これで(ストックは)最後だァ〜!!!
久しぶりの投稿に関わらず、お読みいただきありがとうございます。感謝感謝です。
前田世助③改め、移ちゃん過去回です。オリジン回の裏話とも呼ぶ。
1話前で、轟くんが左手足から氷を出してしまうミスをしてしまいました。恥ずかしい…
指摘してくださった方、ありがとうございます
──ママ、これはなぁに?
──これは墓石と言ってね。天国へ行った人が眠るところなんだよ。
──ふぅーん。誰が眠ってるの?
──ここはお婆ちゃんのお父さんたちや、お婆ちゃんのお婆ちゃんが眠っているのよ。
──お婆ちゃんにもお婆ちゃんが居るんだ!
──そうよ〜、みんなにお爺ちゃんやお婆ちゃんがいるの。
──お名前はなぁに?
──ええとね、お名前は──。
異形型やごく一部の例外を除き、多くの人々は幼少期に〝個性〟を発現させる。成長過程で〝個性〟因子が活性化し、〝個性〟として顕在するまで増幅されるのがその時期だからだ。
空戸移が〝個性〟を発現させたのは3歳の頃だった。
朝、移が目を覚ました時、隣に両親は居なかった。身支度のため、先に起きることの多い彼女の両親は、その日もいつも通り下の階で忙しなく動いていた。移は朝食が出来上がってから母に起こされることが常だが、その日はカーテンが少し開いていて、朝日を顔に浴びたことで独りでに目を覚ましていた。
母も父も居ないことに寂しくなり、目に涙を浮かべた彼女だったが、カーテンの隙間から見えたモノに興味が移った。
──鳥さんだ!
灰色の大きな鳥だ。移の住む都市部には珍しい種類のその鳥は、ベランダの縁に堂々と居座っていた。
──もっと近くで見る!
普段見かけない鳥を見つけて興奮した移は、勢いよくベッドから飛び降りてカーテンを開いた。バッ、と大きな音が鳴る。羽休めしていたそれは、突然の物音に驚いたように飛び立つ。ああ、と移から声が漏れる。鳥はあっという間に空の向こうへ消えていく。
何も居なくなった窓の外を見上げる。移は考えた。
──お空に行ったらまた見れるかも。
窓に両手を当てる。外の熱気が両手に伝わる。ポカポカで暖かそうだ。鳥のように空へ行けたら、さぞ気持ちが良いだろう。
そして何故か、今ならそれが出来る気がする。窓を開けてベランダから身を乗り出すのではなく、
それは良くある子どもの妄想、ではなくて。〝個性〟が宿ったことで本能的に悟ったのだ。これまでなかった身体機能が、新たに備わったことを自然に理解していた。
移が特段優れていたという話ではない。〝個性〟を発現した子どもに多く見られる現象だ。誰に教わるでもなく初めて〝個性〟を使う子どもたちは、『できる』と思ったから使う。そこに意欲が伴うことで〝個性〟は現象として表に出る。
──【お空に行きたい!】
たがしかし、移の願いは叶わなかった。発動していれば、次の瞬間には10mの高さから地面に叩き付けられていたであろうその行為は、
それは誰の意思だったか。
「……………ぁ…、……え…………?」
それが、3歳の少女に、空戸移に前田世助の【記憶】が宿った瞬間だった。
「…いや…、いやいや、そんな……ぇ? ……だってあり得ないだろ…。僕は死んで……。生きてる…? ここは…、家…だ。うん、そうだようつりの家……、うつりは……ぁ、…ちがっ……」
状況に理解が及ばなかった。
街中で起きた暴動。爆発した病院。怪我を負い、熱を帯びた身体が徐々に凍えていく感覚。痛み。嘆き。怒り。恐れ。厭わしさ。悔しさ。死にゆく瞬間の、まだ経験と呼べないほど直前の感覚が宿っていた。
だと言うのに、先刻まで自身が抱いていた感情もしっかりと残っていた。『ママが居ない』『パパはどこ?』『寂しいな』『かわいい』『鳥さんだ』『いっちゃった』『ポカポカだ』『行きたいな』『行こう』
それらの幼稚な思考をしていたのは
それだけでなく、ここを自宅だと認識して、己を
違和感を抱かない。それがどうしようもなく気持ち悪かった。
「移? 起きたの? 音がしたけど、怪我をしてない?」
混乱する彼女の背中に声がかけられた。その声を聞くのも
青褪めた顔で彼女は振り返る。声の主を見て、2つの記憶が2つの答えを出した。
少女は自身の母だと。
青年は──自身の
母親である
『続いてのニュースです。あのオールマイト氏がまたもや快挙を──』
『昨今のヒーローたちの活躍は──』
『子どもたちを〝個性〟差別から守るにはどうすべきか。私たち大人が──』
『現在も
『クックヒーロー・ランチラッシュのお墨付き! いま巷で噂になっているコンビニ飯とは!?』
『いやぁ、エンデヴァーのヒーロー活動は派手ですね! 僕は好きですよぉ彼のこと!』
『オールマイト氏によって逮捕されたこの
『つまり、2XXX年上半期のビルボードチャートJPの順位は、こうした民意が込められている証左でありまして、ということはですよ──』
『──年前、当時のヒーロー公安委員会会長が殺害されるという傷ましい事件ですが、これをキッカケに整備された法案では──』
『やっぱオールマイトっしょ! 銃弾を追い抜くとことか人間離れしてるってゆーか──』
『こちらの〝エイリアン〟という作品は〝超常黎明期〟前に公開された作品のリブート作であり、当時は〝個性〟を持たない人々が──』
『この度は公の場で〝個性〟を無断使用したことについて深く反省すると共に、関係者の皆様、何より応援してくださっているファンの皆様に対して──』
『──4歳の男の子がまだ見つかっていません。警察は〝個性〟事故の可能性が高いとしながら、事件事故両方の線で捜査を進めており──』
『ヒーローだけでなくファッション業界においても広く知られている彼の影響で、ジーンズを取り入れたコーディネートが若者を中心に再ブレイクしています。ということで、今日はスタジオの皆様にも──』
オールマイト、ヒーロー、〝個性〟、
和佳理の心配をよそに、移は情報を精査する。ニュースと、少女の経験と、青年の【記憶】。それらをつなぎ合わせ、自分の置かれている状況を明らかにするために。
「ねえ移。貴女本当に大丈夫なの? やっぱりどこかぶつけたんじゃあ…」
「………大丈夫。それより、お婆ちゃんのお婆ちゃんって、お名前、なんて言ったっけ?」
訝しむ和佳理に投げやりに返事をし、昨日の墓参りでした話をむし返す。体調は全く無事ではなかったが、そんなことより重大なことが彼女にはあった。
「昨日の話? お墓は
「………っ…、じゃ、じゃあ……、お爺ちゃんは…?」
「……お婆ちゃんのお爺ちゃんはあそこのお墓には居ないんだけどね。──前田世助さんってお名前よ。苗字が違うのは、…まあ、超常黎明期のことだからね。色々あったらしいの」
なんということか。母に齎された解に絶望感を抱く。何かの間違いであってほしいと望む一方で、どうしようもないほど揃っている証拠が移に刃を突き立てる。
──僕は…、僕は自分の
自分がしてしまったことのなんと悍ましきことか。移は自身の内側が蟲で作られている感覚に陥った。
超常黎明期は現代のように〝個性〟への理解も知識も不足していた。異形型のような分かりやすい〝個性〟は兎も角、内容が本人しか分からない〝個性〟は表に出ないことも多かった。無論、検査方法も確立されていないわけで、本人や周囲の申告がなければ、その人に〝個性〟があるか否かは知る術がなかったのだ。
確かに生き絶えた筈の
──〝異能〟は子に遺伝すると証明されていた筈…。僕の〝異能〟に秘められた〝因子〟が遺伝されて、玄孫の代、
「──り、移! ねえ、聞こえるッ?」
「……ぁ、………う…ん………」
「顔が真っ青……、やっぱり病院行こ。普通じゃあないよ」
移を見つめる和佳理の顔は、我が子の身を案じる母親そのもので。それを享受する己の醜穢な様に、彼女は酷く吐き気がした。
母に連れられて訪れた病院でついた診断は〝
物体の温度を変える〝個性〟で低体温になったり、揺らす〝個性〟で嘔吐してしまったりと症状はそれぞれだが、〝個性〟を発現したばかりの子どもに見られる症状の総称だ。
その時の私には丁度〝個性〟が宿っていたし、検査で〝個性〟が判明したこともあってそのように診断された。玄孫の身体を奪ってしまったことへの罪悪感によるものだったが、それも世助の〝個性〟が発現した結果と考えれば、まあ、あながち誤診ではないのだろう。
原因が判明して安堵し、〝個性〟の発現に喜ぶ母の姿に胸を掴まれた思いをしたのは今でも覚えている。
帰路につきながら、往路よりも幾分か落ち着いた私が見たのは〝平和な世界〟だった。
異形型と呼ばれる〝個性〟の親子が笑顔で日の下を闊歩していた。
ちょっとした落とし物を拾うことに当たり前のように〝個性〟を用いる主婦がいた。
街頭モニターでは、筋骨隆々の〝ヒーロー〟が【超パワー】で犯罪者を退治する姿が映し出されていた。
平和だった。
皆が〝個性〟に寛容で、日常を享受していた。常に暗澹たる空気が漂う社会は見る影もなく。世界は、光ある姿に変容していた。
そこに混ざり込んだ私という過去の異物が一際異臭を放つほどに。
それからのことは以前に語った通り。
罪悪感に耐えきれなくなった私は、両親と立辺の祖父母が揃った場で、己に起きたことを包み隠さず吐露した。
十数分間、黙って聞いてくれた父は、卑しくも涙でぐちゃぐちゃになっていた私にタオルを差し出すと、いくつかのヒヤリングを始めた。
『世助さんの〝個性〟は、自らが望んで発動したのかい?』
──否、望むどころか、知りもしなかった。
『取り憑いたと言うが、キミ自身の自認は?』
──分からない。世助の記憶も移の記憶もある。混ざり合って、どちらでもあって、どちらでもない。
『キミは、どう生きたい?』
──
胸と喉が締め付けられて、痛く苦しい時間で、私がどう答えたのか、今となっては正しく覚えていない。多分、
要領を得ない私の話を聞き終えた父は、僅かな沈黙の後、引き締めていた口許を緩めて暖かく大きい掌を私の頭に乗せて言った。
『キミの【前世】が何者で、今がどういう状況なのかは分かった』
『昨日まで私たちの前にいた移と、今のキミは違う存在なのだろうね』
『でも、だけどね。きっとそれらのことは、起きるべくして起きたことなのだろう』
『私だって、前世はお婆さんかもしれないし、犯罪者かもしれない。もしかしたら鳩だったかもね』
『キミの【前世】が何者だろうと、その記憶を持っていようと』
『キミが、私たちの娘であることに変わりはないんだよ』
『移。キミは私たちの大切な愛おしい、たった1人のかわいい自慢の娘だよ』
この時抱いた気持ちを、私はただの一度も忘れたことはない。
捨てられる覚悟だった。それだけのことをしてしまった。それを父は、許してくれた。赦してくれた。
生きてて良いのだと、言ってくれた。
きっと。
その瞬間に
認めてくれた彼らに報いるために。
奪ってしまった
私は、生きている。
それが私の、
「へえ。泣ける話じゃないか」
今まで〝個性〟の名前や技名、それに連なる用語を【 】で書いてきました。バレバレだったかもしれませんが、種明かしのひとつでした。
過去、前田世助と相対したAFOが彼のことを〝異能無し〟と呼びましたが、実はありました。弟の【個性を与える】〝個性〟を見抜けなかったAFOですから、大して興味のない人物の〝個性〟の有無が分からないのも妥当かな、と考えました。世助の〝個性〟は生前に効果を発揮してませんしね。
また、新たに
世助と知里の間に息子が生まれ、その息子の娘が立辺
最後に。今回でストックが切れました。次は神野区編を書き終えてからまとめて投稿したいと思います。
あらすじに書いてあるように、これは移ちゃんがヒーローになるまでの物語です。最終的にハッピーエンドになる予定ですので、お付き合いのほど、よろしくお願いします。
感想に返信できていませんが、皆さんの感想を糧にして書いています。自分、承認欲求モンスターなので。
ニマニマ顔で読ませていただいておりますので、よしなにお願いします。