けどね、書けたらね、投稿したくなっちゃうのよ。
ということで、本日2話目の投稿です。
週一投稿とはなんだったのか。
準決勝第一試合は、轟と爆豪の対決だった。轟はこれまで、授業でも体育祭でも【氷結】だけを使っていた。彼なりの拘りがあったのだろう。だけど、二回戦にて対戦相手の緑谷に何やら言われたことで彼の中で心境の変化があったのか、左手の【炎熱】も使うようになった。
正直、この変化は対戦する側としてはかなり難儀する。
もともと轟が使っていた【氷結】であれば、対処は可能だった。氷という固体は、私の【
そんな強敵から超強敵にレベルアップを果たした轟は、準決勝で爆豪に敗れた。それも、【炎熱】を使わないまま。
使う素振りは見せていた。しかし、直前で攻撃を中止してしまった。そしてそのまま場外へと吹き飛ばされてしまって負けたのだ。
それを見た爆豪は激怒した。
『意味ねえって言っただろうがクソが! こんな勝ち方なんて…こんなのッ…』
意識のない轟に掴みかかる爆豪のあまりの様相に危険と思ったのか、ミッドナイトが【眠り香】を使って彼を眠らせることで事態は終息した。
爆豪の行動は褒められたものじゃあないが、彼の気持ちは分からなくもない。互いに全力を出し尽くして白黒つける。そのつもりで試合に臨んだというのに、相手が死力を尽くさずに勝利してしまう。向上心と矜持の塊である爆豪にとって、これほど業腹なことはない。
だが、何と言おうと勝敗は決した。爆豪は勝ち上がった。
今から始まる準決勝第二試合。私と飯田、どちらか勝った方が爆豪と対戦することとなる。私が勝ち進んだその時は、彼の鬱憤を晴らした上で完膚なきまでの勝利を掴ませてもらおう。
とある作戦の為に両袖を肩まで折り上げながら、私は選手入場口まで向かった。
▽ ▽ ▽
飯田は迷っていた。幼い頃から紳士的な振る舞いを心掛けてきた飯田にとって、〝女性を蹴る〟という行為は許されないことだ。たとえそれが訓練や試合であっても、積極的にやろうとは到底思えない。
だかしかし。眼前の相手に蹴りを封印したまま勝てると思うほど、彼は自惚れていなかった。
自分の信念を貫くか、勝利のために貪欲になるか。彼は試合直前になっても迷っていた。
「──飯田」
そんな彼の心情を察したのだろうか。移は柔和な顔付きながらも、強い意志を感じさせる瞳で飯田に語りかける。
「紳士的なキミのことです。私を蹴っていいのか、迷っているのでしょう?」
「ぐっ…、その通りだ。失礼なことだとは分かっている。だが…」
「さっきの爆豪、見ていたでしょ? ──全力で来てください。容赦も油断もなく、飯田の全力を見せてください」
飯田は、轟戦の時の緑谷の言葉を思い出す。
『みんな本気でやってる。勝って目標に近付くために…一番になるために…』
『──全力でかかってこいッ!!』
(ああ、そうだった。緑谷くんが言ってたじゃないか。俺の全力を見せないと、意味がないッ!)
ギリッと歯を噛みしめた飯田は、先程までのぬるい考えを捨てるため、そして失礼を働いたことに謝罪するために全速力で腰を折る。
「すまない!! 俺が間違っていた!! 全力を以って、俺はキミを倒す!!」
「ふふふっ。ありがとうございます。ですが、勝つのは私ですよ」
朗らかに笑いながら、移は宣言する。彼女は、自分の敗北を微塵も考えていない。絶対に勝つ。強い信念が込められていた。
『やり取りは終わったかぁ? そんじゃ始めるぞ!! 今更紹介なんていらねーよな!? 準決勝第二試合、スタートォ!!!』
合図と同時に走り出した飯田の行動は、二回戦で芦戸が取った行動と同じだ。だが、その速度は圧倒的に違う。初速から最高速度。脹脛から伸びるマフラーより熱気が噴き出し、【レシプロバースト】を使用した飯田は、一瞬で移に肉薄する。
(空戸くんに時間を与えてはいけない! 反応できない速度で動いて一撃で決める!)
移の左肩を目掛けて足を振り抜く飯田だったが、その一撃は空振りに終わる。移の【
「織り込み済みだッ!!」
空を切った蹴りの勢いを利用して反転する。飯田から離れた位置へ移動していた移の下へ駆け出す。
飯田にとって、速さは自分のアイデンティティであり自慢だった。尊敬する兄と同じ【エンジン】という〝個性〟で、兄のようなヒーローを目指す。それが飯田の夢だった。
しかし、個性把握テストにて、飯田は自慢の速さで敗北した。もちろん、自分の〝速さ〟と彼女の〝速さ〟は種類が違うと分かっている。だけど、負けたことに変わりはない。それでへこたれる飯田ではなかったが、少なからず対抗心を抱いていたのだ。
だからこそ見てきた。彼女の〝個性〟の特徴を。その弱点を。
(空戸くんは自分以外を【
コンマ数秒。瞬き一回程度の時間で再び移の下へと飯田はたどり着いた。飯田の予測通り、その時間で移は自分自身を移送することはできない。
飯田は蹴りを放つ。彼女の手が自分の足を決して触れぬよう、さっきと同じ左肩を狙った。──
ドォオオン!!
純粋な身体能力だけでは決して出ないスピードで蹴られた移は、凄まじい音を立てて飛んでいく。自身を【
コンクリートの地面をかなりの速度で転がったことで、皮膚は擦り切れ身体のあちこちに打撲痕が生じた。
『空戸飛んでったぁー!! かなり痛そうだな、おい! しかし、これで勝者は決まったなぁ! 決勝に駒を進めたのは──』
『──よく見ろ間抜け』
ハイテンションなプレゼント・マイクに隣のミイラマンこと解説のイレイザー・ヘッドが水を差す。なんのことか分からなかったマイクは眉を顰めるが、イレイザーの視線の先を見て驚愕を露わにする。
『んん…!! ありゃどういうことだ!? なんで──飯田も場外だぁぁ!!』
移が飛ばされた場所と反対側の場外エリア。そこに呆然と無傷の飯田が立ちすくんでいた。
傷だらけの移が左肩を庇いながらゆっくりと立ち上がる。そして、開始前と同じように朗らか笑みを浮かべて飯田に言い放つ。
「私の…勝ちです」
▽ ▽ ▽
飯田の凄まじく速い跳び蹴りは、彼の狙い通りの部位に的確にヒットした。だがそれは同時に、私の狙い通りでもあった。
いくら蹴り技を解禁したと言っても、紳士然とした飯田が顔や腹部を狙うとは考えられなかった。最短距離で私の下へ辿り着き、一撃で確実に場外へと吹き飛ばすために狙える部位は左肩だけだった。
背部や臀部、脚部は狙わない。そこを蹴るには無理な姿勢を取らざるを得ないため時間をロスする。そうなるような位置に【
だから飯田は私の左肩を蹴った。私の思い描いた通りに。
恐らく肩は脱臼か骨折をしているのだろう。打身と擦過傷だらけで肩以外の全身も痛い。それらを耐えて無理矢理立ち上がり、彼に勝利宣言をした。
呆然と場外エリアに立ってこちらを見つめる飯田は、何が起こったのか理解できないといった様子だ。
当然だ、飯田は私の両手に触れていない。両手に触れなければ【
「私は、両手以外で他人を【
私の言葉で飯田はハッとした。
〝個性〟を用いた戦闘において、情報を秘匿しておくことは基本中の基本。入学した時点で雄英体育祭の優勝を狙っていた私は、こういうこともあろうかと、これまでの授業や体育祭中にいくつかのブラフを仕込んでおいたのだ。(もちろん、授業に影響が出ない範囲でだが)
飯田の【レシプロバースト】は驚異的だ。騎馬戦の時のように上空に逃げ続ければ時間切れを狙えたが、流石にガチンコバトルでそれはしたくなかった。攻略するには、決勝戦前に情報のアドバンテージを捨て肉を切らせて骨を断つことが最適解と判断した。
飯田が分析力に優れていると分かっていたからこそ立てられた作戦だ。
「飯田くんが先に場外へ出たため、勝者は空戸さん!」
ミッドナイトのジャッジが下された。これで、優勝まであと一戦だ。
(…それにしても肩、痛過ぎるんですけど…泣いちゃいそう……)
カッコつけて立ち上がったけど、あまりの痛さに私は動くに動けないのであった。
▽ ▽ ▽
「──はい、これで終わりだよ」
リカバリーガールに痛む場所をチュ〜っと口付けされて治癒が終了した。幸いにも左肩は脱臼だけで済み、運動に支障をきたしそうな打撲に関しては彼女の〝個性〟で治してもらった。脱臼の整復をされる時は泣いてしまったが、肩が嵌まってから靭帯を【治癒】で修復してもらったため、動きに違和感はない。決勝戦には影響なさそうだ。
「まったく…もう少し怪我を減らすことはできなかったのかい? 骨が折れてたら、次の試合に出られたとしても疲労が残ってた筈だよ?」
リカバリーガールから苦言を呈されてしまう。彼女の〝個性〟は優秀だが万能ではない。前に緑谷も言っていたが、【治癒】には対象者の体力を消費してしまうため、あまりに酷い怪我は疲労困憊になってしまうのだと。
「いやぁ…想定より飯田の蹴り技が鋭くて…、試合が終わった直後は私も後悔してました」
ははは、と笑ってお茶を濁す。私の態度に呆れた様子のリカバリーガールは、「もうお行き」とシッシと追い払う仕草をして私に背を向けた。実に塩対応だ。だけど、そこが彼女の魅力だ。
痛かったけど、初めて彼女の【治癒】を受けることが出来て、ミーハーな私は少しだけテンションが上がった。痛かったけど…。
(さてさて、決勝戦が開始するまでもう少し時間がありますね…。せっかくだから身嗜みを整えにでも行きますか)
肩の治療が思いの外早く終わったことで少々時間が余ってしまった。今から入場口に向かうのは少しばかり早いだろう。救護室を出て、その足で控え室へと向かう。汗もかいたし、コンクリートの摩擦でジャージはボロボロだ。満身創痍な私も当然可愛いけど、決勝の舞台では綺麗にしておいた方がいいだろう。
ということで控え室に到着した私は、念のため持ってきていた着替えを取り出し、上半身の服を脱ぐ。インナーまで破れていたので、そちらも一緒にに着替えるとしよう。不幸中の幸いか、スポーツブラは無事だった。そこまでダメージがいっていたら、八百万に「ブラ創って〜」と頼まなければならなかった。それはちょっと恥ずかしい。
脱いだついでに汗拭きシートで肌を拭う。せっかくの晴れ舞台、時間いっぱい身嗜みに使うとしよう。
さーて可愛くなっちゃうぞーっと下着姿のまま化粧ポーチを探し始めた私の耳に、〝ガチャリ〟と不穏な音が届いた。
──あれ、そういえば私カギ閉めてたっけ。
扉の方に目を向けるとそこには、普段よりも傾斜が緩やかな眉毛とポカンと口を半開きにした、つまり虚を突かれた表情をした爆豪が扉を開けた姿勢でこちらを見ていた。
下着姿を見られた恥ずかしさを抱くよりも先に、爆豪の顔がなんだか宇宙猫っぽいなあ、とどうでも良い感想が頭に浮かんだ。
要約:移「一体いつから発動条件が手で触れることだと錯覚していた?」
移ちゃん、飯田戦のために袖を肩まで捲ってます。つまり脇チラしてます。脇チラしてます。