新年ですね。喜ばしいことです。
喜ばしいついでに、拙作の総合評価が遂に4000ptを超えました。読者の皆さまには、感謝の気持ちでいっぱいです。
不定期更新ではありますが、これからも完結を目指して書き続けますので、どうぞよろしくお願いいたします。
一緒にヒロアカ界隈とTS界隈を盛り上げていきましょう。
それと、拙作を〝読んではいるけど毎回閲覧履歴から探している〟という方がいましたら、お手数ですがお気に入り登録をしていただけると、とーーーっても喜びます。モチベ爆上がりです。
追記:閑話と順序を入れ替えました。
入学試験と同じ会場であるこの〝グラウンドβ〟は、オフィス街を模している。入口であり、演習のスタート地点でもある現在地からは、4車線ある大きな道路が緩やかなカーブを描いて奥へ伸びている。 道路の左右には10〜20階建てのビルが建ち並び、演習場全体で横約300メートル、奥行約600メートルの広さだ。
地上を走ってゴールゲートやセメントスを探していては、中々のタイムロスになること請け合いだが。
「まずは全体を見通せる場所へ移動して、状況把握に努めましょう。ないとは思いますが、ゴールゲートとセメントスが離れていた場合は、一気に脱出を試みます」
「お、おう。そうだな…」
スタート地点で開始の合図を待っている私たちは、開始早々に奇襲されても逃げられるよう、予め手を繋いでいる。まあ、私の予想ではゴールゲート付近にセメントスは鎮座している筈なので、余程奇を衒うことがなければ初手の襲撃はないと思う。あくまで念のためだ。
それに、奇襲の有無に関わらず、状況把握のために演習場が【スフィア】の範囲にすっぽり収まる場所へ【
因みに私は色恋に疎い天然系ではないので、妙にソワソワしている切島の心の内をしっかりと理解している。私のような美少女と手を繋いだら、そりゃあそうなるよね。分かる分かる、私も【前世】でフォークダンスとかの時にそんな気持ちになったよ。
峰田だったら断固拒否だが、硬派な切島だから嫌な気はしない。初心な少年を弄んでいる気持ちにならないでもないが、重要な作戦だから我慢してもらおう。
『皆、位置に着いたね』
「ん。始まりますね」
どこからかスピーカーを通してリカバリーガールの声が届けられる。監督役は彼女が務めるようだ。
『それじゃあ今から雄英高1年期末テストを始めるよ!』
「…っ、頼んだぜ空戸!」
「合点ですっ!」
いよいよ始まることで気合が入り雑念の抜けた切島に返事をして神経を研ぎ澄ませる。
これは演習試験ではあるが……、〝本番〟を想定して動きたい。ここは本当の街で、無辜な人々が暮らしていて、そして
『レディィィ──』
「一気に、行きます!!」
『ゴォ!!!』
──【
火蓋が切られると同時に演習場の中心付近のビル屋上へと移動し、街全体を【スフィア】で覆う。ビルの中や地下は除外し、演習場の辺縁を重点的に索敵する。脳への負担は最小限に、しかし状況が把握出来る程度の〝ポリゴン数〟で演習場の壁およびその周辺を調べ尽くす。
……見えた。
「──やはり、予想通りの状況です。ゴールゲートは【セメント】の壁で塞がれ、その20メートル手前にセメントスが待ち構えています」
スタート地点から最奥の壁に設置されたゲートは、厚さ約3メートルの壁によって封鎖されていた。開始早々にセメントスが動いたのだろう。
そしてそのセメントスの周囲には、彼を守るようにセメントが流動していた。360度取り囲むように蠢くそれは、まるで複数の大蛇を使役しているようだ。
「周囲は常に【セメント】が動いて守っています。【
「となると、最初の作戦が最有力か」
「ええ。やりますよ」
「おうッ!」
切島と意思の統一を図り、私たちは再び2人で【
「うらァッ!!」
「来たね! けど、力づくでは破られないよ!」
セメントスの周囲を守る蠢く壁に拳を叩き付ける。【硬化】した切島の拳は、コンクリートを容易く砕くが、壊れた側から操作された【セメント】が粘土のように補強される。
殴る、砕ける、直されて、また殴る。目の前にいるのに、切島とセメントスとの距離は縮まらない。砕けたコンクリートの瓦礫が辺りに散らばる。切島の体力だけが徒に消費されていく。
「殴るだけでは好転しないよ?」
「これが! 俺の、
砕いた瓦礫に足を取られぬよう、少しずつ横に移動する切島。セメントスを中心にして弧を描くように大小様々な破片が残される。
──そろそろ、頃合いか。
私の奇襲を警戒しつつ切島の消耗を狙うセメントス。彼の言う通り、このまま続けても埒があかない。だけど、それでいい。
「条件はクリアしました!」
彼らを見下ろせる場所からセメントスの背後へと【
(挟撃する配置! どちらを優先しますかッ!?)
私はこれ見よがしにハンドカフスを片手に持っている。〝隙を見せれば、すぐさま掛けてやる〟という気迫を込める。
殴り続けていた切島は私が現れてから一転、ゲートへと全力ダッシュだ。彼なら分厚い壁があろうとも、数秒あれば殴り壊せてしまう。セメントスは、あちらも無視できない筈だ。
「甘いッ!!」
セメントスが地面に両手を突く。すると、私と切島へ向けてそれぞれ【セメント】の柱が刺突のように伸びていく。ネットで昔見たことある技だ。あの柱は剛性の先端と軟性の先端の2種類がある。硬い柱は打撃、柔らかい柱は相手を絡め取り身動きを封じる役割を持つ。一見してもどっちか分からない。何れにせよ、受けるわけにはいかない。
「走って切島!!」
【
「ぅぐッ……!!」
コンクリの柱が鞭のようにしなり、僅かに脇腹を打つ。掠っただけだが、痛みに呻いてしまう。思わずたたらを踏む。切島への援護に気を取られて回避が疎かになってしまった。……しかしその甲斐はある。
ゲート前に聳え立つ壁に到達した切島。速度を緩めることなく壁へ突っ込む。
「壁を壊される前に切島くんは捕らえて気絶させてもらうよ」
「ふふ………、もう、
「なに……?」
切島を捕獲するべく、彼の背後に迫る【セメント】の柱。確かに、あの距離まで迫っていると、切島が壁を殴り壊す間に彼を捕らえてしまうだろう。
だけど問題ない。すでにあれはゴールゲートを守る機能を果たしておらず、積み重なったただの瓦礫なのだ。
「うおおぉぉおッッ!!!」
切島は腕を顔の前で交差して突進する。ガキンッ! と硬い物同士がぶつかる轟音が響く。そして、ゲート前に聳えていた壁は、ガラガラと容易く崩れていく。
「なんと!」
「──切島がコンクリを殴っている間に手を加えさせていただきました」
セメントスが【セメント】でゲートを塞ぐことは予測していた。当然だ。障害がなければ私の脱出を阻止できない。
脱出するためには壁を破壊しなければならないが、悠長に殴っていても直ぐに修復されるか、周囲を【セメント】で囲まれて囚われると予測した。
だから気付かれないよう仕掛けを施させてもらった。派手に、愚直にぶつかる切島を囮にして。
私はポーチから入試でも使用した
「この紙を壁の中に数百枚挟ませてもらいました。あれは最早壁ではなく、切断された細かい瓦礫の山でした。あとは、崩れてくる瓦礫に当たっても平気なほど頑丈な切島が突っ切ってチェックメイトという訳です」
「…やられたよ。被害も最小限、かつ迅速な解決。見事だね」
『──条件達成最初のチームは、切島・空戸チーム!』
リカバリーガールのアナウンスが入る。時間にして2分弱と言ったところか。
今回の演習試験。逃走が用意されている時点であまりに私に有利すぎた。それにセメントスは重りを装備している上に、恐らく手加減をしていた。あくまで私たち生徒を採点することが目的だから当たり前だけど。
「いつかは、ハンデなしの直接戦闘で先生に勝利してみせます」
「はは、それはまだ譲る訳にはいかないな」
ニコリと彼は笑う。実際、本来のセメントスの実力はこんなものじゃあない。最初の切島のラッシュの時だって、やろうと思えばカウンターで気絶を狙えた筈だし、私への柱による攻撃も手緩かった。それでも避けきれずに掠ってしまったのは、完全に反省点である。
私は彼に一礼してから、ゲートの先にいる切島の側へ【
「お疲れ様でした。無事そうですね」
「おうよっ! 作戦、うまくいったな! 空戸のおかげだぜ!」
「えっへへ、切島の【硬化】があってこそですよ。ありがとうございました」
切島と腕タッチをして勝利の喜びを分かち合う。とにかく、これで高得点は間違いないだろう。私たちの期末試験は無事終了した。
▽ ▽ ▽
翌日。
登校がやや遅れて予鈴ギリギリになって到着した私が教室に踏み入れると、沈んだ表情の上鳴と涙目の芦戸が緑谷たちに慰められていた。
「みんな……合宿の土産話…楽しみに……してる、から……ぇぐっ…」
「ま、まだ分かんないよっ。どんでん返しがあるかもしれないよ!」
「よせ緑谷、それ口にしたらなくなるパターンだ…」
緑谷の懸命な励ましに瀬呂がツッコミを入れる。
落ち込んでいる2人は演習試験で条件を達成できなかったらしい。確か対戦相手は根津校長。彼の〝個性〟【ハイスペック】によりゴールゲートから遠く離れた場所へと誘導された2人は、脱出することも校長と対面することも叶わずタイムアップを迎えてしまった。倒壊する建物から逃げ惑うことしか出来なかった訳だから赤点は必至だろう。
何と声をかけようか迷っていると、ドアが勢いよく開かれて相澤先生が教室に入ってきた。私たちはどやされる前に素早く席に着く。未だ涙を流す芦戸は、後ろの席の梅雨ちゃんに慰められていた。
「今回の期末テストだが、残念ながら赤点が出た」
先生から無情な結果が発表される。林間合宿、みんな一緒に行きたかったけど……、残念だ。
「したがって林間合宿は──、全員行きます」
「「どんでん返しだ!!」」
と思ったら、したり顔の相澤先生から嬉しい誤算が発表される。
「赤点者だが、筆記の方はゼロ。実技で芦戸、上鳴、あと瀬呂が赤点だ」
「えッ? やっぱり…。確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな…」
頭を抱える瀬呂だが、彼はミッドナイトに〝眠らされて〟しまったようで、峰田が孤軍奮闘したことで条件を達成していた。始めから赤点を覚悟していた芦戸たちよりショックを受けている様子だ。
今回の演習試験。
確かに、セメントスの動きから手加減が見て取れたし、緑谷たちの対戦相手なんてあのオールマイトだ。本気になった彼相手に条件を達成するなんて、不可能に近かっただろう。
「しかし、赤点は赤点だ。お前らには別途に補習時間を設けている。ぶっちゃけ、学校に残っての補習よりきついからな。覚悟しておけ」
「「「………はい」」」
林間合宿に行けることに興奮していた彼らへと釘を刺される。別途、ということは普通に強化訓練をした後に補習があるとかだろうか。それはかなーり大変そうである。南無三……。
「期末試験の連絡は以上だ。林間合宿については冊子を用意してある。ここに置いていくから各々持っていって読み込んでおくように。──それから、空戸」
「え? あ、はい」
「放課後に話がある。授業が終わったら校長室へ来てくれ」
校長室への呼び出しって……、いったいどんな用件だろうか。私はやや強張った顔をして先生に了解の返事をした。
相澤先生は、伝えることは終えたとばかりに足早に教室から出て行った。モヤモヤとした気持ちが残るが、とにかく今は全員で合宿に参加できることに喜ぼう。補習宣告で沈んだメンタルを切り替えて両手を上げてはしゃぐ芦戸たちに混ざるべく、私は彼女らに駆け寄った。
「補習は嫌だけどみんなと合宿に行ける〜! 花火ぃ! 肝試しぃ!!」
「一時はどうなるかと思いましたが良かったですよね。とんだサプライズですよ」
「みんなで寝泊まりするの楽しみだねっ!」
テンションマックスな芦戸に、腕を揃えた可愛らしい仕草をした葉隠が同調する。きゃいきゃいと賑やかな様子に、私も年甲斐もなくはしゃいでしまう。〝訓練〟が主目的と言っても、団体で宿泊っていうのはいくつになっても楽しみなものだ。
「ケロ、冊子に書いてあるけれど、温泉もあるのね。楽しみだわ」
「ほんとだ! 私、好きなんだぁ〜!」
教卓に置いていかれた合宿のしおりを見た梅雨ちゃんが言う。隣にいた麗日も冊子を開いていたので、横から覗かせてもらう。
「どれどれぇ……、入浴時間40分ですかぁ…。嬉しいですけど、ちょーっと物足りないですね」
予定表には、準備と片付け含めた時間が記載されていた。細かいスキンケアは部屋に戻ってから行うにしても、せっかくの温泉でこの時間は少しばかり勿体なく感じてしまう。
「中学の修学旅行でもそんなもんだったなー」
「あくまで合宿だものね、時間は仕方ないわ」
「40分か……男女共に同じ時間………ドリルがあればイケるか…?」
「…なんとなーく予想できるけど、お前、それは流石に許されねーからな?」
しおりを眺めてあーだこーだ言いつつ林間合宿について想いを馳せる私たちは、予鈴が鳴って飯田が嗜めてくるまで会話に花を咲かせた。
▽ ▽ ▽
──そして放課後。
「……えーっと…お婆ちゃんに…オー…、八木先生…?」
校長室に入室した私を待っていたのは、思いもよらぬ面々だった。相澤先生や根津校長は分かるけど、その横には〝本来の姿〟のオールマイトとお婆ちゃん、それから、背広を着た男性を加えた5人の大人が居た。
(あの男の人…、ああ、確か〝USJ事件〟の時の刑事さんだ。いったい何事でしょうか…)
困惑して入口に立ち尽くす私に、根津校長がソファに座るように促してくる。よく分からないまま、何故か学校に来ているお婆ちゃんの隣に腰を下ろした。
オロオロする私に、根津校長は真剣な表情をして話を切り出した。
「空戸くん、キミに来てもらったのは他でもない。──とある、
「とある、
未だ状況を掴めていない私の手を、お婆ちゃんがギュッと握った。なにか良くない話が始まる。そんな予感がした。
この期末試験、対戦相手を誰にしようか、ペアを誰にしようかと悩みました。
ヨーイドン、でスタートでなければ相澤先生が最適なのですが、そんな演習内容ではありませんし。
オールマイトなら【
最終的にセメントスかエクトプラズムの2択に絞り、セメントスを選びました。私の力不足の言い訳ですけど、テレポーターの戦闘描写って難しいです。扱いに困ります。
誰だ、テレポーターを主人公に選んだやつは!!
移ちゃんとペアになった切島くんは赤点を逃れて原作乖離しました。口田くんがいない耳郎ちゃんペアがどうやってマイク先生に勝ったのかは分かりません。シュガーマンがすっっっごく頑張ったんだと思います。
次回は先生たち&お婆ちゃんとの密談です。移ちゃんのメンタルを削っていくぜぇ!!