「残酷な描写」があるのはずっと先です。
思わぬ
「先生、侵入者用センサーは?」
「もちろんありますが…」
八百万が13号に尋ねた。センサーがあるのに作動していない。つまり、奴らは侵入と同時にテクノロジーか〝個性〟で細工してセンサーを無効化したということだろう。
更にこの場所、この時間を狙っての襲撃だ。
校舎から離れた施設に
目的は分からないが、そこらのチンピラとは違う用意周到に計画された犯行だ。
(ネームド
単なる有象無象のチンピラだけじゃあない。世間的に名の知れた大物があの中に紛れ込んでいる可能性が高い。
「13号、避難開始。学校に電話試せ」
相澤先生が階下の敵たちに目線を向けたまま、13号に指示を出し連携を取る。
「センサーの対策も頭にある敵だ。電波系の奴が妨害している可能性がある。──上鳴、お前も〝個性〟で連絡試せ」
名指しで呼ばれた上鳴が緊張した面持ちで「うっす」と返事をする。
電波系の〝個性〟…。上鳴もだが、本来その系統の〝個性〟持ちは、基本的に引く手数多の高給取りになりがちだ。社会的に恵まれた地位になりやすい筈の〝個性〟持ちが
「先生は? 1人で戦うんですか?」
不安そうな顔をした緑谷が相澤先生に訊いた。相澤先生──プロヒーロー〝イレイザーヘッド〟の〝個性〟は【抹消】。対象を見ている間、そいつの〝個性〟を消す能力だ。緑谷は、アングラ系ヒーローでメディアへの露出の少ない相澤先生の戦闘スタイルも網羅しているらしく、多人数に正面戦闘を挑む状況は分が悪いと思ったのだろう。
確かに、ごく僅かに公表されている彼の情報では、緑谷がそう判断するのもおかしくないけれど。
「一芸だけじゃヒーローは務まらん」
緑谷の不安を払拭するようにそう言った先生は、首元に巻いた捕縛布を広げて勢いよく階段下の
「さあ、皆さん! 僕たちは急いで避難しますよ!」
相澤先生から私たちを任された13号は、1人挑んで行った相澤先生に目もくれずに避難誘導を開始した。それだけ、彼の実力を信頼しているということだろう。
緑谷は心配していたが、相澤先生は体付きからしてかなりの武闘派だと思われる。その証拠に、この数秒の間に既に複数の
「すごい…多対一こそ先生の得意分野だったんだ…」
「感心している暇はないですよ! ほら、さっさと行きましょ!」
他が避難開始している中、呑気に相澤先生の活躍を分析していた緑谷の手を引く。まったく、私だって見たいけど非常時だから我慢しているというのにこの
「──ッ! 13号、正面来ます!!」
広場に居た黒い霧を出していた敵、そいつが探知から突然消えた。そして、先行している13号の更に先、USJの出入口前の地面に揺らぎを感知した。
(登場した時から分かってましたけど、私と同じ【ワープ】系の〝個性〟ですかッ)
私の助言で停止した13号の前方の地面から勢い良く黒い霧が噴き出す。
「──させませんよ」
3m程の高さの霧から男性の声がした。異形型か発動型〝個性〟か判断がしかねるが、こいつは霧の形を自由に変えられるようだ。
「はじめまして、我々は
(狙いはオールマイト…!?)
嘘か真か、彼ら
(まさか、倒す算段が付いてるとでも…?)
私たちの混乱を他所に霧の
「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃる筈。ですが何か変更があったのでしょうか。──まあ、それとは関係なく私の役目はこれ」
(…来るッ!)
広場に登場した時のように霧が揺らぎ広がり始める。13号も奴の動きを察知して、指先から【ブラックホール】を発動しようと手を向けた。──が。
Booom!!
「その前に俺たちにやられることは考えなかったか?」
13号の射線を遮るように爆豪と切島が飛び出して独断専行をし、霧の男に攻撃を浴びせた。してやったり、と言った声色で挑発する切島に、私は頭を抱えたくなった。
(プロの邪魔をしてどーするんですっ!!)
爆破による煙で視界が遮られるが、【
依然として爆豪たちは13号と男の間に立っている。つまり、13号はまともに攻撃することが出来ない。
霧の男は私と同じ【ワープ】系の〝個性〟だ。それも、広範囲に展開した霧で複数人を一度に移送することが出来てしまう。同じ系統の〝個性〟だからこそ、次に奴がしてくる行動が予測できる。恐らく奴の狙いは──。
「危ない危ない。そう、生徒と言えど優秀な金の卵。私の役目は、あなたたちを散らして──なぶり殺す!」
ブワッ! と霧が私たちを包み込むように広がる。
「くッ…! 葉隠! 青山! 失礼しますよ!!」
「え? うわぁっ!」
「ノン…!」
霧に包まれる前に近くに居た葉隠の腕と青山のマントを強引に掴んだ。そして、2人と一緒に数十m後方へと【
なんとか私たち3人は逃れることに成功したが、半数以上のクラスメイトが霧に包まれて施設内に散り散りに移送されてしまった。
(私が離れた相手も同時に移送出来たなら、全員救けられたのに…!!)
悔しさに噛み締めた歯からはギリィと音が鳴った。
▽ ▽ ▽
数十mに及んで展開していた霧を解除した現場には、想定よりも多くの生徒が残っていた。
黒い霧の男──
(生徒9人と13号…プロヒーローは当然として、生徒の中で警戒すべきはあの少女ですね)
黒霧は、生徒たちを守るように立ちはだかる13号と生徒の中で唯一恐怖や不安の色が見えない少女に意識を向けた。
先程、攻撃を仕掛けてきた2人の少年のように、動きは良くても浅慮な行動を取る者は黒霧にとって障害足り得ない。自身の体は一部を除いて攻撃が透過し、唯一の実体も霧で覆ってしまえばダメージはない。実戦経験のない実直な動きをする生徒であれば、対処は容易い。
残った9人の生徒の内、殆どは平常心を保てていないように見えた。授業中の大勢による襲撃、目の前から消えたクラスメイト、殺気を浴びせる自分という
しかし1人だけ、フライトスーツを模した
「13号、消えたみんなは全員五体満足でUSJ内に居ますが、それぞれ10名以上の
件の少女が淡々と言う。
なるほど、彼女の〝個性〟は探知系で精度も範囲も優れているようだ。簡潔明瞭に報告する姿は、場慣れしたプロヒーローにも引けを取らない。
だがその情報が共有されたところで関係ない。増援を呼ばれない限り、彼らが助かる手段はないのだ。
「──空戸さん、キミに託します。学校まで行ってこのことを伝えてください」
「…そうですね、それが一番確実で速いでしょう」
13号は黒霧に意識を向けたままフライトスーツの少女、空戸に作戦を伝える。
黒霧は訝しむ。あの空戸と呼ばれた少女は心得たとばかりに返事をしたが、増援を頼むなら一緒にいる自動車の排気口を付けた
しかし、他の生徒たちも納得しているらしく、逃げ出す隙を作るつもりなのか戦闘態勢を取り、空戸を隠すように前へ出た。
なんにせよ、黒霧がやることは一つ。増援が呼ばれないようここを防衛するだけだ。
「手段がないとは言え、敵前で策を語る阿呆がいますか!」
「バレても問題ないから語ったんでしょうが!」
黒霧が霧を伸ばし、13号は生徒を守るため指先に作った【ブラックホール】で霧を吸い込む。
黒霧は広範囲に霧を展開することが出来ず、攻撃手段を封じられてしまった。
「すべてを吸い込み塵にするブラックホール。なるほど驚異的な〝個性〟です」
しかし、黒霧には余裕があった。生徒たちの〝個性〟までは知らないが、今日この場に13号がいることは事前に仕入れた情報で知っていた。当然、相対した時の対応策も考えている。
13号は災害救助で活躍するヒーローだ。彼女が現場で担当するのは
だからこそ──。
「戦闘経験は一般ヒーローに比べて半歩劣る!」
「う、うわぁっ!」
自分と13号との間に割り込む形で【ワープ】の入口を作り、出口を彼女の背後に配置する。
13号は自分の〝個性〟で背中を吸い込んでしまい、慌てて【ブラックホール】を止めた頃には彼女の背中はズタボロに削り取られてしまった。
これが黒霧の〝個性〟【ワープゲート】。肉体を霧に変え、エリア間を繋いで人や者を転送するワープゲートを発生させる能力だ。
(さて、プロヒーローは無力化できました。あとは散らしもらした子どもを片付けるだけ…、ん?)
──数が、足りない。
倒れた13号を心配する女子生徒2名と透明人間1名、怯えて及び腰の男子生徒1名、焦燥感を抱きつつも戦う姿勢を見せる男子生徒4名。
1人…いない。
(あの探知能力を持つ少女が消えた!? どこへ行った!?)
13号に気を配りつつも生徒たちの動向は把握していた。透明な生徒が他人の姿も消せる〝個性〟なのだろうか。だとしたら見えないだけで、自分の横を通る隙を窺っているのか。
黒霧は物音にも注意して消えた生徒の位置を探ろうとする。
そこで、ふと思い当たる。
今まで出会ったことはなかった。稀少な〝個性〟で、実用的なレベルまで力を育て上げた者は見たことがない。
しかし、自分という実例がいるのだからあり得ないことはない。
──まさか。
「【ワープ】系の〝個性〟かっ!」
30秒。空戸が13号に増援を指示され、男子たちが彼女を見えないように取り囲んでから30秒経過した。
USJから校舎までは約2km。その距離にある校舎まで増援を呼びに行くことに30秒という時間は、彼女にとって充分過ぎるほどだった。
ドオォォォンッ!!!
黒霧の背後、USJの出入口の扉が轟音と共に吹き飛ぶ。全員の視線がそこに集中する。
2mを優に超える筋骨隆々爆発マッスル威風堂々な風貌の大男。人々を安心させるため常に笑顔を浮かべる日本一のヒーロー。
そんな彼が、普段とは違い険しい表情をして、しかしいつもの決まり文句を宣言する。
「もう大丈夫──私が来た!」
移ちゃんの移動速度は、弱体化した現在のオールマイトと遜色がありません。
10秒でオールマイトの元へ行き、10秒で事態を伝え、オールマイトが10秒で来ました。
これぞRTA。