事故現場ってどんなんだろうなぁ。と想像しながら書きました。『コ◯ドブルー』や『TOKY◯ MER』、良いですよね!
ホークスが飛び立って数分後。ホークス事務所のC班が到着した知らせが入り、私たちは彼らと合流するため、先頭の事故車両から数十m離れた位置にある非常駐車帯へと移動する。そこには、ホークスや他のプロヒーローたちによってすでに救出された傷病者たちが運び込まれていた。
「ツクヨミくん、テレスキュウさん! ホークスから聞いているよ。君たちは緑タッグの下へ行ってくれるかい? 傷病者が出来るだけエリアから離れないよう見守ることと、不安を軽減出来るように声掛けを頼むよ。あ、あと万が一容体が急変するようなことがあれば、俺たちに知らせてほしい」
「「わかりました」」
慌ただしく指示を飛ばして、C班の2人は黄タッグの傷病者の下へ駆けて行った。ツクヨミと頷き、私たちは緑タッグの傷病者が集められたエリアへと急ぐ。
緑タッグ──START法*1によるトリアージ*2にて区分Ⅲに振り分けられた傷病者のエリアだ。観光バスに乗っていた半数以上がここに区分されており、凡そ20名強が集まっていた。
C班が到着するまでの数分間。その短い時間で殆どの要救助者がホークスによって助け出されていた。彼は、数十枚の羽を巧みに操り、多少無理に動かしても問題のない人間だけ選別して救出したのだ。
無傷ならともかく、事故に遭った直後の人間を怪我の程度を確認せずに動かすのは下策だ。脊椎損傷や骨盤骨折などを生じていた場合、〝動かすこと〟が病態の悪化に繋がる恐れがあるからだ。
しかしホークスは、そういった重症者ではないことを瞬く間に判断し、横転した観光バスから半数以上を事故現場から救助した。あれほど素早い救助を直で見たのは初めてだ。〝個性〟が蔑まれていた【前世】ではあり得ない。全員が軽症者であっても、90度回転したバスの車内から1人を脱出させるだけでも一苦労するのが常だった。
ホークスや他のプロヒーローたちの活躍により多くの要救助者が救助された。──しかし、これで終わりと言うわけでは勿論ない。
治療が必要な要救助者──傷病者を適切な医療機関に搬送する必要がある。
ヒーローがこの現場で出来ることは、救助と簡単な応急処置くらいだ。怪我人の根本的な治療は、救急隊に病院まで搬送してもらわないと出来ない。そしてこれだけの大規模事故。効率的に搬送しないと治療が間に合わない傷病者が出てくる。
それを防ぐために実施されたのが〝トリアージ〟だ。
「皆さん! 私たちは雄英高校ヒーロー科から来た〝テレスキュウ〟と〝ツクヨミ〟です! 皆さんのことは私たちが担当します! もう安心してくださいっ!」
緑タッグの傷病者たちに聞こえるよう、声を張り上げて己の存在を示す。真剣に、しかし笑顔で。〝私たちがいるからもう大丈夫〟と彼らに伝わるように。
「雄英のヒーロー科…?」
「まって、あの子って空戸移?」
「体育祭で優勝してた…!」
「隣の人もトーナメント出てたよなっ!」
「私たち、有名人ですね」
「ほとんどお前の話題だがな」
観光バスに乗っていたのは修学旅行中の生徒だったらしく、緑タッグエリアは制服姿の若い男女ばかりだった。事故による不安や恐怖が強かった筈だが、ホークスに助けられたことに加えて私たちの登場に少しテンションが上がったようだ。若さのパワーだ。
(ふむ…。ちゃんと全員軽症者、或いは無傷ですね)
全員を軽く見渡す。頭に軽度の擦過傷があったり、腕を抑えている人も居るが、第一印象はみんな軽症で合ってそうだ。
トリアージ──今回の場合、START法で実施されたそれは、災害や大規模事故発生時に傷病者の緊急度や重症度をある程度絞り、振り分ける手法だ。
治療の緊急度順に区分Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに振り分けられ、ここに集められた傷病者は区分Ⅲ──別名緑タッグに当たる。
彼らは〝歩行が可能〟な程度の傷病者だ。治療の緊急度は低く、病院に搬送されるのは重症者が搬送された後になる。私たちの役割はそんな彼らのメンタルケアと他の重症者エリアへの移動の制限、それから〝重症者〟が紛れ込んでいないかの観察だ。
「ねね、あたしらこれからどーなんの?」
「彼女があっちの方にいるんだけど…心配だから行ってきて良い?」
「ファンですっ! 写真撮っていいですか!?」
(非日常への興奮もあるんでしょうが…いやまあ、パニックになってないだけ幸いですね)
こうなることは予測できていた。すでに区分された傷病者が好き勝手に現場を動き回ると救助や治療に支障をきたす。それを防ぐために私たちの役目があるのだ。
「皆さんは重症者が搬送後に病院へと行っていただきます! それまでは混乱を少なくするためにこの場で待機することにご協力ください! それから、写真や動画を撮る場合は他の怪我人の方へ配慮をお願いします! 撮らないでとは言いませんが、SNSへの投稿は遠慮してくださいっ」
高圧的にならないよう気をつけて言い聞かせる。20人以上居るため、一度に全員へ伝えるのは難しいだろう。歩きながら、繰り返し伝えるとしよう。
ツクヨミの方を見ると、彼も同じように対応をしている。あちら側はツクヨミに任せよう。
(要救助者は…ほとんど終わってますがまだ何人か残ってますね…。…あ、救急車と警察車両が着きましたか)
歩き回りつつ、事故現場を【
だが救急隊も到着した。これで少しずつ搬送が始まる筈だ。後続車の事故も起きていないし、なんとか出口は見えてきただろうか。
「──あの、あたしらってどーすればいいの?」
救急車の方へ意識を向けていた私に、そんな声が届いた。話しかけてきたのは、先ほど私が直接注意事項を伝えた筈の女子生徒だ。
「ユミ? テレスキュウさんがさっき言ってたじゃん」
「うちらはここで待機だってさ」
「そーだっけ……?」
〝ユミ〟と呼ばれた女子生徒は、周囲の友人たちに言い聞かせられていた。首を傾げる彼女の反応に嫌な感じがした。
(あの子…髪の毛を伝って肩が血に染まってる。出血量は大したことなさそうですし止血済みのようですが…)
「失礼、少し手首を触りますね」
「え? うん…」
私は急いでその生徒の側へ近付いて彼女の脈拍と呼吸数を確認した。──どちらも正常範囲内、問題はなさそうだ。
不思議そうな顔をする彼女に続けて質問をする。
「お名前を教えていただけますか?」
「えーと、倉岡 ユミです」
「年齢と生年月日は?」
「17歳、10月8日生まれ…」
「今は何月です?」
「6月…あのぉ?」
(見当識の異常も見られませんね)
「どうかしたのか?」
簡単な質疑応答に問題なく答える倉岡という少女。とりあえず黄色タッグ、準緊急エリアへ移動させるまでは必要なさそうだ。
私の様子を心配したツクヨミに、『ちょっと気になりまして』と一言返事してから、再度彼女に質問する。
「私が誰か分かりますか?」
「ええとぉ…、ヒーロー…?」
「何があったか分かりますか?」
「うぅーん…? ええ…?」
うん、間違いなさそうだ。他に症状がないことを簡単に確認し、少女に礼を伝えてからツクヨミに向き直る。声量を落として彼に所見を共有する。
「恐らく、頭部の打撲が原因で健忘になっています」
「…脳震盪か? どうする?」
「バイタルも良く他に症状もありません。急いで黄色エリアに移動するほどじゃあありませんが、悪化する可能性もあります。ここで頻回に観察を続けるべきでしょうね」
検査はすべきだが、優先度が一段階上がるほどじゃあない。ただし、頭蓋内出血が生じている可能性も捨てきれない。密に観察して異常の早期発見に努める必要がある。
何か汲み取ったのか不安げな表情をする少女の友人たちへ『凄く急ぐほどではないが、物忘れの症状が出ている。彼女に寄り添って見てあげてほしい』と伝えておく。私たちも症状の観察を続けるが、人手は多いに越したことはない。
後は、念のために現場指揮を執っているプロヒーローへ、このことを報告しておくべきだろう。【テレパス】の〝個性〟のヒーローは赤エリアの側に立っている。そこへ【
「彼女のことを含めて緑エリアの現状を現場指揮官へ伝えてきます。ツクヨミは──、…ツクヨミ?」
移動する前に残ってもらうツクヨミに現場を頼もうと声をかけるが、反応が芳しくない。どうしたんだろうか…。
「…いや、問題ない。ここは任せてくれ」
「そうですか…? …では頼みますね」
少しだけ心残りだが、彼もレスキュー訓練を受けたヒーロー科だ。そう心配することもないだろう。
『1、2分で戻る』ことを言い残して指揮官の下へ【
▽ ▽ ▽
「──そうか。ありがとう! 引き続き、緑エリアの傷病者を頼んだぞ!」
忙しなく指示を飛ばす指揮官のヒーロー、その隣りに付き添っていた補佐のヒーローへと伝達を終えた。
ついでに少しだけ気になり赤タッグ、区分Ⅰの最優先傷病者の状態を覗き見る。
(8名…やっぱり多いですね…)
赤タッグに分類された傷病者はつまり、〝緊急治療の適応あり〟ということ。胸部や大腿部からの外出血や頻呼吸の傷病者などが集められており、駆けつけたプロヒーローや救急隊から応急処置を施されていた。
しかし、いくら処置しようとも、それはあくまで〝臨時の処置〟だ。そのことは全員分かっているため、迅速に病院への搬送準備が進められている。
(気になりますけど私は私の役目を全うしないと…!)
ツクヨミも待たせている。いつまでも彼1人に任せるわけにはいかない。そう思い、再び緑エリアへ戻ろうとした直前。
「──了解した。テレスキュウ! こっちへ来てくれ!」
前方に居た指揮官、【テレパス】のヒーローから声がかけられた。移送先を緑エリアから指揮官の下へと急遽変更する。
「キミは【ワープ】の〝個性〟だったな! ホークスからの要請だ。救助困難な要救助者が居るらしい! 至急、彼のところへ向かってくれ!」
橙色の
「分かりました! 直ぐに向かいます!」
「ああ! 緑エリアへの応援は他の者に任せておく。頼んだぞ!」
ツクヨミの下へはまだ戻れなさそうだ。
【
すぐに私に気付いたホークスは、真剣な表情をして口を開く。
「来たね。実は、まだ1人救助出来てない人が居てね。キミの〝個性〟で彼を助けてほしい」
赤い羽で宙に矢印を作り出し、要救助者の居場所を指し示される。矢印は、横転したトラックと、折り重なるように潰れた2台の車の間を指していた。
ゴクリと、唾を飲み込む。離れた位置で【
(車自体を【
私の今の最大移送重量は凡そ700kg弱だ。切断して分断しない限り、車を対象にすることは出来ない。
そもそも、あそこまで不安定な状態の事故車両を無理矢理移送したら、残った他の車がバランスを崩して倒れるかもしれない。そうなったら、残された要救助者が危険に曝されてしまう。
要救助者に手が届く場所はないかと探知する。集中して隙間を探す。3DCGのローポリからハイポリに変えていくイメージで…、見つけた。
「ホークス、あそこへ私を宙吊りにして運んでいただけますか?」
「了解。手が届いたら、彼と一緒に赤エリアへ跳んで」
ホークスの羽が私の服に突き刺さり、フワッと身体を空へと運ぶ。ゆっくりと天地逆さまにされた私は、目標の場所へと手を伸ばす。
(あと数センチ……、届いたっ!)
ギリギリまで伸ばした手が要救助者の腰に触れた。指先であろうと触れさえすれば、対象がどんな状況でも関係ない。金属の檻に囲まれていた男性と共に赤エリアへ【
僅かな振動が悪影響かもしれない。細心の注意を払い、男性を地面からコンマ数ミリ以下の高さへ移送した。また、体勢も移送前の腰をくの字に曲げた状態から、真っ直ぐの仰向けへと変えておく。姿勢の変更が肉体に影響を及ばさないため、この〝個性〟はこういった救助に向いている。
(なんとか助け出せました…。彼のトリアージは他の方に任せて私は…………、あ……?)
移送した男性と目が合う。それは冷たく濁っていて光が灯っていない。薄く開かれた瞼は、ピクリとも動いていない。彼の顔は青白く変色していた。
「…あ、……ぅあ……… 」
視線が一点から離れられない。きっと、私の口は目の前の彼と同じように間抜けに開かれているだろう。瞼は彼と違ってかっぴらいている筈。
トクトクと勢い弱く、しかし止め処なく流れ出る血液は、アスファルトに赤い水溜りを作っていく。
きっと、〝最初〟はもっと激しかったと思う。けど、事故が起きてもう20分以上経過している。たとえ動脈が損傷していても、人間の血液はそんなに保たない。
──息が、苦しい…。
ガラスか何かによる切創。すっぱり切れている彼の首とその表情は、私に昔を想起させる。
地面に広がる血溜まりは、〝あの日〟見たテーブルに広がる赤黒いクロスのようで。
「お、とう……さ…………んぐッ!!!」
込み上げてきた濁流をその人にかからないよう顔を背けられたのは、私の最後の気力による抵抗だ。手で蓋をしても抑え切れない吐瀉物がビタビタと不快な音を立てて地面を汚す。赤色と薄茶色が混ざり合う。
「 ──テレスキュウさん!」
キーンとつんざく耳鳴りの向こうで、私を呼ぶホークスの声が小さく聞こえた。
喘ぐような自分の呼吸が馬鹿でかく頭に響く。薄まる視界の端に、私を見つめる〝みんな〟の幻影が浮かんでいた。
軽症者とはいえ、学生に任せるかな?って疑問は置いてください。アニオリで梅雨ちゃんはもっと派手なことしてるのでアリかなって。『人手が足りない緊急事態』『優秀な雄英の生徒』『側でホークス事務所のプロヒーローが気にかけている』ということで許可が降りました、きっと。
これまで移ちゃんの【前世】や〝個性〟の詳細、10年前の事件について小出しにしてきましたが、ある程度情報を放出したらどっかで『まとめ』ようと思います。それまで、『こんな感じかな〜』と予想してみてください。