チーム決めの交渉時間が終わり、生徒たちは等間隔になるようミッドナイトに指示されてステージの周りに集結した。
13組の騎馬の前には120m×90mの巨大なフィールドが広がり、角4箇所に見上げるほどの高さのポールが立っていた。フィールドの上空には覆うように網が設置されている。
網はスタジアムの天辺よりやや低い位置、地上からおよそ4〜50mの高さに張り巡らされていた。
縦120m、横90m、高さ50m。これが第二種目〝騎馬戦〟の舞台だ。
『さあ起きろイレイザー! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに13組の騎馬が並び立った!』
実況のプレゼント・マイクの隣、彼に無理矢理連れて来られた解説役のイレイザー・ヘッドは、マイクに起こされてフィールドを見やる。そこに並ぶ騎馬を見て、『なかなか面白え組がそろったな』と解説役とは思えない声量でボソボソと呟いた。
各騎馬の生徒名とチームポイントがモニターに表示される。
| 1位 発目、空戸:10000010P 2位 鉄哲、骨抜、泡瀬、塩崎:695P 3位 爆豪、切島、瀬呂、芦戸:650P 4位 緑谷、常闇、麗日、蛙吹:630P 5位 轟、飯田、上鳴、八百万:610P 6位 物間、円場、回原、黒色:305P 7位 心操、庄田、青山、尾白:290P 8位 葉隠、耳郎、砂藤:270P 9位 峰田、障子:260P 10位 拳藤、柳、取蔭、小森:225P 11位 小大、凡戸、吹出:165P 12位 鱗、宍田:125P 13位 鎌切、角取:70P |
1位の発目、空戸組だけポイントがぶっ壊れている。
『さあ上げてけ、ときの声! 血で血を洗う雄英の合戦が今! 狼煙を上げる!』
スタジアムが歓声に包まれる。第一種目と違い、今回はモニター越しではなく目の前で闘いが繰り広げられる。それも雄英生、次世代を担うヒーローの卵たちがだ。盛り上がらない筈がない。
『よーし組み終わったな? 準備はいいかなんて聞かねえぞ!』
「発目、しっかり掴まっていてくださいね」
「バッチリです! いやー、うずうずしますね! もうすぐベイビーたちのお披露目が出来るんですね!」
「ええ、大注目を浴びましょー」
バックパックを背負った発目は、スキーブーツのような厚みのある靴を履いた移におんぶされていた。傍目からは明らかに機動力が無さそうに見える。だが、移の〝個性〟を知る者たちは、彼女からポイントを奪うことが如何に困難か理解していた。
対して、彼女の〝個性〟の情報が不足しているB組の面々および唯一の普通科の〝心操 人使〟は、1千万というポイントに惹かれ、奪う気満々だった。
『さあいくぜ! 残虐バトルロイヤル、カウントダウン! 3…2…1…』
『スタート!!』
移たちを除く12の騎馬が一斉に動き出す。その内の5組が移たちを目掛けて突撃する。
「実質1千万の争奪戦だ!」
「1千万はワターシのものデース!」
B組の〝鉄哲 徹鐵〟が〝個性〟【柔化】の〝骨抜 柔造〟に指示を出して特攻した。同じくB組〝角取 ポニー〟は、【角砲】を構えながら突進する。
「──誰もここには届かせませんよ!」
2組の〝個性〟が移たちに届く直前、2人は包囲網から姿を消してしまった。
どこにいったと彼女らを探す鉄哲たちにプレゼント・マイクの実況が耳をつんざく。
『おおっとぉ!! 早速囲まれた発目&空戸チーム! 開始10秒で奪われるかと思いきや! ありゃあなんだーッ!?』
『見ての通りだろ。空戸の〝個性〟で宙に逃げて、発目のアイテムでホバリングしている。合理的な判断だな』
『あれじゃ誰も手出し出来ねえなぁ! 1千万を持って逃げ切りか!?』
フィールド上空に張られた網の真下、地上から40mの高さで移たちは滞空していた。移の〝個性〟だけでは空へ逃げられても【
「どーですか私のドッ可愛いベイビーの性能はっ! 企業の皆様は…、うんうん! バッチリ視線を釘付けです!」
「私は楽出来て、発目は企業にアピール出来る。win-winで最高な作戦ですね」
〝個性〟【ズーム】を使って企業席を確認した発目は、彼らの注目を浴びていることが分かり大歓喜だ。個人使用を想定していたため、2人分の重量が加わり少しずつ高度を下げていたが、それでも〝個性を用いずに滞空する〟という発目の発明品は、派手かつ分かりやすいサポートアイテムだろう。そして、空を飛んでいるテレビ映えする2人の姿に、マスメディアも大盛り上がりだった。
▽ ▽ ▽
その後は私の理想通りの試合運びとなった。
発目のジェットパックは小回りが効かないものの、滞空性能に問題はなく、私だけだとコンマ数秒毎に【
私個人への対策なのか、スタジアム上空に網を張られて高さ制限が設けられたが、そもそも空を飛べる〝個性〟持ちは少ない。
更に、遠距離からの攻撃は〝悪質な崩し目的での攻撃〟と取られかねないため心配ない。
要するに、私たちがここにいる限り、登ってくるごく僅かな者だけ注意していれば鉢巻は安全なのだ。
(そして、当然あなたは攻めてきますよね!)
【
「逃げてんじゃねえぞッ! くそがぁ〜ッ!!」
「くそでもゲロでもありませんよッ!」
爆豪が2、3m先まで迫ったタイミングで地上にいる彼の騎馬、瀬呂たちから離れた場所へと【
『おお〜っ! 騎馬から離れたぞ! いいのか? あれ』
『テクニカルなのでオーケーよ!』
瀬呂の【テープ】によって騎馬に回収された爆豪に実況のつっこみが入るが、主審のミッドナイト的にはお咎めなしらしい。何かしらのペナルティが課されればいいのに。まあ、悔しそうな彼の表情を見れただけで良しとしよう。
(しかし、爆豪のあの立体的な機動力は脅威ですね…身体能力も高く範囲攻撃も出来る。直接戦闘はなるべく避けたいところです)
次の種目で彼と戦闘する機会がないことを祈る。他のチームへの対処に追われる爆豪を見ながら、より安全な〝個性〟が判明しているチームの上空へと移動した。
「フフフフっ! こうなるとアクロバッティックな空中回遊をしてベイビーたちの可愛さをもーっと知らしめたくなりますね!」
背中にいる発目からちょっと恐ろしい提案が出たため、やんわりとお断りしておく。1人で装備しているならまだしも、ブーツとバックパックを別々に身に付けているこの状況では無理難題だ。それは騎馬戦を勝ち抜いた後に取っておいてくれ。
「──と、バレバレですよ!」
【
発目の額に巻いた鉢巻を狙った2本の【角】は、私たちを通り過ぎた後に弧を描いて再び襲来する。操作性の自由度はかなり高いようだ。
一度避けても、繰り返し狙われるのは面倒だな。
「発目!」
「フフっ! 今度はこの子の出番ですね! 行きますよ〜!!」
私の合図に、彼女は右手に持っていた拳銃型のサポートアイテムを構える。目前に迫っていた【角】に目掛けて、銃身から〝弾〟が放たれた。
片手で持てるアイテムのどこにどう収まっていたのか、発射された〝弾〟は即座に視界いっぱいの〝網〟に変貌し、絡め取られた【角】は網と一緒に地上へ落ちていった。
「見ましたか大企業の皆様方! この軽量化されたボディに格納された〝捕獲網〟は一瞬の内に相手を捕らえます! マガジンも搭載していますので、複数の
「声は届いてないと思いますよ、発目」
ここぞとばかりに発明品のアピールを始めた彼女であるが、残念ながらこの乱戦に歓声だ。肉声では無理がある。最初はマイクも装備しようとしていた発目だったが、それは流石に止めて正解だったみたい。危うく、私たちのチームだけ競技内容がテレビショッピングになるところだった。
「発目、ちょっと掴まっていてください──」
彼女がガッチリ肩を掴んだのを確認してから3m後方に【
移送により運動エネルギーが一瞬ゼロになったことでホバリングのコントロールが乱れたが、なんとか修正して目の前に浮いていた【手】を掴んだ。
「隙を突いたつもりでしょーが、あいにく私に死角はないんです」
【角】の襲撃を好機と見たのだろう。音もなく近付いていたその【右手】を【
下を見れば、残念そうに口を尖らせる黒髪ロングパーマのB組女子が【右手】を回収していた。
『強い! 強いぜ一千万ッ!! サポート科の発目とA組空戸! 誰からも鉢巻を奪わせないってかァ!?』
実況が拾ってくれたおかげで、観客の注目が更に集まるのが分かった。〝逃げ切り〟は目立てない恐れがあったけど、いい感じに目立てたようだ。良きかな良きかな。
▽ ▽ ▽
その後は特筆することがないほど平穏に騎馬戦が終了した。
ジェットパックが燃料切れを起こすこともなく、他の騎馬も地上で乱戦が起きていたため、こっちまで被害は及ばなかった。安全が担保されていたおかげで、A組を含め新たな情報を仕入れることが出来た。
まず、飯田が終盤で見せた急加速。彼は最高速度を出す為にギアを徐々に上げていく必要があると聞いていたが、あの急加速は踏み出した瞬間からトップスピードだった。あれを真正面から使われたら、【
次にB組の金髪の男子。複数の〝個性〟を使っていたように見えたが、恐らく相手の〝個性〟を【真似る】〝個性〟だろう。対象とされた爆豪が彼と同時に〝個性〟を使えていたため、〝個性〟の【レンタル】とかではない筈だ。…もし、彼が練度や性質をそのまま同じに【真似る】ことが出来るのであれば、私の〝個性〟を対象にされる前に忠告しないといけない。
〝個性〟【スフィア】で移送した人・物は移送先の物体を押し退けてしまう。彼がそれを知らずに私の〝個性〟を使ってしまったら…最悪死人が出るだろう。早いうちに彼と話しておくか、先生経由で伝えてもらっておこう。
最後に普通科の菫色の髪をした男子。心操といったか。彼が他の騎馬に近付いた時、何が発動条件かわからないけど相手の動きが止まっていた。肉体に作用する〝個性〟だろうか…。前騎馬である太めな男子は、第一種目で【打撃】系の〝個性〟を使っていたし、他の2人は青山と尾白だったため、心操の〝個性〟で間違いないと思う。発動条件が判明するまでは、彼に近付かないことが無難だ。
他にもいくつか脅威となる〝個性〟があったが、今回の体育祭では関係ない。次の種目に進める生徒が決まったからだ。
『順位発表と最終種目に進む選手の発表いくぜーッ! まずは1位! 最初から最後まで変動なし! 守りきったぜ1千万! 発目チーム!!』
『2位! ド派手な攻防戦に痺れたぜ! 轟チーム!』
『3位! 危うく0ポイントだったな! 最後に猛追して追い上げた爆豪チーム!』
『4位! 轟チームとのせめぎ合いは熱かった! 緑谷チーム!』
『そして最後に5位! いつの間にポイントを集めたんだー! 心操チーム!』
『以上18名が最終種目に進出だぁー!』
いよいよ最終種目。これまでの雄英体育祭の傾向から、最後は個人種目、それも直接対決の可能性が高い。
相性の問題で戦いたくない人もいるが…誰が来ても必ず勝ちをもぎ取る。優勝まであと少しだ。
▽ ▽ ▽
「移ちゃん凄かったわね。ずっと空にいて手の出しようがなかったわ」
昼休憩が言い渡されて私たちは食堂へ来ていた。合流した梅雨ちゃんたち女子グループと一緒に食べようということになり、騎馬戦の話題で盛り上がっていた。
「私だけだとしんどかったし、絵面もヤバいことになってましたけどね。発目がいてくれて助かりました!」
落ちては上空へ、落ちては上空へを15分繰り返す…、いくら私でもそれは些か格好の付かないことになっていただろう。滞空能力ありきの作戦だったので、彼女のサポートアイテム様様だ。ついでに〝スタ◯・ロード〟の真似が出来て楽しかった。
「梅雨ちゃんの組も良かったよね〜。攻守のバランス良くて全員が見せ場あってさ! …私は轟の氷対策で入れてくれただけで、最終に進むのは実力に見合ってるのか分かんないよ…」
「いやいや三奈ちゃんシュバァ〜! って滑っててかっこよかったじゃん! あたしなんて全然目立てなかったよ…悔しぃ〜!」
自信がなさそうな芦戸に、目立つことを目指していた葉隠が悔しがる。騎馬戦で動きを気取られぬよう全裸になっていた彼女は、序盤で鉢巻を取られていたため、恐らく観客の多くは認識すらできていないだろう。…それにしても、全裸の葉隠と密着していた砂藤は元男として羨ましい限りである。
「──皆さん、少し宜しいですか?」
「どうしました…?」
困ったような顔をした八百万が耳郎と一緒に私たちの下へ訪れた。2人のただならぬ雰囲気に姿勢を正す。
「実は先程、峰田さんから教えていただいたのですが…」
「相澤先生からの言伝で、ウチら女子は午後からあの格好して応援合戦しなきゃいけないらしいんだよね…」
気の進まなそうな表情をした耳郎の視線の先には、アメリカから誘致されたチアリーダーたちが笑顔を振り撒いて軽やかに駆けていた。蛍光色のオレンジ色にオフショルダーかつ臍出しトップス。同色のスカートはマイクロミニ丈といったところか。
そんなことは事前に聞いていなかった筈だが…。
「え? そんなイベントのこと先生言ってたっけ?」
「わたくしも聞いた覚えはありませんが、〝忘れている可能性があるから〟と相澤先生が峰田さんと上鳴さんにお伝えしたらしく…」
寝耳に水といった様子の八百万は、「服装はわたくしの〝個性〟で準備することも指示されたようですわ」と続けた。
なるほど、なるほど…。事前連絡が不十分で当事者に承諾もなく〝女子〟だけに露出の高い格好をさせて踊らす、と…。
(それはいくらなんでも私たちを軽視しすぎじゃあないですか…?)
みんなは「先生が言うなら仕方がない」といった雰囲気で渋々了解しているが、私はどうにも納得がいかない。超常が日常になり多様性が認められる超人社会で、そんな時代錯誤なジェンダー意識を容認していいのだろうか。いや、認められる筈がない。
「私、相澤先生に抗議してきます」
ガタっと立ち上がり、みんなの視線が集まる。仮にそんなイベントがあったとして、同意を得ずに強制するのは酷すぎる。
「…そうね。嫌って訳ではないけど、先生がどんなつもりなのか聞いておきたいわ」
「ならウチも行くよ。…ちょっとあの格好をするのは、その…恥ずいし…」
梅雨ちゃんと耳郎が同意してくれた。比較的乗り気だった葉隠と芦戸も反対はしてこないので私たちは相澤先生を探すため食堂から出ようとする。──が。
「お、おいおいおい! 相澤先生は時間がないって言ってたぜ!」
「そ、そうそう! 先生、時間に厳しいからよ! 急いだ方が良いって、絶対!」
私たちの歩みを防ぐようにどこからか峰田と上鳴が飛び出してきた。…なんだか怪しくないか、この2人。妙に慌てているし、極端に汗をかいている。
「…時間なら問題ありません。先生の説明に納得がいけば、私の〝個性〟で移動して時間を短縮しますのでご心配なく。…それとも」
──何か、やましい事情でもおありですか?
「あ、いや、その…」
問い詰められた2人はそれ以上隠蔽することができず、謀略を私たちに明かした。八百万に伝えたことは、チアリーダー姿の露出度の高い女子を眺めたい一心でついた嘘とのことだった。
その後彼らが私たちから侮蔑の視線を送られ、誅罰されたことは言うまでもない。
チアコスはカット、是非もなし。
男性・女性どっちも経験してどちらとも言えない性自認の移ちゃんは、こういうことに厳しいのです。