TSテレポーターのヒーローアカデミア   作:tsuna屋

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書けたので1週間待たずに投稿。

職場体験本番は③から。今回は移ちゃんを取り巻く環境について。

前回誤字報告してくださった方々、ありがとうございます。
相澤先生は無事、1人に戻りました(´ω`)


職場体験②

 時刻は移たちが福岡に到着した頃に巻き戻る。

 

 雄英高校から車で1時間ほど離れた静岡県の閑静な住宅地。高級住宅が建ち並ぶ町の一画に一際大きな豪邸が建っていた。土地面積300坪程のその敷地の表札には〝立辺(たてべ)〟と達筆に彫られている。そこは、移の母親の生家であり、現在移が祖父母と共に住んでいる自宅だ。

 

 敷地に面する道路を箒で掃いている、品良く着物を着付けた老齢の女性。ロマンスグレーの髪を後ろで結ったその女性こそ、移に武術と美容のいろはを叩き込んだ彼女の祖母、〝立辺(たてべ) (なごみ)〟である。

 立辺家は数人の家政婦を雇用しており、本来なら(なごみ)が掃除をする必要はない。しかし、『動いていないと体が鈍るし、なにより暇だ』と話す彼女は、毎日こうして掃除に精を出している。特に、今日から1週間は移が職場体験に出かけている。普段に増してやることのない(なごみ)は、自宅内を掃除し終えて家の外まで範囲を広げていた。

 

 砂埃を掃き終えてひと段落ついた彼女は、ゴミを一纏めにして箒を壁に立てかけると、門前まで近付いていた人物に対して視線を向けずに口を開く。

 

 

「わざわざ何の御用ですか? ──目良(めら)さん」

「…お気付きでしたか」

 

 

 ブラックスーツを着た草臥れた様相の男性、(なごみ)から目良と呼ばれた彼は少しだけ驚き、すぐに姿勢を正して軽く頭を下げた。

 

 

「お久しぶりです。連絡もなく突然訪問したことをお許しください。なにぶん、急ぎの案件かつ電話では話せないことでしたので」

「それなら、2回程こちらの様子を窺っていたのは何故です? 自宅の前をそうウロウロされては、落ち着いて掃除も出来やしないわ」

 

 

 低姿勢な目良に対して、(なごみ)は僅かに怒気を孕ませていた。旧知の仲の2人であったが、彼女は目良の訪問を歓迎していないようだ。

 

 

「それもお気付きで…。〝個性〟ですか?」

 

 

 昼時の住宅地にスーツ姿の中年男性という、中々に目立つシチュエーションの彼だが、仕事柄相手に気付かれないように様子を探ることには長けていると自負していた。それ故にそこまで察知されていたことに再び驚く。

 そして、目良の言葉に彼女の怒気はほんの少し強まった。

 

 

「莫迦にしないでくださる? 〝個性〟を使わなくてもこの程度の距離、眠っていても気付くわよ」

 

 

 藪を突いてしまったかと、目良は後悔した。しかし〝この程度〟と言うが、(なごみ)が掃除を終えるまで彼女の視界に入ってなかったし、ここから数十m近く離れていた。〝個性〟の使用を考えるのも仕方がない。

 謝罪の言葉を述べる彼に小さく息を付き、平常心を保つことを意識しながら(なごみ)は目良に家の中へ入るよう促した。

 

 敷地内に入り外から姿が見えなくなったところで目良は被っていた黒いウィッグと伊達眼鏡を外した。うっすらかいていた額の汗をハンカチで拭う。

 玄関扉を閉じ、〝個性〟で人がいないこと確認した(なごみ)は『それで、』と切り出した。

 

 

「いったい何の御用です? あの娘の周りに変わったことが起きていないのは、貴方方ならご存知の筈ですよね。それとも、この間のネット上の件ですか?」

「…そのどちらでもありません。ただ、掲示板のことは勝手をしてしまい申し訳ありませんでした」

 

 

 掲示板──雄英体育祭が終了後に立ち上がった移に関してのとあるスレッドのことだ。全国的に脚光を浴びたことにより移がネット上で注目されることを予測していた目良たちは、情報が拡散されると直ぐに動いた。移に対して負い目があり、今〝事件〟のことが公にされると都合が悪かった彼らは、移と紐付いて〝事件〟がニュースにならないよう情報を操作したのだ。

 

 ダミーの情報を多量に流して人々の興味が逸れるように印象操作し、充分に興が削がれたところで例のスレッドを削除した。マスメディアには触れないよう依頼し、それでも強行策に出ようとする一部のフリーライターには圧力をかけて記事を出させないようにした。

 そして、情報をリークした下手人…事件当時に現場の警備に当たっていた警察関係者には厳正な処分を下した。具体的には、減給を言い渡し〝面談〟をした。幼児を養い30年の住宅ローンが残るその男には効果的な脅しになった筈。彼は大いに反省して改心してくれた。

 

 もちろん、これらの隠蔽工作が世間にバレることがないよう細心の注意を払い、仮に将来流出したとしても、移のヒーロー活動に影響が出ないように〝工夫〟してある。…それだけ、目良たちにとってアレは鬼門だった。

 

 裏で色々動いた彼らだが、事情を知る(なごみ)には隠せないことだと分かっていた。あわよくば、気付いていなければ良いなと思っていた目良であったが、この貴婦人にはバレバレであったらしい。

 

 

「…アレについては私からは何も言いません。いずれは直面することになるでしょうけど、今のあの娘には少々負担でしたし。貴方方なら、上手にしてくださったのでしょう?」

「はい、抜かりありません」

 

 

 情報操作は彼らの十八番である。そこは、(なごみ)も信を置いている。

 

 

「では、何のことですか。貴方が直接伝えに来る用件とは」

「──彼が、生きて活動している可能性が浮上しました」

 

 

 言い淀んだ目良が静かに告げる。

 〝彼〟──敢えて明言しない目良であったが、(なごみ)にはそれだけで充分だった。

 あまりの知らせに思わず息を呑む(なごみ)に、自分たちがそう判断した根拠を列挙した。確証するには弱いが、警戒するに値する証拠だった。

 

 

「──なるほど。それで貴方が来たということね」

「はい。微力ではありますが、我々も移さんの護衛をさせていただこうと思います。もちろん、彼女には秘密裏に」

「護衛、ね…。張込みの間違いではなくて?」

 

 

 痛い指摘であった。確かに、移の周辺を警戒する案を通す時、反対派を黙らすために〝星の情報を掴む意味もある〟と方便を使ったのも事実だ。返す言葉のない目良に(なごみ)は言う。

 

 

「目良さん。私は貴方のことは信用しているわ。でもね、──〝公安〟のことはその限りじゃあないのよ」

「…存じております」

 

 

 それは仕方がないと目良自身も思う。彼が所属する組織〝ヒーロー公安委員会〟は、過去にそれだけのことを移にしてしまった。10年前は目良も若く直接は関与していなかったが、聞き及んでいることだけでも当時の対応は下の下であったと断言できる。公安としても人としても。

 正義のためとか秩序のためとか、そんな言葉を盾にして行っていいことではなかった。

 

 

「情報の提供は感謝します。貴方方は貴方方でお好きにして構いません。ただ、私たちはいつも通りあの娘を護るだけです。──私はそのために事務所を畳んでからもヒーローを続けているのですから」

 

 

 話は終わりですとピシャリと言い放つ(なごみ)にこれ以上の問答は不躾と判断した目良は、一礼して変装用のウィッグと眼鏡を付け直し立辺邸を後にした。

 

 目良が敷地外へ出て行ったことを〝個性〟で読み取った(なごみ)は、深く息を吐き張り詰めていた気を弛緩させる。彼女にとって、目良は信用できる男だ。だが、先程本人に言ったように〝ヒーロー公安委員会〟については少しも気を許していなかった。

 

 プロヒーローとして事務所を構えて活動していた頃から〝個〟を蔑ろにする彼らの方針について思うところがあった。国を守る以上、多数を優先するのは仕方ないのかもしれない。それは分かってはいたが、いっそ冷酷なまで極端な行動を取る公安のことは好意的に思えなかった。

 

 ──そして、10年前からは憤怒すら抱くようになる。

 

 今までは対岸の火事だった〝公安の被害〟に、唯一の孫娘が遭遇してしまった。彼等の事情を鑑みても到底赦せることではなかったのだ。

 

 

「……いっそ、箱の中に閉じ込めておけたらいいのに…」

 

 

 この10年間、幾度となく考えたことを口にする。そうすることで移の安全が保証されるのであれば、たとえ彼女の夢を壊すことなっても実行しただろう。

 だが、それはしなかった。移には強くなってもらう必要があるからだ。〝彼〟のシンパが残っている可能性がある以上、自分たちの死後、移を護る者がいなくなるのは不味い。そして今しがた伝えられた〝彼〟の存命の証拠…。たとえ〝彼〟本人に襲撃されても、移には逃げる或いは立ち向かえるだけの力を蓄えてもらわなければならない。

 

 

「移ちゃんは絶対に渡さないわ…」

 

 

 あの吐き気を催す邪悪といけ好かない組織を思い浮かべて宣言する。愛しの孫娘が一人前のヒーローになるまで、必ず自分たちが護りきる。

 いつか来る襲撃に備えるため、(なごみ)は修練場へと足を運んだ。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「足並みを合わせてる間に被害が拡大なんて許されないでしょ」

 

 

 ──職場体験2日目。

 

 相棒(サイドキック)たちが書類仕事に勤しむ間、簡単な質疑応答時間をホークスが設けた。ホークス事務所のパトロール体制についての答えが常闇と移に告げられる。

 効率的な体制だ。だからこそ、移動能力がありホークスにも着いていける移に次いで指名された対象が己であることに、常闇は疑問を抱いた。彼が興味を持った理由が分からない。

 

 

「では、俺は何故声をかけられたのでしょうか?」

「鳥仲間」

 

 

 自らの赤い羽を手に取りながらホークスが答えた。沈黙が場を支配する。相棒(サイドキック)が打つキーボードの音がやけに大きく聞こえた。あまりな回答に移は思わず常闇に視線を向けて表情を窺う。

 

 

「…おふざけで?」

「いいや、2割本音」

 

 

 努めて冷静に訊いた常闇に、尚も飄々とした態度で彼は言う。

 

 

「半分は1年A組の人から話を聞きたくて。──君らを襲った(ヴィラン)連合とかいうチンピラのね」

 

 

 (ヴィラン)連合。4月に雄英高校を襲撃した(ヴィラン)たちの主犯格が名乗った名だ。一時期世間を騒がせた彼らは、その大半が逮捕されているが、主犯と見られる2名は未だ足取りすら掴めていない。

 情報の殆どは警察に問い合わせば分かる筈。しかし、それには明確に(ヴィラン)の捕獲に協力するという意思表示をする必要がある。いくらNo.3ヒーローといっても、その段取りは省略できない。自分が動くか否か、それを決めるための情報収集ということか。常闇と移はそのようにホークスの思惑を推測した。

 

 

「──んでどうせなら、俺について来れそうな優秀な人ってことで雄英体育祭の上位入賞者から良さげな鳥人間を指名したってわけ。まずはUSJ襲撃事件について聞かせてくれる?」

 

 

 常闇が悔しげに口元を歪ませる。移が声を発するか迷っている内に常闇はその感情を飲み込み、ホークスの要望通り事件の詳細について自分が見聞きした内容を話し始めた。声は平坦だが、その瞳には沸々と込み上げる悔しさを滲ませていた。

 

 

「──以上が、俺が経験した事件の概要です」

「なるほどなるほど。オールマイトさんに迫るパワーと耐久を備えた怪人、ね…」

 

 

 ホークスは軽薄そうな表情を潜めて少しの間考え込む。かと思えばパッと顔を明るくし「ありがとね」と常闇に伝え、続いて移へ視線を向けた。

 

 

「空戸さんはどう? 事件について思ったことある?」

「…私は先生から増援要請を任されたので常闇ほど長い時間接敵していませんが…」

 

 

 話を振られた移は、そう前置きをしてからぽつぽつと語り出す。連合が現れてクラスメイトが(ヴィラン)の〝個性〟で分断されるまでは常闇の説明と相違ない。増援を呼ぶ際に偶然知ってしまったNo.1ヒーローの秘密はおくびにも出さないでことのあらましを話し終える。

 

 

「聞いた限りだと、その靄を出す(ヴィラン)の転移可能距離はかなりのもの。尻尾を掴むのは苦労しそうだ」

「はい。刑事さんにも伝えましたが、同じ発動条件と推測している亡き祖父も、座標さえ分かっていれば県を跨ぐ移送が可能でした。そして(くだん)(ヴィラン)は靄を広げて数十人をまとめて【ワープ】していました。居場所を突き止めたら、電光石火で確保しないと逃げられるでしょう」

 

 

 移動距離、対象人数、靄という特性…。オールマイトと短時間でも渡り合っていた怪人といい、一介のチンピラとは呼べない驚異的な〝個性〟の持ち主だ。よく全員生きて危機を脱せたものだと、移たちは改めて肝を冷やした。

 

 

「いやー、ありがとね。2人のおかげで大分情報が集まったよ! まだ出動まで時間あるし、隣の部屋で休憩でもしておいてくれる?」

「…では、失礼します」

「あ、ちょ、常闇! …失礼します!」

 

 

 足早に常闇は退室する。言葉には出さないが剣呑な雰囲気を隠さない彼の後を追って、ホークスに一礼をして移も部屋から出て行った。ホークスはそんな2人を笑顔を浮かべて見送った。

 

 

(…怪人に靄の(ヴィラン)、ねえ……)

 

 

 彼らの前で見せていた飄々とした態度を改めて、ホークスは黙考する。USJ襲撃事件や(ヴィラン)連合のことについて頭を働かすが、すぐにそれらを隅に追いやり、ドラフト指名した雄英の女子生徒に意識を向けた。

 先程本人に伝えたように、常闇を指名した理由の半分は(ヴィラン)連合の話が聞きたかったからだ。それは移に対しても同様。しかし、残り半分の理由は彼と大きく異なる。

 3割は彼女の〝信念〟が気に入ったこと。そして残りの2割は…。

 

 ホークスは昨晩、彼の言うところの『怖〜い人たち』と電話をした時のことを思い出した。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

『いったいどう言うつもりなのか教えてちょうだい』

 

 

 職場体験初日。眩く差し込む夕日が事務所の屋上で佇むホークスを照らしている。事前に伝えられていた時間に掛かってきた非通知の電話を取ると、開口一番にそう告げられる。ホークスは苦笑を浮かべた。

 

 

「何のことを指しているのかわかりませんねぇ」

『惚けるつもり? 〝空戸 移〟をドラフト指名した件に決まっているでしょう。貴方、報告では〝轟 焦凍〟と〝常闇 踏陰〟を指名すると言っていたわよね?』

「アー、そうでしたっけ?」

 

 

 通話相手の女性が語気を強めて詰め寄る。激怒とまではいかないが、そこそこ苛立っていることが伝わる。

 

 

『彼女の担当は他の者が就いている。貴方に命令した覚えはないわ』

「気が変わったんですよ。No.3ヒーローとして、焦凍くんより彼女のことが気に入っただけです。ほら、あの娘ってガッツあるし」

『──とにかく』

 

 

 ホークスの言葉を遮って女性は言う。

 

 

『貴方が我々〝公安〟の人間だと匂わすことは絶対に避けなさい。ただでさえ微妙な関係が更に拗れるわ。いいわね?』

「分かってますって」

 

 

 話は終わりだと一方的に通話が終了される。〝お小言〟を貰うことは予想していたので、この程度で済んで良かったと肩の荷が降りる思いだ。

 ホークスが彼女を指名した理由。連合の話が聞きたいのが5、信念が気に入ったのが3、そして残りの2割。

 かつてヒーロー公安委員会が総力を上げて追っていた(ヴィラン)。死んだと思われていたが、最近になって生きている可能性が浮上した。

 そんな男のシンパに狙われ、当時6歳にも関わらず生き延びた経歴を持ち、しかし絶望することなく確固たる信念に生きる少女。事件から10年経った今も公安が〝執着〟する16歳のヒーロー志望。興味が湧いた。

 

 

「後進育成とかする気はないんだけど──」

 

 

 移が本気でNo.1を目指すと言うなら、その手助けをしてやってもいい。気まぐれにそう思ったのだ。

 ホークスが密かに掲げる最大の目標。『ヒーローが暇を持て余す世の中にしたい』──それを達成するための近道になる。彼女の将来に期待した。

 だから、まあ。

 

 

「早く追い抜いて、楽させてほしかね」

 

 

 『速すぎる男』という異名を持つビルボードチャートNo.3のトップヒーロー。その裏でヒーロー公安委員会の任務を熟すダブルフェイスを持つ青年。ウイングヒーロー〝ホークス〟は、未だ卵の未来のトップヒーローを夢想して優しく微笑んだ。

 

 

 

 




『現在判明している移の血縁者ついて』

父親:故人
母親:故人
父方の祖父:故人。10年前に他界。【ワープ】系〝個性〟
母方の祖父:立辺 理誠。大企業の代表取締役
母方の祖母:立辺 和。プロヒーロー。【探知】系〝個性〟


公安、CIA、MI6…こういう組織が暗躍する映画や漫画って、わくわくしますよね!
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