TSテレポーターのヒーローアカデミア   作:tsuna屋

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騎馬戦について、10月24日に修正加筆しています。中盤あたりです。よければ、合わせてお読みください。

いよいよ雄英体育祭も佳境。申し訳ありませんが、投稿頻度は低くなるやもしれません。週一投稿できることを目指します。


雄英体育祭:最終種目開始

 昼休憩を挟み、再びスタジアムの中央に集合した私たち1年生に最終種目が発表された。

 18名からなるトーナメント形式、1対1の〝ガチバトル〟──ようは天下一武◯会だ。

 半端な人数になっているが、第二種目で5位だったチームの4人が自動的に一戦多く戦ってもらうとのこと。優勝することを目標にしていると大変になるけど、プロヒーローにアピールする場が増えると捉えれば、悪い話じゃあないだろう。

 

 

「それじゃ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうよ」

 

 

 何時ぞやの戦闘訓練で使われた物と同じくじ箱を持ってミッドナイトが登壇した。

 

 

「じゃ、1位のチームから──」

「あの、すみません。…俺、辞退します」

 

 

 いざくじ引きが始まるというタイミングで、尾白が神妙な顔をしてそう言った。まさかの申し出に私を含めて周りが騒然とする。

 緑谷と飯田が理由を訊き、彼は静かに語り始めた。

 

 

「騎馬戦の記憶、終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ…。多分、奴の〝個性〟で…」

 

 

 尾白の視線の先には、彼のチームの騎手だった普通科の心操が居た。確か、相手の動きを止めていたような…。

 

 

「チャンスの場だってのは分かってる。それをふいにするなんて愚かなことだってのも…。でもさ!」

 

 

 拳を見つめながら尾白は気持ちを吐露する。〝皆が全力を出して来た場に訳も分からず並ぶことは出来ない〟と。

 気にしすぎだと、考え直そうと葉隠や芦戸が声をかけるも、〝俺のプライドの問題なんだ〟と悔し涙を滲ませてまで尾白は拒否した。

 彼の独白を受けて、私は心操の〝個性〟を考察すべく、彼のこれまでの行動を思い出す。

 

 

(記憶が曖昧…相手の動きを止める〝個性〟…、そう言えば障害物競走では複数人の男子に運んでもらっていましたね…。協力してもらってたのかと思ってましたが…もしかして…)

 

 

 心操の〝個性〟について、嫌な予想が思い浮かぶ。無意識の内に可能性から除外していた〝個性〟の系統。それに考えが及び、胸がざわつき僅かに呼吸が速まる。尾白と一緒のチームだったB組の男子も何やら言っているが、頭に入って来ない。

 

 

(尾白は操作されていた…? ……精神に作用する〝個性〟…。心を操る…、思いの、ままに…?)

 

 

 違う。違うと分かっている。恐らく心操の〝個性〟は相手を操れるのだろう。しかし彼は〝雄英の生徒〟だ。それにヒーロー科を目指しているような素振りがあったじゃあないか。だから、たとえ思考を操作するような、そんな〝個性〟だとしても。〝アイツ〟とは違う。あの悪辣な〝個性〟とは、悪魔のようなあの男とは…。

 

 

「──ッ!」

 

 

 やめろ思い出すなと理性がブレーキをかけるのに、脳裏にこびり付いたあの夜の出来事が呼び起こされる。

 厭らしい笑みが、苛立つほど甘い芳気が、耳朶に入る蠱惑的な囁きが。何より、〝アイツ〟が作り出した凄惨な景色が──。

 忘れたくても幾度となくフラッシュバックしてきた悪夢が脳を蝕んだ。

 息が、苦しい。

 

 

「空戸…?」

「っ! ……は、ぃ…」

 

 

 声をかけられてハッとする。視界に色が戻ってきた。耳鳴りが治まり、煩いほど鳴っていた心音が静まり返る。

 目を閉じて、過剰に吸っていた息を整えようと腹式呼吸を意識する。腹部に手を当てて、ゆっくりと息を吐き切る。

 

 

(大丈夫…大丈夫。〝アイツ〟はもういない…いないんです)

 

 

 そう、自分に言い聞かせる。大丈夫だ、問題ない。同系統の〝個性〟を身近に感じたせいで動揺してしまった。もうとっくに完治したと思っていたが、こんな些細なことで症状で出てしまうなんて。今後、不意にこんな状態になってしまっては困る。これは久しぶりに通院が必要になるだろうか。お婆ちゃんたちに何と言おう…。

 平静を取り戻す。私の様子に心配してくれたのだろう、眉を曇らした芦戸に礼を言い無事だと伝えた。

 

 

「ほんと…? 顔真っ白になってたよ?」

「あー、えーと。実は来ちゃって…。今月重ためなんですよ」

 

 

 正直に話す訳にもいかず、あながち嘘でもない事実で誤魔化す。今回は軽めだしもう4日目だけど、アレの真っ只中なのは本当だ。

 気を遣ってトーンを抑えてくれた芦戸は、温かい手で私の腰を撫でながら『鎮痛薬はあるか』と訊いてきた。彼女の優しさに胸が温かくなる。

 

 

「はい、持ってきてます。ちょっとクラっとしただけなんで、もう平気ですよ」

「無理しないでね? タイミングよくないね…」

「ええ、ほんとに。ありがとうございます」

 

 

 本当に、間の悪い…。

 ミッドナイトにくじを引くようにと呼ばれるまで、私は芦戸の看病に甘えさせてもらった。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 最終種目が始まる前に自由参加のレクリエーションを挟むらしい。私はみんなに断りを入れて、クラスの控え室で休むことにした。

 

 

「はぁ〜……」

 

 

 タオルを頭にかけて机に突っ伏す。まさか、あんなことがキッカケでフラッシュバックするなんて思わなかった。ここ数年は落ち着いていたから油断していたし、完治していたつもりだったため、余計に動揺した。

 

 

(ぁああ〜…なーんで、全国放送の最中になりますかねぇ〜…)

 

 

 時間にして十数秒程度だったし、注目は尾白やB組の〝庄田〟に集まっていたと思うから私の様子に気付いた人は少ないだろう。

 けれど、一部の人には異変に気付かれたかもしれない。そう思うと気分が更に落ち込む。

 

 

(私は…みんなに安心を届けられる、そんなヒーローになりたい。ならなきゃいけないのに…)

 

 

 オールマイトは、どんな時も弱みを見せなかった。どんなに絶望的な状況でも笑顔で言うんだ、〝私が来た〟と。それが私の目標。そこが到達点。だのに…。

 

 

「ままならないですね…」

 

 

 再び大きく息を付く。乗り越えた、向き合えたと思っていた過去は再び背後に立っていた。真綿でゆっくりと首を絞めるように、じわりじわり毒が身体中に巡る。過去が、記憶が私を責め立てる。〝お前が悪いんだ〟と。

 …ネガティブで益体のない考えだと理解している。けれど、心の片隅に居座るそれは、どれだけ突き放しても絡みついて離れてくれないのだ。

 昔を思い出す。あの夜から始まった、出口の見えない奈落のような日々を。剥き出しになった心が、嵐の中で鉛をつけられ海に沈んでいく、そんな毎日を。

 あの頃に戻るのだけは、もう嫌だ。

 

 

「…ああ、そうでした」

 

 

 顔を上げるのも億劫だったが、なんとかポケットから携帯を取り出して着信履歴を見る。一番上には、お婆ちゃんからの不在着信が表示されていた。最終種目に進んだ件については、昼休憩中にメールでやり取りをした。このタイミングで電話があったということは、つまりはそういうことだろう。

 机に片方の頬を付けたまま履歴の一番上をタップし、反対の耳に携帯を押し当てた。

 2コールしたところで、電話は繋がった。

 

 

『もしもし、移ちゃん? 電話して平気なの?』

 

 

 お婆ちゃんの優しい声が聴こえた。

 

 

「うん、しばらく1人になれますから平気です。…テレビに映ってました?」

『…ええ。他人から見たら〝ちょっと気分が悪そう〟くらいだったわ。けれど、発作。起きたのよね?』

 

 

 第三者視点ではその程度の認識で済んでいたことに、ひとまず安心した。実際、すぐ隣にいた芦戸くらいしか気付いていなかったし、お婆ちゃんが言うなら間違いないだろう。

 

 

「少しだけですけど、昔みたいなのが。他クラスに〝同系統の個性持ち〟がいると気付いたことがキッカケになりました」

 

 

 事実を確認するように振り返る。何故起きたのか、どんな症状だったか、どう感じたかなどを言葉にするのは、精神療法の基本だ。私と同じ期間、この病気に付き合ってくれているお婆ちゃんは、いつものように静かに聴いてくれた。

 

 

『移ちゃん』

 

 

 あらかた話し終えたところで、お婆ちゃんは言う。

 

 

『いつも言っていることよ。そして何度でも伝えるわ。──貴女は、何も悪くない。あの日のことも、【生まれ変わった】ことも。誰も貴女を責めたりなんてしないわ。私たちは、貴女を愛している。貴女は私の大事な大事な孫娘なのよ』

 

 

 その言葉にじんわりと温かくなった。知らず知らずに冷えていた指先にようやく血が通った気がした。

 

 

『だから、大丈夫よ。私の…私たちのかわいい移ちゃん』

 

「………、…ありがとうございます。お婆ちゃん」

 

 

 ──私も貴女たちを愛しています。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

『ヘイガイズ、アーユーレディー? いろいろやって来ましたが結局これだぜガチンコ勝負! 頼れるのは己のみ! ヒーローでなくってもそんな場面ばっかりだ分かるよな? 心技体に知恵知識、総動員して駆け上がれ!!』

 

 

 電話を終えて控え室からA組に割り振られた観客席へと移動途中にプレゼント・マイクによるMCが始まる。待ってましたと盛り上がる観客の中には、この最終種目だけを目当てにしていた人もいるのだろう。それだけ、〝個性〟を使った直接戦闘は派手で見応えがある。法律で〝個性〟を使ったエンターテイメントが禁じられているため、この種目には世間の期待が寄せられていた。

 

 

「あ、移ちゃん! 良かったぁ、間に合ったね!」

 

 

 私に気付いた葉隠が袖を振って(手を振って)こちらに呼びかけてくれた。席を用意してくれていたのか、彼女が指し示す場所へと腰を下ろした。葉隠と、彼女の隣に居た芦戸に礼を伝えて、ステージに目を向ける。

 

 騎馬戦で使用された会場の内側には、セメントスによって整えられた舞台が鎮座していた。ドッジボールのコートよりやや広いくらいだろうか。ただの殴り合いなら広すぎるが、〝個性〟を用いたガチンコバトルだと少しばかり手狭に感じるだろう。接近型、遠距離型どちらも〝個性〟を活かせるちょうど良い塩梅とも言える。

 

 

「いよいよ緑谷ちゃんの出番ね。また怪我をしちゃわないかしら」

 

 

 梅雨ちゃんが言う。USJ事件にて、彼と一緒に【ワープ】された彼女は、緑谷が怪我をした瞬間を間近で見たのかもしれない。騎馬戦でも同じチームだったし、仲間意識が強く芽生えているのが窺える。

 

 

「大丈夫、とは言い切れませんね。今日はまだ大きな怪我をしてないようですけど…」

 

 

 2週間前、大したことは言えなかったが彼と〝個性〟の制御について話した。そこで何かを掴めた様子だった彼は、第一・第二種目と大きな怪我をすることなく〝個性〟を使用していた。明らかに成長の見られた緑谷だが、それでも正面勝負ではどうなるか分からない。

 

 

『オーディエンスども! 待ちに待った最終種目がついに始まるぜ!』

 

 

 会場の四隅にあつらえられたコンクリで出来た籠から篝火が灯される。

 いよいよ第一試合、緑谷と心操の闘いが始まる。

 

 

(心操 人使…。外見からあまり鍛えているようには見えないですけど、〝個性〟の発動条件によっては勝ち進みそうですね)

 

 

 精神に作用する〝個性〟の恐ろしさは身に染みている。条件や強度によっては、対人戦闘では敵なしかもしれない。特にこの最終種目、場外に落とすか行動不能にする、相手に〝参った〟と言わせることが勝利条件のため、対戦相手を操れる〝個性〟は無双できるかもしれない。

 私はモニターに表示されたトーナメント表に改めて注目する。

 

 第一試合 緑谷 対 心操

 第二試合  対 瀬呂

 第三試合 八百万 対 常闇

 第四試合 麗日 対 爆豪

 第五試合 空戸 対 上鳴

 第六試合 芦戸 対 青山

 第七試合 蛙吹 対 切島

 第八試合 飯田 対 発目

 

 

(勝ち進んだ場合、心操と当たるのは決勝戦…)

 

 

 ギュッと心臓が掴まれるような感覚に襲われる。…大丈夫。もう取り乱さない。たとえ彼と相対することになっても、きちんと戦える。落ち着いて普段通りに自然体で挑めば、問題はない。

 

 中央ステージに緑谷と心操が登壇して、向かい合う。遂に最終種目が開始される。今は、彼らの闘いを観察することに集中しよう。

 

 

『レディー! スタートぉ!!』

「──んてことを言うんだぁ!!」

 

 

 プレゼント・マイクによって火蓋が落とされた途端、声を荒げて心操に突進した緑谷は、数歩進んだところで急に立ち止まってしまった。それを見てニヤリと笑う心操。彼の反応で一目瞭然──〝個性〟が発動したんだ。

 

 

「ああっ! せっかく忠告したってのに!」

 

 

 後方の席で尾白の声がした。どうやら緑谷は、彼から心操の〝個性〟について何かしら情報を伝えられていたのに、その術中に嵌ってしまったようだ。

 感情が抜け落ちたような顔で立ちすくむ緑谷は、心操に何かを命令された後、ゆっくりとした足取りで場外へと向かう。勝敗は、一瞬で決してしまった。

 

 

(…返答することが発動条件でしょうか。ヒーローとしては、とても心強い〝個性〟ですね。…そう、〝個性〟が悪いんじゃあない。使い手が高潔であるなら、何も問題ないじゃあないですか)

 

 

 恐ろしい能力だが、それは対戦相手として。彼が(ヴィラン)じゃあないなら、私は戦える。

 

 

(いずれは、そんな(ヴィラン)にも立ち向かえるようにならなきゃ、ですよね…)

 

 

 ヒーローとして、致命的な弱点を抱えていることを再認識してしまい、先が思いやられる気持ちだ。だが、乗り越えなければならない。更に向こうへ(Puls Ultra)だ、私。

 

 私が考え事をしている間も緑谷は歩みを止めることはなく、いよいよ場外へ出てしまう位置に来ていた。ああ、負けてしまう。そう思った瞬間。

 

 ブワァッ!! 

 

 緑谷の手先から強風が発生し、歩みを止めた。彼の足は、線を越えていない。

 

 

『こ、これは! 緑谷とどまった〜!!』

 

 

 このまま敗退と思われていた彼の踏ん張りに会場が沸く。風が吹き出した彼の指先を見ると、示指と中指が赤黒く変色していた。…〝個性〟を暴発させて、無理矢理心操の〝個性〟を解いたのだろうか。

 心操の〝個性〟の細かい情報は分からない。けれど、あの系統は一度発動してしまえばかなり強いのは間違いない。それを、自ら打ち破った緑谷の姿はとても頼もしく見えた。同級生の男子と比べて小柄で、消極的な言動が多い少年だけど。

 

 

「カッコいいなぁ…」

 

 

 免許の有無とか、そんな話ではなく。心操に接近しそのままの勢いで背負い投げて勝利をもぎ取った緑谷が、私には〝ヒーロー〟のように見えた。

 

 

 

 




うまく心理描写できている気がしないぜ…。
移ちゃんは、いくつかトラウマを抱えてますよって話でした。詳細はまたいずれ。
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