TSテレポーターのヒーローアカデミア   作:tsuna屋

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映画が公開されたので初投稿です。

短めです。


〝個性〟【マイグレーション】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 ──落ち着いてみると、この状況は映画館に似ていた。

 

 観客席には僕1人。スクリーン越しに観る他人の人生。カットも編集もされずに垂れ流される映像を、僕はただただ眺めることしか出来ない。……いや。そうすることを僕は受け入れた。

 自身に潜む悍ましい感情に蓋をして、1人の観客であることを選んだんだ。これが正しい。そう言い聞かせて。

 

 人の一生を傍から眺めることが、ここまでゆっくりと感じられるとは知らなかった。彼が成長していく様子を見られたことを幸運に思うと同時に、何も手出しが出来ずに流れるこの膨大な時間に辟易していたことも本音だ。

 

 感情が鈍麻していくには充分過ぎる時間だった。

 

 彼が傷付き、癒され、愛を知り、挑戦し、挫折して、時には立ち止まりつつ、やがて前を向く。その全てに幸福を感じつつも、じりじりと僕の中でどこかが摩耗していた。

 

 その度に思い直す。僕は既に死人。これはボーナスステージだ。いずれは終わりを迎える。その時が来るまで、僕はここに座っていればいいだけの話。

 いつの日か彼の命が尽きる時。そこがこの上映会の終着点だと。

 

 

 ──そう思っていたんだ。

 

 

 過酷な時代を生き抜き、彼が、『息子』が幸福を掴み取った後。素敵な家庭が築かれるのだと夢想していた僕を嘲笑うように。僕の〝異能〟が再び稼働した。

 

 上映会の主演が入れ替わる。

 受け継がれていく。

 息子から孫へ。

 

 彼女が、(なごみ)が産まれた瞬間、僕という〝因子〟が彼女の中へ宿ったのだ。スクリーンには、(なごみ)の視界が映し出されていた。

 悟らされた。これは呪いだ。

 僕に宿っていた〝異能〟と言う名の呪い。生前は終ぞ知ることのなかったこの力は、僕の意思に反してオートで発動するらしい。子々孫々に脈々と受け継がれていく〝癌〟。それが今の僕だ。

 せめてもの救いは、〝異能〟の肝と言えるところだけは制御下にあること。これだけは使ってはいけない。それが、寄生虫のごとく人の中に潜む僕が〝人〟であり続けるための条件だ。

 

 

 


 

 

 

 移ろう時の中で、〝異能〟は〝個性〟と呼ばれるようになった。なんでも、〝異能〟を宿した子を持つ母親が『これはこの子の個性です』と言ったことが発端となり、〝異能〟のマイナスイメージを払拭したい人々が便乗したようだ。〝異能〟を宿した者の人口比率が変遷する中、社会が超常を受け入れたのだ。

 それはまさしく、父が目指した社会。人は生まれも育ちも、身体的特徴にも関与せず分け隔てなく平穏を享受できるべきだ。それが父の信念だった。

 そのための一歩が、社会の基盤と成りつつある。

 

 しかし、それでも。僕の孫が、(なごみ)の進む道は波乱に満ちていた。僅かばかり幸福を追い求めていた息子とは違い、(なごみ)は義憤に駆られた。彼女の家族が受けてきた不当な扱い。享受できた筈の奪われた平穏。その元凶とも言える男に対する怒りは、(なごみ)を争いの世界へと突き動かした。

 

 家族の制止を押し切り戦いに身を置いた彼女はやがて全てを失った。他ならぬ、『あの男』の手によって。

 

 最初は僕のことなどカケラも覚えていなかった『あの男』も、執拗に迫る(なごみ)の追跡を振り切るために手を打った。(なごみ)のオリジン、探原(さぐりばら)知里(ちさと)と僕、前田世助のことを調べ上げたのだ。

 

 『あの男』が弱みを狙わない筈がなかった。

 

 (なごみ)が全てを知ったとき、僕の、彼女の家族は物言わぬ屍となっていた。顔に布をかけられた3人の遺体を前に(なごみ)の慟哭が響く。

 感情を抑え込めず、力の限りスクリーンを殴る僕の手に一切の傷はなく。傍観者でしかない僕が何かに干渉するすべはなかった。無力感が苛んだ。

 

 

 


 

 

 

 更に時は巡る。

 

 (なごみ)の傷は、とある出会いにより癒された。彼女は伴侶を待ち、やがて子宝に恵まれた。それは、再び僕の〝個性〟が発動することを意味した。

 (なごみ)の子、和佳理(わかり)が生まれた世は、混沌から脱却し秩序が機能し始めていた。それに大きく貢献した者こそ、〝ヒーロー〟の存在であった。

 

 そう。〝ヒーロー〟だ。

 

 少年時代に愛読したコミック。そこに描かれていた存在は、現実のものとなっていた。

 始まりは単なる自警団員だった彼らはやがて民意を得て、今では国が公認する職業にまで発展した。そんな〝ヒーロー〟たちの活躍により、世の中は少しずつ変わり始めていた。

 

 思えば、(なごみ)の活動も〝ヒーロー〟と呼ばれるものだった。『あの男』を追う過程で奴の信奉者を幾度となく捕縛した。自身の利のために他人を不幸に陥れることに腐心していた者たちだ。今の世では(ヴィラン)と呼ばれていただろう。

 

 結婚してからの(なごみ)は護身のみに努めているようだ。多くを失い傷心した彼女は以前のようには活動していなかった。僕はそれで良いと思っている。『あの男』と関わると不幸が訪れる。いや、()()()()()()()()と言うべきか。手に入れた平穏を守ることができるのなら、そこに注力すべきなのだ。

 人間がひとりで出来ることには限りがあるのだから。

 

 

 


 

 

 

 オールマイト。

 

 最近になって彼の名を何度も聞くようになった。

 曰く、〝ヒーロー〟の中の〝ヒーロー〟。

 曰く、弾丸よりも速く、鋼の拳を振るう者。

 曰く、彼こそが〝平和の象徴〟だ。

 

 誰もが待ち望んでいた〝圧倒的存在〟。それがオールマイトという男だった。

 スーパーマンのように力強く。バットマンのように悪を挫き。親近感をもたらす笑顔とジョークはスパイダーマンを彷彿させ。折れない精神性はキャプテン・アメリカの如く。

 

 昔読んだコミックの主人公たち。彼らに匹敵、あるいは凌駕する存在。彼が台頭したことで世界は一変する。

 〝個性〟には相性が存在する。流体になれる〝個性〟に打撃が効かないように。炎を生み出す〝個性〟を氷結させられないように。どうしても得手不得手がある。だからこそ、(ヴィラン)への対応は人数を必要とした。数が揃えば不利も覆せるからだ。

 

 しかし、オールマイトは違う。ただのひとり。鍛え抜かれたその身ひとつをもって、彼は幾十幾百の(ヴィラン)を打倒し続けた。如何なる逆境も押し退けて、人々を脅威から守り抜く彼の姿に、民衆は、僕は未来を見た。オールマイトがこの時代を平和に導くのだと。

 

 三世代に渡る鬱屈とした時代は、夜明けを迎えようとしていた。

 子どもが子どもらしく当たり前の平穏を享受できる時代が到来したんだ。

 

 父の悲願。これが叶えられたことによる気の緩み。延々と続く上映会が齎した疲労。

 それが、この後の僕の判断を迷わせたのかもしれない。

 

 

 


 

 

 

 玄孫が生まれた。世の中に曾孫を拝むことはできても、その一つ後の世代を見られる人間がいるだろうか。

 僕の〝個性〟は未だに受け継がれていた。和佳理(わかり)が移を産み落とし、当然の如く僕の居場所も移動した。

 

 移は天真爛漫な少女だった。着飾ることが好きで、おもちゃの化粧道具を親にねだっていた。また、〝ヒーロー〟の活躍を見ることを好み、和佳理(わかり)やその伴侶の送次(そうじ)くんたちがニュースに映ると、テレビを前に踊り出すほどだ。

 可愛い子どもだ。幸せの中にある大切な存在。

 

 それを、僕が壊してしまった。

 

【探知】と【空間移動】。両親の〝個性〟に関係した〝個性〟を受け継ぐ移が初めて〝個性〟を発現した瞬間があの状況だったのは、不幸な事故としか言いようがなかった。

 

 移の思考が聞こえてきた。空高く飛んで行ったカッコウを捕まえようとして〝個性〟を使おうとした。危ない。落ちて大怪我を負ってしまう。

 走り出す子どもの手を掴もうとするような感覚で、僕の〝個性〟が発動する。その〝肝〟と呼べる部分が。

 

 あっ、と思った時には既に遅かった。

 移の中に流れ込む〝記憶〟。少女のひ弱な脳を濁流の如く汚染していく〝体験〟の数々。咄嗟に手を引いた頃には、空戸移の中に歪な人格が形成されてしまっていた。

 

 やってしまった。

 

 それだけはしてはいけなかったのに。

 

 死後百有余年。ただの一度も表に出てこなかった『僕』という病が、ついに発病してしまった。

 そんなつもりはなかった、なんて言葉は言い訳にもならない。見過ごす以外の選択をしてはいけない、そう決めていたというのに。しかしもう遅かった。

 

 幸いなことに、曝露時間が少なかったためか移の自意識は生きている。中途半端に記憶の引継ぎが実行されたせいで『僕が死ぬまでの記憶』しかないようだった。幼子と成人男性の記憶。それが合わさった人格が今の移だ。

 …それでもいい。まだ移は生きている。例え、『病』と混ざり合ってしまっても、まだ。

 

 どうか。どうかこのまま。

 いつの日か、移としての記憶が増えて『僕』が薄まるその時が来るのを祈るしかなかった。

 

 

 


 

 

 

 ──僕は。僕と(なごみ)は思い違いをしていた。

 自分から関わらなければ平穏は守られると。

 あの日から。知里(ちさと)と息子夫婦が殺された日から。見ないふりを続けていた。

 

 愚かだった。近付かなければ、邪魔をしなければ、静かに暮らしていれば良い。そんな筈がなかったのに。

 

 

「おば、あちゃん…おばあちゃぁんっ!!わたしが…!わたしがいたからぁ!わたしのせいで…、おとう…みんな……!みんな死んじゃったよぉぉ…っ!!!わたしが、全部!!ば、らばらに…ッッ!!!!」

 

 

 病室に響き渡る移の悲痛な声が僕に思い出させる。

 父を殺された怒りを。知里(ちさと)たちを失った悲しみを。

 忘れてはならない。蓋をしてはいけない。僕は、僕だけはこの感情を絶やしてやらない。

 長い、長い時間で感情が麻痺していた。だけど、もう捨てやしない。

 どうしようもなく無力で醜い存在だけど。だからこそ怨み続けてやる。

 

 あの男を。〝オール・フォー・ワン〟と名乗った悪を──。

 

 

「呪い続けてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「ラブアンドピース──増井(ますい)和愛(かずよし)がどうして失敗したのかずっと疑問だった。彼の〝個性〟【変愛】は条件さえ整えば僕でさえ凌ぐのは難しい。それをたった6歳の童女が返り討ちにしたと聞いて耳を疑ったよ。──でも、ようやくカラクリが分かった」

 

 

 男は嗤う。滑稽だ、愉快だと見下ろして。

 

 

「かわいそうに。自覚もないまま、100年前の亡霊に取り憑かれていたんだね。これまで自己同一性の不一致に苦しんできたのだろう? でも、もう大丈夫。僕が来た。僕が、キミを治療(まともに)してあげよう」

 

 

 AFO(オールフォーワン)は飄々と嘯いた。

 

 

 頭が働かない。唯一分かるのは、目の前の男が愉悦を覚えているということだ。

 つまり、なんだ。私は、前田(まえだ)世助(よすけ)の生まれ変わりなんかではなく。ただ、世助の〝個性〟の影響下にあっただけで…。私は…、私は。

 

 

 

 誰だ…? 

 

 

 

「混乱しているんだね。無理もない。…ああ、僕の〝個性〟による幻覚だなんて思わないでくれよ? 今のはキミの中に眠っていたもうひとつの〝個性〟の反応を見るためにそれを活性化させただけだ。根本の原因はキミのご先祖…前田世助が宿していた〝個性〟にある。〝個性〟が原因なら対処は簡単だ。僕に任せれば良い」

 

「……貴方に…?」

 

「そう。僕ならその『癌細胞』を取り除ける。委ねなさい。そして取り戻すんだ。キミがキミらしく在るために」

 

 

 私が私らしく…。

 普通の女の子に、なれる。お婆ちゃんの孫である、ただの『空戸移』に…。

 

 AFO(オールフォーワン)がこちらに手を伸ばしている。今度は、攻撃的な黒い枝は伸びておらず、逞しさのある大きな掌だけが見えた。私の選択を待つ彼は、何も言わずにこちらを見つめている。

 

 私は…。

 

 

「私、は………──」

 

 

 

 

 

 

 






お久しぶりです。
生きてました。
映画公開初日に書き終えたので投稿してみました。

映画観ました?ド派手でしたね…。まるで平成のジャンプ映画のような悪役だと思いました。褒めてます(大満足)

今回のお話は移ちゃんの名前の由来でもありました。
空間移動(テレポート)】と【マイグレーション(移住・移転)】をかけて移ちゃんです。

この一年の間に移ちゃんが辿るルートを5つほど考えました。まだどれを選ぶか決めてません。気分で書きます。
そしてストックもありません。いつものことです。

しかし、ハピエン厨のぼくはバッドエンドを書きませんので、そこだけは安心してください。


ゆっくりとひっそりと再開しますので(毎度言ってますが)気長にお待ちください。

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