから街中で偶然会ったときにとても気まずいんだよなぁ…
パソコンの渡航履歴だと今はアローラにいるはずだけど、どこの島にいるかまではわからないよ。
連絡手段はないがそろそろ帰ってくる気もするしイッシュへの渡航履歴がついたら一報入れようか?
いらない?そうか。
まぁ良いだろう。
君の旅先で私と同じ顔をしたやつがいたらそのダゲキかもしれないから対戦を申し込むと良い。
長々と付き合わせて済まなかったね。
さてこれはお礼だ。
とても珍しいキノコだからショップでおこづかいになるだろうさ。
家に植えていたものだが今年は豊作でね、おすそわけだよ。
君の旅路も実り多きものであるよう祈っておくよ。
───ベストウイッシュ、良い旅を!