TSテレポーターのヒーローアカデミア   作:tsuna屋

17 / 47
週一投稿を目指します(週に一回とは言っていない

ということで書けたので投稿投稿!


雄英体育祭:トーナメント①

 第三試合まで観客席で観戦した私は足早に選手控え室へと移動して、備え付けられたモニターで第四試合、麗日と爆豪の試合を見ていた。序盤から防戦一方だった麗日は、爆豪の爆破によって散らばっていた瓦礫を〝個性〟で浮かし、それらを一気に降らせることで彼の隙を突こうとしていた。低い姿勢で彼に触れようと猛ダッシュする麗日はしかし、爆豪の高威力な爆破の余波で降らせた瓦礫ごと吹き飛ばされた。

 

 自らの策をたったの一撃で打開された麗日は、それでも諦めずに立ちあがろうとするも、体力尽きて倒れ込んでしまう。主審のミッドナイトが戦闘不能と判定し、第四試合は爆豪の勝利に終わった。

 

 

「彼の〝個性〟は実に厄介です…」

 

 

 私がこの最終種目で勝利するためのセオリーは、麗日同様〝相手に触れる〟ことだ。直接触れさえすれば、場外に【空間移動(テレポート)】出来るため、一手でチェックメイトとなる。しかし、彼が相手となるとそう簡単にはいかない。高い機動力と反射神経を持つ彼は、【空間移動(テレポート)】を駆使しても容易に接近できないだろうし、仮に接近できても広域爆破されてしまえば大ダメージを負うことになる。それに加えて、爆豪は器用で頭も良い。単純に突っ込むだけでは返り討ちになるのは私だ。

 

 

(まあ、それよりも今は目の前の戦いですね)

 

 

 思考を一旦リセットして、私は選手入場口へと向かう。一回戦の相手も一筋縄ではいかない。

 思い返すは初めての戦闘訓練。彼が油断していたことと、情報のアドバンテージがあったことで初見殺しを決められたが、今の彼には通用しないだろう。だからこそ、あの時の〝勝利〟を活用しよう。

 

 

「今回も勝たせてもらいますよ、上鳴」

 

 

 入場口に近付くにつれて大きくなる歓声に気分が高揚する。行くぞ空戸 移、自然体にいつも通りに集中しろ。

 プレゼント・マイクの紹介を受けて、私はスタジアムの芝生を踏みしめた。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 第四試合の勝者は爆豪であったが、会場のほとんどは麗日の根性に対して惜しみない拍手を送っていた。明らかに実力で劣っていたように見えた彼女だったが、策を練って強者にくらいつく姿は会場のボルテージを一段階上げるのに貢献した。

 興奮冷めやらぬ様子のスタジアムに、同じくテンションの上がった(いや、彼はいつもテンション高めだが)プレゼント・マイクのMCが届けられる。

 

 

『待たせたなエブリバディ! 壊れたステージはセメントスが直してくれたぜ! サンキューな! そしてドンドン行くぜ第五試合! 移動能力はピカイチだ! 果たして戦闘能力は如何程?? テレポーターガール、ヒーロー科、空戸 移!!』

 

 

 澄まし顔で先に登場したのは、これまで圧倒的な移動性能を見せつけてきた〝優勝宣言〟をした少女、空戸 移だ。初めから一貫して余裕の表情を見せてきた彼女だが、対人戦ではどのような動きを見せるのか観客たちは興味津々だ。加えてあの美貌、男性陣はやや前のめりとなり、連れの女性がいたおじさん方の耳が引っ張られる姿が散見された。

 

 

『バーサス! スパーキングキリングボーイ! ヒーロー科、上鳴 電気!』

 

 

 反対側のゲートから出てきたのは、彼女と同じヒーロー科A組の少年、上鳴 電気だ。金髪でやや軽薄な表情をした彼には、自信が満ち満ちているようだった。ヒーロー科なのだから当然かもしれないが、ここまで圧倒的な実力を見せてきた移と対戦するのにあの表情。余程実力に自信があるのでは? と、観客からの期待が高まる。

 

 

「対決するのは、戦闘訓練以来ですね」

 

 

 登壇して対面した2人が何やら会話をし出した。声をかけたのは移の方からだった。

 

 

「そーね。あんときは俺、ダサかったからな〜。でも、今回はカッコいいとこ見せるつもりよ? これ終わったらメシでもどーよ。俺が慰めっから」

「ふふっ、それなら見せてもらいましょーかね、カッコいいとこ。──今回も、あの時みたいに一瞬で決めさせてもらいますよ」

 

 

 構える2人。戦意は上々、観客も今か今かと固唾を飲んで注目する。

 

 

『それじゃー、スタート!!』

 

 

 開始宣言がされた瞬間、上鳴の視界から移の姿が消えた。同時に、背後からトンッと何かが着地する音が聞こえた。

 

 

(そう来るよな、分かってたよ確実だもんなぁ!)

 

 

 思い返すは入学直後の戦闘訓練。耳郎と練った作戦を元にトントン拍子にビル内を進み、調子に乗っていたあの瞬間。背後から迫る砂藤に対して何もすることが出来ず呆気なく確保されてしまった苦い記憶。

 あの時は、狭い通路で耳郎を巻き込む可能性があり〝個性〟を使えなかった。…いや、違うな。仮にあそこが開けた場所であっても、自分は何も出来なかっただろう。それほど、移の〝個性〟制御は完璧で、最高のタイミングの奇襲だったんだ。

 ──だけど、あの頃とは違う。

 

 クラスメイトと比べたらアホですぐ調子に乗る上鳴であったが、今ばかりは真剣だ。真剣に、移に勝とうとしている。

 

 開始直後の【空間移動(テレポート)】、きっと後ろにいる移が自分に触れたら、そこでゲームセット。なす術もなく上鳴は場外に移送されるだろう。

 だからこそ決めていた。速攻を決めてくると読んで、既に準備は万端だ。

 彼の体から電気がほとばしる。視線を背後に向けながら、ため込んだそれを一気に放流する。

 

 

「無差別放電、130万ボルトォ!!」

 

 

 辺り一面が光に包まれた。激しく響く放電の轟音は、受けた者の意識を一瞬で刈り取ってしまうだろうと誰でも分かるほどだ。

 視界の端に紺色のジャージが収まり、上鳴は勝利を確信した。

 ──これをくらわせりゃ、俺の勝ちだ! 

 過剰な放電であったが、必ず勝つためには手加減をするわけにはいかない。感電して痛みを伴うだろうが、そこはアフターフォローして慰めよう。なんなら、そのまま仲を深めてしまえるかもしれない。

 取らぬ狸の皮算用をする上鳴は、放電のし過ぎで思考が緩くなりつつも、倒れているであろう移の姿を確認しようとしっかり背後へと体を向けた。

 

 

「………ウェ…?」

 

 

 靴と…上着?? 

 

 思考が纏まらない。何故? 倒れている筈の美少女はどこに?? 

 上鳴は混乱したまま、放電の許容持続時間を超えて切れた電気に気付かず、地面に転がる一足の靴と雄英指定のジャージを呆然と眺めていた。

 

 

「──隙だらけです、よ!」

 

 

 ダンッ! と上鳴の後頭部に衝撃が走る。フラフラで踏ん張ることも出来なかった彼の体は面白いように吹っ飛び、そのまま場外のラインを頭だけ越えてしまう。「ウェーイ?」と情けない声を最後にもらして、上鳴の意識は刈り取られた。

 

 

『後頭部にドロップキックがクリーンヒットぉ!! 移動だけじゃねーぞこの女ぁ! 見事な蹴りだぁ! つーか、大丈夫か上鳴!?』

 

 

 上鳴が場外へ飛んでいったのを確認した移は、いそいそと地面に落ちていた左足の靴を履きジャージを羽織った。

 主審のジャッジがくだり、第五試合が決着する。勝者の移は、つま先で蹴って靴の履き心地を確かめながら、爆発する歓声に応えるべく右腕を掲げた。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 作戦が上手く嵌ったことに安堵する。これで決まらなかったら、上鳴の攻略は難儀していたに違いない。

 単純な作戦だった。前回の戦闘で背後からの奇襲で負けた上鳴は、それを一番意識すると考えていた。愚直に背後に【空間移動(テレポート)】しては、彼の放電の餌食となるだろう。だから囮を使ったのだ。

 靴を片方だけ上鳴の背後に移送してやり、あたかもそこに着地したように演出する。ついでにジャージも移送して、視覚的にも錯覚するようにした。私の【空間移動(テレポート)】なら、一瞬あれば彼を場外へ移送できる。それを知っている上鳴だからこそ、触れられないように間髪入れずに放電するだろう。それが囮だと気付かずに。

 

 彼が放電をスカせば後は簡単。限界まで放電した彼は判断力が鈍くなる。フラフラになった頭の高さに【空間移動(テレポート)】して、空中でドロップキックをお見舞いしたというわけだ。

 

 正直、この作戦が決まらなければ苦戦を強いられたと思う。当たってしまえば一発K.O.出来てしまう上鳴の〝個性〟は、かなりの強敵になり得る。本当に、スムーズに勝てて良かった。

 

 

「空戸さん! すごかったよ! 見事な作戦だったね!」

 

 

 座席に戻ると、興奮した様子の緑谷が距離を詰めてきた。

 

 

「上鳴くんの〝個性〟は当たってしまうと一発で行動不能にしてしまうかなり強力な物だ。それを飛び道具のない状況で接近しなければならない空戸さんがどう戦うのか予想しながら見てたんだけど、あの方法は思いつかなかったよ! 恐らく、僕が怪我をして意識を失った後の戦闘訓練で取った作戦を利用したんだよね。ああ、戦闘訓練については後から相澤先生にVTRを見せてもらって知ってたんだ。とにかく、相手の裏の裏をかく見事な作戦、それに最後に決めた空中でのキック! あの姿勢制御と完璧な位置に移動する〝個性〟制御は本当に素晴らしかったよ!! あの戦法、昔居た〝ポートマン〟ってヒーローに似てるような気がしたけど、もしかして彼から着想を得たりしたのかな! それを自分の戦法として落とし込める空戸さんの努力と発想力は、いや〜僕も見習わないと!!」

(………。うわーノンブレス…嬉しいけど、これはちょっと…)

 

 

 あまりの勢いに流石の私も喜びより驚きがまさってしまった。周りを見てくれ緑谷、梅雨ちゃんもドン引きしているぞ。

 とりあえず無視は良くないと思い、愛想笑いをして賞賛への礼を言い、私は席に着いた。彼は尚もブツブツなにか言っているようだが、私は続く第六試合に集中することにした。すまない、緑谷。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 緑谷と轟、常闇と爆豪というA組の中でも上位の実力者たちによる試合が終了し、遂に二回戦第三試合──私と芦戸の出番となった。

 

 

「体調不良でも、ここでは容赦なしだよ」

 

 

 やや迷いのある顔で彼女はそう言う。優しい子だ。

 

 

「もう大丈夫ですし、それは当然です。むしろ全力で来ないと怒るとこでしたよ」

 

 

 数mの距離を挟んで向かい合う。芦戸の〝個性〟の【酸】は、溶解度と粘度を調整可能だという。全身を強酸で覆われてしまうと触れるのは難しくなるが…。

 

 

『スタートぉ!』

 

 

 芦戸が駆け出す。足から粘性の低い酸を出して滑りながら移動する彼女の得意技だ。素早い移動で的を絞らせないつもりなのだろう。

 彼女がいる方向に意識を集中して【スフィア】を展開する。視覚に加えて【空間探知(ディテクト)】を使うことにより、正確に彼女の挙動を把握し動きを予測する。そして、その予測した位置、芦戸の頭上に逆立ちのような姿勢で【空間移動(テレポート)】した。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 伸ばした手で彼女の桃色の頭を触れる。逃げる隙を与えることなく、続けて芦戸だけを場外へと移送した。

 芦戸がいた場所にそのままの姿勢で落下して倒立する。離れたところで尻餅をつく彼女を見ながら、私は背面から片足ずつ下ろして着地した。

 

 

「芦戸さん場外! 空戸さんの勝利!」

 

 

 バラ鞭をしならせてミッドナイトが宣言する。これで2勝、準決勝に進出となる。

 

 

「くっそ〜、悔しいなぁ〜! 空戸! 絶対勝ってよね!」

 

 

 倒れた芦戸を起こすべく手を差し出した私に、彼女は悔しがりながら激励の言葉を送ってくれた。「もちろんです」と答えて彼女の気持ちを受け取る。──優勝まであと少しだ。

 

 

 

 




やっと出せたよ白井黒子のドロップキック!

芦戸戦はチャチャっと終わらせました。粘性MAXアシッドマンを覚えられたら、あの戦法は取れなくなります。
本当にみんな成長しますよね…(ホロリ…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。