TSテレポーターのヒーローアカデミア   作:tsuna屋

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狭間の地でエルデの王となったあとに(エルデンリング)、未知の惑星に辿り着き(リターナル)、対馬を蒙古から取り戻していました(ゴーストオブツシマ)
旅が楽しくて…更新が遅れてしまいました。すみません。

それと、高評価していただきありがとうございます!!
念願の赤バーになりました!めっちゃギリギリラインなので、一時的かもしれませんが、スクショしてあるので僕の中ではずっと赤バーです!
評価に見合う内容となるよう精進します。今後もよろしくお願いします。

それでは3日目スタートです。開闢行動隊が準備体操を始めたようです。


3日目:〝個性伸ばし〟

 林間合宿も今日で3日目。そろそろ折り返し地点だ。

 昨日よりも開始時刻が遅かったが、それでも7時にスタート。過密スケジュールに相違ない。私含め、全員疲労が蓄積してきている。

 

 特にヘロヘロなのが補習組の3人──芦戸と上鳴、瀬呂たち。聞くところによると、深夜2時まで座学があったそうな。そんな時間まで起きている経験なんてそうそうない。睡眠時間を削り過ぎるのは非合理的と思わなくもないけれど…。まあ、そこは相澤先生のことだ。長期的に見たら合理的なのだろう。

 

 

「補習組、動き止まってるぞ」

 

「すいません……、ちょっと…眠くて」

 

 

 3人とも体がふらっふらしている。先生愛用の寝袋でも用意したら秒で眠りそうだ。

 

 

「だから言ったろうキツイって。〝個性〟の強化だけじゃない。何より期末で露呈した立ち回りの脆弱さ。お前たちが何故、他のクラスメートたちより疲れているか。その意味をしっかり考えて動け」

 

 

 相変わらず相澤先生は厳しい人だ。肉体的にも精神的にも削られている3人へ容赦ない指導。その手は休まることはない。だけど、それは信頼の裏返しであろう。先生は〝合理性〟を重要視している。そんな人が、見込みのない、意味のない言葉はかけないと私は思う。成長すると、可能性があると信じているからこそ、この訓練を課しているのだろう。

 

 そして、それは私も同様。

 

 私が、この技を会得することを先生は信じている。プロヒーローが、期待してくれている。ならば私は、それに応えるだけだ。

 

 

(そうです移…! 髪にゲロが付いたからってなんです! 気分下げてる場合じゃあありませんよっ…!)

 

 

 昨日に引き続き基準点移動による反動を味わっている私は、ねっとりした液体が前髪に付着してテンションがだだ下がりしていた。めまいが続いていたこともあって、暫く蹲っていたのだけど、気合を入れ直して立ち上がる。潤んだ目元と髪の毛をタオルで拭い、再度集中する。

 

 

「気を抜くなよ。みんなもダラダラやるな。──何をするにも原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何のために汗かいて、何のためにこうしてグチグチ言われるか、常に頭に置いておけ」

 

(原点……、私の原点か…)

 

 

 〝原点〟つまり動機。私の動機とは、何だろうか。

 

 何故努力しているのか。強くなるためだ。

 何故強くなりたいのか。最高の〝ヒーロー〟になるためだ。

 何故〝ヒーロー〟を目指すのか。それは…。

 

 

空戸移(わたし)が〝私〟として生まれたから…)

 

 

 贖罪、報恩、羨望、義務…。私が少女の人生を奪ってしまったから。家族が私を受け入れてくれたから。秩序を齎した〝平和の象徴〟に憧れたから。『世の人の助け』にならなければいけないから。

 

 それらが私の行動理念であり、私の原点。

 

 だから私はこうして汗水垂らしている。

 

 

(……うん。先生の言う通り。意識したら、より気合が入ります)

 

 

 身が引き締まる思いだ。『暴走しないだろうか』という不安と襲い来る反動、〝記憶〟への恐怖と罪悪感。それらが入り混じり、漫然としていたかもしれない。雑念は振り払おう。今考えるべきことは、どうしたらこれを扱えるようになるか、だ。

 

 

(基本的なことから見直しますか。…これまで私は自分を中心に据えることで〝個性〟を制御してきました。根本からして運用法が違うのですから、困難であることは至極当然…)

 

 

 昨日から始めたこの訓練。未だに体外へ基準点を移動出来ていない。ここまでのやり方で上手くいかないなら、改善点を模索しなくていけない。

 私は、通常の【空間移動(テレポート)】を行使する際の思考過程、つまり、亡き祖父から教わった〝個性〟制御の(すべ)京都の祖父の自宅で(あの時)かけてもらった言葉と共にそれを思い出す。

 

 

『いいかい、移ちゃん。私たちのような【ワープ】系〝個性〟を使う時は、自分が中心に居るんだと言うことを忘れてはいけないよ』

 

 

 【ワープ】系〝個性〟が希少な理由。それは偏に、扱いの難しさに起因する。実用可能なレベルまで熟練することも困難であるが、それ以上に【ワープ】系〝個性〟は〝生きていられない〟のだ。〝個性〟を発現した時点、或いは数年の内、つまり幼少期に彼らは事故死する。地中深くに移送してしまい窒息死・圧死したり、高所へ移送して転落死してしまったり。中には重体()()で済む子もいるだろうが、多くの子がその事故をキッカケに自身の〝個性〟を忌み嫌うようになると言う。

 更に、傷付けるのは何も己だけではない。家族や友人にも累が及ぶことがある。嘗ての私のように。

 

 祖父が私にアドバイスしたのも、〝個性〟の暴走による怪我を危惧したからだろう。現に、お父さんの兄弟、私の伯父と伯母に当たる人たちは幼少期に〝個性〟事故で亡くなったと聞いている。

 

 故に希少なのだ。お父さんのようにプロヒーローにまで至った者や、祖父や黒霧のように自在に移送出来る【ワープ】系〝個性〟は。

 

 

(…プロヒーロー。そう言えば、お爺ちゃんの話で〝自身の血液を媒介して【ワープ】する〟ヒーローのことが出てましたっけ…)

 

 

 〝個性〟制御の話題ついでに、祖父が地方のヒーローに関して語っていたことをふと思い出す。祖父の古い知り合いで、今も現役のプロヒーローのことだ。メディア露出を嫌厭していて、ヒーロービルボードチャートに載ることはないが、確かな実力者とのことだった。

 ヒーロー名は確か…、〝ポイント・コネクト〟。彼は、アイテムを駆使して血液を射出し、付着した箇所を始点・終点に設定するらしい。

 

 

『みんながみんな、自分を中心にする訳じゃあないんですね』

 

 

 〝ポイント・コネクト〟のことを聞いた当時の私が抱いた感想だ。自分以外を、離れた2点間を繋ぐことの出来るその〝個性〟は、【スフィア】と違って基準点の移動が可能なのだと。

 

 そんな私の台詞に、祖父はなんと答えたのだったかな。優しげな笑みを浮かべたまま、彼はこう言っていた気がする。

 

 

『──いいや。彼も例外ではないさ。血を媒介しているものの、それも元は己自身。彼はね、分かたれた血液を己と認識して〝個性〟を行使しているんだ。離れていても、そこに在る血痕を中心に据えてね。……いや、すまない。移ちゃんには、ちょっと難しいかな?』

 

 

 途中で、幼児に話すにしては難解だと察したのか祖父はそこで説明を終えた。無論、肉体的は6歳そこらでも中身は30代に達していた私だ。その理論はきちんと理解していた。

 

 

(〝ポイント・コネクト〟は〝個性〟の使用に血液を必要としていた。……私も、身体のどこかを切り離して媒介すれば、もしかしたら……)

 

 

 少し、想像してみる。〝ポイント・コネクト〟のように拳銃型のサポートアイテムを用いて血液を飛ばす自分の姿を。

 しかし、どうもしっくり来ない。それで成功するヴィジョンが浮かばなかった。

 そもそも、〝ポイント・コネクト〟は元来それが発動条件の〝個性〟だ。私の【スフィア】とは根本から異なる。

 

 

(う〜ん…どうしたらいいのやら……。暴走していたにしても、10年前の私はどうやって使っていたんでしたっけ…?)

 

 

 腕を組み頭を悩ます。非常に億劫ではあるが、当時のことを振り返ってみる。

 

 

増井(ラブアンドピース)に思考を奪取されて。それが()()()()解除されて…。そして奴が迫って来た。奴に触れられる直前に〝アレ(非接触空間移動)〟が発動した訳ですが……、その時に私が考えていたこと…)

 

 

 記憶の蓋を開けていく。増井(ラブアンドピース)の醜悪な表情と、私が引き起こした惨状を思い出して気分が滅入る。しかし辛抱だ。苦虫を噛み潰したような顔をしていることを自覚しながら、続きを黙考する。

 

 

(私は、何か叫んだ気がする…、何を…? ……ええと、確か私は……)

 

 

『やめ……っ、…来ないで…っ…。──私の領域(なか)から出ていってよッ……!!』

 

 

(私の……、〝領域(なか)〟…?)

 

 

 〝領域(なか)〟……。そうだ、〝なか〟だ。あの時、私は【空間探知(ディテクト)】の範囲内を体の中と認識していた…、ということだろう。

 

 【空間探知(ディテクト)】している場所を己自身と定め、基準点に据える。…これなら理論上は可能、かもしれない。

 専門家の常套句(言い訳)のような言い回しになってしまったが、試してみる価値はある。さっきまでは丹田から体の先、そして体の外へ基準点を持っていこうとしていた。その手順を捨て去り、一足飛びに体外──いや、【空間探知(ディテクト)】内の別の場所へ移す。

 

 

(物は試しに……、…。いいえ、半端な気持ちでは駄目。出来ると信じてやるだけです…!)

 

 

 集中する。ピクシーボブが全体に向けて事務連絡かアドバイスかを言っているようだったが、自分のみに意識を向ける。深く息を吸って、静かに吐き出す。繰り返して、呼吸を整える。

 努めて自然体に、いつもの通りに。

 

 2m先の空間に、全神経を集中させる。

 

 

(そこは体内、そこは私、そここそ──基準点ッ!!)

 

 

 ──ズズズ………。

 

 

 ──瞬間。

 

 自分の中から何かが出て行く。一歩も動いてない筈なのに、少しずつ居場所が変わっているような。ゆっくり、ゆっくりと宙を移動し、やがて私は()()に辿り着く。

 

 不思議な感覚だ。私は今、浮いている。浮遊感はなく、支柱もないのにボルトで固定されているようにビタリと、地面から1メートルほど離れた場所に留まっている。

 だけど私の肉体は、別の地点──基準点を移そうとする前の場所に確かに存在していた。

 

 肉体と意識。二つの地点で二種類の私が同時に居た。

 

 

(成功した…、成功しましたっ…!)

 

 

 じわりじわり広がるように喜びが湧き上がる。昨日からめまいやら嘔吐やらに耐えた甲斐があった。飛び跳ねて感情を表出したい気分だ。リバース仲間の麗日と喜びを分かち合いたい。

 

 

(──いやいや落ち着くんです私。前進したけどまだまだ。このまま【空間移動(テレポート)】の練習に移行して……)

 

 

 浮ついた心を落ち着かせようとして、技の練習に意識を向け直すが…、僅かに遅かったようだった。

 

 

「ぁ……っ、まずっ……!!」

 

 

 固定されていた基準点は、左右に小さく揺れたかと思うと、次の瞬間には四方に大きくブレ始める。肉体から離れた意識(基準点)は、私の思惑から外れて無秩序に暴れていく。

 

 天地が逆転し、自分の居場所がまるで分からない。もはや立っているのか座っているのか、落ちているのか昇っているのか。濁流に飲み込まれた木っ端の如く、乱れ踊る基準点に翻弄される。

 

 完全に、制御から外れてしまっていた。

 

 

「空戸ッ…!!」

 

 

 正面から相澤先生の叫び声がした。

 回らない頭で〝個性〟を解除しようとして、既に【空間探知(ディテクト)】が切れていることに気が付く。遅れて、『ああ、先生が視て(抹消して)くれたのか』と思い至った。

 

 誰かが駆け寄って、何やら話しかけている。しかし、水中にいるように声が遠い。

 

 僅かな振動と風の流れを感じた。それがピクシーボブの【土流】によって搬送されているからだと気が付いたのは、医務室に着いた頃だった。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 霞がかった纏まらない思考で、なんとなく、しかし根拠もなく確信する。ああ、これは夢だと。

 

 

「どうして僕にはお父さんがいないの?」

 

 

 少年の声だ。寂寥感に襲われた幼い子どもの問い。その声を受け、少年の視線の先に居る女性の顔が悲しげに曇る。涙を堪えながら彼女は、ゆっくりと少年に近付いて、力強く抱きしめた。『ごめんね。ごめんね』と湿った声で繰り返す女性。少年は動くことが叶わず、ただただその悔恨を含んだ懺悔を、暗鬱とした空気の中で黙って聞き続けることしか出来なかった。

 

 この女性は、誰だったろう。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「お父さん、どうして分かってくれないのッ?」

 

 

 今度は、少女の声。聞き覚えのある声。私に似ていて、しかし私ではない。少女の視界とリンクしているのか、彼女が父と呼ぶ男性は見えるが、少女の顔は確認できない。

 

 

「お爺ちゃんは殺されたんでしょう!? お婆ちゃんもお父さんも、そのせいでいっぱい悲しんだし、苦労したって! だから私が強くなって仇を討つの! それの何がいけないのっ!?」

 

 

 少女は激しい怒りを覚えた。正面に立つこの男性に対してではない。父や祖母、愛する彼らから幸せを奪った者が裁きを受けず、のうのうと悪事を働き続けている現実を許せないのだ。

 

 

「……その気持ちは嬉しいよ。だけどね。お父さんもお婆ちゃんも。■が戦って怪我することが、とても怖いんだ。傷付けたり傷付いたり。そういうことはもう…嫌なんだよ」

 

 

 何かに怯えるこの男性は、誰だったろう。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「お母さん、あのね。お腹の子、女の子だって」

 

 

 再び景色が切り替わる。今度も私の声のようで…、しかしほんの少しだけ大人びている。妙齢の女性の声だ。一人称視点の映画のように、彼女が見ているであろう光景が映される。視界には、少し膨らんだ腹部を撫でる手が映っていた。慈愛に満ちていて、それでいて手付きにはどこか戸惑いも見て取れる。

 

 

「順調に成長してるって。良かったぁ…。3ヶ月目まで気付かずに仕事してたもの。このまま何事もなければ良いんだけど」

 

「そう…、本当に良かったわ。ええ、きっと無事に産まれるわよ」

 

 

 耳元からする電話越しの声。耳馴染みのある■■の声だ。

 

 

「ありがとうお母さん。……あとは、■■のお父さんがこの子を受け入れてくれたら嬉しいのだけれど…」

 

「……そうね。だけど、あまり思い詰めてもいけないよ? 少しずつ歩み寄っていきましょう」

 

「うん……分かってる」

 

 

 この電話相手の女性は…。膨らみかけのお腹をした女性は…。お腹の中の子どもは……。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「わ…たし、は………」

 

 

 意識が浮上する。真っ白な天井が視界に入った。乾いた口内を潤すべく唾を飲み込む。少しだけ胃酸の味がした。

 

 夢、なんだろうか。さっきまで見ていた光景は記憶にないものでありながら、息遣いまで鮮明に感じられ現実味を帯びていた。少年と少女と女性。3人の人物の視点で展開されたそれぞれの場面一つ一つから、彼らの情動がハッキリと感じ取れた。あれはまるで、私が体験した出来事のようで………。

 

 

「気が付いたかにゃん」

 

「──あ。…えと、はい、おはよう…ございます?」

 

「にゃ。そろそろ夕方だけれど」

 

 

 思案していたところに横合いから声をかけられ中断される。翡翠色の髪の毛にイエローがモチーフカラーの戦闘服(コスチューム)を着た〝プッシーキャッツ〟の1人、ラグドールだ。

 彼女が指差す時計を見る。時刻は16時を少し過ぎた頃。

 窓から入る陽光は、オレンジ混じりの淡い色合いになっていた。

 

 

「そんなに眠ってしまったんですか……。もしかして、ずっと付き添っていただいていたのですか…?」

 

「倒れた子を放っておくわけにはいかにゃいにゃ。あ、安心してね。ここからでも、アチキの〝個性(サーチ)〟は届くから、みんなの弱点は通信で都度伝えていたにゃん。それと、倒れたのは君だけ。他のみんなに怪我はにゃい!」

 

 

 だから気にすることはないと、彼女はコロコロと笑った。

 

 彼女の〝個性〟【サーチ】は、目視した相手の居場所や〝個性〟の弱点を知ることができる。それらは、ある程度の距離が開いていても効果を発揮する。

 彼女が居るからこそ、2クラス40人の個性伸ばしを僅か6名の監督者で実行可能としているのだろう。

 

 ラグドールの言う通り、私の付き添い程度で訓練に影響はなかったと思われるが、私の心情は別だ。私は再度、謝罪と感謝を述べた。

 

 

「元気になってくれたらそれでいいにゃん! どこもおかしなところはない?」

 

「はい。少しだけ頭痛が残ってますがもう平気です」

 

 

 布団から出て調子を確かめる。意識を失った後にしては不調が少ない。先生たちの迅速な救護のおかげだろうか。

 身なりを整えていると襖がノックされる。音の方へ目を向けたラグドールが返事をすると、相澤先生が部屋に入ってきた。

 

 

「ラグドール。空戸の看病と連絡、ありがとうございます」

 

「お安い御用にゃん!」

 

「空戸は、…平気か?」

 

 

 強張った声で先生が訊いた。若干の躊躇いが感じられた。体調以外にも私の心理的な面を慮ってのことだろう。危惧していた〝個性〟の暴走が起きたわけだし。平静を装えるよう努めて明るく振る舞う。

 

 

「お陰様で問題ありません。体調も良いですし、先生が視てくれたことで未然に防げましたし。……ほんと、助かりました」

 

 

 半分本当、半分嘘だ。体調はほぼ良好。被害が出ていないことへの安堵もある。ただ、〝個性〟が制御出来なくなった事実は、私の心に重くのし掛かる。

 もし、あのまま暴走し続けていたら……。嫌でも凄惨な光景が目に浮かんでしまう。

 

 

「………そうか。何があったか分かるか?」

 

 

 先生は息を吐いて、困ったように頭を掻く。どうやら、見栄はバレていそうだ…。

 

 

「はい。10年前の事件の時、私が何を思って〝個性〟を使ったのか思い出したんです。それに倣って基準点を【空間探知(ディテクト)】内に移動しようとして、一応は成功しました。……けど、そのあと気が緩んでしまって…、制御不能に陥りました……」

 

「油断が原因か」

 

「うっ……、はい…。すみません……」

 

 

 ズバリと指摘されてしまった。

 危険な技と理解していた筈なのに、先生の世話になってしまった。これは完全に私の落ち度だ。情けなさから思わず縮こまってしまう。

 

 

「…明日以降も同じ手法で試してみろ。ゼロから始めて2日でここまで掴めたんだ。下地があったにしろ、大きな成果を出したことを誇って良い」

 

「……! はいっ!」

 

「ただし気を抜くなよ。常に実戦を想定しろ。無論、被害は俺が出させん。お前は安心して訓練に励め。…話は以上だ。他の奴らが心配していた。晩飯の支度を始めているから合流してこい」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 

 相澤先生と、それからラグドールに礼をして退室する。

 

 

(そっか……、そうですよね。誇って良いんですよね)

 

 

 御しきれなかったことに沈んでいた気持ちが少し晴れるようだった。足取りが軽い。

 

 

(大丈夫。集中を乱さなきゃ暴走しませんし、先生も控えてくださってる。明日はもっと上手く出来る筈)

 

 

 反省すべきところはして、引き摺らないようにしよう。急に倒れてしまってみんなも心配しているだろうし、クヨクヨしていられない。

 先生の言う通り成果が出たんだ。このまま行けば、合宿後にはお婆ちゃんに良い報告が出来そうだ。

 

 みんなが調理していると思われる場所へ向かう道すがら、そう言えばと思い出す。さっき見たおかしな夢は何だったんだろう。先生たちと話している内に内容を忘れてしまった。感傷的な気分になる夢だった気がするけれど。

 

 

(……まあ、疲れていましたし、悪夢でも見たんでしょう)

 

 

 忘れてしまったものは仕方ないし、所詮は夢だ。別に深く気にすることもないだろう。

 とりあえず今は、既に調理し始めているみんなに合流しなくては。爆豪あたりに『はよ手伝えや!』とか言われそうである。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 移がクラスメイトの下へ向かったことを確認した相澤は、ラグドールに向き直る。その表情は、無愛想な普段の彼よりも一層険しい物だった。

 

 

「──それでラグドール。報告にあった件ですが」

 

「うん。眠っている間に詳しく見たから間違いないにゃん。──彼女の〝個性〟は2つある」

 

 

 知床(しれとこ)知子(ともこ)、ヒーロー名〝ラグドール〟。彼女の〝個性〟は、目視した人物の情報を丸裸にする。隠していようが、本人が知らないことであろうが、彼女の【サーチ】は全てを暴く。

 

 

「空戸移ちゃん。あの子は〝個性届け〟にある【スフィア】の他にもう一つ、〝個性〟を宿している。こんな事例を見たのは今回で3()()()だにゃん」

 

 

 神妙な顔で話すラグドールと、それを聞く相澤。2人の頬に汗が伝う。

 聞きたくない。だが知らねばならない。相澤は彼女を預かる教師として、確認する必要がある。

 

 

「……1回目と2回目の事例は…」

 

「………今年の4月と6月。公安委員会の依頼で見たにゃん。空戸ちゃんの重なり方とはかなり違ったけれど、アイツらも1つの体に複数個の〝個性〟を宿していた」

 

「〝怪人脳無〟……ですか」

 

 

 間違いであってほしい。相澤のそんな願望を含んだ問いは、ラグドールの静かな頷きによって是とされた。

 

 

 

 

 

 




公安委員会がラグドールに仕事を依頼したことは独自設定です。


ところで疑問なんですが、ラグドールには【ワンフォーオール】がどう見えていたのでしょう。
【ワンフォーオール】のオリジンは、【〝個性〟を与える】と【力をストックする】が混ざり合った物です。
デクくんが現時点で使用できるのはそのオリジンのみですが、これの弱点が見えるとしたら…。

・6%以上の力を発揮すると体が自壊する。
・(〝個性〟を与えるには)相手に自分の体の一部を摂取させなければならない。

となりそうです。前者は良いとして、後者は『え、なにそれ怖いにゃん』って思われそう。それとも、後者は〝個性〟使用の前提条件であるため、弱点として表示されていないのでしょうか。不思議です。

そもそも弱点って、どうな基準で判定されるのでしょう。
【シュガードープ】や【ネビルレーザー】のように分かりやすい〝個性〟の弱点があれば単純ですけど
【尻尾】や【透明】の弱点を聞かれると答えに困ります。比較対象や運用方法によって何が弱点なのか、変わってしまいそうです。

【サーチ】ってなんなんでしょうね。分からず書いてます。
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