はい、期間が空いてしまいすみません。
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「し、しんどい………ぅぷッ…」
ぐるぐる回る視界。脳がシェイクされた感覚だ。意味がないと分かっていても、口を手で覆い、込み上げてくる物に蓋をする。
結論から言うと、〝魔獣の森〟攻略は失敗した。
〝個性〟の特性から攻撃、索敵、遊撃、補助に役割分担した私たちA組は、最初の1時間くらいまでは順調に進んでいた。魔獣と言ってもピクシーボブが操作した土塊に過ぎず、一体につき1人から3人で相手取ることで充分対処可能だったからだ。マンダレイの提示した制限時間には、ギリギリ間に合うだろうと楽観的な空気が漂うくらいにみんな余裕を感じていたと思う。
違和感を抱いたのは11時頃。12時頃には危機感を抱き、13時になる頃には悟った。
あ、これ、騙されたやつだ、と。
途中に寄った小川で八百万製の浄水器を用いて小休止を取りつつ、ボロボロになりながら施設に辿り着いたのは15時半。昼食抜きが確定した3時間後のことだった。
「何が3時間ですかッ!」
「それ、私たちならって意味。悪いね」
「実力差自慢のためか…やらしいな…」
非難めいた瀬呂の叫びを受けたマンダレイに悪びれた様子はない。
目標としていた時間にゴールするつもりで体力配分をしていたため、全員が疲労困憊。文句の一つや二つを言っても許されて然るべきだ。
「でも、正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよー、キミら。特に…、そこ5人!」
「……ぅえ?」
ビッと指差すピクシーボブ。吐き気を抑えることに必死になってから、思わず変な声が漏れてしまった。どうやら、緑谷、轟、飯田、爆豪そして私のことを言っているようだ。
「躊躇の無さは経験値によるものかしらん? …じゅるり。──3年後が楽しみ! 唾付けとこ!!」
舌舐めずりをして飛び掛かってきた彼女は、そのまま私たち、主に男子4人に言葉通り唾を付けてきた。
(…いや、流石に汚いです!)
一瞬、ほんの一瞬だけ『ピクシーボブの唾なら』なんて血迷ったことを考えた私は相当疲れているんだろう。幸いターゲットはメンズっぽかったため、よろめきながら静かに距離を取らせてもらった。なけなしの体力が更に削られた気がする。つらい。
「くぅ…! 羨ましいぜアイツらぁぁ…ッ!!」
「…キミはほんとブレませんね……」
こんな時でも欲求に素直な峰田には脱帽である。
「そ、そう言えばずっと気になってたんですが、その子はどなたのお子さんですか?」
唾攻撃から逃れるためか、緑谷が話題を逸らしてとある少年、マンダレイの側に居た5、6歳の子どもについて尋ねた。そういえば、朝にマンダレイたちと出会った時も一緒に居た気がする。
緑谷からの質問にマンダレイはやんわりと否定して、少年の紹介をしてくれた。どうやら彼は、マンダレイのいとこの子ども、つまり従甥にあたるらしい。
「──洸汰、ほら、挨拶しな。1週間、一緒に過ごすんだから」
「………」
マンダレイに促された少年──洸汰くんは、しかし無反応で私たちを睨みつけるだけだった。
話題を振った緑谷が洸汰くんに近付いて『よろしくね』と手を差し出すが…。
「フンッ!!」
「ッ〜〜〜!!!」
緑谷の握手は無視され、代わりに返ってきたのは股間への正拳突きだった。声にならない悲鳴を上げて緑谷は蹲る。
「ヒッ! あ、あれは痛えよ…」
「で、ですね…、縮こまりますね…」
「いや空戸。なんで男子と一緒に股押さえてんの…?」
「あっ…、いや、なんとなく……」
あまりの衝撃的な光景に思わず存在しない陰嚢を押さえてしまった。耳郎の突っ込みに我に返る。そうだ。私に縮こまる物は付いていない。
「緑谷くん!! おのれ従甥! 何故緑谷くんの陰嚢を!!」
「──ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」
脂汗を滲ませる
(あんな子どもが…どうして?)
彼くらいの年齢の子は、少なからずヒーローに憧れを抱いている。私含めて、周りもみんなそうだった。それなのに、何があったら小学生未満の子どもがあんな表情をするんだろう。
(……考えても分かりませんね)
きっと何かしらの理由があるのだろうが、今会ったばかりの人間に彼の事情が分かるわけでもない。気になるが、ここで頭を悩ませても仕方がない。
洸汰くんについては一旦隅に追いやり、急かす相澤先生の指示に従ってバスから荷物を降ろすことにした。
ちらりと緑谷を見てみると、飯田に介抱されつつ、痛みに悶えながら動き出していた。あの痛みばかりは鍛えてもどうしようもないから仕方がない。南無三…。
▽ ▽ ▽
さてさて、この時間がやってきてしまった。訓練が終わり、晩御飯を食べた後に残されているイベント。この林間合宿における1番の鬼門と言っても差し支えない。即ち、入浴だ。
入浴時間はクラスでずらされているらしく、ここに居るのはA組の女子だけである。私のカミングアウトを受け止めてくれて、〝内面も女性になりたい〟という私の願いにも協力してくれると言った彼女たちであるが、だからと言って〝裸の付き合い〟は荷が重い。重すぎる。
言われるがまま流されてついて来てしまった。彼女たちが『良い』と言ったとしても、『はいそうですか』と普通に出来るほど私の覚悟は完了していないのだ。
では、どうするか。私が取った苦肉の策、それは。
「うわぁ〜! 本格的な露天風呂だぁ〜!!」
「ケロケロ。毎日ここに入れるなんて嬉しいわ」
「ここってプッシーキャッツが所有する施設なんだよね? プロヒーロー、すご…」
「えぐい…ヒーローの稼ぎえぐない…?」
「自宅にあったら素敵ですよねー」
「──ところで空戸さん? どうして目をつぶっていますの?」
脱衣所から浴場へと移動して、露天風呂に喜ぶ一同の声を彼女たちの後ろから聞いていたら、こちらに気付いた八百万に指摘されてしまった。
「みんなの裸を見てしまわないようにするためです!」
そう、みんなのことを見ないようにして、かつ安全に入浴する手段。それは、〝目を瞑って【
「え、本当じゃん。危なくない?」
「平気ですよ。〝個性〟を駆使して何が何処にあるか分かりますから。ここに桶が積まれていることも、ほらこの通り」
端にあった桶の山から一つ手に取り、問題のないことをアピールする。視覚情報を遮断していても、お風呂に入るくらい私にとってお茶の子さいさいだ。
「あ、もちろんみんなのことは探知しないように避けて使ってますから、安心してくださいね!」
「いや、無駄に精密作業じゃん…」
「訓練にもなって一石二鳥です!」
ドヤッ! と胸を張って主張する。隙のない二段構え、完璧な理論武装である。
「移ちゃんがそれで良いなら構わないけど…」
「というか、移ちゃんの方は私たちに丸見えだけど、それは隠さへんくて良いの?」
「ええ、まあ。見られるのは別に何とも」
「………胸、でか…」
麗日の言うように私の裸体は見られてしまうが、それについては特に抵抗感はない。前に爆豪に下着姿を見られた時も、何も思わなかった。
それとも、私の体を見てしまうことで嫌な気持ちにさせてしまうだろうかと心配したが、みんなに確認したら全力で否定された。良かったとホッとする。心無し耳郎の声が暗かったけど、信じて良い、よね?
「それにしても、空戸って肌綺麗だよねー! ツルツルすべすべって感じがする!」
体を洗い湯船に浸かってひと息をついていると、すぐ隣から芦戸の声がした。声の距離感から、露天風呂の縁の岩に座ってこちらを覗き込んでいるのだろう。
「本当ですか? ふふ、嬉しいです。…格好だけでも女の子らしくあろうと、頑張ってきたんですよ」
自分の二の腕を撫でながら、これまでの美容の遍歴を漠然と振り返る。
祖母の勧めで始めたスキンケアとヘアケアは、いつの間にか私の日常の一部となり、今では趣味と呼んでも差し支えない程の域に達している。10代半ばの肌と髪は、大人と比べて多くのケアを必要としていないが、それでもやればやる程成果が出ていることは確かだ。ヒーロー活動をする以上、どうしても紫外線や土煙、汗にまみれてケアが遅れることが出てくるが、だからこそ日々の習慣が大切だと私は思っている。
肌が荒れに荒れた女の子とばっちしケアの行き届いている女の子。どちらがより可愛く、女の子らしいか。気にしない人もいるだろうけど、私の中では後者なのだ。
なんて考えていると、芦戸が悲哀の色を含んだ声で私の名を呟いていることに気が付く。私の発言で思い詰めさせてしまっただろうかと慌てる。
「あ、いや、ほら! 頑張ってるのはほんとですけど、楽しくもあるんですよっ? 綺麗になるのってウキウキしますし、可愛くて自分に合ったコスメに出会えると心躍りますし! だからそんな、しんみりする感じじゃあなくてですねっ」
「ケロケロっ。そうね、お化粧やお洋服のお話をしている時の移ちゃん、とっても楽しそうだものね」
「確かに〜! 好きなプロヒーローを語ってる時と同じくらいキラキラしてるもんねっ!」
梅雨ちゃんと葉隠の声だ。朗らかな笑い声もする。私のせいで鬱屈な空気にならずに済んで良かった。
「プロヒーローと言えば、プッシーキャッツの2人と会った時に結構はしゃいでたよね、空戸」
「え、じ、耳郎…見てたんです…?」
耳郎の言葉にギクリとする。みんなマンダレイたちに注目しているだろうから、常闇以外にはバレていないと思ってたが…。
「うん、まあ。後ろだったかんね」
「飛び跳ねてもいましたわ」
「とびきりの笑顔だったよっ!」
「方向性は違うけど、デクくんと同じくらいヒーロー愛強いんよね、空戸ちゃんって」
「ケロ、そういう所もとっても可愛いわ」
な、なんと全員に見られていた? と言うか無意識に飛び跳ねてた? 恥ずかしい…。私と緑谷以外は興奮していなかったから余計に照れてしまう。なんだか、みんなから『小さな子供』を見つめているような視線を感じる。おかしいぞ、精神年齢は圧倒的に歳上なんだぞ?
顔に熱が集まる。まるでのぼせたみたいだ。
「そ、そういえば明日からの訓練は何をするんですかねぇ…! 相澤先生のことですから、今日みたいにヘトヘトになるのは確実でしょうけど!」
私は努めて明るい声で話題を転換する。
「ふふっ、そうだな〜。戦闘訓練も大事だと思うけど、私としては救助訓練もしたいな。せっかく山の中だし、それに特化した訓練とかやるのかも!」
「雄英とはまた異なる環境ですもの。資源の限られた中での救助活動…
「私の〝個性〟を活かせる訓練だと良いなぁ〜」
強引すぎた気もしたが、みんな心情を察してくれたのか、話に乗ってきてくれた。…微笑ましいものを見つめてる感は払拭できていないが。
葉隠は隠密活動や組手などで真価を発揮するが、今日のような大型
各々が明日の訓練に思いを馳せる。普段と違った環境下の訓練だ。新鮮に感じてワクワクする気持ちが伝わってくる。
──そんな和気藹々とした会話を楽しんでいると。
「──みんな、気をつけて。峰田のアホが何かしようとしてるっぽい」
急に、耳郎が緊張と不快な感情を滲ませて皆に伝えた。キンっと硬い音がしたから、恐らくイヤホンジャックを地面に突き立てたのだろう。
それを聞いて私も、探知範囲を板張りの壁──男湯側へとやんわり広げる。
すると──。
「壁とは──、越えるためにあるッ!」
耳郎でなくとも聞こえる声量で
「え、まずいまずい! 峰田の奴、壁越えて覗くつもりだ!」
「えぇー! 峰田サイテーッ! みんな隠れよ!」
「時間がないです! 私が
今はみんな温泉のど真ん中。隠れるにしても湯の中になり、プライベートゾーンを隠せたとしても、入浴中の姿を見られてしまうことに変わりはない。ならば、峰田の頭が出てきた瞬間に
「そ、そんなことしたら移ちゃんがモロ見られちゃうかもだよ!? バスタオルも巻いてへんやん!」
「みんなが見られるよりマシです!」
麗日に止められるが、脅威はもうすぐそこに迫っている。みんなを守るため、私は壁の天辺へと
(…あれ、壁の間のスペースに誰かいる…?)
女湯と男湯を仕切る壁の間。人1人が入れる程度のその隙間に誰かがいた。
両腕を壁の縁に付いてぶら下がる私の丁度眼前に、にゅるっと現れた小さな人影は、壁を登り切ろうとしていた峰田の手をパチンと叩く。目を開けると、そこには赤い帽子を被った少年──洸汰くんが梯子の上に立っていた。
「ヒーロー以前に、人のあれこれから学び直せ」
5歳とは思えない物言いをする洸汰くん。図星を指された上に暴挙を阻止された峰田は、『クソガキぃぃ〜ッ!!』と叫びながら無事男湯側へと落ちていった。
「ふんっ」
「えーと、助けてくれた…んですかね?」
「え?」
眼下に落ちた峰田を睨みつけていた彼へ後ろから声をかける。彼が何故ここにいるのか分からないが、峰田から私たちを守ってくれたことに間違いないだろう。
小さな
「守ってくれて、ありがとうございます」
「んなッ…、え、ぅわあっ!!」
「あ、「危ないっ!!」」
こちらを向いた洸汰くんは、驚嘆の表情をした後、態勢を崩してしまう。咄嗟に彼の服を掴もうとするも、壁にぶら下がっている状態では素早く動けず、私の手は空を切った。
落ちてしまう! 一瞬肝が冷えたが、私の声と重なって叫んだ声の主が緑色の光を纏って跳び上がり、地面に激突する寸前で洸汰くんを抱きとめた。緑谷だ。
「緑谷ぁ! 洸汰くん無事ですかっ?」
「うん! どこかにぶつけてたりはしてないよ! …でも気を失ってるみたい! 急いで先生たちの所へ連れていくよ!」
「そうですか! それではお願いします! …それと」
洸汰くんの無事を確認してホッとひと息つく。同時に沸々と怒りの感情が湧き上がる。
〝ヒーロー志望が覗きをする〟? あり得ない、ほんっっとぉ〜に、あり得ない。ハラスメントどころじゃあない、歴とした犯罪行為だ。
私はきつく目を閉じた上で、下に落ちた
「峰田ぁ! 覚悟は出来ているんでしょうねぇ!」
「ひょッ!」
「移ちゃーん! そろそろ降りておいでよー! 危ないよ〜!」
奴の〝抑える気のない色欲〟は、いい加減正してもらわないといけない。私からは勿論、相澤先生からもこってりみっちり絞ってもらうとしよう。
しかし、まずは洸汰くんだ。
心配する葉隠の声に従い地面へ降り立った私は、手早く最低限のケアをしてから、洸汰くんを連れて行った緑谷の下へ向かうことにした。
「な、なあ。鎖骨までだけどよぉ。あれよぉ…」
「ば、馬鹿。い、言うんじゃねーよ。…大切な思い出にしとこーぜ」
「……笑止…」
合宿編が始まる前は「まとめて投稿したい」なんて言ってましたが、想定より遅筆で…。
こんな調子だと神野区に行くまでに原作が終わってしまいそうです…。
少しずつですが書き進めておりますので、お許しを…!
原作と言えば、堀越先生のTwitterのイラストをご覧になりましたか?
麗日のウララカボディ…、素敵でした…。
移ちゃんもあのくらいだと思って書いてます。
〇〇さんのイラストも最高でした…。
彼女がぶっちぎりですが、移ちゃんも同じくらい整っている顔を想定してます。
その移ちゃんを至近距離でモロ見てしまった洸汰くん。彼の将来に影響がありそうですね。
拙作は、「TSおねショタ」というニッチな属性にも対応していく所存です。