亡国のガリバー   作:ふーじん

6 / 6
06

 □レジェンダリア

 

 東部領域にて巻き起こった【山竜王 ドラグマウンテン】の討伐劇は数日の後に中央議会の知るところとなり、その下手人であるエクスは間もなく指名手配された。

 罪状は()()()()()()()()()()()()()()というもの。

 長年に渡ってレジェンダリアに利益を齎してきた【山竜王】産の固有資源の数々、それが永久に失われたことを議会は痛打と認識し、加えてその犯人が歴史の闇に葬った巨人種族であったことからこれを議会への反逆とも捉え、その罰則は()()()()()()にまで至った。

 ともすれば些か過剰にすぎる措置ではないかという声も少数上がったが、()()()()()()()()()()()()()()という一点のみで情状酌量の余地は封殺され、その決議は可決される。

 疑問の声を上げた一部の者たちにとっても、議会と波風を立ててまで論争する議題でもなかったためにやがて追認し、かくしてエクスは公共の敵(パブリック・エネミー)となった。

 そしてエクスはその措置を半ば諦めたように釈明も無く受け入れ――()()()()()

 

 エクスにとって指名手配自体は最早どうでもいい。

 しかし看過できなかったのはただ一つ――彼らが巨人(自分)を侮ったことだった。

 

 彼らは言う。

 「所詮は弱小部族。生き残りがいたことは驚いたが、ようやく掃除が終わっただけだ」

 「今更絶えたところで政治になんら影響は無い」

 「しかしそんな連中のせいで貴重な資源が永久に失われたのは許し難い」

 発表された声明は政治家らしい修辞に飾られてはいたが、つまるところ意図はそのようなものだった。

 誰も彼も一種族の滅亡をどうでもいいものと捉え、欠片足りとて顧みていない。

 哀悼の意を示す者はなく……最早彼らの主観の中に巨人種族というものは存在していなかった。

 

 それもこれも巨人種族が()()()()

 だから遺された最後の巨人(エクスガリバー)は、そんな連中を()()()()()()()と思った。

 

 ◇◇◇

 

 新たな指名手配犯の登場は、当初然程注目されていなかった。

 元よりレジェンダリアは七大国家で最も多数の指名手配犯の<マスター>が存在する国。

 またどこぞの変態が馬鹿をしでかしたのだろうという程度に受け止められ、誰も真剣には考えていなかった。

 【山竜王】という古代伝説級<UBM>が討たれたことも、千差万別の<エンブリオ>の力を以てすれば不可能事でもない。

 精々賞金稼ぎやPKをメインとする者たちが興味を示したくらいで、大多数にとって事件のことは蚊帳の外だった。

 

 ――故に、その襲撃は青天の霹靂だった。

 

 速い、と知覚すらできなかった。

 大きい、と視認する間もなく接近された。

 一体何が、と判断する時間すら許されず蹂躙された。

 

 全長三〇〇メテル超の巨人が、明らかに敵意を湛えてそこに立っていた。

 かつて街だったものの瓦礫を踏み越えながら、尚も執拗に街を踏み潰していく。

 振り子のように垂れ下がった両腕を振るえば、触れる端から何もかもが破壊されていった。

 かろうじて初撃を免れた者は応戦しようと立ち向かったが、あまりに隔絶した大きさと強さ(スケール)に一矢報いることすらできず、塵芥のように粉砕された。

 

『あたしは強い! あたしは強い!! 巨人(あたし)は強いんだ!!!』

 

 そうして蹂躙した後、巨人は勝ち誇るようにそう叫んだ。

 己の大きさと強さ、それを知らしめるように、声の届く限り叫び、勝利を誇る。

 

『ざまあみろ! あたしのほうが強い!! 文句があるならかかってこい、どっちが弱いか教えてやる!!!』

 

 そこで巨人の足元を這う小さな生き物たちはようやく理解した。

 この大きな生き物は、ただ蹂躙と勝利を叫ぶためだけにこの破壊を齎したのだと。

 

『小さいくせに! 脆いくせに! 弱いくせに! あたしの姿を見ろ! あたしの声を聴け! あたしの名前を思い知れ!!』

 

 あまりに身勝手で一方的な、癇癪のような大破壊。

 足元を蟻のように這い回って逃げ惑う人々を踏み潰しながら、白銀の巨人は顕示するように轟き叫ぶ。

 

『あたしは――【巨人王】エクスガリバーだ!!!!』

 

 荒れ狂う巨人を阻む者は遂に現れず……そして一つの街が地図から姿を消した。

 かつての営みの名残を示す、瓦礫の山を巨人の足跡として残して――。

 

 ◇◇◇

 

 かくしてレジェンダリアに新たに生まれた災害。

 "地均し"と仇名される、無作為に、無思慮に、妖精郷を徘徊しては破壊を齎す最後の巨人。

 それはあまりに稚拙な誇りを満たすためにあらゆるものを()()()()――世界最大の人間範疇生物(個人)だった。

 

 

 Episode End




お待たせして申し訳ありませんでした。
短いですが最終話です。これにて本作「亡国のガリバー」は完結となります。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!

以下、余談。

◯【巨人王】エクスガリバー
(・3・)<推しの喪失に問答無用の指名手配が重なりタガが外れた結果、悪堕ち
(・3・)<元々巨人種族へのあれこれに関して議会へ不審を抱いていたのもあります
(・3・)<所謂ひとつの「無敵の人」モード、完全に開き直りました
(・3・)<悲しんでくれる人たちももういないんでストッパーもいない
(・3・)<現在の目標はズバリ「最強になること」で
(・3・)<ベルーゲルの遺言が彼女の中で変に捻じくれてしまったようです
(・3・)<そのために見境なく経験値を荒稼ぎするワンダリングモンスターと化しました
(・3・)<超ギガボディモンスターが雑に経験値稼ぎするような感じです
(・3・)<あと巨人種族を馬鹿にするやつ絶対殺すウーマン

(・3・)<やってることはすげー噛ませ臭いですし、何かの拍子にあっさり死にそうではありますが
(・3・)<もしも<超級>に進化して、<デザイア>に勧誘されるようなことがあれば
(・3・)<"顕示欲"とでも名付けられるんじゃないでしょうか

◯中央議会
(・3・)<こんくらい黒いっていうか、薄情でも許されると思った

◯【山竜王 ドラグマウンテン】
(・3・)<全ての元凶(でも本人にその意図は全く無い)
(・3・)<なんもかんも<アクシデントサークル>が悪い
(・3・)<基本的に限りなく無害に近い存在なのに、やむなしで因縁を吹っかけた先が最悪だった
(・3・)<全ての元凶ではあるが、ある意味最大の被害者とも言える

(・3・)<余談ですが彼から得た特典武具は【山如睡命 ドラグマウンテン】という
(・3・)<天蓋付きの超巨大サイズベッドです(縦横五メテル超)
(・3・)<効果はこのベッドで眠るとHP・MP・SPの自然回復速度が物凄く早くなる
(・3・)<またHPの回復に合わせてゆっくりとですが状態異常も回復します
(・3・)<日頃山に擬態してリソースを獲得していた能力がアジャストしました
(・3・)<指名手配のせいで回復や治療を頼れる先もなくなったので
(・3・)<オフモードでは野外にこれを設置して眠りながら回復してます

(・3・)<世界一豪華なベッド
(・3・)<どっかの魔王が血の涙を流して欲しがりそうな特典武具かも(

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。