TSテレポーターのヒーローアカデミア   作:tsuna屋

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USJ編スタートです。
ただ、まあ、移ちゃんはRTAをしがちですので…。


レスキュー訓練

 辺りには悲鳴と怒号が木霊し、硝煙が立ち込めていた。他人を押し退けて我先にと逃げ惑う人々は、足元に転がる肉塊に気付く様子もない。そこは、僕が見た中で一番の地獄だった。

 

 発端はなんだったろうか。一部始終を見ていたわけではないが、確か、頭に角を生やした女性が背広を着た男性に詰め寄られていたことが始まりだった気がする。

 言い争いの原因はわからない。たが、その光景を見ていた周囲の〝異能〟集団が女性を庇い、立場が逆転し責められる側になった男性を守るように偶々居合わせた〝反異能〟団体が抗議を始めたのだ。

 憤怒、恐怖、侮蔑、懐疑。あらゆる負の感情がぶつかり合うようだった。

 

 事態が収拾の付かない様相を呈してきたため、通報されて駆けつけた警察が介入した時、僕は少し安堵した。今までだって、こうした口論は何度も目撃してきた。〝異能〟に対する差別や排斥から起きるトラブルや、逆に増長した〝異能〟持ちが起こす事件などは、最近頻発していた。ただ、警察が現れた以上、これから終息していくだろう。

 そう、僕は楽観視していたんだ。

 

 状況は悪化した。いや、悪化なんてものじゃあない。最初は小さなトラブルだった筈が、あっという間に暴動に変貌したんだ。

 それは、つもりに積もった鬱憤が爆発したのだろう。

 鋭い爪が青年を引き裂いた。数mの巨漢が標識を吹き飛ばす。警察の1人が首の長い少女に向けて発砲し、赤い瞳の男がレーザーでビルの壁を破壊した。

 

 内乱ってやつは、遠い国の出来事だと思っていた。日本という国には無縁で、〝異能〟により混乱した社会でも、そんなことは起こるはずがないんだと。

 

 ──ああ、始まってしまうんだ。

 

 阿鼻叫喚の巷となった眼前の光景を見て、僕は法規社会の崩壊を予感してしまった。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「──りさん、移さん」

 

 

 私を呼ぶ声に気付き、ゆっくりと瞼を開ける。

 小刻みに揺れていた車は停止しており、寄りかかっていた窓の外には、まだ見慣れない学校の門柱が見えていた。

 ああ、いつの間にか眠っていたようだ。

 

 

「お疲れですか?」

 

 

 お爺ちゃんに雇われている運転士の輪城(りんじょう)さんがルームミラー越しにこちらを見ていた。

 

 

「…いえ、大丈夫です。すみません、送ってくださっているのに…」

「気になさらないでください。新しい生活にまだ体が慣れていないのでしょう。送迎中は、仮眠時間にでも充ててくださいな」

 

 

 人好きのする表情で輪城さんはそう言った。

 彼にお礼を伝えて、私は気合いを入れるように両頬をペシペシと叩く。輪城さんの言うように、雄英での生活はなかなかハードで疲労が溜まっているのだろう。加えて、一昨日に許可を取ってから自主的に〝個性伸ばし〟を実践している。授業中も休憩時間も頭を使いっぱなしなのだ。

 だけど弱音は吐いていられない。ヒーローになるために、無駄にして良い時間はない。

 

 

「それでは行ってきます。放課後はまたよろしくお願いしますね」

 

 

 手入れの行き届いた車体のドアを閉めて、雄英の校舎へと向かう。

 しかし、さっきは懐かしい夢を見たな。あれは【前世】の、それも最期の出来事だった筈だ。今までも何度か見たが、気分の良い記憶じゃあない。

 

 

(『記憶』…ですか)

 

 

 元来、夢というのは記憶の整理と定着をしている過程らしいのだが…。

 〝この体〟が経験していない過去の体験をどうやって保持して夢に見ているのだろうか。SFならば脳の移植だとか、記録媒体のインストールだとかでそれっぽく説明を付けそうだ。ファンタジーなら魂がなんとかかんとか、と言った感じか。

 いやはや本当にこの世はフィクション染みている。『事実は小説よりも奇なり』とでも言うべきか。

 

 ──なんて、これまで何十回と考えてきた益体もないことに思考を巡らせているのだから、やっぱり心身共に疲れているんだろう。

 私は再度気合を入れ直して、校門を潜ったと同時に【空間探知(ディテクト)】して〝個性伸ばし〟を開始した。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人態勢で見ることになった」

 

 

 昼食が終わり午後の授業。前回の戦闘訓練に続く2回目のヒーロー基礎学の実技時間だ。

 

 

(『なった』…ということは、昨日の不法侵入の件が影響して特例としてということですかね)

 

 

 相澤先生の言い方に引っ掛かりを覚え、昨日の昼休憩に起こったマスコミが不法侵入した事件を思い浮かべた。

 

 その時は【空間探知(ディテクト)】を使用中だったため、急に校門外から大人数が雪崩れ込んできたことは察知できた。次の瞬間には警報が鳴り響き、食堂の中は騒然とした。

 すわ何事かと思い、入ってきた者たちに意識を集中してみると、テレビカメラや集音マイクなどを抱えた人がほとんどであったため、校門前にたむろしていたマスコミであることはすぐ理解できた。彼らは、オールマイトが雄英に就任したことをニュースに取り上げたいらしく、朝から生徒や教師に執拗にインタビューしていたのだ。

 

 相澤先生との交渉により屋外に限定して探知していたおかげで私はすぐに気付けたが、初めての警報と侵入者の正体を知らない大勢の生徒たちは大混乱に陥っていた。

 まあ、飯田の機転のおかげで生徒たちの混乱は収束したのだが、マスコミが侵入した事実は消えない。

 雄英初の侵入者があったということで、先生方も警戒を強化しているということなのだろう。

 

 相澤先生が続きを説明する。

 要約すると、今日はレスキュー訓練を行うみたいだ。

 現在社会では、人災・天災・事故が起きた際に警察やレスキュー隊と協力してヒーローも救助を行う。公共の場で〝個性〟の使用を許されているのはプロヒーローだけであるため、〝個性〟を駆使して迅速に救助できる存在は重宝され、レスキューは社会に求められるヒーローの役割の一つなのだ。

 

 

「これこそヒーローの本分だぜ!」

「水難なら私の独壇場、ケロケロ」

 

 

 この前と趣きの違う訓練内容にクラスが俄に色めき立つ。

 かく言う私もその1人。なんなら、戦闘訓練よりもテンションが上がっているかもしれない。レスキューを専門としたヒーローは私の憧れなのだ、敵を倒して素早く人を救助するような。

 

 

(スパ〇ダーマンって最高ですよね!!)

 

 

 私は【前世】で読んだコミックスの登場人物を思い浮かべて1人興奮していた。ちなみに映画なら断然サム・ラ〇ミ派だ。異論は認める。

 

 その後リモコンを操作して壁から戦闘服(コスチューム)の入った棚を動かした相澤先生は、それを着るか否かは各自に任せると言い放ち、準備開始することを促した。

 

 

(よっしゃー! やったりますよー!)

 

 

 真剣に取り組まないといけないことは理解しつつ、私はルンルン気分で更衣室へ急いだ。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 今回の訓練場は校舎から離れており、バスで移動した。昨日、委員長に就任した飯田がクラスを牽引しようと張り切るが空回りしてしまったり、バスの中では爆豪が上鳴に『クソを下水で煮込んだような性格』と評されたりと、中々楽しい出来事を経て数分。ドーム状の建物に到着した。

 

 

「みなさん、待ってましたよ」

 

 

 バスを出ると、宇宙服のような戦闘服(コスチューム)に顔の見えないメットを被った長身の女性、スペースヒーロー〝13号〟が私たちを出迎えてくれた。

 

 

「わぁ〜! 私好きなの、13号!」

「え、え! 私もです! 麗日もファンですか? カッコいいですよね!」

 

 

 同類(ヒーローオタク)に加えて同担もいるとは! このクラス最高か…? 

 麗日と隣にいた緑谷と共に盛り上がりつつ、13号の案内について行く。

 

 ドームの中には複数の施設や巨大な池、岩山などが並んでいた。さながら、某有名なテーマパークのようだ。

 切島も同意見なのか、「USJかよ〜!」と声を上げる。

 大きな下り階段の前で止まった13号は、手で指し示すつつ施設の紹介を始めた。

 

 

「水難事故、土砂災害、火災、暴風、エトセトラ…。あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です!」

 

 

 なるほど、ここなら色んなケースのレスキューを訓練できるという訳か。しかも、レスキューのスペシャリストである13号が作ったと言うじゃあないか。これは期待値が爆上がりだ。

 

 

「その名も、『ウソの災害や事故ルーム』──略して〝USJ〟!」

(ほんとにUSJだった…)

 

 

 いいのかその名称は…。他のみんなも同じことを思っていそうだ。

 13号の施設案内が終わり、相澤先生が彼女と何やらやり取りをし、「仕方ない、始めるか」と授業の開始を宣言した。オールマイトの姿がないが、後から登場するのだろうか。

 

 

「えー、始める前にお小言を1つ2つ…3つ4つ…」

 

 

 そう前置きをして、13号は語り出す。

 

 

「皆さんご存知とは思いますが、僕の〝個性〟はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その〝個性〟でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

 

 緑谷が彼女の活動方法を言う横で、私と麗日は「知ってる知ってる!」と13号の活躍を目に浮かべながら激しく頷く。

 

 

「ええ。しかし、簡単に人を殺せる力です。みんなの中にもそういう〝個性〟がいるでしょう」

 

 

 彼女の言葉に私を含め興奮していた面々がハッとする。

 現代の超人社会は、〝個性〟の使用をプロヒーローという資格制にして厳しく規制してはいる。しかし、それは扱う側がルールを守ること、精密なコントロールをして初めて成り立っている訳であり、自身の〝個性〟で人を殺める危険性は常に伴うのだ。

 

 

「一歩間違えば容易に人を殺せる、いきすぎた〝個性〟を個々が持っていることを忘れないでください」

 

 

 いきすぎた〝個性〟…。確かにその通りだ。爆豪の爆破然り、轟の氷結然り。超常黎明期以前では、個人が持つことを決して許されなかった武力を各々が持っているのだ。それは当然、私自身もだ。

 人を上空に移送するだけで簡単に落下死させられるし、なんなら【空間移動(テレポート)】の性質を利用したら、コピー用紙1枚で首を切断出来てしまう。ちょうど入学試験の仮想(ヴィラン)を倒した時のように。

 

 

「この授業では心機一転、人命のために〝個性〟をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

(やっぱり13号、素敵です…!)

 

 

 「ご静聴ありがとうございました」と男性貴族がするようなお辞儀(ボウ・アンド・スクレープ)をして演説を終えた13号に万雷の拍手が贈られる。私のボルテージは最高潮である。

 

 

「もー! ヤバいですね麗日!」

「うんうん! 最高やんね!」

 

 

 私たちは互いの手を握ってテンションのままにブンブンと振って感情を表現した。

 

 

「──よし、そんじゃまずは…」

 

 

 高揚が冷めやらぬまま話し始めた相澤先生の方を向くと、彼は何かに気付いたように階下の広場を凝視した。

 釣られて私もそちらに目を向ける。

 

 

(………え?)

 

 

 広場の中心にあった噴水を遮るように黒い靄が広がっていく。不定形なそれは十数mほどの幅の壁みたいに展開し、そこに固定された。

 あれは…〝個性〟? 

 

 

「ひとかたまりになって動くな! 13号、生徒を守れ!」

 

 

 相澤先生が全員に指示を出し、先ほどまでの気怠げな雰囲気から張り詰めた表情に変わる。

 同時に、私は〝個性〟を展開し黒い靄に向けて【空間探知(ディテクト)】した。

 相澤先生の合理的虚偽の可能性も捨てきれないが…、だとしても今は己の第六感を信じて最大限の警戒をする。

 私の予感通りならあれは…。

 

 

(ヴィラン)…)

 

 

 靄の中から続々と人が出てくる。瞬く間に7()4()()が広場に集結した。

 何が起きているかピンと来てないクラスメイトが前に出ようと動くが、相澤先生が静止させて静かに、端的に宣言する。

 

 

「あれは──(ヴィラン)だ」

 

 

 昨日のマスコミとは違う、正真正銘の犯罪者が私たちの前に現れた。

 ふと、登校時に見た夢のことを思い出す。感情のまま、周囲に被害を及ぼす者たち。

 歯を噛み締めて、私は憎々しげに彼らを睨みつけた。

 

 

 




超常黎明期について書くヒロアカ二次小説ってあまり見ませんよね。
ヒロアカ本誌の状態か、それ以上に混沌としてたのではないかと予測してます。AFOが台頭した時代ですので。
今後もぽつぽつ、超常黎明期について移ちゃんに語ってもらう予定です。
独自解釈タグを付けた方がいいのかな…?

追加:日間ランキング66位!?!?マジで!?みなさんありがとうございます!!!!
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