TSテレポーターのヒーローアカデミア   作:tsuna屋

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特に捻りのない原作沿い回です。
不穏な章タイトルは残念でもないし当然ですね。
章の最後には水着回もあるよ!

追記:閑話と順序を入れ替えました。


期末試験①

 夏。

 大きく飛躍した者や新たな課題を見つけた者、期待外れで苛立ちが募った者など、十人十色な結果となった職場体験を終えた私たちは、通常のカリキュラムに戻り授業と訓練に追われる毎日を送っていた。相変わらず雄英高校が課す課題は多く、人生2週目の私でさえひーこら言いながらこなしている。

 職場体験直後は、ニュースで取り上げられた私や常闇、CM出演した八百万、そしてネームド(ヴィラン)の〝ヒーロー殺し〟と接敵した緑谷たちの話題で盛り上がりを見せた一年A組も、今や勉強ムード一色である。

 と言うのも──。

 

 

「よし、授業はここまでにする。──期末テストまで残すところ1週間だが、お前らちゃんと勉強してるだろうな?」

 

 

 教材を片付けながら教壇に立つ相澤先生が言う。

 

 

「テストは筆記だけでなく演習もある。頭と体を同時に鍛えておけ。…以上だ」

 

 

 私たちへ釘を刺した先生は、必要なことだけ伝えると足早に教室から出て行った。

 ──そう、季節は夏。夏季休暇の直前の学校行事と言えば、全国の高校生たちの悩みの種、期末テストの襲来である。トップクラスの偏差値を誇る我が校の筆記テストは言うまでもなく難問であるが、私たちヒーロー科のテストはそれだけじゃあない。詳細は明かされていないが、何かしらの演習試験も控えているのだ。

 

 

「演習って、何するんでしょうね? ヒーロー活動に則した内容でしょうけど…」

 

「一学期でしたことの総合的内容…とだけしか教えてくれないものね、相澤先生」

 

 

 口元に指を当てて梅雨ちゃんは首を傾げた。

 彼女の言う通り、先生は抽象的にしか試験内容を教えてくれなかった。試験なのだから当たり前かもしれないが、レスキューなのか戦闘なのか、はたまたその両方か。ヒーロー活動において、事件や事故が事前に判明していることなんてないのだから、将来を見据えて〝分からないこと〟に即応する力を重視しているのだろうけど。それでも、ある程度知っておきたいのが試験を受ける側の心情というものだ。

 

 昼休憩に入り一時的な解放感に包まれたクラスのみんなは、思い思いにテストについて話している。

 春にあった中間テストで成績が振るわなかった面々──上鳴や芦戸は、迫る地獄に嘆き、あるいは諦めの笑いを上げていた。焦るにはやや遅い気がしないでもないが…。前世の中学・高校時代はそういった〝一夜漬け〟なる手段を取る人たちも居たな、と懐かしく思えた。

 

 

「芦戸さん、上鳴くん。が…頑張ろうよ! ──やっぱ全員で林間合宿、行きたいもん! ね!」

 

 

 クラス順位がちょうど真ん中の余裕な態度を見せていた峰田にやっかむ上鳴たちに、緑谷が発破をかける。彼に追随して飯田が応援し、轟は『普通に授業を受けていれば赤点は出ない』と本気でそう思っている雰囲気で言葉のナイフを投げ掛けた。彼は、少しばかり天然なきらいがある。案の定、中間テストのクラス内順位がドベだった上鳴には、会心の一撃だった様子で更に嘆いていた。

 

 話は変わるが、緑谷が言っていた〝林間合宿〟は、夏季休暇中に行われるヒーロー科の合宿のことだ。自然環境下で集中的に実践される強化合宿で、そこに肝試しなどのレクリエーションも合わさった学校行事だ。クラスメイトとみんなでお泊りできるのだから、全員大なり小なり期待しているだろう。……ああ、いや、爆豪はそういう行事には興味ないだろうが。

 とにかく、そんなビッグイベントが控えているわけだが、この林間合宿、期末テストで赤点を取った者は補習地獄が課されてしまい参加禁止となってしまう。そういう意味でも、何としても赤点は回避しなければならないのだ。

 

 

「〝体を鍛えろ〟……。そういえば、常闇は例の弱点カバー、どうなりました?」

 

 

 職場体験の帰りにした会話を思い出しながら、隣に座る常闇に話を振る。あれから何度か戦闘・救助訓練を重ねたが、【黒影(ダークシャドウ)】の運用を大きく変えた様子はまだ見ていない。

 

 

「あれか…。形に成りつつあるが、習得は未だ。試験までに物にしたいが」

 

「そうですか……。演習で何を求められるか分かりませんが、新ワザ、間に合うと良いですね」

 

「嗚呼」

 

 

 フッと微笑を浮かべる彼に、私もにこりと笑いかけた。

 …私も、頑張らないと。〝頭と体を同時に〟ね…。

 

 

(私の場合、心もですね…)

 

 

 治療は順調に進んでいる。過去を思い出すことへの拒否感は薄れている、…と思う。〝いつまでに終わる〟と断言できないのがこの類の病気の難しいところだ。胸の辺りをギュッと握る。

 

 

(今年の内には〝元気〟になりたいなぁ……)

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 放課後。

 昼食時に緑谷たちがB組の拳藤から齎された〝演習はロボットとの戦闘〟という情報が共有されて、赤点を危惧していた上鳴たちは大喜びだった。確かに、上鳴や芦戸の〝個性〟は対人戦闘や救助には向いてない場合が多い。何せ、調整を誤れば取り返しのつかない大怪我をさせてしまうからだ。その点、相手がロボットの戦闘となれば手加減は無用。彼らの〝個性〟は無類の力を発揮することだろう。

 2人は声を揃えて『これで林間合宿ばっちりだ!』とばんざいまでして盛り上がっていた。

 

 

「──人でもロボでもぶっ飛ばすのは同じだろ。何が楽ちんだ、アホが」

 

 

 和気あいあいムードをぶち壊すように、爆豪が水を差す。相変わらず口の悪い男だ。

 教室中が彼に視線を向ける。

 

 

「アホとはなんだ、アホとは!」

 

「うっせえな! 調整なんか勝手にできるもんだろ。アホだろ!」

 

 

 上鳴が抗議の声を上げるが爆豪に一蹴される。あまりの剣幕に、上鳴たちは萎縮気味だ。爆豪は続けて、緑谷へも噛み付く。

 

 

「なあ? デク。〝個性〟の使い方、ちょっと分かってきたか知らねえけどよ。…てめえはつくづく俺の神経逆撫でするな」

 

(緑谷の〝個性〟…、ぴょんぴょん跳んでたやつですかね)

 

 

 職場体験以降、緑谷は明らかに〝個性〟の練度が上がった。以前のように暴発することはなく、【超パワー】を全身に行き渡らす術を学んだのか、まるで爆豪のようなアクロバティックな挙動を取れるようになっていた。あの職場体験で1番成長したのは、間違いなく緑谷だと言えよう。

 

 

「体育祭みてえな半端な結果はいらねえ。次の期末なら、個人成績で否が応でも優劣が付く。完膚なきまでに差ァ付けて、てめえぶち殺してやるッ!」

 

 

 ぶち殺す…、爆豪語録で意味は『勝たせていただきます』といったところか。彼の瞳には怒りや焦燥、憎悪の感情が乗っていた。

 

 

「──空戸ォ! 轟ィ! てめえらもなァッ!!」

 

(ひえっ、こわ……)

 

 

 ついでとばかりに私と轟にも怒声が浴びせられる。完全に蚊帳の外気分だった私はビクリと身じろいだ。

 言いたいことを言い尽くした爆豪は、ピシャリと扉を乱暴に閉めて教室から出ていってしまった。気不味い空気が教室に漂う。

 爆豪のあの態度…。体育祭で全力で戦ったことで鬱憤が晴れるどころか、悪化している気がする。彼の肥大化したプライドはいつまでも現状に甘んじられないのだろう。向上心故の言動なのだろうが…。

 

 

(もうちょっと、軟化しませんかねぇ…)

 

 

 ひりつく視線を向けられるこっちの身にもなってほしい。体育祭のような高揚している時ならまだしも、普段通りの放課後に彼のクソデカ感情を受け止める度量は私にない。〝器量良し〟ではあるけどね。

 葉隠や尾白に気遣いの声をかけられる。吃驚したけど心配ないと伝え、私は内心でため息を付いた。

 ──これは、また一波乱ありそうだ。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 そして、あっという間に10日余が経過し…。

 

 

「──それじゃあ演習試験を始めていく」

 

 

 3日間の筆記試験を終えて、普通科生徒がいち早く解放感に包まれている中。雄英の敷地内、普段の校舎やグラウンドとは違う施設の中央広場へ戦闘服(コスチューム)を着て集まった私たち。

 全員が揃っていることを確認した相澤先生の横には、何故か複数名の先生方がズラーっと並んでいた。戦闘服(コスチューム)姿のミッドナイトがいるもんだから、峰田の視線は彼女に釘付けだ。こいつは先生の話をちゃんと聴いているのだろうか。

 

 

「先生多いな…」

 

 

 耳郎がこぼす。それを拾う形で、相澤先生が試験内容の説明を始める。

 

 

「諸君なら事前に情報を仕入れて何するか薄々分かっていると思うが──」

 

「入試みてえなロボ無双だろっ?」

 

「花火っ、カレーっ、肝試しぃ!」

 

 

 既に合格したつもりでいる上鳴と芦戸が茶々を入れる。この2人、完全に浮かれている。だが、まあ、ロボットが相手ならばそうなるのも仕方がない。

 

 

「残念、諸事情があって今回から内容を変更しちゃうのさ!」

 

「校長先生っ!」

 

 

 相澤先生の首に巻かれた捕縛布がうごうごと動き出したかと思ったら、中から根津校長がヒョコっと姿を現した。…いつからそこに居たんだろう。

 捕縛布を伝って地面へ降りていく校長が、〝変更した内容〟の説明を続ける。理由は対人戦闘活動を見据えた、より実戦的な教えを重視する故の変更、だそうだ。確かに、現実にロボットを相手取ることは少ないだろうし、その方が合理的なのだろう。

 

 

(…となると、先生たちが多いのって…)

 

「というわけで諸君らにはこれから2人1組(チームアップ)でここに居る教師1人と戦闘を行ってもらう!」

 

 

 両手を広げて言った校長の言葉に、みんなが動揺の声を漏らす。

 

 

「プロヒーローと、戦闘…!」

 

 

 私も思わず溢してしまう。だって、現役の、憧れのプロヒーローと戦闘演習ができるって聞かされたんだ。──こんなに気分が高揚することはないだろう。

 ペアと戦闘相手の組合せは、動きの傾向や成績、親密度を踏まえて既に決定されているとのこと。いつものようにくじ引きではないのか。

 

 相澤先生より順番に組合せが発表される。轟、八百万は相澤先生と。耳郎、砂藤はプレゼントマイクと。瀬呂、峰田はミッドナイトと。飯田、尾白はパワーローダーと。常闇、梅雨ちゃんはエクトプラズムと。青山、麗日は13号と。障子、葉隠はスナイプと。芦戸、上鳴は校長と。

 そして私は、切島とペアで相手はセメントスだ。

 

 

(セメントス……〝個性〟は【セメント】、触れたコンクリを粘土のように操れる。攻撃、防御、捕獲、陽動、足場造りと幅広く対応できる人ですね…。私と切島の〝個性〟では、決定力に欠けますが…)

 

 

 前に訓練で見た動きと、ネットに上がっていた昔の対(ヴィラン)戦闘の動画を思い出す。十数メートルのいくつもの壁を同時に、それも1秒足らずで造り出すことのできる実力者だ。当然、演習場所が森の中ということはないだろうし、綿密に作戦を練らないと合格は厳しそうに思える。

 と、そこまで考えて、まだ1組発表されていないことに気が付いた。残っているのは…。

 

 

「最後は緑谷と、爆豪がチーム。で、相手は──」

 

 ドオォォォン!! 

 

「──私が、する!!」

 

(わっはあぁぁ〜っ!! いちいちカッケーですねっ、オールマイト!)

 

 

 相澤先生の言葉に合わせて突如空から降ってきたのは、相変わらず画風がイカつい我らがオールマイトだ。轟音を響かせて登場した彼の宣言に、緑谷と爆豪は驚愕した様子だ。

 最後まで隠れていたのはいつもの彼のお茶目だろうか。それとも期せずして私が知ってしまった、彼の活動限界の都合上だろうか。両方な気もするが、今か今かと待っていたオールマイトを想像すると可愛くて萌える。

 

 

「協力して勝ちに来いよ。お二人さん」

 

 

 そう言われて片や嫌そうに、片や気不味そうに互いを見る緑谷たち。彼らの様子から、このチームにされた理由に見当がつく。

 

 

(ひとえに、仲の悪さでしょうね)

 

 

 入学後から何かと衝突していた緑谷と爆豪。幼い頃からの知り合いで因縁があるのだろうけど、相性が悪いから連携を取れませんでした、では当然許されないのがヒーロー活動だ。最初に言っていた〝親密度〟ってのは、良い意味ではなく、彼らの関係を指していたのだろう。

 まあ、爆豪に関しては幼い頃の因縁なんてない私にも突っかかって来るんだけどね。

 

 

「それぞれステージを用意してある。10組一斉スタートだ。試験の概要については各々の対戦相手から説明される。移動は学内のバスだ、時間が勿体ない。速やかに乗れ」

 

 

 淡々と説明した相澤先生は、背後のバスを指し示した。相変わらず性急だ。

 

 

「行こうぜ空戸!」

 

「あ、はい。よろしくお願いしますね」

 

「おう! よろしくな!」

 

 

 切島と一緒に先導するセメントスの後を追う。3人で使うには大き過ぎるバスに乗り込み、私たちは演習の会場へと向かった。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 バスから降りた私たちにセメントスがした説明を要約するとこうだ。

 制限時間は30分。私たちの目的は、〝1人ひとつ配られるハンドカフスを先生にかける〟か、〝チームのどちらか1人がゲートを潜ってステージから脱出する〟こと。

 また、先生はハンデとして体重の半分に及ぶ手枷足枷を装着する。逃げの一択ではなく、戦闘も視野に入れさせるためらしい。

 

 戦って勝つか、逃げて勝つか。私たちの判断力も試されるテストだ。

 

 

「それと空戸さん、キミには逃走成功のための条件をひとつ、加えさせてもらうよ」

 

 

 指を立てたセメントスが言う。

 

 

「ゲートを潜る者は【空間移動(テレポート)】を使用していないこと。勿論、直前まで近付く際の使用は構わないよ。あくまで、ステージから出る瞬間に限った話だからね」

 

「あー、確かに空戸が離れたとこからゲートの先へ跳んじまったら、演習にならないっすもんね」

 

「現場ならそれで構わないのだけどね。採点のために、すまないね」

 

「いえ、制限の中で困難を乗り越えてこそ、ですからね。更に向こうへ(Puls Ultra)です!」

 

 

 拳を突き出して彼に返事する。こうなるだろうな、とは思っていた。〝逃避〟が選択肢にある演習で何の制限も設けられていないと、私だけに有利過ぎるテストになってしまう。それも実力の内と言えばそうだけど、先生たちも〝制限した上でクリアできる〟と見越してのことだろう。ならば、越えてやるまでだ。

 

 『それじゃあスタート地点に向かってくれ』と言い残して、セメントスは〝街〟の奥へ消えていく。私は高揚感を抑えつつ、眼前に広がる〝グラウンドβ〟を見つめた。

 

 

「ここって、入試や最初の戦闘訓練で使った場所だよな」

 

「ですね。…まだ数ヶ月ですけど、懐かしい」

 

 

 仮想(ヴィラン)を相手した時のことを思い出す。あの時はロボット相手だったから、容赦なくズタボロにしてやれたけど、今回は〝人間の(ヴィラン)〟が相手だ。攻撃手段は限られる。

 

 

「で、どうするよ? コンクリの壁なら俺の【硬化】でぶち破れるし、正面突破しちまうか?」

 

 

 拳同士を打ち付けて切島が言う。紅頼雄斗(クリムゾンライオット)をリスペクトする彼らしい言動だ。しかし、私はかぶりを振って提案を否定する。

 

 

「セメントスは防衛と持久戦、搦手が大の得意です。普段から〝戦闘とは如何に自分の得意を押し付けるか〟と指導している彼のことですから、正面からやり合うのは悪手だと思います」

 

「うっ…、そういやァそうだったな。なら空戸の〝個性〟で奇襲して、その隙に確保か逃走するか?」

 

「そうですね……。奇襲はするとして、どちらを目標に置くかですね。私としては──」

 

 

 バスの中で考えていた作戦を話しながら、私たちはコンクリートだらけの〝地方都市〟を模した演習場のスタート地点へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 




次回、R・T・A!!
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