それでは本編どうぞ!
エピソード001 見えない世界
「天は二物を与えず」と言う言葉がある。一方を与えるがもう一方は貰えないと言う意味だ。例えば、彼女は美人だが料理は出来ない。彼は頭が良いが、ブサイクだ。と言うことである。
しかし、彼の場合二物も貰えず人生を謳歌出来ていない。なぜそうなったのかは、時間を少しだけ遡らなければならない…
十数年前
ある病院で小さな男の子が生まれた。男の子には、2つ歳上の姉がいた。そして、その姉は新生児集中治療室のガラス壁から見る弟に興奮していた。
「ほらごらん燐子。お前の弟だぞ~。今日からお姉ちゃんだ」
「お姉ちゃん?私お姉ちゃんになるの?」
「ええ、そうよ。可愛いでしょ~」
「私が…お姉ちゃん…」
この日、白金家に新たな命が誕生した。名前は
父母共に音楽関係の仕事をしていた。母の雫は燐子妊娠を気に音楽界を引退。今は専業主婦として活躍している。
父は相変わらず世界中を飛び回る仕事をしており、今日は偶々休みだったので、音葉を見に来たのだ。
感動の中で現れたのは、今回の出産を担当した女医さんが来た。
「今回担当した者ですが…非常に言いにくいんですけど…」
「どうしたんですか?」
「まさか、音葉に何かあったんですか!?」
「実は…」
そして、十数年後…
「音葉起きなさい~!」
朝の白金家に雫の声が響き渡る。それに答えるように音葉はベットからモソモソと起きだした。
「…わかったよ。えっと…タンスは…どこだっけ」
あれから数十年が経ったが未だに服を探すだけでも一苦労である。そして、タンスに貼ってある
そう音葉は
目が見えなくなったが、音には敏感になり一度聞いた音は忘れないという“絶対音感”は特に優れていた。それにより盲目と言うハンディキャップを背負いながらも生活出来てきた。
慣れない手付きでTシャツとワイシャツを着て、ズボンを履くと部屋をノックする音が聞こえた。多分姉さんだろうと思い音葉は、点字が付いたドアを開けた。
「…おはよう。音葉」
「…おはよう姉さん」
「あ、朝ご飯の準備…出来たから、迎えに来たよ」
「…わかった。もう少しで着替え終わるから待っててね」
「…ううん。お姉ちゃんが、手伝うね」
「え?」
そう言って、燐子は強引に部屋に入って来ると、音葉にブレザーを着せるのであった。その色は燐子と同じ花咲川女子学園の制服であった。
元々両親は施設か、バリアフリーのある学校に入れるつもりだった。しかし、引っ込み思案の燐子が「私が面倒を見る!」と初めて意見を出してきた。これに驚いた両親は検討し、最終的に音葉が「姉さんと一緒の学校に行きたい」と言いだしてきたので、“燐子の世話付きで迷惑をかけない”と言う甘々な条件でOKを出したのだ。
そんな事もあり着替え終わり、燐子の手を握りながら階段を降りる。リビングでは雫がいそいそと朝食の準備をしていた。
「音葉、燐子おはよう。さぁ冷めない内に食べちゃって」
『いただきます』
そして、雫も加わり3人で朝食を取っていた。父の忠雄は今はウィーンでの公演を控えているためここにはいない。それでも定期的に連絡を寄こしてくる。
「音葉。今日の入学式は無理に参加しなくてもいいのよ」
「うん…」
「…大丈夫だよお母さん。私が付いているから」
「ダメよ燐子。あなたは生徒会長として挨拶しなきゃいけないんじゃない」
「そうだけど…」
「大丈夫だよ、姉さん。僕は教室の放送でちゃんと聞いているから」
「音葉…わかったよ」
「なら、母さんは音葉と一緒に行くわね。燐子は先に出なさい」
「…はい」
そう言って、燐子は食事を終えて、出発する準備をし、家を出て行った。音葉は雫と一緒に車で花咲川女学園に向かうのであった。
川沿いの桜並木を抜けると音葉と同じ色の制服を着た女子達が訪れる花咲川女学園が見えてきた。今日は入学式で多くの生徒達がいた。
そんな中音葉を乗せた車は校舎の裏側に向かった。普段は来賓を迎える場所だが今は雫と音葉しかいない。
白杖を持ちながら音葉は、雫に手を握られて校舎にある、特別教室に向かって行くのであった。そこには、1人の女性教師がいた。
「初めまして、音葉君の担当をする『
「…よろしくお願いします」
「貴女が担当で良かったわ。宜しくね白瀬さん」
「はい、先輩」
そう、この2人は同じ音大の先輩と後輩と言う関係である。雫が在学中に忠雄と知り合いそのまま交際がスタート。音楽界で華々しい活躍を見せてからの結婚・引退となったのである。
咲は音楽の先生を目指しており、教員免許に見事合格。ここ花咲川で音楽教師&音葉の担当を任されたのである。
「音葉はこう見えて、目が見えないの。だから、サポート宜しくね」
「はい、任せてください♪宜しくね音葉くん」
「よろしくお願いします」
そう言って、雫は “何かあったら咲か燐子を頼りなさいね”と言って仕事へと行くのであった。引退後も雫の元へは演奏会やレッスンの稽古、はたまた講演会の仕事が舞い込んでくるのであった。
『は、春の息吹を感じる今日この頃。花咲川女学園への入生された皆さんおめでとうございます。生徒会長の白金燐子と申します…』
教室のスピーカーから燐子の挨拶が聞こえてくる。音葉も、ちゃんと目が見えていればこんなことにはならないと思っていたのだろ。一緒に聞いていた咲もこの子が不憫で仕方ないと思っていた。そんな事を打ち消すように明るい態度で接しようと思っていた。
やがて、燐子の挨拶が終わり新入生達がそれぞれの教室に向かっていく。音葉はカバンから点字が打たれている教科書と筆記用具一式。そして、携帯用の点字盤を取出した。
「それじゃあ、授業を始めるわね。と言っても最初はオリエンテーションと学校内の説明だけどね」
「…お願いします」
そして、音葉の授業は静かに始まった。
お昼休み。音葉は雫が作ってくれたお弁当を教室で食べていた。そこに燐子がやって来た。
「音葉…一緒に食べていい?」
「…いいけど。姉さんこそ僕と一緒でいいの?」
「…うん。大丈夫だよ///」
「ならいいけど…」
そして、今日の挨拶について色々質問したり学校について燐子に聞いていた。
放課後。燐子と一緒に帰る為特別教室で待っていると、ドアが勢い良く開いた。その音に音葉はびっくりしてしまう。
「いっちばーん!」
「オイ香澄ここは行っちゃいけない所だろ!何勝手に入っているんだよ!」
「大丈夫だよ有咲~だってここには誰も…」
「…」
「う、うひゃあああ~!お、お化け~!」
「お化けってそんなのいるわけない…」
「…あの~誰ですか?」
『うぎゃ~お化け~!!』
そう言って、女子生徒達2人は出て行ってしまった。そして、数分後に燐子が教室にやって来た。
「…どうしたの?」
「…別に何でもないよ。早く帰ろう」
「…うん」
こうして、音葉の入学式初日は終わった。