この〝個性把握テスト〟では、一般的な学校で実施されている体力テストと同一の種目が行われる。即ち50m走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げ、上体起こし、長座体前屈、持久走の8種目だ。
ここで、私の〝個性〟について軽く触れておこう。
〝個性〟【スフィア】
私を中心とした球状の範囲内であれば、対象とした物体を距離、障害を無視して一瞬の内に移送することができる。まあ、早い話、よくあるテレポートだ。
詳細な特性を挙げると長くなるし、【
何が言いたかったかと言うと、最初の種目の50m走は、──私の独壇場だ。
『0.11秒』
「「「速ぇええ!!」」」
計測マシンが読み上げた記録に周囲が沸く。うんうん、いいよその反応、自尊心が満たされる。
私がゴールして数秒後、一緒に計測したクラスメイトがゴールした。
「びっくりしたぜ! 俺が走り出した時にはもうゴールしてんだもんなぁ! あ、俺は砂藤 力道、よろしくな」
「えへへ、私の〝個性〟的に移動する種目は強いんですよー。空戸 移です、よろしくです」
息を整えてから大柄の男子生徒、砂藤は私を称えてくれた。出席番号順で走るペアが決められたため、私の後ろの席に当たる彼が一緒に走ったのである。
(認められるっていうことは、幾つになっても嬉しいですねー)
【前世】から数えると相澤先生以上の年数を生きている私だが、褒められることは大好きなのだ。ちょっとはしゃぎ過ぎかもしれないが、ガワは美少女なのだから大目に見て欲しい。
「ドヤる美少女、イイ」
「何言ってんだお前?」
小さな男子の周辺が騒いでた気がしたけど、よく聞こえなかった。多分、凄いとか言ってくれているんだろう。
──第二種目 握力
これに関しては、〝個性〟を活用しようがない。普通に握って計測する。
『43kg』
それでも、そこら辺の女子には負けない記録を出す。小さい頃から鍛えているのだ。
好記録を出した者は、6本の腕を持つ〝障子 目蔵〟が540kgを記録したり、女子でクラス一長身な〝八百万 百〟が〝個性〟で万力を創り出してとんでもない記録を出していた。
障子はともかく、八百万の万力は〝握〟力と言えるのか…? いや、それを言うと私も50m〝走〟で走っていないから同じもんか。
──第三種目 立ち幅跳び
私の番が来て砂場前に立つ。しかし、この種目をやる前に相澤先生に確認しておいた方がいいだろう。
「先生、これって何分間計測していいですか?」
「…逆に最長で何分使える」
「自宅で試した時は落ちずに3、40分ってとこです」
「時間がない。順番を最後にして、それまでの最長記録を超えたらそこでやめろ」
ということで、出席番号20の八百万が終わった後に計測することに。
限界まで測ると雄英の敷地から出てしまうから仕方がない。
それまでの一位の記録より数十m離れたところに着地して終了した。
──第四種目 反復横跳び
この種目は〝個性〟を使うより、普通に挑んだ方が良い記録が出る。
自分を連続で〝移送〟するには若干のタイムラグが生じるため、反復横跳びのような短い距離を数十回【
結果、無難な成績となった。
──第五種目 ボール投げ
「空戸、2回目を投げることも出来るがどうする?」
私の番で相澤先生が訊いてくる。1投目はデモンストレーションをカウントしてくれるらしい。せっかくだが、既に私が出せる最長距離を記録しているため、この申し出は遠慮しておいた。
…どう
しかし、あのボールは最後まで落ちて来なかったが、どうなったのだろうか…。
「次、爆豪」
「っス…」
あ、不良男子改め爆豪の出番だ。彼はさっきから私の記録を上回るとドヤってきて、下回ると射殺すような視線を送ってきており、どっちに転んでも不愉快だ。本当に、私が何をしたと言うのだ…。
ここまで見てきて、彼の〝個性〟が【爆発】とかそんな感じのものだと分かっている。恐らく、入試の実技試験で聞こえていた爆発音は、爆豪の〝個性〟によるものだったのだろう。となると、入試で同会場だった彼の恨みを買うようなことをしてしまった、ということだろうか。
何にせよ怖いから近寄らんとこ。
「死ねぇ!」と、謎の掛け声でボールを投げた爆豪。記録は、『705.2m』だったため、こちらを見てドヤってきた。
飯田に言っていた「ぶっ殺し甲斐」とか今の「死ね」とか、爆豪は言葉のチョイスがいちいち小学生じみていると思う。
「移ちゃん、随分と爆豪ちゃんに敵視されているわね。なにかあったのかしら?」
「いやー、これと言った心当たりはないんですよねー。てか、爆豪〝ちゃん〟って、ウケますね」
爆豪は決して〝ちゃん〟付けが似合う顔をしていない。ギャップが面白いから、私も梅雨ちゃんみたく〝爆豪ちゃん〟と呼んでみようか。うん、更に睨まれそうだやめておこう。
その後、〝緑谷〟と呼ばれたモジャモジャヘアーの男子が相澤先生に忠告されて、2投目に爆豪と並ぶ記録を叩き出していた。そのことで何故かキレ散らかした爆豪は、相澤先生に止められて叱られていた。いい気味である。
ついでに、一連の流れで相澤先生の〝個性〟が【抹消】ということが判明した。見た者の〝個性〟を消すとか…魔眼かよ。かっこいい…。
──第六種目 上体起こし 第七種目 長座体前屈
反復横跳びと同じ理由で素の力で計測して真ん中より上の成績だった。
前屈では梅雨ちゃんが舌を伸ばしたり、鳥のような頭をした常闇が〝個性〟の黒い腕を伸ばして好記録を出していた。
──第八種目 持久走
1500mのトラックを一周する、という内容だ。
飯田の〝個性〟が長距離走向きであったり、八百万が原付バイクを創ったりと、好タイムを残していたが、まあ、私のぶっちぎりである。
ワープ系の〝個性〟は、移動にめっぽう強いのだ。
▽ ▽ ▽
というわけで全種目を終了した。3種目で1位を取ったし、良い結果を残せたと思う。
今まで、こんなに広い空間で落ち着いて〝個性〟を使うことはなかったので、良い経験になった。
「んじゃ、パパっと結果発表。口頭で説明すんのは時間の無駄なんで、一括開示する」
先生が手元のデバイスを操作すると、20人分の名前が載ったホログラムが空中に表示された。
こういうちょっとした部分に文明の進化を感じる。【前世】では、こんな技術なかったからなー。もう15年経つけど、未だに驚いてしまう。
私の順位は、八百万、轟、爆豪と次いで4位だった。握力とかの〝個性〟を活かせない種目が足を引っ張ってしまったからね、仕方がない。
爆豪に負かされたことで、さぞ優越感に浸ってくるだろうなと思ったが、ボール投げの一悶着以来、何かに気を取られているみたいだ。このまま私への謎の執念を忘れ去ってほしいものだ。
「──ちなみに除籍は嘘な」
相澤先生がサラッと言い放つ。あ、そう言えばビリは除籍とか言ってたな…。すっかり忘れていた。
どうやら、除籍云々は私たちが本気で取り組むための〝合理的虚偽〟のつもりだったらしい。20位になってしまった緑谷なんかは、ギャグ時空のような表情で驚愕していた。
〝除籍〟を信じきっていた面々に対して八百万は、「あんなの嘘に決まってるじゃない、ちょっと考えれば分かりますわ」と呆れた様子で指摘した。やめろ、考えるどころか忘れていた私にそのセリフは効く…。
「これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類があるから、戻ったら目通しとけ」
先生は、またもや最低限の説明だけしてサッサと先に行ってしまった。…ガイダンスをする暇ないってのは虚偽じゃあないんだな。
「はぁー、なんだかドッと疲れたね〜」
「ケロ、体もだけど精神的にも堪えたわね。ドキドキしちゃったわ」
ぐてーっと体を丸める芦戸に梅雨ちゃんが答えた。私は何より爆豪のウザ絡みに心が疲れたよ…。
緊張から解放されてダラダラ話すみんなに、飯田が「次の行動に移るよう」促したことで、私たちはゆっくりと更衣室へと足を運んだ。
▽ ▽ ▽
更衣室にて、ロッカーに入れておいた汗拭きシートと制汗スプレーでスキンケアをしていると、コードのような長い耳朶の子が此方を見ているのに気付く。確か、先生から〝耳郎〟と呼ばれていた筈だ。貸してほしいのだろうか。
「使います?」
「え? あ、うん、ありがと。用意がいいんだね」
「入学初日の持ち物に体操服なんて書いてあったから、もしかしてーって思ったんですよ。まさか、テストするとは思いませんでしたけどねー」
苦笑しながら耳郎にスプレーを渡す。ほんと、なんで入学初日からこんなに汗をかいているんだろうか。
「ごめん空戸〜、あたしにも貸して〜!」
「ケロ、私も借りて良いかしら」
「どうぞどうぞー、良ければ使ってください」
耳郎とのやり取りを見て芦戸と梅雨ちゃんも寄ってきた。二人にシートを渡しつつ、残りの三人に目を向ける。
「みんなも使います? ええっとー」
「ありがとう、使う使う〜! 私、葉隠 透! 移ちゃん、だったよね? よろしくね〜!」
「ワァ…っ、し、下着が……ぁ…どぞ……」
目の前の浮いた下着から元気な声がした。透明人間の〝個性〟だろうか。ランジェリーコーナーの前を通る成人男性のようにフイっと目を背けて葉隠に返事をする。特段興奮はしないが、流石に直視するのは、元男性の私的にアンモラルだ。他の子たちも見ないよう、自分のロッカーに視線を固定する。
着替えに集中してますよー感を出しながら、ボール投げで∞を記録した麗日と総合1位の八百万にも顔を向けずにシートを渡す。
「ありがとぉ! はぁー、助かる〜」
「ウェットティッシュ、とは違うのでしょうか? 清拭用の製品ですの?」
「あれ? 使ったことありません? パウダーとかが付いてて、拭いたら肌がサラッとするんですよー」
「あら、本当ですわ。ありがとうございます」
普通のプチプラの汗拭きシートなのだけど、八百万は良いとこの御令嬢なのだろうか、初めて使う物に興味津々といった声だった。
その後、私たちは簡単な自己紹介をしつつ、着替えを済ませて更衣室を後にした。
教室に戻ると、卓上にプリントの束が置かれていた。黒板には明日の時間割りと必要物品が、一番下には『速やかに帰宅すべし』と記載されており、相澤先生の姿はなかった。
何度か口にしてたし、態度からも分かっていたが、相澤先生はかなり合理性を重要視する人のようだ。合理的すぎて寂しい気もした。
他のみんなも同じ気持ちなのか、物足りなさを埋めるようにクラスメイトで交流を深めていた。私もそこに合流し、短い時間だが会話に花を咲かせる。
こうして、雄英高校入学初日はなかなかの波乱を起こして終わった。
この作品では、峰田にちょいちょい作者の嗜好を代弁させます。
ドヤる(TS)美少女って、イイですよね(迫真)
また、タグにあるように〝口田不在〟です。この先、原作で口田くんが重要な役割を担うことになれば編集して〝砂藤不在〟となります。
口田ファン、砂藤ファンの方はご了承ください。