TSテレポーターのヒーローアカデミア   作:tsuna屋

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アニオリのプール回です。
TS成分多め、と言いますか、移ちゃんの悩み事の話です。
※トランスジェンダーや女性にまつわることについて言及しています。人によっては不快に感じるかもしれません。

あと、「かっちゃんはこんなこと言わない!」と感じるかもしれない部分があります。
解釈違いにご注意ください。


えっちぃことは特にありません。(多分


移ちゃんのプール事情

 宿題とか試験対策とか、そういった己の課題を後回しにすることは、私にとって無縁の話だった。【前世】の私はただ生きることに必死で、サボっていては生活基盤すら崩れかねなかったし、今世は今世で様々な責任感や義務感から常に全力で取り組んできた。それが窮屈だとか苦痛だとか感じることもないほど、当たり前のことだった。

 

 故に、今のように問題を先送りにして、直面する段階になって困窮するようなことは、ほとんど初めての経験なのだ。

 

 

「女子のみんなで遊ぶって、何気に初めてじゃないっ?」

 

「ね〜! 訓練に課題漬けで遊ぶ暇なんてなかったもん。楽しみやね!」

 

「ビーチボール持ってきたから、あとで対決しようよ!」

 

「けろけろ! 透ちゃん、好きね」

 

「ヤオモモの持ってるそれってなに? クーラーボックス?」

 

「フルーツジュースですわ。休憩する時に皆さんに召し上がっていただこうと思いまして」

 

(どうしようどうしようどうしようっ…!)

 

 

 和気藹々と前を歩く6人から少し距離を置いて後を追う。私たちA組女子が夏休み真っ只中に学校へ来た理由。そして、私1人が焦燥感を抱いている訳。ストレスのせいか痛む下腹部をさすりながら、先週のことを思い起こす。時は期末試験を終えた頃に巻き戻る──。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「『夏休みの間、長期の外出を控えろ』…?」

 

 

 夏休みまで残すところ数日。勉強や訓練にてんてこまいな生活を送っていた私たちヒーロー科にとって、いや、全国の学生にとって至福の時となる長期休暇。あれをしようか、これをしようかと盛り上がっていた所に、相澤先生からの言伝が耳郎の口から告げられた。その残念な知らせに、眉を下げた麗日が耳郎の言葉をそのまま繰り返した。

 

 

「残念ですわ…。両親とベネチアへ旅行に行く予定でしたのに…」

 

「ブルジョアやぁ……」

 

 

 悲報に胸を痛める八百万。彼女が何気なく呟いた夏休みの計画に、麗日は冗談めかして倒れ込む。八百万の無自覚セレブ発言とそれに反応する麗日の言動は、A組の鉄板ネタになりつつある。

 

 

「あ〜あ…、せっかくおニューの水着買ったのに…」

 

 

 芦戸は肩を落として落胆する。こっちは等身大な女子っぽい感想だ。

 長期外出禁止の理由。それはひとえに、私たち雄英生が〝(ヴィラン)連合〟に襲撃されたことが原因だ。

 

 先日の休日、期末試験の慰安を兼ねてA組のほとんどは揃って木椰区ショッピングモールへと赴いていた。欠席者は3人。私は護身のため、轟は母親のお見舞いのために参加を見送っていた。残りは爆豪だが…、アレの付き合いの悪さは言わずもがなだ。

 

 とにかく、3名を除いたA組17名は、林間合宿の必要物品を揃えるために買い物へ出かけたわけだが、そこで事件が起きた。計画的犯行か、はたまた偶然か。(ヴィラン)連合の1人、死柄木 弔が目撃されたのだ。

 

 襲われたのは緑谷だ。幸いなことに怪我は負わされていないが、〝個性〟の行使を仄めかされた状態で──つまり脅迫されながら、いくつか質問されたらしい。内容は、保須市で捕まった〝ヒーロー殺し〟について。そして緑谷の回答後に見せたオールマイトへの妄執…。

 

 結局、数分の問答の後は民衆に危害を加えることなく姿を眩ませたが、またしても雄英の生徒が(ヴィラン)連合と会敵したことに変わりない。USJ、保須市、木椰区ショッピングモール…。これで3回目だ。

 長期休暇で雄英側の目が届かない場所へ行くことが危険と判断されるのも頷ける。

 

 耳郎に宥められる芦戸だが、『それでも遊びたい! どっか行きたい〜ッ!』と不満を爆発させていた。すると。

 

 

「──だったら、夏休みに学校のプールに集まらない?」

 

 

 葉隠が華やぐ雰囲気で提案した。

 

 

「そうね、学校のプールだったら先生も許可してくれると思うわ」

 

「いいね! お金もかかんないし!」

 

「家に閉じこもってるよりマシか〜」

 

「でしたら、(わたくし)が学校側に許可を貰ってきますわ!」

 

 

 とんとん拍子に決まっていく。学校内であれば、私の行動制限にも該当しないからその点は問題ない。

 だが、私の心情は別だ。

 

 

(ぷ、プール…っ? てことは水着を着ないといけなくて……それはつまり、一度裸になるってことで……)

 

 

 そうなのだ。水着への更衣、それは体操服や戦闘服(コスチューム)に着替えるのとは訳が違う。ある程度隠しつつ行うだろうが、全員、下着を脱いで裸になる瞬間がある筈だ。

 なにより、私は誰かがいる場で水着に着替えた経験がない。小学校も中学校もプールの授業はなかったし、雄英では水難救助訓練は基本的に戦闘服(コスチューム)で実施してきた。他と比べて、なんとなくハードルが高い。

 なんとか回避する術はないだろうか…。とにかく、何か言わなければと思い口を開く。

 

 

「えと…あの……」

 

「いつにしよっか? 夏休み最初の月曜日とかどう?」

 

「学校側の空き次第じゃない?」

 

「林間合宿までには行きたいよね!」

 

(い、言えない…! みんな楽しみにしてるのに、私だけ不参加だなんて…っ)

 

 

 おどおどしている内にどんどん言い難い雰囲気となっていく。結局、何も言い出さぬまま、周りに流されてプール行きが決まったのだった。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「わー! プールの更衣室もキレイだね! 中学校の頃なんて、プレハブみたいなんだったよ〜」

 

 

 そして現在──。

 先生から預かった鍵で八百万が更衣室を開けると、最新ジム並みに整備された清潔感のある内装が広がっていた。こういう細やかな所まで手が行き届いていて、流石雄英と感心する。

 

 

(…じゃなくて……)

 

 

 呑気に内見している場合じゃあない。それぞれ、1人2人分距離を取った位置にあるロッカーを開けて、着替えるまで秒読みの様子だ。このままでは、『ToL◯VEる』な光景が眼前に広がってしまう。

 背を向ければ良い? いやいや…、そういう問題じゃあない。彼女たちは知らないとは言え、成人男性のソウルをこの身に宿す私がこの場に滞在している時点でギルティなのだ。なにより、私自身が赦せない。

 

 

(かくなる上は…)

 

「ぁ……いたたたぁ…。…ぉ、お腹が……」

 

 

 下腹部を押さえてやや前傾姿勢を取る。誤魔化す時の常套手段、即ち仮病だ。

 

 

「おりょ? 空戸、だいじょーぶ?」

 

「は、はいぃ……、ちょっと、トイレに行って来ますね…」

 

 

 1番近くに居た芦戸がブラウスのボタンを外しつつ、こちらに気付いて声をかけてくれた。さも限界が近付いている雰囲気を醸し出すため、彼女にだけ聞こえる声量で伝えると、そのまま自然に退室した。うむ、完璧な演技だ。

 そして時間を潰すべく、更衣室に隣接したトイレへと向かう。後は、みんなが着替え終えてから戻れば、作戦成功だ。

 

 校舎内のそれよりやや小ぶりな造りのトイレの個室に入り、一息つく。距離が近いせいか、微かにみんなの楽しそうな声が聞こえてきた。

 

 

「……なーにやってんでしょうね、私…」

 

 

 1人になって腰を下ろしたことで冷静になれた。こんなこそこそして誤魔化している状況に、なんだか無性に情けなく思えてくる。

 そもそも、4月の時点で私の特殊な性自認について、女子のみんなや先生に伝えていれば、今のような状況になっていなかった。言い訳になってしまうが、私は高校に入るまで、誰かと一緒に着替えるという習慣がなかった。小学校の頃は殆ど登校していなかったし、中学校では保健室で着替えさせてもらっていた。だから、なんの疑問を持つことなく一緒に着替える同級生を目の当たりにするまで、これ程まで罪悪感を抱くとは思わなかったのだ。

 

 

「…普通の女子高生に…、なれると思ったんですけどねぇ……」

 

 

 思わずため息が漏れる。

 分かっている。()()()()()()()()()。いくら超人社会と言えど、転生を果たして【前世】の記憶を保有している人間なんて居ない。

 

 世の中には〝トランスジェンダー〟という枠組みがある。自身の性自認が身体の性と一致していない人のことだ。超常黎明期以前、つまり〝個性〟がなかった最後の時代には、そういった〝性の多様性〟が世間に認識されつつあったという。しかし、〝個性〟の出現によりそういった〝多様性〟への理解は遠ざけられ、浸透しつつあった〝性の多様性〟も一緒くたに排斥されていった。

 超常黎明期を経た現代は、〝個性〟が認められると同時に〝性の多様性〟も大昔同様に理解されるようになっている。だから、私のように性自認が中性あるいは両性な人間は、少なからず居るし、公言している著名人も知っている。仮に私がみんなにそれを伝えたとして、嫌悪感を露にする人はいないだろう。

 

 だけど果たして。私がそれを公言していいものなんだろうか。

 

 死んで生まれ変わった元男性が、〝トランスジェンダー〟なんですって、既存の枠組みで名乗っていいのだろうか。

 

 

(それに加えて…私は普通の女性になりたい……()()()()()()()()()()()…。そう思っているのに、『今はトランスジェンダーだから考慮してね』って…? ……都合が良すぎるでしょ)

 

 

 中途半端でいる自分への嫌悪感。女性の中で自分という異物が混ざっていることへの罪悪感。早く普通の女性にならなくてはいけないことへの義務感と焦燥感。そもそも、伝えることへの抵抗感。様々な感情がぐちゃ混ぜになって、纏まらなくて。その結果が、数ヶ月経った今もカミングアウト出来ずにいる現状を作り出している。

 

 『言わなくても良いのではないか?』

 そう考えたこともある。無理に伝えなくても、このまま過ごして。授業のため短時間で着替えなくてはいけない時以外は、今みたいにやり過ごして。そうして、いずれ私が()()()()()になるまで……『かわいいかわいい移ちゃん』になれるまでやり過ごしてしまえば。彼女たちへの罪悪感には目を瞑り、何食わぬ顔で輪に加わる。それが出来れば、全部丸く収まる。

 

 ──そうしてきっと、私は私を赦せなくなる。

 

 

(……なんて。本物の思春期のような悩みですねぇ…)

 

 

 モラトリアムは卒業した筈なんだけど、と自嘲する。スマホを確認すると、更衣室から出て10分ほど経過していた。時間稼ぎもこのくらいで良いだろう。悶々と悩んだことによるストレスか、ズクズクと痛む下腹部を摩りながら、便座から緩慢に立ち上がる。

 

 

「…………あ…」

 

 

 ドロリと出てくる不快な感覚がした。そういえば訓練や治療による疲労のためか、最近は不順になっていたことを思い出す。前にあったのはそろそろ7週前だったか…。

 図らずも、腹痛という嘘が真になってしまったことに、なんとも言えない気持ちとなる。とりあえず、帰りの更衣室問題は考えなくても良さそうだ。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「そ〜れっ!」

 

「ハイッ!」

 

「ケロッ」

 

 

 ちゃぷちゃぷちゃぷ。燦々と降り注ぐ太陽の光を日傘で防ぎつつ、プールサイドに座った私は、靴とソックスを脱いで脹脛までをプールに浸す。ひんやりとして良い気持ちだ。地べたに直座りすると流石に暑すぎるため、近くに置いてあったビート板を数枚重ねている。思いの外居心地が良い。

 

 予期しない経血に驚きはしたものの、何とか衣類を汚さずに済んだ私は、みんなに事情を説明して見学することに相成った。心配と残念に思う表情をしたみんなを見送った後、今はこうして、彼女らがビーチボールで遊ぶ様子を、八百万から貰ったフルーツジュースをいただきながら眺めている。深い甘味とほのかにある酸味が混ざり合った調和の取れた味だ。きっとお高いやつに違いない。

 

 

「──ヨシ、15分休憩しよう!」

 

 

 差し入れに舌鼓を打っていると、反対側のプールサイドからそんな声が聞こえてきた。飯田の声だ。

 私たち女子が集まっている場所から離れた所で、『良い汗をかいた』とばかりに爽やかな表情をした男子たちが歓談していた。

 

 

「…いやぁ、精が出ますねぇ」

 

 

 チマチマとジュースを飲みつつ、そんなことを呟く。

 何故夏休みの学校のプールに私たちのみならず、男子たちも集まっているかと言うと、彼らは彼らで『訓練のため』にプールの使用を申請していたそうだ。なんでも、峰田と上鳴、それから緑谷の3人で許可を貰ったらしい。…前者2人がいかにも怪しいが、緑谷も一緒なのだから、私たちと予定が被ったのも本当にただの偶然だろう。

 

 

(それにしても……)

 

 

 楽しそうに遊ぶ女子たち。飯田が配ったと思われる缶ジュースを片手にプールサイドで休む男子たち。最後に自分。ここにいる全員の身体を軽く見遣り、改めて思う。

 

 

(身体だけは、どこまでも女性、なんですけどね)

 

 

 スラリと伸びる手足。真下を向けば、ブラウスを膨らませたそれが視界を遮る。サロン通いと普段のスキンケア、そして【空間移動(テレポート)】の応用のおかげで、無駄毛一本ない毛穴の閉じたすべすべの肌。今は目視できないがウエストはくびれており、ヒップもキュッと引き締まっている。

 同級生の女子たちと比べても、文句なしの女性体型だ。

 

 対する男子たち。流石はヒーロー科の男子と言うべきか、遠くから見ても分かるほど見事な体格をしている。上背のある飯田や砂藤はもちろんのこと、比較的小柄な常闇や緑谷も鍛え抜かれた筋肉が見て取れる。

 女性陣も必死に鍛えている。それでも、男子のそれと比べたら柔らかさが目立つ。

 

 私の身体は、しっかりと女性側だ。これが、今の私だ。〝空戸 移〟は、女の子なのだ。

 

 

(そうです…だから私は女性にならなくちゃあいけない。それが私の──)

 

「──おいッ、くそデク!!」

 

 

 唐突に届いた大声にビクリと体を震わせ、沈んでいた思考が飛散する。見ると、入口の方で両手からバチバチと火花を散らす爆豪が怒鳴り散らしていた。隣には、爆豪を宥める切島の姿もある。そう言えば、彼らだけ居なかったな。今来たのだろうか。

 なんだなんだ、と気になった女性陣もプールから上がり彼らに近付く。私も悲鳴を上げる腰と下腹部を労わりながら彼女らに着いていく。

 

 話を聞いてみればなんてことはない、爆豪のいつもの緑谷への執着だった。『ここでどっちが上か、白黒付けるぞ』と。しかし、それに便乗した飯田が『訓練だけでは退屈だから』と男子全員で水泳大会をしようと提案したのだった。

 

 

「飯田さん。(わたくし)たちもお手伝いしますわ!」

 

 

 なんだか面白そうと、外野だった女性陣も乗り気になり、八百万が審判を買って出る。確かに見る分には楽しそうな催しだ。

 

 

「ぶっ潰してやるよ、デク! もちろんお前もな! 半分野郎!」

 

 

 飯田により『〝個性〟使用あり。人や建物に危害を加えるの禁止』等のルールが決められている間、爆豪は敵視している2人に睨みを利かせていた。期末試験前もそうだったが、最近の彼はいつもこの調子だ。上昇志向故の言動であっても、こんな態度じゃあまるでチンピラだ。

 呆れた様子で爆豪を見つめていると、轟から視線を外した彼がこちらを向いた。

 

 

「んでてめえは何で制服なんだよ! ぶち殺してやるから参加しろやッ!!」

 

「……はあ?」

 

 

 カチーンときた。確かに全員が学校指定のスクール水着を着ている中で私だけ制服姿だ。それは事実。私に対しても敵視バリバリの爆豪からしたら、私も含めてまとめて負かしたいのだろう。

 だけど、だ。女子が、プールで、水着にならずに、見学してる。その状況で察しないとは何事だ。

 

 

「ちょ、おい爆豪! お前なぁ…!」

 

「ヒュー、流石のオイラも言い控えてたことを言ってのけるとは、そこにシビれるあこがれるゥ!」

 

「爆豪くん! それは無神経なんとちゃう?」

 

「なんだなんだぁ? どゆこと?」

 

「ああンッ!?」

 

 

 麗日を筆頭に女子が庇ってくれる。男性陣は、察している者2割、疑問符を浮かべている者2割、そもそも遠くて聞こえてなかった者6割といったところ。

 恐らく、普段の爆豪であればこういう機微には聡い。傍若無人な彼だが、こういったところは弁えている筈だ。だが、今はきっと頭に血が昇っていて、そこまで思考が巡らないのだろう。

 

 ──そんな事情、知ったことじゃあない。

 

 ぺたぺたと足音を鳴らし無言で爆豪に近寄る。眉間に皺を寄せてガンを飛ばしてくる爆豪の耳元で、彼にだけ聞こえる声量でしっかりと伝える。

 

 

「生理中、ですッ」

 

「……は。……ッ、なッ……!?」

 

 

 マヌケな顔をした爆豪を至近距離で見上げる。せいぜい、気まずい思いでもしてろ、馬鹿。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 その後。

 結局爆豪からの謝罪はなかったが、言動に後悔してそうな態度も見て取れたため溜飲を下げた。かと言って100%許せた訳でもなく、『もう良いです』と塩対応をして、憤ってくれた女子のみんなを連れて彼から離れた。

 なんだか無性に苛々したが、きっと、さっきまで悩んでいたことやホルモンの影響が大きいのだろう。

 優しい言葉をかけてくれる葉隠や梅雨ちゃんたちのお陰で徐々に平常心を取り戻し、男子らの水泳大会が始まる頃には苛々は治まっていた。

 

 男子13名による競走は、3グループに分かれた予選を経て、緑谷、轟、爆豪の3名による決勝戦が行われることとなった。普通の水泳競技と違い、〝個性〟をフル活用した競走は、見てるこちらも白熱した。

 いよいよ、3名の戦いの火蓋が切られるといったところで…。

 

 

「──17時。プールの使用時間はたった今終わった」

 

 

 水を差すように相澤先生が現れる。熱中して時間を忘れていたけど、もうそんな時間だったのか。

 『早く家に帰れ』と指示する先生にみんなが食い下がろうとするも、ギンっと眼光を鋭くした先生を見て押し黙る。

 

 

「何か言ったか?」

 

「「「なんでもありません!」」」

 

 

 これ以上どやされる前にと、私たちは速やかにプールを後にしたのだった。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「あーあ、せっかく良いところだったのになぁ〜」

 

「仕方ないわ、決まりは決まりだもの」

 

 

 後頭部で両手を組んだ芦戸が残念そうにぶー垂れて、並んで歩く梅雨ちゃんがそれを嗜めた。

 

 

「空戸は大丈夫だった? ウチらに付き合って一日外に居たけど、辛くなってない?」

 

「あ、はい。平気です。…泳げなかったことは残念ですけど、足だけ入ってただけで充分楽しめましたし。生理も、林間合宿と被らなかったことを思えば、むしろラッキーかなって」

 

「あー、それはあるよね。私はちょっとヤバいんだ〜」

 

 

 目の前で葉隠がガクリと肩を落とす。見えない彼女の髪の毛から、プールの塩素の香りがフワリと漂って鼻腔をくすぐる。

 

 

「合宿と言えば、温泉があるんだよね! プールとはまたちゃうけど、みんなと入るの楽しみだー!」

 

 

 『温泉』という単語にドキッと脈打つ。忘れていたわけじゃあないけど、合宿では今日のプール以上の問題が待ち受けている。思わず、立ち止まる。

 

 

「空戸さん? どうかなさいました?」

 

 

 私に気付いた八百万が足を止める。つられて他のみんなも止まり、振り向いた。

 不思議そうにこちらを見るみんな。私から伸びた影が、彼女らの足元に重なる。それがまるで、私の存在がみんなを穢しているようで。…罪悪感が首をもたげる。

 

 

「大丈夫? やっぱり、お腹痛い?」

 

(違うんです…そうじゃあないんです)

 

 

 体調を心配してくれる葉隠にかぶりを振る。ああ、やはり──正直に言いたい。

 みんな、とても良い子たちだ。優しいし、気遣いができて、人を心の底から思い遣れて。そんな彼女たちに、嘘をつきたくない。偽って、誤魔化して、ひた隠しにして。そんなことを続けるなんて嫌だ。

 これは私の我が儘。自分の都合を相手に押し付けて、〝罪悪感〟から逃れるための私の身勝手。だけど。だからこそ。

 

 

「少し……、話をしても良いですか?」

 

 

 私のことを、伝えよう。

 

 

 

 

 




かっちゃんについて補足。
多分、謹慎以降のかっちゃんは配慮して口にしません。移ちゃん以外にも、言いません。ただ、現在のかっちゃんには挫折感から余裕がなく、移ちゃんのことを「ぶちのめす壁」としか認識していません。せっかく打ち負かす機会が訪れたんだから、てめえも加われや、って気持ちが先行して視野狭窄になっていました。
「そんな事情があってもかっちゃんなら言わんやろ」って言われてしまうと弱いですが…。


移ちゃんについて補足。
彼女の言う〝普通の女性〟とは、性自認と体の性が一致した状態のことを指します。【前世】の記憶によって〝トランスジェンダー〟となっている今の状態が〝普通じゃない〟と認識していますが、決して通常の〝トランスジェンダー〟の方を普通じゃないと考えているわけではありません。ただ、性自認と体の性を一致させることにある種の強迫観念を抱いています。そうなってしまった理由は次章にて。


えっちぃについて補足。
プールサイドで制服素足でちゃぷちゃぷしてるJKはえっちぃか否か。
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