やはり体育祭編はヒロアカ二次小説界の鬼門ッ!
『さーて、それじゃ早速始めましょ!』
私が壇上から降りると同時に、ミッドナイトが第一種目の説明を開始した。
彼女の動きに合わせてモニターにルーレットが表示される。デデン! と効果音が鳴り、第一種目が決定した。
〝障害物競走〟
いかにも体育祭らしい競技内容だ。ただ、障害物は決して普通じゃあない筈。
ルールは220名が一斉にスタートし、スタジアムの外周約4kmを走って会場に戻ってくること。そして、コースを守れば何をしても構わない、と含みのある笑顔でミッドナイトは説明を終えた。
(自分以外皆障害、ということですかね)
『さあさあ、位置に着きまくりなさい!』
だいぶ性急である。なんでも〝早速〟なのが雄英のポリシーらしい。
「空戸!」
スタートゲートへと移動中、切島や他のクラスメイトたちが私の下へ集まってきた。
「さっきの選手宣誓だけどよ! 俺ぁ感動したぜ! 漢気を感じた!!」
「えへ〜? 漢気ですかー! 嬉しいこと言ってくれますねー!」
拳を握って力説する切島に私は嬉しくなり、後頭部を撫でながら彼に向き直る。可愛いと言われるのも好きだが、かっこよく思われるのも同じくらい好きなのだ。
「いや、漢気って…。空戸さんが喜んでるなら良いんだろうけど…」
「まあ、あんま女子に言う言葉じゃねーけど、確かにさっきのにはしっくり来るな」
「ふふふー、漢気に男子も女子もないんですよ」
漢気は心の在り方ですから! と尾白や瀬呂に対して自論を伝えた。漢気はジェンダーレスな精神なのだ。
「ケロ。移ちゃんの心意気はしっかり伝わったわ。けど、私も負けないわ」
「わたくしもですわ! 正々堂々と戦いましょう!」
梅雨ちゃんと八百万も闘志を燃やした目でこちらを見つめてきた。臨むところです、と返事をしたところでスタート地点のゲートのランプが灯る。いよいよ、第一種目が始まるようだ。
(さてさて、この種目…、ミッドナイトは〝予選〟と言ってましたね。例年そうですが、〝本戦〟に出場できるのは数十人。競走で1位を獲るのは簡単そうですけど…)
今まで、テレビ放送で観てきた雄英体育祭の競技は大体3つから4つ。その内、最初の競技で7割以上の生徒が脱落していた。しかし、逆に言うと50人前後が本戦に進むことになる。次の競技が乱戦になるような内容であった場合、A組を除く約30人と事前情報なしで戦うのは避けたい。
(この種目、前半は情報収集に徹するとしましょーか)
幸い、ルートも距離も分かっている。トップグループがラスト数百mに差し掛かった辺りで追い抜くことにしよう。競馬で言う〝逃げ〟ではなく〝差し〟作戦だ。
考えが纏まったところで、ゲートの灯りが消えていく。
(自然体に、けれど油断なく)
ミッドナイトの合図と同時に駆け出すクラスメイトたちの背中を見ながら、私はゆっくりとスタートを切った。
▽ ▽ ▽
200人強の生徒が通るには狭すぎるスタートゲートをなんとか抜けると、開幕早々轟が右手から放った冷気で凍ったツルツルな地面が待っていた。
転ばないよう慎重に進む緑谷を他所に、クラスメイトたちは〝個性〟を活用してどんどん先に進んでいった。
(…まだだ、まだ使い所じゃない)
オールマイトから譲り受けた〝個性〟【ワン・フォー・オール】は、強力な〝個性〟に違いないが今の彼には扱いが困難であり、学校側が用意した障害が出てきていないこんな序盤で使うと後に響く。
もどかしい気持ちを抱えながら、緑谷は〝2週間前〟にもらったとある助言を思い出していた。
▽ ▽ ▽
「緑谷、ちょっと良いですか?」
それは、普通科の男子がヒーロー科に宣戦布告をした日のこと。幼馴染の爆豪が言った『上に上がれば関係ねえ』という言葉に感化された緑谷は、体育祭に向けて更なる訓練に励もうと決意を新たにした。
騒ぎが収まり、A組の様子を見に来ていた生徒たちが去ったことで漸く帰ろうとした緑谷に移が声をかけた。
「えと、どうしたの空戸さん?」
「ここではなんですから、付いてきてもらえます?」
そう言って先行する移を追いかけるため、飯田たちに一声かけてから教室を出る。
何の用事だろうかと頭を悩ます彼は、昼食時にオールマイトから聞いた話を思い出した。
『
オールマイトが言うには、移が現れた時はトゥルーフォームだったらしい。その後、見えないところでマッスルフォームに変身したのだが、〝個性〟で探知していた彼女には変身の瞬間が丸分かりだったそうだ。
その日の夜に校長から口止めを依頼したようだが、〝緑谷も正体を知っていること〟はまだ知らされていない。自分が正体を知っていることから芋づる式に他の秘密がバレるのを防ぐため、とオールマイトは言っていた。
(まさか、オールマイトの話、じゃないよね…)
そんな訳はないと思っていても、さっきの今で当の本人から呼び出されたことで緑谷は身構えてしまい、オドオドと奇妙な挙動を取っていた。
「この辺でいいでしょー。…さて、緑谷」
「は、ハイ!!」
「…なんでそんなキョドっているんです?」
彼は、心情を隠すのがすこぶる下手だった。
「…まあ、いいです。用事っていうのは他でもありません。──先日言っていた〝個性制御〟についてです」
あ、そっちの件か…。緑谷はあからさまに安堵した。
その態度にも不審に思った移だったが、話が進まないからと気にせず続けた。
「
「…うん。何回かは体を壊すことなく使えたんだけど、咄嗟に使おうとするとイメージが上手くできなくてコントロールを失敗するんだ…」
あの時。オールマイトを助けようと駆け出した彼は、急ぐあまり全力で足に力を入れてしまい、その結果自らの〝個性〟で骨折してしまった。〝使うぞ〟と事前に意識した時は思った通りの出力で発揮できたが、考える余裕がなくなると〝個性〟に体が負けてしまうのだ。
俯く緑谷に、移は顎に手を当てて質問する。
「イメージと言いますと、どんな感じで〝個性〟を制御しているんです?」
その質問に、緑谷は普段自分がしているイメージ、『電子レンジの中で卵が爆発しないようなイメージ』を彼女に伝えた。オールマイトにこれを伝えたときは『地味だがユニーク!』と笑って肯定してくれたが。
「爆発〝しない〟…ですか」
彼女の反応はどうやら否定的のようだ。うーん、と唸った移は「これはあくまで自論ですけど」と前置きをして語り出す。
「〝個性〟って身体機能の一部のわけじゃあないですか。速く走ろうとするときにまず最初に『転ばないように』とは考えないでしょ? 何かをする時に失敗を考えて動くと、どうしても硬くなっちゃうと思うんですよね」
「た、確かに…」
今まで〝個性〟を使う時、どうしても身構えてしまう瞬間があった。〝爆発〟するという失敗のイメージが頭によぎるため、どうしても躊躇していた。
「前にも言いましたが、私も小さい頃は〝個性制御〟が上手くいかずに怪我ばかりしていたんですよ。例えば、2階に行こうとして屋根の上に出てしまったり、家の外に行こうとして顔が壁に埋まってしまったり」
「顔が壁に!? え、【ワープ】の〝個性〟って失敗するとそんなことになるの!?」
「はい。恥ずかしい話なんですが、あの時は危うく窒息死するところでした…。お母さんたちに見つけてもらうのが遅れていたら、どうなっていたことか」
移は当時を思い出してブルリと震えた。今は優秀な彼女も、幼い頃はそれなりの失敗を経験しているようだ。
「そんなわけで、怪我した直後は『失敗しないように』と恐る恐る〝個性〟を使っていました。でも、そうすると逆にコントロールを失うんですよ。どうしても、〝失敗した自分〟を想像してしまいますから」
緑谷にとって〝失敗した自分〟とは、【ワン・フォー・オール】の力を抑えきれずに骨がバキバキに折れてしまうことだ。更に言うと、出力の調整をミスして想定以上の力を引き出した時、それを向けた先が〝人〟であったら…。USJで13号が言っていた『容易に人を殺せる』ことになってしまう。
「緑谷が失敗、つまり体が耐えきれずに壊れてしまうのは、〝個性〟を100%で使ってしまった時ですか?」
「…そう、だね。今の僕の体では、せいぜい3から5%が限界って感じなんだ。戦闘訓練の時も一昨日の怪我も許容限界を超えてしまってた。だからそうならないように抑えようとしてるんだけど…」
グッと拳を握って〝個性〟を使いこなせない自分の不甲斐なさに緑谷は情けなくなった。オールマイトが期待してくれている。かっちゃんは全力で上に上がろうとしている。その期待に応えたい、その熱意に追いつきたい。そう思っているのに、現実には高い壁が立ちはだかっていた。
「緑谷。私が【
難しい質問だった。だが、そうだ。昔、テレビで観た【ワープ】系〝個性〟のプロヒーローを分析した時に、自分だったらと考えたことがあった。
「そこにいる自分を想像する、かな?」
「そうです。そして何より大切なのが、基準点、自分という0を意識することです」
「ゼロ…」
「50m先に行く時も100m先に行く時も、まずは0点をイメージするんです。0から50へ、0から100へ、と言った感じに」
カチっと、自分の中の意識が変わった気がした。
「…そうだ。僕はいつも〝個性〟を使う時に入試の時の100%から抑え込むようにイメージしていた。つまり、100から5にしようとしていたんだ。でも、普段の僕の状態は0なんだから、100から減らすより0から増やした方が手っ取り早いじゃないか! 抑え込むんじゃなくて、絞り出すイメージで…でも、そうすると電子レンジの中身は卵じゃない方がいいのか? 爆発しない、じゃなくて0、つまり冷えた物を温めていくイメージで…うん! これならいけそうだ!!」
緑谷はいつものように自分一人考えに耽ってブツブツとノンブレスで呟いた。そこにあった顔をさっきまでと違い、問題が解決したような晴れやかな表情だった。
「あぁー、緑谷?」
「…ハッ!? ご、ごめん! また僕一人で…!」
アセアセと赤面する緑谷に、移は「ふふっ」と笑い声をもらす。
「私の拙い助言ですが、役に立ちそうですか?」
「拙いなんて! そんなことないよ! すっごく為になった!」
「なら、良かったです。…体育祭まで残り2週間。反復練習をするには少々短い準備期間ですが…、頑張りましょーね、お互いに」
穏やかに、上品に移は笑ってそう言った。
▽ ▽ ▽
『さあさあさあ! 未来のヒーローを担うゴールデンエッグどもは、第一関門ロボインフェルノの大群を突破できるか〜!?』
司会のプレゼント・マイクの声が何処からか聞こえてくる。
轟の妨害を抜けた緑谷に待ち受けていたのは、入試の時に100%の力でぶっ飛ばした〝0ポイント仮想
普通に走っていては、いくら動きの鈍い巨体と言っても捕捉されて大怪我を負うだろう。だが、他の生徒たちが倒すのを待っていたり隙を窺っていたら遅れをとってしまう。
ならば──。
(足だけに【ワン・フォー・オール】を使う…爆発しないように抑え込むんじゃなくて…徐々に出力を上げていく感じで…!!)
緑谷の足が赤く煌めく。キュイーンッとエネルギーが溜まるような音がして、そこに力が集中していく。
(あの2体の間、僅かな隙間がある! かっちゃんが上を通ったことでアイツらの注目がそっちに移ったんだ!)
分析をしながらも動きは止めない。見つけた最大のチャンス、これを逃す手はない。
「ここ、だぁああッ!!!」
低い態勢で隙間を縫うように。緑谷は轟音と共に急加速し、たったの2歩で仮想
(やった! 出来たよ!! ありがとう、空戸さん!)
助言をくれた移に心の中でお礼を言い、緑谷は正面を走る爆豪や常闇たちトップ集団を追いかけていった。
デクくん若干の強化。