薄紫と白の二色の生地で作られてエプロンドレスを着て、頭にはピコピコと動く機械で出来たウサギの耳をつけた女性。
世界にインフィニット・ストラトス。通称―――ISを開発してバラまいた張本人。天才にして天災と呼ばれた女性、篠ノ之束は暇を持て余していた。
「あ~、ひま、暇だよ~。なにか面白い事ないからな」
指先でタッチパネル式のディスプレイを動かしながらパソコンを通してネットサーフィをするが如く世界中の人工衛星や軍事衛星のハッキングにしゃれ込んでいた、束はある映像が目に飛び込んできた。
「これってISじゃないよね……形的には
EOSとは、国連がISを真似て作ったパワードスーツの事だ。あってないようなパワーアシストに重たすぎる機体、
「これはちょーと面白い事が始まる予感だよ!」
束はそう言いながら大急ぎでキーボードに指を走らせ、ネットの中からディスプレイに映っている機体の詳細を調べ始めた。
@ @ @
聞こえてくる叫び声と銃声。
家屋が燃えて立ち上る煙と鉄錆など、いろんなものが混ざった変な匂いが呼吸する度に匂いたつ。
この町は国にとってゴミ捨て場のような場所だ。
高度経済成長期。都市部が急激は発展を遂げたのに対して、どうしても国の資金が足りず後回しにしまう部分は多々あった。貧民街、ゴミ処理場、汚水の廃棄場、それらを一まとめにして管理しようとした結果、この町が生まれ、そして国にとって都合の悪い人物や都合の悪い代物を隠し、時には処理する場所として町は存在し続けてきた。
それもISというものが生まれ変わった。
戦闘機や戦車は、ISの前では兵器としての機能は果たせず、女性しか動かせないという理由から増長した権力と金を欲する女性たちにより女性権利団体が設立され、時には、罪もない男性や逆らった女性ですら逮捕される事もあった。
そのほか多くの問題を見て見ぬふりをして権力と金を欲する政治家に科学者によってこの町どころか、国はすでに腐っていたが。ついに国は、町を更地に変えてIS関連の工場を建てるために町を住民も含めて大掃除を実行に移した。
何人もの濃緑色の装甲をしたISは、まる掃除でするかのように手に持った銃火器の銃口を住人に向けて引き金を引いた。
発砲音と共に対IS用の弾丸が放たれる。
あちこちから拾ってきた木材で作られて掘っ立て小屋など一発当たるだけで壊れ、人間に当たれば紙きれのようにその人体を破壊した。
その身を盾にして我が子を抱える父親、子供の手を引っ張って逃げる母親、兄弟なのか小さい子供同士が手を握って短い足を動かして逃げている後ろ姿を躊躇なく彼女たちは撃った。
その町の片隅、木の壁にトタンの屋根の手作りな小屋の中で少年は、ゴミの山から拾ってきた旧式のパソコンからケーブルが伸びた先、全身装甲に改造されて元EOSに大急ぎでデータを入力していた。
「動け!動け!動け!今、動かなきゃどうするんだよ、ガラクタ!」
誰もいない部屋の中で、少年は自分に言い聞かせるように叫びながらキーボードを指で弾く。
画面に表示される文字の羅列。
――イブの心臓 接続――
――接続・完了――
――イブの心臓・起動――
――起動・確認――
――機体・確認――
――機体・起動――
――起動・確認――
――システム問題なし――
――正常に起動中――
――機巧殻・試作1号・装着可能――
画面に表示されて心臓部分である少年が開発した『イブの心臓』の起動確認の文字と機体名。
起動の文字を見るなり、大急ぎで機体の傍に走り寄る。装着者を受け入れる為に、大きく開かれた機体に背中を預けるように、機体を上着を着るかのようにゆだねると機体は、少年を受け入れた。
上に上がっていた胴体部分が下に降り、脇腹、横腹と順に背中側の装甲と接続していく。
少年の身体が機巧殻に覆われると同時に命が吹き込まれるように、フルフェイスの目の部分に光が灯った。
機巧殻を装着した少年は、掘っ立て小屋の壁を突き破り勢いよく外に飛び出した。
少年の目の前に広がる光景はまさに地獄絵図というべき光景だった。
地面には、バラバラになった死体ばかり。いくつも密集して立っていた小屋はゴミの山となり。生きている人間を見つける事すら難しいと言える状況だった。
「なんだ、あれはEOSか?だがEOSに全身装甲はないはず」
一人のIS乗りの軍人が少年を発見して銃口を向けながらISでもEOSでもない存在に疑問を抱き、警戒しながら近づいていく。
「住人は全員、殺せという命令だ悪く思うな」
そうするのが当たり前だと言わんばりに銃の引き金をIS乗りは引いた。
ダダダダダ!とマズルフラッシュと銃声を上げながら一発で人体を容易に破壊できる銃弾が放たれる。
当たればいくら機巧殻を身にまとっている少年であっても無傷では済まないだろう。だが、EOSには元来備わっているパワーアシストが強化、常時発動できるエネルギー源があったならどうなるか。
結論は簡単―――銃弾に当たりはしない。
機巧殻のエネルギー源たる『イブの心臓』からのエネルギー供給によって限界まで稼働しているパワーアシスト機能。一歩で数メートルを移動可能となった機動性を有する機巧殻に銃弾は追いつくことは不可能だ。
「当たるか!」
素早く物陰に隠れ、銃弾を回避。
足元に転がっていた恐らく家の壁の一部だったであろうコンクリートブロックをつかみ取り、物陰から飛び出すと同時にフルスイングで軍人の頭部目掛けて投げつけた。
軍人も素早く回避しようと体をずらすと同時にもう一つの飛来物を確認した。
木材である。
家の壁を作っていた木材、それも細く長い木材をコンクリートブロックを投げつけた後で素早く投げつけた。
コンクリートブロックよりも軽く、空気抵抗の受けない木材は先に投げたコンクリートブロックと大差なく標的たるIS乗りに衝突する。
「ぐっ、舐めるな!」
一発目のコンクリートブロックは回避、二発目の木材は受けてしまったがISの標準機能たるSEによって防御された。所詮は対IS用の武器ですらないのだ、一発、二発の木材の投擲を当てた所で行動不能にするには威力が足りない。
素早く体勢を立て直した軍人は、少年が再び姿を隠した半壊だった家屋に追い打ちとばかりに銃弾を撃ち込んだ。
家は数発の銃弾で完全に砕け散り、素材として使われていた木材の破片やコンクリートの破片、家の中にあったであるラジオ、服などいろんなものが飛び散るが人影は見えない。
いくら暗がりだと言ってもハイパーセンサーによる暗視機能を搭載したISに人型サイズの大きなものを見逃すなどありえない、と軍人は辺りを見渡すが人影らしきものは見当たらない。逃げたか、僅かに気を緩めた……そして、それが隙となった。
「くらいやがれ!」
――ゴンッ!――
軍人の後頭部に走った衝撃。
「ッ!」
ISの絶対防壁と言えど完全に衝撃を無効化することはできず、少なからず衝撃は装着者にも伝わる。
がん、と頭から地面に倒れこんだ軍人は、意識を失い動く気配はなかった。
倒れた軍人の手から銃火器を奪い取り、そのまま別の場所でゴミ掃除に勤しんでいる軍人の元に走った。
機巧殻を装着し始めてから時間が経つと次第にフィット感が増していく。
手足の動きにも違和感はなくなり、動きもスムーズになっていった。
姿勢を低く。裏道を縫うように抜け駆け抜けて獲物を狩る獣のように進んでいく。
すでに手遅れだろう、生きている人間などいないかもしれない。それでもここにいる奴らを倒さなければいけない、そう少年は感じた。
生まれてから育った町。いい事ばかりとは言い難いがそれでも好き勝手にされるのは我慢ならない。
「こちらアルファ!ベータより通信があった未確認機を発見。なによあの動き方まるで獣じゃない!」
家と家の間、裏路地、屋根の上など縦横無尽に駆けて次第に近づいてくる敵の姿は、恐怖以外の何者でもなかった。
銃で反撃しようにも予想できない動きについていけず、銃弾は数秒前に少年のいた場所に銃痕をつけることしかできない。
自分と少年が一直線になった時、軍人はもらった、と思った次の瞬間、目の前に銃を構えた少年の姿があった。
「なっ、
「ゼロ距離なら!」
軍人は、少年の異常な加速をISの加速機動技術『
少年は、銃口をISの装甲にギリギリまで近づけ引き金をフルオートの状態で引いた。
ダダダダダ!と絶え間なく弾丸が発射され、ISのSEの数値を凄まじい勢いで減らし。そして数値は“0”を表示した。
装着していたISは強制的に解除された。
「大丈夫。対IS用の武器だから痛みは感じないさ」
「や、やめ」
投げでされるように地面に転がった軍人が最後に目にしたのは、鈍い光を瞳から放つ不気味な人型の機械だった。
潰れてトマトというよりは、ぶっちゃけた生肉と表現すべき光景ではあるが。この町に住んでいて人間の死体など見飽きた。
「あと一機、残っているはずだけど」
「その一機ならこれだぜ」
声の聞こえてきた方向に目を向けると宙に浮かび。軍人が身に着けていたISとは別の機体を装着した女性がいた。その片手には、生身の人間の首を掴み、まるで子供が人形を投げ捨てるように掴んでいた人間を投げ捨てた。
地面に転がった女性は、すでに息絶え死体となっている。
「誰?」
「まあ、そうなるわな」
銃を向けて軍人とは違う所属だろう人物を質問を投げかける。
それに対して女性は、その行動が当たり前だとばかりに機嫌よさそうに頷いた。
自分と同じ全身装甲のIS。
カラーは赤紫。
背中から伸びる複数の腕と尾骨辺りから伸びる尾が蜘蛛を連想させる。
「目撃者が処理しねぇーといけねんだわ」
両腕と背からの伸びる二腕一対が合計で六対、全ての腕を合わせて八本の腕に搭載されて銃口がすべて此方を向く。
「悪いな」
ダダダダダダダッ!
マシンガンのように連射される弾。
砂煙が辺りに立ち込め、周りにあった家屋などは完全に破壊されつくした。
「楽な仕事だ…」
だったぜ、と口にしようとしてその言葉は出てこなかった。
なにせ、視線の先にはまだ謎の機体が立っていたからだ、それも傷一つもなく。
「おいおいおい、どうなってやがる?いくらSEが搭載されていてもあれだを防ぐなんて不可能だろ?」
「無事に動いてくれて助かった」
機巧殻の動力源は《イヴの心臓》ではあるが、同時にある一つの心臓には一つだけ特殊な『機巧回路』という機能が搭載されており、それはISの第三世代に搭載されている
いうなれば機巧殻は、ISでいうところの第三世代に近い機能を発揮する。
機巧殻・試作1号の『機巧回路』は《空間切断》。
発動時間は僅か十秒という制限はあるもののこのように弾丸の嵐を凌ぎ着ることも容易く。そして―――。
ゆっくりと手刀の形にした腕を空に掲げ、振り下ろした。
空間同士の繋がりが切れれば、それは壁となる。ならば、その切られて空間に存在している物体はどうなるのか……答えは簡単だ。
―――真っ二つになる。
地面、機体の背から伸びていた三本の腕、空に浮かんでいた雲。
前方に広がっていたものに一線を引いたようにすべてが切断された。
「!クソが、どんな能力だ!SEが一瞬で半分以上消し飛びやがった!」
気づいた時には、腕がなくなっていた。
それもそのはずだ。
空間切断の攻撃は不可視。
動きから攻撃の対象や先を先読みする以外の方法はなく、壁や盾などの守りも空間自体を切断した結果、そこにあるものの一緒に切られているだけにすぎない以上防御不可能。
再び、腕を空に伸ばし二撃目の準備に入る。
「チッ!二発も食らったら死んじまう!」
身を翻し、腕を切断されてISは飛んで逃げて行った。
姿が見えなくなったのを確認すると、ゆっくりと腕を下ろした。
「セーフ、ほんとは一発目で『機巧回路』効果時間切れてたんだよね」
初期の計算では『機巧回路』の効果は常時発動だったが、機体本体への負荷が強すぎて十分に減り、一分まで減少し、最後には発動時間十秒という雀の涙ほどしか残らなかった。
まだまだ、発展途上の機能なのである。
「とりあえずは生き残ったかな」