プロットからずーーーっと考えてました。
やっと決まったので良かったです。これでもっと、かっちゃんと交流させられるぜ!
みなさん感想、誤字報告ありがとうございます!
症状が軽減したのは、それから15分後のことだった。
通報を受けて駆けつけた警察が慌ただしく動く中、私は麗日に支えてもらいながら、他のクラスメイトが待つUSJの外へと向かっていた。
「もう大丈夫ですよ、ありがとう麗日」
「ほんと? 無理してへん?」
「うん、この通り平気です!」
眉をハの字にして心配する麗日にアピールすべく、その場で軽く飛び跳ねる。うん、嘔気もめまいも感じない。
「私も〝個性〟の反動でよく吐いちゃうから心配したよ〜。移ちゃんも同じやったんやねぇ」
「あー、さっきは慣れない使い方をしましたからね。でも、プロになったら今回みたいなこともあるでしょーし、訓練してかないとですね…」
私が普段【
USJや校舎のような複雑な地形で何十、何百人を一斉に調べるような使い方をすると、頭痛にめまい、嘔気などが生じる。かと言って、普段の使い方では全てを探知するのに時間がかかり過ぎてしまう。時間と自身の体調、どちらを優先するか天秤にかけて、今回は時間を優先したということだ。
対象を絞った場合の探知時間の短縮について〝個性伸ばし〟をしていたところだったが…、今回の件で新たな課題が見えて来たな。
「でもでも、移ちゃんのおかげで先生たちが駆けつけてくれたんだよね! あの靄の時も助けてもらったし、ほんとありがとう!」
葉隠が(多分こちらの顔を見て)言った。今は探知してないから表情はわからないが、多分あの傾国の美少女顔で微笑んでいるのだろう。手袋の動きと声だけでこんなに可愛いのだから、葉隠が透明じゃあなきゃ、私のハートは撃ち抜かれていた筈だ。危ない危ない。
USJから出ると、
「あの、緑谷はまだ来てないんです?」
集団の中に緑谷がいないことに気付く。私たちが最後かと思っていたが、彼はまだ来てないようだった。
「ケロ…実は緑谷ちゃんは先に保健室に運ばれたのよ」
気落ちした声で梅雨ちゃんが言った。
どうやら、私が増援を呼びに行っている間に彼は例の〝逃げた2人の
それから私たちは、トレンチコートを着込んだ塚内という警部から安否の確認をされ、相澤先生や13号の容体を伝えられた。
相澤先生は両腕の開放骨折と眼窩底骨の粉砕骨折が特に酷いようだ。頭蓋内の出血はなかったようだが、目が命の〝個性〟の先生に後遺症が残らなければいいが…。
13号は既に治療を終えたらしく、背中から上腕の裂傷があったがリカバリーガールの【治癒】で対応可能だったらしい。私が
──ああ、そうだ。あの霧の男。随分と特殊な〝個性〟のようだったが、同じ【ワープ】系〝個性〟として気付いたことがあったんだった。
塚内警部は、私たちの事情聴取は後にすると言っているが、取り逃した
塚内警部に促されてバスに乗り込むみんなに一声かけて、私は彼に近付いた。
「あの、塚内警部。逃げた
「ん? どうしたんだい? キミは…」
「空戸と言います。霧の男…【ワープ】の〝個性〟の男と相対した時に同じ系統の〝個性〟持ちとして気付いたことがあるんです」
人の良さそうな顔をした塚内警部は、
取り合ってくれると判断した私は、続きを報告する。
「奴は数十人を一度に移送していました。それも、少なくとも雄英の敷地外からという長距離を目視せずにです。体を霧にして広げるという性質に関してはよくわかりませんが、奴の【ワープ】する条件については推察ができます」
「……それはいったい…」
「恐らく、奴は【ワープ】する時に正しい座標を知っておく必要がある筈です。
世間的に希少と言われている【ワープ】系の〝個性〟。その有用性に反して実用的なレベルに扱える者は少ないと聞く。同じ系統の〝個性〟でも発動条件はそれぞれ違い、私のように範囲内であることが条件だったり、移送先が特定の物や人に限定されたり、マーキングが必要だったりと多岐に渡る。今回は、
塚内警部は顎に手を当て、「なるほど…」と呟くと暫く無言で考え込んだ。
「…ありがとう。あれほどのことを仕出かす奴だ、恐らく個性届けを偽装しているだろうから捜査は難航すると思う。でも、必ずキミの情報を役立ててみせるよ」
「協力感謝するよ」と言って握手を求めてきた彼に、私も笑顔で応える。なんともまあ、好感の持てる男だ。警察という手堅い職業だし、さぞモテるのだろうな。
「──しかし、いくら同じ系統と言ってもよくわかったね。
おおっと、そんなに褒められても私に男色の気はないぞ?
彼の言葉に気分を良くした私は、昔を思い出しながら、奴の〝個性〟の条件を気付けたもう一つの根拠を最後に伝える。
「えへへ。実は、──亡くなった祖父が座標を必要とする【ワープ】系〝個性〟だったんです。それを見ていたから気付けたってのもあるんですけどね」
疎遠だった父方の祖父。もう亡くなって10年になるが、僅かな時間、彼から受けた手解きが今に繋がっていることに、私は淋しくも嬉しい気持ちになった。
それでは、と塚内警部に会釈をしてみんなが待つバスに乗り込んだ。
▽ ▽ ▽
日はすっかり傾き、空は茜色に染まり始めていた。
バスを降り教室に向かう私たちは、会敵した恐怖が薄れてきて残った高揚感からそれぞれが得た経験について語り合っていた。
「──じゃあ、尾白くんと常闇くんは1人で戦ってたんだね!」
「みんな1人だと思ってたよ、俺。ヒット&アウェーで凌いでたよ…」
「フッ。孤独の饗宴だった…」
溌剌と話す葉隠に尾白と常闇が答える。なんだろ、常闇は厨二心を大切にしている感じかな。
「しかし、爆豪くんたちがオールマイト先生の助力に行った時は肝を冷やしたぞ! 結果的に無事だったものの、勝手な行動は慎みたまえ!」
「ウッセぇぇッ!! 勝手に冷やしてろやッ!!」
「あの状況じゃあ助けるしかなかったろ」
飯田の真面目な指摘に爆豪はキレ散らかし、轟は静かに自論を唱えた。
ああ、そうだった、爆豪と切島だ。オールマイトへの助力は見てないからわからないが、13号の邪魔をしたことはいただけない。
「私からも言わせてもらいますけど、13号の攻撃の邪魔をした件は反省してくださいよ? 分断されたあとならともかく、先生の指示なく戦闘を行うのはルール違反ですからね?」
私は少し眉を顰めて爆豪たちに苦言を呈した。
「うっ。たしかになぁ…、面目ねぇ」
「謝ってんなよクソ髪ぃ!! お前もとやかくうるせぇんだよゲロ女ぁ!!!」
「げ、げろぉッ!?」
いや、確かにみんなの前で吐いたけど、その呼び方は酷くない? 酷いよね。酷すぎだよ。
「私みんなのために頑張ったのにぃ…っ」
こんな美少女に向かって〝ゲロ女〟なんて蔑称を付けるなんて、この男最低すぎんか? ただでさえ、公衆の面前で嘔吐したことに羞恥心を抱えているというのに。ああ、なんか涙目になってきた。
「ちょ、ちょっと爆豪くん!? それはあまりにも酷いんとちゃう!?」
「そうですわよ! わたくしたちのために身を粉にして先生方を呼んでくださったのに!」
「爆豪サイテー!!」
「移ちゃん、気にしちゃダメだよ!」
「あんまりよ爆豪ちゃん、酷いわ」
「いくらなんでもそれはないわ」
女子のみんなが連携して庇ってくれる。ああ、これが女子の連帯感。
流石の爆豪も、6人の女子からの非難の声にたじろいだ様子だ。爆豪め、学校で女子を敵に回して生きていけると思うなよ!
「女子ってコエ〜な」
「オイラはゲロインもイケるぜ」
「お前ほんとブレないのな」
▽ ▽ ▽
教室に戻り、全員が事情聴取を終えた頃にはすっかり夜になっていた。
ニュースを見たのか、
やり取りの中で輪城さんがすでに雄英付近で待機していることを知り、私は急いで玄関口へ向かおうとしていた。
そんな時──。
「空戸くん、少し時間をもらえるかい?」
「…校長」
待ち受けるように根津校長が廊下に立っていた。
思い当たることは一つ。私もちょうど訊きたかったことだ。根津校長に一言断りを入れて、輪城さんに『もう少しだけ遅くなる』ことを連絡した。
根津校長は近くにあった空き部屋に私を案内すると、備え付けてあったポットでお茶を淹れ、「飲んでちょ」と湯呑みを差し出してきた。
喉を湿らす程度の量をコクリと飲み、私は意を決してあのことを切り出した。
「根津校長…、昼に会った八木さんのことですが…」
「………」
根津校長は「参ったな」とでも言いた気な表情をして肩を下ろす。
「あの時、私は
「…やっぱり気が付いてしまったよね」
それから根津校長が話した内容は、彼の正体を知ったとき程ではないにせよ、充分衝撃的だった。
曰く、オールマイトは6年前に大きな怪我を負ってしまい、全快するに至らず衰えてしまった。あの痩せた体は、今のオールマイトの本来の姿であり、筋骨隆々の姿はヒーロー活動を続けるために気合いで維持しているのだとか。そして、あの姿を長時間保つのは負担が大きく、一日に数時間しか維持できないと言う。
「キミが自分の正体について確証を持っていると判断できれば、真実を話して良いと八木くん…オールマイトから了承を得ていてね。無理に隠すよりいっそ打ち明けてみようと考えたのさ」
真剣な表情をした根津校長は、あらかた話し終えて喉を潤すため、持っていた湯呑みに口を付ける。
私も釣られて湯呑みに視線を落とす。
オールマイトは、〝私〟が生まれる前から日本を守り続けているヒーローだ。転生して、【前世】と違う平和な世の中を知り、それを創り出し維持し続ける一番の立役者を知った時。全身に稲妻のような感動が巡ったのを今でも覚えている。あの地獄のような国を世界を世の中を、彼は救けたんだ。
尊敬、なんて言葉では足りない。崇拝に近い感情を私は彼に抱いているのだ。
そして同時に思った。私も、彼のような〝ヒーロー〟になりたい、と。
「…正直に言うと、今でも信じられません。あのオールマイトが、あそこまで衰えてしまっていただなんて」
「……」
「けど、事実なんですね。オールマイトは傷付いていて、もう全盛期の体ではないのですね」
「そうだね」
「なら、私たちが──私がなります」
コミックのようなナチュラルボーンヒーロー。平和の象徴。日本の大英雄。
憧れの存在が傷付いて、倒れてしまいそうならば。
「この先、彼が戦えなくなったとしても…いずれ私が。この国には、私がいるんだと、高らかに言える存在に」
そうだ、別になにも変わらない。彼だって人間だ。いずれ老いて、引退する時が来ていた筈。それが本来より早まっていて、私が偶然知ってしまっただけの話だ。
最初から、目指す場所は変わらない。
何も成せずに死んだ〝僕〟は、それを成すために〝私〟になったんだ。
「〝ヒーロー〟になります」
「…ああ。キミなら絶対になれるとも!」
根津校長はニカッと笑って力強く肯定してくれた。
「それから、この話は内密にね! 彼が傷付いていることを知っている者は世界でごく一部のみ。彼たっての要望さ!」
…あ、もしかしなくても口止めがメインの面談だった…?
私の心からの宣言は、彼が意図した趣旨と違っていたと気付き、顔から火が出る思いだった。
根津「言い広めないように頼むつもりが、覚悟の話をされてビックリしたのさ!」
移ちゃんのあだ名は「ゲロ女」に決定しました!
いや〜、これで安泰ですわ!
ん?麗日も吐いてただろって?
その辺はかっちゃんの匙加減さ!麗日以上に吐いてたんだよきっと!