なんて悩んでいたらこんなに月日が…。
「二次創作なんて自己満足がすべてだろ!」
と自分に言い聞かせて書きました。とにかく完結を目指します。
林間合宿編は今回を含めて残り4話です。
拙作の起承転結の転にあたる神野区編には全く着手できておりません。そのため、再びお待たせすることになります。まとめて投稿するつもりですので、忘れた頃にやってくると思います。その時はどうぞよろしくお願いします。
前回までのあらすじ
ゲロまみれになりながら新技を練習する移ちゃん。合宿明けにお婆ちゃんへ良い報告ができるよう頑張ってます!
合宿も半分が終わったところ。ここで先生たちから生徒のみんなへレクリエーションの時間をプレゼント!
楽しい楽しい肝試しがはっじまーるよ〜☆
地面から、生首が生えてきた。
「きゃあぁっ!!」
衝撃的な光景にその場を飛び退き、咄嗟に近くの支えに抱き付く。人間、恐怖を感じると無意識によすがとするものを求めるらしい。ホラー映画で怪物や幽霊に出逢った登場人物が抱き合ったり壁に張り付いたりするのを見て『あんな反応するかな普通』って思っていたが、今なら彼らの気持ちが分かる。何故って、私も同様の反応をしたから。
「──ビビっ、たぁ〜! B組の小大か? …マジモンかと思ったぜ」
「ん」
白いワンピース姿の
「……こ、小大の【サイズ】と
ふひ〜と息を吐き額の汗を拭う。背後の、小大が飛び出した地面を見つめると、既に何の変哲もない山道に戻っている。あそこに誰かがいるなんて、肉眼では気付きようがないだろう。
骨抜柔造の【軟化】は触れた物を柔らかく出来る。地面を【軟化】することで地中に潜ることも可能だ。姿は見せなかったが、さっきのは彼の〝個性〟だろう。
そして小大唯の【サイズ】は触れた物の大きさを変える。地面からヌッと飛び出してきたのは、【軟化】した地中で足下の石か何かを巨大化して足場にしたと思われる。〝個性〟による見事なコンビネーション。小大の『それっぽい』格好も相まって、高クォリティな出来栄えであった。脱帽である。
「ああ、体張ってんなぁ。──あ〜、空戸…そろそろいいか?」
「ん? …あ、ごめんなさいっ」
「いや、ぜんぜん、構わねーけどよ…っ」
切島に指摘されてようやく気が付いた私は、彼の腕からパッと手を離す。
肝試しが開始されて十数分。初めて知ったが、どうやら私はこの手のドッキリ系に強くないらしい。普段から【
「空戸ってホラー苦手なんか? 楽しみそうにしてたから、こーいうの得意だと思ってたわ」
「んー、私もそう思ってましたけど…。楽しいのは間違いないですが…、肝試しって初めてなのでここまで絶叫するとは思わなかったです」
「ガキん頃にやったことないんだな。夏祭りとか文化祭とかで」
「ええ。そういう行事に参加したこと。今までないんです、私」
夏祭りに限らず運動会や遠足、修学旅行などの行事は行った試しがない。なにせ、こちとら小学生からの不登校児。まともに通ったのは中学生の後半からだったし、通い始めてからも〝護衛〟の関係で自宅と病院、校舎以外への移動はしたことがない。私が〝普通〟の女の子であったなら、かなりの箱入り娘に育ったことだろう。一般的なティーンエイジャーの記憶があって幸いである。
「そーか! それならたくさん楽しまねぇとな!」
「はいっ。それにそれに、これは勝負事ですから勝利を目指さないとです! 小大の手腕は見事でした…。あれなら、爆豪でさえ驚く筈です」
「確かにな! 訊いてもアイツ答えねぇだろうけど、ありゃ爆豪でもビビるわ」
驚いたかと訊かれて怒鳴り散らす爆豪の姿が目に浮かぶ。その後に肝試しペアの轟に淡々と事実を述べられて更に炎上するまでがセットだろう。
「私たちが脅かす側になった時は、さっきのを上回りたいです」
「あ。それならよ、こういうのはどうだ? 空戸と葉隠が──」
「なるほど! それは名案です! であれば、そこに麗日と瀬呂も加えて──」
私たちはあーだこーだ話しながら砂利道を進む。
──ああ、楽しいな。心の底から思う。
どこか腫れ物扱いされていた中学時代。今でも連絡を取り合っている友人もいるが、きっとそれは『雄英ヒーロー科に在籍している』からこそだろう。彼ら彼女らとは学校にいる間しか交友できていなかった。学外での遊びに誘われても断り、遠足等のイベントにも参加しない子と親密になるなんて難しい。私もそれを理解していたため、一歩引いてた節がある。それに、親密な関係を築こうとする心の余裕もその頃にはなかった。
だけど、今は違う。
学業や訓練では互いに切磋琢磨する関係であり、今のような行事にも参加出来て一緒に楽しめている。
きっと、同じ目標を掲げている仲間であることがこうした関係を築く一助となったのだろう、と自己分析する。
(──こういう時間ばかりだと良いのに)
分かっている。それは楽観的な理想だ。私が目指すヒーローという職業は、常に危険と隣り合わせ。凄惨な現場を目撃して心が疲弊することも多々あるだろう。友人や身内が盾に獲られることさえある。加えて、私はネームド
だけど。だからこそ。この時間を大切にしたい。きっと、この時間が辛い現実と向き合う時に私を守ってくれる。それは私だけでなく、ここにいるヒーロー科のみんなも同様だ。先生たちがこの行事を企画してくださったのも、そんな意図も含まれていると私は思う。
(………ま。あんまり重く考えてしんみりすることないですね。若人らしく、今を思いきり楽しむとしますか!)
「急に頭振って、どーしたんだ?」
「なんでもないです。えへへ…いま、楽しいなぁって思っただけです!」
「お、おう。そぉだなっ」
切島はそっぽを向いて頬をかき始めた。ちょっと誤魔化しが下手だったろうか。変に思われたかもしれない。
気合いを入れて、って言うのも肝試し中に変な話だけど。楽しむことにも全力で、だ。
それから、取蔭のバラバラ人体浮遊や吹出の怖気オノマトペに驚かされながら進む私たち。そろそろ終盤だろう。
ガサッ──。
(お、っと。次は何でしょうか。残っているのは柳か庄田ですが──)
私から見て右側、樹木の陰から聞こえた物音。誰かが動いたのだろう。どんなギミックが飛び出してくるのか心躍らせつつ、あまり身構えずに軽く視線だけ向ける。
シュバッ! と何かが伸びてきたのを視界の端で捉える。長い…蔦だろうか。となると塩崎の〝個性〟だけどもう彼女は終わった筈だし…、なんて考えたところで。
胸と太ももに違和感が走り──。
「ぃ゛ッ……ぁあ゛ッ!?」
違和感から痛みに変わる。鋭い痛み。焼けるように、痛い。何。何故? 誰が?
息つく間もなく両足が地面から離れた。視界がグワンと回る。右胸部と右大腿部。そこを起点に枝分かれした無数の〝何か〟によって、私の体は押し上げられ上空へ連れて行かれた。口を大きく開けた切島が私を見上げている。いや、いやいや違う。それよりもこの視界を覆い尽くす白い棒は何だ。棒か…板…、刃物…? とにかく、私を貫いた〝何か〟を目で追う。全身の服や関節を覆うように伸びたそれは、胸と太ももに刺さっている物から文字通り枝分かれしている。ところどころ屈曲しながら地面へ伸び、地に近いところで直角に折れ曲がり、森の奥へと続く。ちょうど物音がした方向からだと気付く。見下ろす位置となるここからでは、樹木の葉に邪魔されて下手人は見えない。だが、これは。これは生徒の〝個性〟じゃあない。
これは……。
「仕事……。仕事しなくちゃ……、ああ…、でも……!」
「ゴフっ…! ……ヴィ…ラン………ッ!!」
「肉ぅぅッッ!!!」
黒い拘束衣を身に纏った男。不気味な様相をした男は、狂気に取り憑かれた声で叫びながら草陰から姿を現した。
「んな!? 空戸ぉッ!!」
混乱。切島は状況に理解が追いつかなかった。
物音と同時に何かが移を持ち上げて。その何かに移は体を貫かれている。一目見て重傷であることが窺える。仮に、切島がレスキュー訓練を受ける前の一般的な知識しか持たなかったとしても分かる。あの傷は、直ちに治療を施さなければならない。
全身に突き刺さった何か。特に、彼女の右胸と右太ももの傷。幅10cmはありそうな刃物が貫通している。太ももは動脈や神経、大腿骨を傷付けているだろう。こちらだけでも死に直結する大怪我だ。
右胸に至っては更に酷い。開放性気胸、大量血胸、フレイルチェスト、心タンポナーデ…。授業で習った危険な病態の数々。致死的胸部外傷と呼ばれる代表的な疾患。『事件や災害現場でこれらの傷病者に出会ったら、優先して救助し初期治療をしろ』と言う、相澤の言葉が頭によぎる。
(治療を……! …ぁ、いやそうじゃねぇ!! まずはこの白い刃物をどーにかしねぇとッ!! それと、アイツだ…ッ!!)
全身を、取り分け両腕を【硬化】して臨戦態勢を取る切島。長く長く伸びる白い刃物の根元、黒い拘束衣の
(どうしてここに
ゆらりゆらりと静かな足取りでコチラに近付く
「てめぇ! 空戸を放せッ!!」
全身を、特に両腕を重点的に【硬化】した切島は、
何故か分からないが、
そして男の〝個性〟…、移を貫いた凶器は彼の口から飛び出していた。
(歯を刃として伸ばす〝個性〟…。不意打ちだったてのもあるが、結構
相手の〝個性〟を簡単に分析した切島は、全速で駆ける。両腕が使えない
これまで雄英で培った知識と経験。何より、USJにて〝
並の
ズオンッ──!!
男の口からでなく、既に伸びていた移を貫いた【歯】。その側面から突如として生えて伸びた凶器が、切島を吹き飛ばしたのだ。
「なんっ!?」
切島は宙を浮き、砂利の上を受け身を取りつつゴロゴロと転がる。ダメージは少ない。シャツが破れ、体は土まみれになったが、人を貫く【歯刃】は切島の表皮を僅かに傷付けただけ。しかし、反応が出来なかった。切島が〝個性〟で【硬化】していなければ、すでに勝敗が着いていた。
「あ…? 肉が見えない…? ……お前、つまらない…」
明らかな傷を負っていない切島を見て、男は嘆息する。
男の
これだけで十二分脅威であるが、この〝個性〟は〝歯〟を起点としている。つまりどう言うことか。
「…めんどう……。肉面見たい…、あぁ仕事もしなきゃ……だから」
人間の〝歯〟は、なにも一本だけではない。
「くっそ……ッ!!」
「さっさと殺して…、肉ぅ見せてェェェ!!!」
一本だけでも吹き飛ばす威力のある【歯刃】が同時に7本。そこから更に分裂し、視界を覆うほどの凶器が切島へ迫る。
一度目は【硬化】のお陰で事なきを得た。しかし数十回、数百回の攻撃はどうだろう。切島の体力も有限だ。無尽蔵の攻撃を受ければやがて防御は綻び、【歯刃】に貫かれる。一瞬でそれを予期させるほど、彼の眼前に迫る【歯刃】は数と速度が備わっていた。
(避けらんねぇ……ッ!!)
轟音。砂埃が舞い周囲を覆う。無数の【歯刃】がそこに叩きつけられ──。
「…あぁ? 肉…どこ……?」
切島をズタボロにする筈だった【歯刃】は、空を裂き地を穿っただけに終わった。肉を、人間を貫く感触がなかった。
切島は、忽然と姿を消した。
ムーンフィッシュは頭巾に覆われた頭をキョロキョロと動かし切島を探す。しかし、視界に収まる範囲には誰もいなかった。
疑問を浮かべる彼の頭上から「ごぶっ」と湿り気のある咳の音がした。
「【
【歯刃】の先、宙吊りにされた移は、口元を血で汚して唸るように叫ぶ。切島が立っていた場所を掴むように伸ばされた左手は、役目を果たしたことでダラリと脱力する。
「…逃げて……切、島っ!!」
(できた……、できたできたっ!! 無事に移せたッ!!)
私は、窮地に陥った切島を見て咄嗟に彼を移送した。
触れずに行う【
暴走し制御不能となる恐怖や対物練習を繰り上げて実践する初の対人使用への不安など、そんなリスクや後向きな感情を度外視した行動。土壇場の一発勝負。『助けなきゃ』。そう思って無我夢中に使ってしまった。なんとか発動した技は、私の思い描いた通りの結果をもたらした。
(良かった……、ああ、良かったぁ…っ!!)
今更になって恐怖心がよぎる。相澤先生が居ない今、失敗していたら私の手で切島を殺していたかもしれない。あの日のお父さんたちのように、バラバラになってしまっていたかも…。
いや、今は切り替えよう。切島は戦闘から離脱出来た。負荷を軽減する観点から、移送した距離は短い。移送先は私たちの後方を歩いていたペア、爆豪と轟たちの居場所。教師やプロヒーローがいる場所へ移送することがベストであったが、そこまでの長距離を移送することは負荷が大きく難しかった。
(ぶっつけ本番…っ!! 上手く作動してくれて良かった……、けど…っ!)
友人が血を流す事態は防げた。──だがしかし、私の窮地が脱せた訳ではない。
「…別にいいか……、だって…ねぇ。素敵な肉面があるからねェェッ!!!」
「んぐッ…! 肉肉、うっさいんですよッ…!!」
私は憎々しげに眼下の男を睨み付ける。創傷の痛み、満足に出来ない呼吸、霞む視界に口に広がる血の味。おまけに、新技の反動により頭は激しく痛み気分も悪い。
状況は最悪。しかし、まだ手立ては残っている。致命傷を負って、思考も纏まらない。が、〝個性〟を一度使えさえすれば……。
(胸と太もものコレ…下手に動くと出血が増えますね…。〝蓋〟になっている。まずは着衣を
【
問題は右胸。こちらも胸部大動脈や上大静脈などの主要血管と脊椎は逸れていそうな位置であるが…そんなことは気休めだ。
幅約10cmの貫通創。大量の喀血。呼吸困難感。胸郭の動揺。考えるまでもない。速攻で手術する案件だ。
そんな重傷者が〝これから戦闘が起きる可能性がある〟場所へ行く訳にはいかない。足手纏いになることは必定。だからこそ、逃げる先を選ばなければならない。
安全地帯を【
探知出来たのは半径200m弱…、その範囲内に居て交戦中ではなかったのは後方を歩いていた轟・爆豪ペアと脅かし役のB組の柳と庄田だ。いずれも先生たちやプロヒーローが居る場所へは距離がある。
だからと言って肝試しのスタート地点、プッシーキャッツがいる筈の広場も危険だ。探知範囲のギリギリ端だった為に詳細は不明だが、少なくとも2名の
先生たちがいる宿泊施設は探知出来ていないし、距離があり過ぎる。そこへ向かうのは博打行為だ。
(切島を移送した爆豪たちの下が最善、でしょうか。…そうですね、彼らに救助を求めて先生たちの下へ向かう。それが一番です)
不気味な声を洩らしながら拘束衣の
落ち着け私。痛いし、苦しいけど、ほんの200m弱の距離を【
(早く移動して伝えなくては…、こっちに来てはいけないと)
脅威は、目前に迫る
【
「──ええ、駄目でしょ〜。せっかく会えたって言うのに逃げようとしたらさァ〜」
──ゾクリ…。
甘い。蕩けるような甘い声。幼子の悪戯を注意するような調子でかけられたその声に、私の思考は停止する。
鳥肌が立ち脊髄を撫でるように怖気が走る。
聞きたくない。見たくない。嗅ぎたくない。触れたくない。
私の全てがそれを拒否する。
「ひっさしぶりだよねェ。アッハ! 血塗れで、ボッロボロで、とってもカァイイねっ!」
嫌だ。嫌だ嫌だ…!!
指先が震える。歯の根が合わない。怖くて恐くて仕方がない。身体を、心を制御出来ない。
耳を塞いでしまいたい。瞼を閉じてしまいたい。
なのに私の視線は、ゆっくりと、ゆっくりと。彼の方へ向いてしまう。視界に、その姿が入り込む。
「会いたかったよ──移ちゃん」
彼と、目と目が、合う。
「