第二戦を行うビルの前に来た耳郎と上鳴の2人は、互いに自身の〝個性〟を簡潔に説明していた。
耳郎の〝個性〟は【イヤホンジャック】。耳朶から伸びるプラグを床や壁面に突き刺すことで微細な音を聴き分けることが出来、周囲の索敵が可能な能力だ。また、プラグを相手の体に刺したり、戦闘服の特製ブーツに刺すことで爆音の衝撃波をお見舞いすることもできる。
上鳴の【帯電】は、体に電気を纏わせて放電することが出来る〝個性〟。電気の出力によっては、浴びた相手の意識を一撃で奪うことが出来る強力なものだ。ただ、放電に指向性を持たせることが出来ないため、周囲に味方がいる状況では迂闊に発動出来ないというデメリットもある。
以上の情報を共有した2人は、まず耳郎が相手の位置を特定して、核兵器を割り出すことにした。そして、上鳴だけで先に会敵し、耳郎を巻き込まない位置で放電して相手を無力化する。2人の索敵能力と制圧力の高さを活かした作戦だ。
初めての戦闘訓練、それも、先程までド派手な戦闘を見ていた上鳴のテンションは偉く高く、加えて〝それっぽい作戦〟を立てられたことで更に増長した。
「俺たち最強なんじゃね?」と、戦う前から調子に乗る上鳴の様子に、耳郎は不安を覚える。しかし、5分という短い準備時間にしてはまともな作戦を立てられたということもあり、上鳴の意見にも少なからず同意している部分もあった。
『それでは、屋内対人戦闘訓練、第二戦スタート!!』
スピーカーからオールマイトによる開始の合図が出され、同時にブザーが鳴る。今から15分間の内に核兵器に触れるか、相手2人を確保しなければならない。目標を達成出来ないと敵チームの勝利となってしまう。時間は相手チームの味方だ。上鳴は逸る気持ちを抑えられず、飛び出すように駆けた。
「よっしゃあ! 行こーぜ耳郎!」
「あ、ちょっと! まずは索敵からだっつの!」
「そうだったそうだった」と思い出すように速度を緩める上鳴に、早くも不安が強まる耳郎だった。
▽ ▽ ▽
所変わって、ビルの地下にあるモニタールームにて、オールマイトと他A組の面々が移たち4人の様子を眺めていた。
訓練中の4人の会話はオールマイトにしか聞こえないようになっているため、生徒たちには各チームの作戦会議の内容はわからない。そのため、これからどのような展開になるのか、それぞれが興味深く観戦している。
「どっちが勝つだろうな」
「全員の〝個性〟が分かってる訳じゃねーからな。予測できねー」
髪を赤く染めた〝切島 鋭児郎〟とフルフェイスのヘルメットを被った〝瀬呂 範太〟がモニターに視線を向けたまま会話する。
2人の会話に太い尻尾を生やした〝尾白 猿夫〟が静かに加わった。
「空戸さんの〝個性〟は【ワープ】系だろ? 機動力では、抜きん出ているね」
「確かに! 昨日のテストでメチャクチャ速かったもんなー」
尾白の意見に切島は、個性把握テストで見せた移の〝個性〟を思い浮かべた。短距離走・長距離走で2位と大差を付けてゴールした移は、機動力という点で他に追随を許さなかった。
「だけど、相手の位置がわかんねーんじゃ、いくらワープできるって言ってもなぁ…」
腕を組みながら瀬呂が言う。速さがあっても、相手の場所がわからなければどうすることも出来ない。会敵した時にはワープで翻弄できるだろうが、それまでは大きな動きはないだろう。瀬呂の言葉に、会話を聞いていた周囲の他の生徒たちも同じ結論に至った。
第二戦が開始して30秒が経過。モニターには、ビルの入口付近で索敵を終えたヒーローチームがゆっくりと廊下を進む姿が映っていた。
そしてもう一方、敵チームを映すモニターには…。
「…は? あいつら、何やってんの?」
呑気に手を繋いでいる移と砂藤の姿があった。
「なんで手なんか繋いでんだ?」
「ふざけんなアイツ美少女とイチャイチャしやがってオイラとそこ代われぇぇ!!」
「お前も何言ってんだ…?」
訓練中に横並びで手を繋いだ2人に疑問を持つ一同と血走った目で呪詛を唱える一名。下心を隠すことなく欲望を叫ぶ〝峰田 実〟以外、観戦する生徒たちは敵チームの行動が理解出来ずに混乱した。
よく見ると、移は集中した様子だが、砂藤はどこか気まずげな表情をしていた。昨日知り合ったばかりの異性との接触にソワソワしているようだ。
「動かないねー」
「ケロ、どういうつもりなのかしら」
思わぬ異性同士の行動に乙女心ゲージが一時的に高まった芦戸だったが、訓練中にそういうことにはならないだろう、という考えに至りすぐに冷静さを取り戻した。そして、全く動く様子のない2人に飽きが出てきたのか、隣にいた梅雨に喋りかけていた。
梅雨も、友人の謎な行動に答えを出せずにいた。友達になって2日目ではあるが、移は真面目な子だと理解している。意味もなく授業中に手を繋ぐことはない筈だと思うが、かと言って目的までは分からなかった。
「──急襲に備えている、ということでしょうか」
八百万がポツリと考えを漏らす。意図が分からなかった周囲の視線が八百万に集まる。
「空戸さんの〝個性〟の詳細は分かりませんが、仮に〝接触することで他人も一緒にワープできる〟としたら、あの行動に意味が出てきます」
「なるほど! 共にワープが可能になれば、急襲されても2人で離脱できる、ということだな!」
八百万の考察に納得した飯田が溌剌と話す。
正誤は不明だが、八百万の解説にはある程度の説得力があった。
「うんうん! 色々と意見はあると思うけどみんな! そろそろ答えが分かると思うぜ!」
オールマイトが後ろにいる生徒たちに話しかける。1人だけ移たちの作戦会議の内容を聞いていた彼は、移の行動の意図を正確に把握していた。
そして、ヒーローチームの現在地から考えて、じきに事態が動くことも予測できた。
生徒たちはモニターに注目する。
耳郎と上鳴は、狭い通路に入るところだった。
▽ ▽ ▽
「…開始から全く動きがない」
壁に刺したプラグを抜いて、耳郎は報告した。
上鳴は耳郎の2mほど先を歩きながら、緊張感のない声で彼女に返答する。
「俺らの居場所が分からないからじゃね? 一ヶ所に固まっててくれてんなら、好都合じゃん」
「まあ、そうなんだけどさ…」
上鳴の言うことも尤もだ。移と砂藤が同じ場所に留まっているならば、上鳴の〝個性〟で一網打尽に出来る。事前に決めた作戦通りに進むのだから、不安になることはない。楽観的すぎる上鳴に苦言を呈したくなるが、否定するほどの材料もなかった。
(だけど、なんか嫌な気がするんだよね…)
耳郎は不安を拭えなかった。実は、耳郎が移を見たのは、昨日が初めてではなかった。二月に行われた入学試験で彼女を見ていたのだ。
移は気付いてないが、耳郎と移は同じ試験会場だった。そして耳郎は、移が0ポイント仮想敵を破壊する様子を目撃していた。
あの巨大なロボットを簡単に破壊した移の姿は、耳郎の脳裏に鮮烈に焼き付いていた。
…自分ではあんなことは出来ない。
移のことを自分よりも優れていると認識してしまっているため、順調にいっている今の状況に漠然と不安を抱えていたのだ。
(…考えたって仕方がない。ウチはウチの出来ることをやるだけだ)
弱気になっていた心に気合を入れるようにキッと前を見据える。
考え事をしている内に上鳴との距離が少し空いていた。
敵が居ないからと呑気に先行する相方に呆れつつ、耳郎は小走りで上鳴がいる細い通路に入っていった。
その瞬間──。
トンッ──。
「えっ…」
足音と同時に、自分と上鳴を遮るように現れた人影に対して、耳郎は思考を停止して動けずにいた。
(そんな…! さっき確認した時は2人とも5階に居たのに…!)
移の〝個性〟が【ワープ】系とは知っていたが、まさか見えていないこの場所にピンポイントで跳んでくるとは、耳郎は予想だにしていなかった。
人影が動く。耳郎と上鳴を分断する位置にいた砂藤が正面へ駆け、耳郎の真横に居る移が腕を伸ばす。
咄嗟に避けようとする耳郎だったが、ここが狭い通路だということを失念しており、壁に向かって動いてしまった。満足に動けず、声を上げる暇もなく、耳郎は腕に確保テープを巻かれてしまう。
「うぇッ!! なになに!?」
一方、背後からの物音に気付いた上鳴は反射的に振り返ろうとしたが、その前に確保テープを巻かれてしまった。突然腕を締め上げられて混乱する上鳴は、間抜けな声を挙げた。
そして。
『敵チーム、Win!!』
自分たちの敗北を告げられたのだった。
▽ ▽ ▽
はい! というわけで、屋内対人戦闘訓練RTA、これにて終了です!
なーんて、面には出さずに戯けてみる。安牌を取りつつ速さを意識したら、ああいう戦法になってしまった。ペアの砂藤には、あまり有意義な訓練にならなかったことに少し申し訳なさを感じる。
「すっごーい! 空戸っ、凄かったよーっ!!」
「わわ、芦戸、ちょ…!」
地下のモニタールームに入るや否や、芦戸が飛び付いてきた。揺さぶられて視界が回る。…ちょっと気持ち悪くなってきた。
「ケロ。三奈ちゃん、移ちゃんが気持ち悪そうよ」
「あ、ごめん。でも、興奮したよー! カッコ良かった!」
「…へへ、ありがとです」
梅雨ちゃんに諭されて離れた芦戸が両手を振りながら訓練の様子を褒めてくれた。あまり顔に出さないように努めるが、とっても嬉しい。いいぞー、もっと褒めろー。
「4人ともお疲れさん! それでは、講評に移ろうか!」
みんな視線がオールマイトに集まる。
「MVPは文句なし! 空戸少女だ! 理由はまあ、見たままだな!」
MVP…! 私が軸の作戦だったから分かっていたけど、オールマイトに直接言ってもらえるのは感極まる!
抑えきれずニヨニヨしてしまう口元を手で隠す。
「先生。空戸さんがMVPというのは分かります。【ワープ】系〝個性〟を用いた奇襲、それも耳郎さんたちが避けれない狭い通路に入った最良のタイミングで実行されました。被害を出すことなく、且つ迅速に確保した手腕は見事でしたわ」
(んふふふ〜! そんな、褒めすぎですよぉー)
オールマイトを補足する形で八百万が言う。私は表情筋を押さえ込むのに必死である。
「ですが、何故あのタイミング、あの場所に奇襲出来たのでしょうか。砂藤さんの〝個性〟ですの?」
「いや、俺の〝個性〟は単純な増強系だ。あの奇襲については──」
「私の〝個性〟の応用によるものですよ」
砂藤がこちらに視線を寄越したので、引き継いで説明する。
「私の〝個性〟は【スフィア】と言って、私を中心とした球状の範囲内にある物体を距離・障害を無視して移送する能力です」
「うむ、個性把握テストでも見せていた瞬間移動のことだな!」
飯田を見て頷く。
「そう、それです。そしてもう一つ、これは副次的効果なのですが、私の〝個性〟の範囲内であれば五感に頼ることなく空間を認識することができるのです。この探知能力を【
探知能力の【
〝個性〟の説明を受けて、八百万や飯田を中心に皆、合点がいった様子だ。
「移ちゃんは、その【
「はい。上鳴の〝個性〟が制圧に長けていることは聞いてましたからね。受けに回ると勝ち目がないと判断して先手必勝を狙ったわけです」
梅雨ちゃんに返事をして上鳴たちの方を見る。「しまった」とばつの悪そうな顔をした上鳴を耳郎が小突いていた。
昨日の放課後のちょっとした交流時間にて、上鳴と自己紹介をした際に彼が自らの〝個性〟を仔細に教えてくれたのだ。女子に自分をアピールしたいが故だったのだろうが、その情報のお陰で最善策を講じることができたという訳。
正直、情報のアドバンテージがなければ、接近戦が得意な私と砂藤では分が悪かったと思う。それほど、上鳴の〝個性〟は本来優れている。
まあ、女子にカッコ良く思われたい気持ちは、思春期男子を経験したことある身としては分からんでもない。
「自分たちと相手の〝個性〟をよく理解した上で適切な行動を取れていて実に良かった! 見事だぞ、空戸少女!」
講評を締めにかかるオールマイトは、続いて第三戦のくじ引きを開始した。
こうして、私の初の戦闘訓練は満足行く結果で終了した。
厳密には【ワープ】と【テレポート】は別物ですが、当作品では同じ系統の〝個性〟として扱います。
そして、早くもストックが切れました…。
不定期で書けたら投稿するつもりです。すみません…。