昨日も投稿してます。未読の方はそちらからどうぞ。
──〝追加の脳無が欲しい〟?
──…なるほど。確かに、あれを
──だけど、
──……いいね。それならとっておきの脳無がいるよ。キミたちにとっても、彼女にとっても…ね。
「〝空戸移を生け捕りにしろ〟ォ?」
遡ること数日前。
錆びと土と埃の匂いに包まれた廃工場に集まった男女数名。一般市民が寄り付かないその場所に、だからこそ選ばれたそこに。彼ら──
お互いの素性もさして知らない──気にしていない──彼らは、リーダーである死柄木からとある作戦の目標を伝えられる。全身タイツにマスクで頭を覆った男、
「おいおい、死柄木お前よぉ〜、ソイツはどう考えても無理な注文じゃねーか? ヨッシャ来た任せとけ!! 」
ビッ、と親指を立ててポージングするトゥワイスに、隣に立つ大男が呆れた表情を浮かべる。〝マグネ〟と呼ばれる
マグネは、
不可能に近い。それがマグネの、ここに集まった誰しもが下した結論だ。
「そのお嬢ちゃんの〝個性〟じゃ、殺すならまだしも、捕まえたところで直ぐに逃げられちゃうんじゃなーい?」
マグネが言う。
殺害であれば成功率は高いだろう。いくら強力な〝個性〟を持っていても所詮は経験の浅い高校生。まだ〝プロヒーロー〟ではない。
襲撃する場所は〝プロヒーロー〟が数人しかいない森の中であり、襲撃するタイミングも合宿のレクリエーション中という〝リラックス〟している時だ。【炎】系の〝個性〟を持つ〝荼毘〟が焼いても良いし、岩をも粉々にするパワーを持つ〝マスキュラー〟が殴殺しても良いだろう。
だが、〝生け捕りにする〟となると話は変わる。命を奪わぬよう手加減をして、かつ逃げられる前に戦闘不能にして意識を奪わないといけないからだ。【ガス】の〝個性〟の〝マスタード〟であれば出来なくはないが…、いや【ガス】では蔓延するのに時間がかかり過ぎる。確実性に欠けるだろう。
そんな反対意見をぶつけられた死柄木は、メンバーたちがそう結論付けることを予見していたのか、然もありなんといった様子で頷いた。
「対策は用意してある。黒霧。説明しろ」
死柄木は、細かい話は任せたとばかりに、背後に控えた黒霧へ呼びかけた。黒霧は心得たと小さく頷き、話を引き継ぐ。
「先ほど皆さんに観ていただいた映像の通り、空戸 移の〝個性〟【スフィア】は私と同系統。つまり【ワープ】が出来ます。それに加えて索敵能力も備えており、その有効範囲は最低でも600mはあるでしょう」
「聞けば聞くほどウザい〝個性〟だね。そんなの近付く前に気付かれて終わりじゃん?」
学ランを着た小柄な少年──〝マスタード〟が物憂げに言う。
「黒霧の〝個性〟で不意打ちでも仕掛けるか? でもアンタの〝個性〟、居場所を特定出来なきゃピンポイントで出せんだろ。いくらレク中を襲っても、森の中で奴さん1人を見つけんのは難しくないか?」
「ああ。探してる内にお遊びが終わっちまうだろうな」
続いて〝Mr.コンプレス〟と〝荼毘〟が作戦の穴を指摘する。彼らの言うように、今回の襲撃は森の中で生徒たちが散り散りになる瞬間を狙う。それによりプロヒーローを分断することが出来るわけだが、〝個人の居場所を特定出来ない〟というデメリットも内包している。残念ながら、今回新しく
「ええ、ご指摘の通りでしょう。──ですから、この脳無を用います」
「──うげぇ、気色悪いです」
【ワープゲート】から黒霧が取り出した〝小型の脳無〟を見て、この場に唯一の少女、〝トガヒミコ〟は盛大に顔を顰めた。飛び出した目玉、大きな口、剥き出しな脳味噌、そして頭から直接生えた小さな手足と尻尾のように伸びる脊椎…。自然界にはいない造られた歪な存在。それの製作者からは
そんなトガのリアクションなどどこ吹く風で小型の脳無は黒霧と死柄木の周りをトコトコと歩き出した。小動物めいたその様子に、一同は「これが何の役に立つのだ」と疑問に思う。彼らの知っている脳無は、保須市に出没した大柄の脳無と、襲撃に参加する予定のチェーンソーを携えた脳無だ。それらと比べると些かどころか、全く脅威に感じない。
「……コレは何が出来るんだ?」
「見ての通り、この脳無に戦闘能力は皆無です。しかし、便利な〝個性〟を使えます」
「便利…?」
「ええ。対象に触れることでその人物の位置を数km先まで【測位】することが出来ます。これを使って目標の居場所を割り出し、そこへ私が【ワープゲート】を繋ぐ。これなら空戸移の索敵範囲外から目標捕捉・不意打ちが可能、というわけです」
ここにいる
──しかしながら問題はある。
「そりゃ凄えな。…で、どうやってこのちっこいのを触らす?」
荼毘は大仰に両手を広げて褒め称え、そして更なる疑問を投げかける。当然の疑問だ。
全く役に立たないクソ〝個性〟……そう思われるのも無理なかった。
ところで、脳無の材料は複数の人間である。小型の脳無であってもそれは変わらず、いったいどういう仕組みで動いているのかは死柄木たちも知らないが、とにかく元はただの人間ということがポイントだ。調達のし易さから、その殆どが日陰者…
皮肉を投げる荼毘に、死柄木は笑みを浮かべる。
「安心しろ。
「あぁ?」
「だから、
触れることが条件の〝個性〟。愚鈍な小型脳無では、【探知】と【テレポート】を持つ
逆に考えれば良い。既に触れた人間を材料に組み込めば良い、と。
とある筋から移のかかりつけ病院を突き止めた死柄木は、手頃な看護師を見つけて脅迫した。親を人質にしてしまえば一般人を手玉に取るくらい造作もなかった。業務中に移と接触させ、最後に連休の申請をさせれば後は簡単。バレる心配はない。失踪が発覚する頃には今回の襲撃は完了しているからだ。
「なるほど、それなら安心だ。完璧な作戦だな! ──穴だらけじゃねーか!! 」
「ええ、まだよ。それで不意打ちが成功したとして、殺さずに捕まえるには確実性に欠けるわ」
「俺の【圧縮】も、【テレポート】にゃ効かねえしな」
トゥワイスが、マグネが、Mr.コンプレスが。各々が意を唱える。
【ワープ】系〝個性〟持ちの誘拐。それは歴史上、幾度となく行われた犯罪であり、その殆どが失敗に終わっている。
だからこそ、逃走を容易にする【ワープ】系〝個性〟は彼らにとって喉から手が出るほど欲しい力であり、〝超人社会〟となって久しい現代でも数多の
しかし、
更に付け加えると、〝特殊個性者保護プログラム〟なる
大多数の
トゥワイスたちの声に応えるべく、黒霧は懐から一つのUSBメモリを取り出す。死柄木を除く全員の視線がそこに集まった。
「──ここに空戸移のカルテがあります」
黒霧は暴く。移がひた隠しにしている秘め事を。いとも容易く。
「カルテによると、彼女は
「へぇ〜、天下の雄英高校のトップ様が情けないことだねぇ!」
心底愉快だと少年はせせら笑う。優秀な同世代を目の敵にしているマスタードにとって、
「受け取れ」
嘲るマスタードを尻目に、死柄木は何かをトガへ向けて放る。
「わ、とっとっ! …なんです?」
急な飛来物に、彼女は胸の前で慌てて受け取った。それは5cm程度の小さな筒だ。天井から差し込む月明かりにかざして中身を確認する。飛来物、小さなガラス管の中でトガがよく愛飲する物──血液がトプンと波打っていた。
「そいつは奴の
「【ワープ】系の〝個性〟はとても繊細です。痛みと恐怖に蝕まれてしまえば、彼女はまともに〝個性〟を扱えない」
死柄木の後に続いて黒霧が付け足す。
それを聞き、トガは口で弧を描く。裂けんばかりに、ニィィっと。
「…つまり私が襲うのですね? ああ…っ。ボロボロで、血塗れで、ぐちゃぐちゃになってる移ちゃん……! 私、動画の移ちゃんを一目見て好きになっちゃいました。移ちゃんになりたいです。移ちゃんを殺したいっ!」
「…いや殺しちゃダメだろ」
「このイカれ女に任せて良いのかよ」
「…監視役を置いておきましょうか」
恋する乙女の顔になるトガのぶっ飛んだ発言に爬虫類の異形〝スピナー〟が思わず突っ込む。
一抹の不安を抱く一同。黒霧は作戦の微調整を死柄木に提言した。
「そんで? トドメに意識を刈り取っちまえば
「ああ。生け捕りにした後はこっちに任せろ。──最期には、
死柄木にトンと蹴られた脳無がコロンと地面に転がる。
バタバタ、バタバタバタ。
起き上がろうと踠く姿は、まるで路上で果てる蝉のようであった。
冷静に観察できれば、容易に気付ける筈だった。
男の顔は記憶に残る10年前のあの日と変化がなく、とても若々しい。衰えを全く感じさせなかった。そも、増井
整形による偽装か、或いは〝個性〟による変装か。平時であれば動揺は少なかったであろう。平時であれば。
失血と呼吸困難によるショック、そして人生最大の痛みは、移から正常な判断力を奪っていた。ギリギリのところで保っていた思考は、
「な…んで、ぇぁ…、…うそ……ッ」
男の顔が、男の声が、男の香りが。増井の齎す全ての情報が移の心を責め立てる。記憶が呼び起こされる。在りし日の両親の笑顔と、血溜まりに突っ伏す生気のない顔。
移の体が震え出す。それは痛みによるものか、体温低下に伴うシバリングによるものか、或いは恐怖が原因か。蒼ざめてワナワナと震える様は、巻き込まれた只の一般市民のようで。増井が現れるまで見せていた〝ヒーローとしての顔〟など、見る影もなかった。
それを受けて増井は破顔する。頬を赤く染め上げ、恍惚とした表情を顕にした。そして──。
「はぁぁ〜……かぁいいねぇ。かぁいいねぇ移ちゃん!」
増井の体が
増井に化けていた少女。他人の血液を摂取することで一定時間、その相手にそっくり化けることの出来る〝個性〟。それが彼女、〝渡我被身子〟の【変身】だ。
トガの【変身】は解けたが、移が動くことはなかった。何故なら、
「──大人しく眠ってちょうだいね」
「なッ、んん…ッ。……ぁ、………」
移の背後から忍び寄っていた男、この場にいた3人目の
全身の力が抜けた移を確認し、Mr.コンプレスは己の〝個性〟を発動する。彼が指を鳴らすと同時に移の姿が消え去り、代わりにビー玉状の何かが現れた。彼の〝個性〟【圧縮】は、対象の周囲の空間ごと球状に切り取り、ビー玉サイズまで縮小することができる。【圧縮】により囚われた移をポケットに仕舞い込み、Mr.コンプレスは器用にムーンフィッシュの【歯刃】を駆け降りて行く。
「任務完了ってな。2人ともお疲れさん」
「………ああ、肉ぅぅ……」
「………ちうちうしたかったのです……」
「いや、あれ以上手ぇ出したら死んじゃうからね? 誘拐が目的だって分かってる? あとトガちゃんは服着て服!」
誠に残念そうにする2人にMr.コンプレスは呆れ果てた。自由に生きることが
──こうして彼ら3人に与えられた任務は達成された。
目標は意識を失っており無力化済み。後は定められた制限時間を迎えるか、もう1人の目標を誰かが捕えたらこの場を撤収するだけ。
弛緩した空気が流れる。
「さてと。次はどこに行こうか。まだ時間はあるし、マグ姉らに合流して──」
瞬間。
Mr.コンプレスの言葉を遮って二種類の轟音が響き渡る。連続する爆破音と、パキパキッと氷塊が擦れ合う音。
音の方へ3人が視線を向ける。
赤と青。闇夜を照らす爆炎と、背丈を超える程の氷塊の波が彼らに肉薄した。
「ぁがッッ!!!」
「
当たり前のことだが、速度が増せば、その分威力は増す。
時速約50kmの勢いを乗せた何者かの膝蹴りは、ムーンフィッシュの顎を砕き脳天を揺さぶった。単車に衝突されたが如く飛ばされたムーンフィッシュは、無数の擦り傷を作りながら砂利道を転がる。傍に生えた幹に衝突し漸く止まった彼の四肢は力無く伸びたまま、動く気配はなかった。
ムーンフィッシュの隣に居たMr.コンプレスは、通り過ぎた爆炎により火傷を負ったかと思えば、次の瞬間には氷塊によって急激に冷却された。Mr.コンプレスごと周囲一帯を氷が覆い尽くし、山道は一瞬にして氷山に変貌した。
「──『なんだ』だぁ〜?」
隠れていた月が雲の隙間から顔を出し、爆炎と氷塊の下手人の姿を照らす。
「そらこっちの台詞じゃあ!! このクソ
「空戸を返してもらうぞ!!」
爆豪と轟。2人の怒気を孕んだ叫びが辺りに響き渡った。
ピンチに仲間が駆けつける展開!
勝ったな、風呂入ってくる
Q.胸に風穴開いた人が睡眠薬投与されたら血圧低下して死なへんか?
A.蛇腔でかっちゃんも風穴開けられた上に上空から落下してどっちゃんしても生きてたので、〝個性〟を鍛えた人間の肉体は常人離れしているのです。
Q.トガちゃんが飲んだ増井の血液はどうやって採取されたの?タルタロスにいるんでしょ?
A.どこぞのドクターの私物です。10年以上前に採取されて冷凍保存されてました。ドクターは泣く泣く手放したようです。